【書評】床下の小人たち メアリー・ノートン著

THE BORROWERS (1952) by Mary Norton

arrietty4

「大人になったらドールハウスが買えるぐらいお金持ちになるんだ」と夢見ていたけど、結局ドールハウスは買えなかったよ(涙)。

アニメ『借りぐらしのアリエッティ』があまりにひどかったのと、半世紀ぶりに読んだ原作に感動したので何か書きたくなってしまった。子供時代の愛読書は現在の私の目にはどう映ったか?

参考

夏休みジブリ映画3本立て ― 『借りぐらしのアリエッティ』

というわけで半世紀ぶりに買ってきた『床下の小人たち』だが、最初に思ったのは、こんな薄っぺらい本だったっけ? まあ、昔はハードカバーだったとは言え、「本」の持つ重みが違ったよね。
この本、前述のように『アリエッティ』のリビューを書くためだけに、近所のブックオフで100円で買ってきたものだが、子供時代の私は本なんてめったに買ってもらえなかったし、自分の小遣いで買うようになってからも、高いので年に2、3冊しか買えなかった。(そのぶん図書館では乱読していた)

でもそうやって買った貴重な本は、この上なく大切にして、隅から隅までなめるように、あまりにも繰り返し読むので、しまいにはみんなボロボロになってしまった。それでもいちばん大切な『ナルニア国物語』と『指輪物語』は最近までそのボロボロのハードカバーを大切に保存していたが、さすがに場所がなくなったので、捨てて文庫版に買い換えた。
でもそこまで大切じゃなかったこのシリーズはとっくに手放してしまって、読み返すのは本当に久しぶり。

手にとって二番目に思ったのは、「挿絵が違う!」。私にとっての借りぐらしは、上のベス&ジョー・クラッシュ(Beth and Joe Krush)の挿絵だったのに、同じイギリス人らしいが、あまり上手でないダイアナ・スタンレーという人の絵に替わっている。表紙のポーリン・ベインズはまあ許すけど。『ナルニア国物語』の挿絵を描いた人だからね。
しかし『指輪物語』の翻訳もまだあのひどい挿絵を使ってるし、児童文学はもうちょい挿絵に気をつかってほしいよ。やっぱり視覚情報は強烈で、私にとってのアリエッティ、ホミリー、ポッドはあくまで上の絵の3人だから。『借りぐらしのアリエッティ』が好きになれないのは、あの絵が違いすぎるからっていうのもあるな。少なくともアリエッティは洗濯ばさみなんかじゃなくて、頭に大きなリボンを付けてなくてはいやだ!

前の記事で熱烈なファンのいる原作を映画化するむずかしさを書きながら思い出したが、それを言うならピーター・ジャクソンの映画『ロード・オブ・ザ・リングス』こそ全世界の『指輪物語』ファンを敵に回す恐れがあった。ところがそうはならなかったのは、アラン・リーとジョン・ハウという有名トールキン画家をデザイナーに指名して、なおかつ名場面として知られるシーンでは彼らの絵をそっくりそのまま映像化したからだ。
まあそれができたのはあちらが実写だからで、アニメでそれやったら終わりというか沽券に関わるのもわかるが、少しはファンの気持ちもくんでほしかった。

ああ、それでもこの挿絵は本当にいいね。なんかこれが付いてるだけで、こんなブログでもいいことが書いてあるように見えるじゃないですか(笑)。
私が翻訳書を好きになったのも、(日本のとくらべて)絵が格段にステキと思ったせいもある。

それで久々に読んでの感想だが、前に書いたように本当に細かいセリフのひとつひとつをけっこう覚えていたので驚いた。刷り込みってすごいなあ。そういや、ピーター・ラビットを久々に(こっちは英語で)読んだときも、頭の中で石井桃子の訳文がよみがえってくるので驚いたっけ。ある意味、訳者冥利に尽きますね。

読み始めてすぐに思い出したのは、この童話に出てくる借りぐらしの暮らしがどんなに好きだったかということ。具体的に言うと、人間から「借りて」きた様々な道具を、サイズの合わない小人たちがいかに工夫して利用してるかという部分。
これが映画じゃさっぱりだったんだよなあ。背景画を見ると、けっこう書き込んではあるようなんだけど、この話はそっちが主役なんだからちゃんと見せい!
あと、2ちゃんの書き込み見ても、どう見ても小人サイズで作られた既製品みたいなのが多いのが変というのは私も感じた。上のイラストでもわかるように、ミスマッチ感がおもしろいので、妙にきちんとしてちゃんとしたもの使ってるとすごい変。

