★【映画評】『七人の侍』と黒澤明と三船敏郎の話

英語版ポスター

英語版ポスター

というわけで、常日頃から西洋(っていうか英国)一辺倒で、日本のものをことごとくバカにしている私だが、映画も例に漏れない。
というか、アニメはカートゥーンで育ったのと同様に、映画はハリウッド映画で育っちゃったんだからしょうがないでしょ。(実は10代のうちにイタリア映画とイギリス映画にはまったおかげで、ハリウッドのこともバカにしているのだが、それはまた別の話)

私の若い頃は邦画を見る人なんて、よっぽどのド田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんでなければ、場末のピンク映画に行く労務者のおっちゃんぐらいというイメージだった。(あくまでイメージです)
それがいつのまにか洋画と邦画の売り上げが逆転したという驚愕の事実には、今も開いた口がふさがらない。
だって私なんか狂の付くぐらいの映画ファンで、洋画はこれまで何千本見たかわからないけど、邦画は(子供の頃見ていたアニメや怪獣映画を含めても)30本かそこらだよ。特にここ30年ばかりは邦画なんてまったく見てない。

その私が黒澤明と三船敏郎だけは神とあがめていると言うと驚かれるのだが、それじゃその話を。

アカデミー賞授賞式での晩年の黒澤明。ジョージ・ルーカスとスピルバーグよりも背が高い!

アカデミー賞授賞式での晩年の黒澤明。この年でジョージ・ルーカスとスピルバーグよりも背が高い!

宮崎駿について、「世界に誇る日本のクリエイターという意味で、アニメの宮崎は比較するなら、映画の黒澤明、マンガの手塚治虫並みの重鎮なのだが」と書いたが、この3人の中でも圧倒的な業績でそびえ立つ巨人は黒澤だ。で、そのわりには実は私はあまり好きじゃないのも他の2人と同じ。

だから黒澤作品でもすべてが好きなわけじゃない。私がリアルタイムで黒澤を知ったのはもう晩年の頃だし(『デルス・ウザーラ』を試写券もらって見に行ったのは覚えてるが、作品には失望した)、晩年の映画はどれもまったくいいと思えない。

脂が乗りきってた時代の映画も好きなのと嫌いなのがある。そもそも現代劇が嫌いで時代劇が好きだし。でもたとえば、『七人の侍』と同じぐらい人気がある時代劇で、やはり三船主演の『用心棒』と『椿三十郎』は、なんかあまりにマンガチックでバカバカしい気がして好きじゃない。仲代達矢の死に方とか(笑)。
他にもいい映画はいっぱい撮ってるが、無条件で好きなのは芸術性の『羅生門』エンタテインメント性の『七人の侍』かなあ。

宮崎駿で好きなのは『もののけ姫』と『千と千尋の神隠し』ぐらいなので、だいたいこんなもん。
その意味、手塚治虫はあの独特の手塚臭さが嫌いなだけで、彼の作品はどれもおもしろいし特に嫌いなものがないので、この3人の中ではいちばん好きなぐらいなんだが、国際的には手塚がいちばん無名なのはかわいそうだ。

だけど、『七人の侍』だけは見るたびわあわあ泣いちゃうぐらい好きだ。ただ、この作品についてはそれこそ偉い人たちがいっぱい書いてるから、批評というよりは、たまたまこの夏見て気付いたことだけ。

この夏休み、テレビで『七人の侍』とそのハリウッド版リメイク『荒野の七人』をやってたんだよね。どっちもこの前に見たのがいつだか思い出せないほど昔の映画なので、なつかしくなってつい録画した。

それでどっちも録画しといて暇なときにでも見るつもりだったのだが、『七人の侍』の最初のシーンを見てしまったら、もうどうにも目が離せなくて、結局、3時間27分テレビにかじりついて見てしまった。
名作だってことぐらい知ってたし、好きな映画だとは思ってたけど、こんなによかったのかよ!