『借りぐらしのアリエッティ』のドールハウス

『借りぐらしのアリエッティ』のドールハウス

だけどドールハウスは別! 最初から小人サイズで作られてるからね。それだけに借りぐらしの目にはドールハウスの家具調度がどんなにまぶしく見えるかはよくわかるわけ。
私もドールハウスが大好き! 人形遊びなんてろくにしたことがないし、人形はいらないけどドールハウスなら一生に一度でいいから欲しい!と思うぐらい好き。もっとも本物はイギリス行くまで見たことがなかったんだけど、小さい頃からこの本や、ピーター・ラビットの本で慣れ親しんでいたから、本物のドールハウスがどんなものかはよーく知ってましたよ。
それで子供心にもこれは高価なものだということはわかったから、「大人になったらドールハウスが買えるぐらいお金持ちになるんだ」と夢見ていたけど、結局ドールハウスは買えなかったよ(涙)。だってあの映画に出てきたぐらい本格的なアンティーク・ドールハウスだと数百万円はして、ほんとの家が買えちゃうぐらいだからね。
だから初めてイギリスに行ったときは真っ先にドールハウス博物館見学を予定に入れた。シムピープルに熱中してたのも、要するにあれがバーチャル・ドールハウスだからだ。(シムズ3は死ぬほどやりたいのだが、あれを始めちゃったら仕事ができるかどうかわからないので不安だ)

だから、『床下の小人たち』でいちばん好きなのも、毎晩屋根が開いて男の子がドールハウスの家具を持ってきてくれるところ。なのに、アニメじゃ台所の家具ひとつでおしまいにしやがって!
さらに原作では小人たちが去った後、男の子の姉さんがドールハウスの家具をすべて枕カバーに詰めて持って行ってやる。これでとうとうあこがれの家具がすべて手に入ったと思うと、人ごとなのにうれしかったが、アニメじゃそれもカットしやがって!

ところで唐突に話は変わるが、イギリスの主婦は世界一だって話はしたっけ? これはもうほとんど間違いがないと思う。イギリス人のガーデニング好きは有名だし、それは家々の庭が大きいものも小さいものも、リッチなうちも貧しそうなうちも、それなりにきれいに作ってあるのを見れば一目瞭然だが、きれいなのは家の外だけではない。家の中は庭以上に手間暇かけて磨き上げ、きれいに飾っている。
それは最近の英国旅行で、いろんなB&Bを泊まり歩いても思った。いちおう宿屋をやってるんだから一般家庭とは言えないかもしれないけど、ほぼ一般家庭に近い、そういううちの、どこもが日本ならインテリア雑誌にしかないぐらいきれいにかわいく家を飾り付けている。
建築やインテリアデザインのセンスも英国は飛び抜けているし(これは個人的見解)、ごく普通の主婦が家にかける情熱も、働き者という点でも、他の国の主婦とはくらべものにならない。そして彼女らは自分の家と主婦の仕事に並々ならぬ誇りを持っている。
そういうのも、自分が英国に行く前からいろんな小説を読んで知っていた。というか、そういう本ばかり読んでいたから、私はとっても結婚なんかできないとあきらめていた(笑)。だって英国小説に出てくる主婦たちは、その有能さにおいても勤勉さにおいても、私には超人としか見えなくて、とても真似できないと思ったので。

というわけで、ホミリーは典型的な英国主婦であり、この小説はほとんどホミリーが主人公と言ってもいいぐらいだ。子供向けなのでいちおうアリエッティが主人公になってはいるが、作者のノートンがいちばん描きたかったのはホミリーなんではないかと。

ホミリーの目から見たこの小説は、そういうきれい好きで仕事好きの英国主婦が、家具にしろ道具にしろありあわせの、しかもサイズがまったく合わない寄せ集めのガラクタだけで、欲しいものを手に入れるだけで命がけの暮らしの中で、いかに完璧な家庭生活を維持するかの、言ってみれば主婦アドベンチャー物語であることがわかる。
このあと小人たちは野に出て放浪するのだが、無責任なアリエッティはそんな暮らしを楽しんでいるだけだが、ホミリーはまさに苦闘の連続で、その意味でも主人公はホミリーなのだ。
というのが大人になった私の読み。さすがに子供の頃はこういうのはわからなかったな。

こういう日常のディテールの異常なまでの書き込みの詳しさって、ある程度英国童話の特徴のような気がする。それに私がいちばんおもしろいと思う部分でもある。こういう日常的なものと、超常的なファンタジーを融合させるのがイギリス人は本当にうまい。
『ナルニア国』を読んでいたときも、家の造りとか、主人公たちが食べている料理の描写とかがすごく細かくて、しかも楽しそうなのでワクワクしたもの。Turkish Delight(白い魔女がエドマンドを誘惑するのに使ったお菓子。日本語訳では「プリン」となってるが、ゼリーみたいなお菓子らしい)には長年あこがれてるんだが、まだ食べたことがない。
トールキンの『指輪物語』でさえそういう部分がかなりあった。トム・ボンバディルの登場シーンなんて典型的でしょ。まあ、トムのエピソードはあの小説の中ではかなり浮いていて童話っぽいせいもあるけど。

で、何が言いたいのかというと、この童話は家の中も外もそういうイギリスらしさの魅力があふれたお話で、それが理解できない人には楽しめないし、アニメも作れない。これが小金井じゃすべてが台無しなんだよ、とよほど恨みを持ってるらしい(笑)。

広告
カテゴリー: 英国事情, 書評 タグ: , , , パーマリンク