三船敏郎のこと

そして三船敏郎だが、彼も私がリアルタイムで知ってた頃は、もう初老のおっさんだった。年を取っても渋かったけど、別に特別なオーラは感じなかったし、なんか偉そうであまり好きじゃなかった。
オーラと言えば黒澤明のほうがよっぽどオーラがあるよね。なにしろ明治生まれの日本人で6フィート(183cm)あったんだから、文字通りの巨人だった。おまけにあの人相悪く見える黒メガネだからめちゃくちゃインパクトのあるルックス。(素顔はけっこう間抜け顔だが)
俗に「黒澤天皇」と言われる態度のでかさや横柄な口の利き方も私にはすごい気にさわって、「なんだ、このジジイ」という感じで嫌いだった。(別に個人的に知ってたわけじゃない。当時はテレビでもよく見れたのだ)
三船もそこまではいかないが、なんかいかにも偉そうな日本の家父長的ヒーローという感じで、そういう男も大嫌いな私は彼も嫌いだった。

だから初めて三船の若い頃の映画を見たときはショックを受けた。

drunken-angel01

『酔いどれ天使』の英語版ポスター。アラン・ドロンかと思った。

最初に衝撃を受けたのはその色気。男の色気とはいうけれど、ここまでフェロモンだだ漏れの男って見たことない(笑)。
とにかく『羅生門』を初めて見たときは芸術性なんかそっちのけであの筋肉に目が釘付けだった(笑)。黒澤と違ってチビ(174cm)なのに。わざとらしい作った筋肉じゃないのがいいね。当時の私はべつに筋肉フェチでもなく、どっちかというと筋肉は嫌いだったのだが、有無を言わせぬオスのフェロモンがあるよね。
『七人の侍』はその三船の尻がたっぷり鑑賞できるというすぐれものなのだが、尻丸出しで泥に突っ伏して死んでてもあれだけかっこいいって、これはもうハリウッドアクターには逆立ちしても真似できまい。

さらに日本人であんなにハンサムな男見たことがない。いわゆる美少年とか、ハーフ的な整った顔の人なら他にもいるけど、純日本人顔のおっさんで、ここまで美しい人って見たことない。なのに『七人の侍』みたいに三枚目役も喜々としてこなすしなあ。
これまた当時は美少年好きだった私がこの手の男にここまでクラッとなったことはない。

こういう役者を見るたびつくづく残念に思うことがある。男だって若い方が美しいに決まっているのに、若さそれ自体が売りになる女優と違って、男優が主役級の評価を受けるにはやはりそれなりにキャリアを積まないとならなくて、私が知る頃には30過ぎになっているのは本当にもったいない!
若いうちから映画に出てる人や子役出身の人だって、若い頃の映画はクソだったりするのが普通だから、せっかくの美貌も持ち腐れ。
その点三船はまだ比較的若い内に黒澤明に抜擢されたのはラッキーなのだが、やっぱり若い頃ももっと見たかった。軍隊時代のスナップとかゾクゾクするほどきれいだしね。
だから、実は『銀嶺の果て』(三船の映画デビュー作。監督は谷口千吉だが脚本を黒澤明が書いている)や『酔いどれ天使』(三船の黒澤映画デビュー作)の三船がすごい好きだったりする。でもできればもっと若い頃の三船が見たかった。戦争行ってたし、しょうがないんだけどね。

Drunken-Angel02

同じく『酔いどれ天使』から。真性結核美人の三船敏郎。

Mifune Snow Trail

こちらは『銀嶺の果て』

しつこいし、重くなるのでリンクだけにしておくが、動いてる三船はもっとゾクゾクするほど色っぽくかっこいい。

銀嶺の果て http://33.media.tumblr.com/tumblr_lxnaiko4Lk1qzg2mso1_500.gif

酔いどれ天使 http://media.giphy.com/media/G1jzlhphwlJT2/giphy.gif

なのに今じゃ娘の三船美佳のほうが有名なんだからね。娘も美人だが、お父ちゃんにはあまり似てないね。
とにかくこれだけの美男が年取ったら、貫禄はあったけど、やっぱりただの日本のおっさんだもんな。まったく年は取りたくないです。

黒澤明のこと

このまま延々と三船敏郎の話をしていてもいいのだが、ちょっと気が引けるので、『七人の侍』の話。これはまあ、上にも書いたように私ごときがああだこうだ言うまでもないよね。だからあくまで断片的な感想だけ。

なんかどこかで見たようなシーンが多い。
と、感じるのは、実はみんなが黒澤をパクリまくっているからだ。本当に映画の教科書みたいな映画だもんなあ。それで黒澤をパクったハリウッドの巨匠たちの映画を、それほどえらくない監督たちがパクリまくるから、みんなどこかで見たような気がするわけ。
Musician’s musicianという言葉があるが、黒澤明は本当に映画監督の監督だ。

テクニック的な意味で、今回見ていちばん感心したのは構図のすごさ。「一幅の絵のよう」と言うが、黒澤映画の画面はどこを取っても絵になる
普通の映画なら二人の人物が話しているシーンは二人の人物が話しているだけなのだが、この人の手にかかるとまるで名画が命を吹き込まれて動き出したようだ。エキストラのポーズや動きひとつ取っても、計算され尽くしている。光と影の使い方の巧みさは言わずもがな。
しかも1つのカットの中で、前景、中景、遠景と、それぞれが独立した絵になっていて、それぞれでドラマが進行しているようなカットは、本当に神業としか思えない。
黒澤は絵描き志望だったそうだからそのせいかなー。イギリス人ではピーター・グリーナウェイが死ぬほど好きだったように、私はこういう「絵」が凝っていて濃厚で美しい監督がすごい好きだ。
映像美と言えば小津安二郎が海外でも有名だが、私は小津はぜんぜんわからないのは、やっぱりあちらは日本画の世界で、黒澤は油絵っぽいからかな? 私は絵は日本画も好きなんだけどね。

でもそれ以上にすごいと思うのは、やっぱりお話作りの才能よね。特に最近ハリウッドでも、脚本書けないやつが多すぎるからよけい。(マンガ原作ばっかり作ってるのはそのせい)
前述のように3時間27分の間、まったく息もつかせずサスペンスが持続する。もちろんサスペンスだけじゃなく、涙あり笑いありだけど。その間、片時も目が離せない。
群像劇ってただでさえ大変なのに、主役の7人だけじゃなく、端役の百姓にもそれぞれちゃんと見せ場があり、画面に登場しない部分にもドラマがある。
名場面、名台詞のオンパレードで、ここだけ何度でもリピートして見たいと思えるようなシーンの連続。

ここまで隅から隅までパーフェクトな映画って、『地獄の黙示録』級かもしれない。(『地獄の黙示録』は私のオールタイムベスト) これ以上のほめ言葉って私には思いつかない。

ところで私はこれみたいに3時間越えで、途中休憩の入る映画を映画館で何本か見たが、どれも長すぎるという気はまったくしなかったし、むしろ傑作揃いという印象を持っている。映画館だから、その間トイレにも行けないし身動きもできないにも関わらずである。
それでこれを見返して思ったのだが、本当はこれぐらい時間を与えないといい作品は撮れないんじゃないかということ。映画は1時間半というのは、あくまで映画館サイドの興行的理由で決まったもので、作品の質なんか考えてないからね。
もちろん短編にだって傑作はあるから一概には言えないが、監督によっては「時間さえあれば」と思う人は多そう。ディレクターズカットは必ず本編より長くなってるのを見てもわかる通り。
そこでだ、今はもうみんなが映画館で映画見る時代じゃないわけよ。だったら最初からDVDやブルーレイで見る人用にノーカット版の3時間とか4時間とか5時間とかある映画作ってくれないかなー。
まあ現実には、くだらない映画は1時間でも長すぎて苦痛だから、それだけの時間見たい映画なんて数えるほどしかないんだが。

『七人の侍』の見所について

やっぱり何度見てもすごいと思ったのはラストの雨中の合戦シーン。「アメリカの西部劇では常に晴れている、だからこそ雨にしようと思いついた」(Wikipedia)というわけで、そもそも当時としては土砂降りの雨の中のクライマックスというだけでも斬新だったのに、ここまでグチャグチャのドロドロの撮影は前代未聞。役者いじめフェチ汚れマニアの私は大歓喜。特に2月の雪の中、半裸で泥の中を這いずり回った三船はまさに役者の鑑。

しかしそれ以上にすごかったのは馬。このシークエンスの馬のスタントは素人目にもすごい迫力と思われるだろうが、多少なりとも馬を知ってれば、これがキチガイ沙汰だということがわかる。黒澤は西部劇で育った人で、西部劇と言えばホースアクションだから、これだけは負けたくないと思っただろうが、やっぱり本家に勝てない、と言いたいところだが、本家も目じゃない仕上がりだ。
早い話が馬文化があって、馬も多いし、プロの調教師もライダーも多いアメリカと違って、まともな馬文化もなく、地元の乗馬クラブや馬術部の大学生が騎馬エキストラに駆り出されるような日本(馬術部だったんでこの辺の事情には詳しい)で、本場並みのホーススタントを演じてるだけでもすごい。

しかも西部劇に使われるような馬(マスタングとかの土着馬)は頑丈で酷使にも耐えるが、この映画に出てくるような競馬上がりのサラブレッド(日本ではこれがいちばん安く買える馬なので時代考証無視で登場)はまったく映画の撮影向きではない。
気性が荒く神経質なサラブレッドは、ちょっと風が吹いたぐらいでもパニックになって棒立ちになり人を振り落として暴れ出したりするのに、この土砂降りの泥んこの中を走らせるだけじゃなく演技までさせるのは至難の業。
しかも神経質な馬は人に寄られるだけでも嫌うし、人が見慣れない格好をしていたり、何か変なものを持っているのを見たらやはり脅えてパニックを起こす。そんな馬に乗って、前が見えないほどの雨の中、密集した槍ぶすまの中へ突っ込むなんて文字通り自殺行為で、いくら黒澤映画に出してやるからと言われても私なら断る。

seven-samurai-horse

見ているだけで恐ろしい雨中の合戦。この半端ない雨と泥!

そういえば、2ちゃんの『七人の侍』スレを見ていたら、「両手放しで弓や刀を使うのがすごい」みたいなことが書いてあったが、やっぱり素人さんにはわからないみたい。手放しなのはデフォルト、手綱はハンドルでも手すりでもないんで、放してもぜんぜん問題なし。
問題なのは人がひしめき合う泥の上を走るってところなのよ。馬は4本足のくせに意外と安定性が悪くて、すぐこけるんだが、これが人には命取りになるのだ。落ちただけでも危険だが、うっかり倒れた馬に引っかけられたり下敷きになれば内臓破裂で即死。乗ってる人もだが、周囲の人も巻き添えになる可能性大。映画スターで乗馬中の事故で亡くなる人が多いのは不思議でもなんでもない。
そんな命知らずのスタントをたっぷり見せてくれて、怖いけどすてき。そもそも馬が好きだから西部劇や時代劇を見るようになった私としては、その面でも満足。馬はちょっとかわいそうだけどね。
やはり動物虐待がどうこうだからか、最近の映画は危険を伴う馬のスタントはCGですませてしまうようだが(スタンピードの中で転倒するシーンとかね)、あれはめちゃ白ける。馬の安全には気を遣うのはいいが、役者やスタッフは命賭けてもらわなきゃ。映画作りは狂気ですよ。こういうふうに死ぬ気でやってくれ!(かなりコッポラに毒されている)

こういうむちゃくちゃハイテンションでサスペンスフルなアクションシーンもいいが、それとは逆にほっと息をつかせるようなほのぼのエピソードとか笑いがあるのもいい。

個人的になぜか好きなのは、百姓たちが侍をリクルートしに町へ出るシーン。ほんの短いシークエンスで、目の前を強そうな侍たちが通り過ぎるのを、百姓たちが馬鹿面で見守るのをずっとアップで撮っているのだが、このシーンのテンポの良さがすごく気持ちいいし、侍たちがめちゃくちゃかっこいい。
ここではまだデビュー前の仲代達矢宇津井健も、文字通りの通行人役で出演している。仲代達矢って、私は晩年の目玉親父しか知らなかったので、「若い頃はこんなにハンサムだったのか!」と驚いた。宇津井健はこの頃からデブだったが。
仲代はこのほんの数秒の登場シーンのために何日も歩かされて足が血だらけになったそうだが、私の好きな監督ってこんなやつばっか(笑)。

役者の話

seven-samurai-kanbei

志村喬が演じる島田勘兵衛

それじゃ、あとはミーハーっぽく、いちばん好きなキャラクターは誰かとか。三船敏郎演じる菊千代はもちろん魅力的なキャラクターだが、ここはやっぱり志村喬の島田勘兵衛でしょう。黒澤映画の代名詞として、いつもセットで登場する三船と志村だが、この映画の主役はやっぱり志村。(そういえば、黒澤映画がつまらなくなったのは、この二人を使わなくなったあたりからだ)

顔がモーガン・フリーマンだけどね(笑)。本当にモーガン・フリーマンそっくりなんだけど、モーガン・フリーマンも偉大な役者だし、画面に出てくるだけでほっこりさせて、泣かせて、感動させるって意味じゃ、志村喬も同じぐらい偉大な役者だ。なんか安心するよね、あの手の顔の人は。

「家父長的な男は嫌い」と書いたけど、こういうふうな常に冷静で優しくて、有能な頼れるリーダーなら歓迎だ。この手の軍師タイプで気が狂うほど好きなのは、『指輪物語』のガンダルフなのだが、勘兵衛は和製ガンダルフと言ってもいいぐらい。こういう男にならどこまでも付いていきたい。
侍集めのシークエンスでは、最初見たときは「勘兵衛もてすぎ」と笑ったが、まさに男が惚れるタイプの男だよね。
そのくせ、劇中でも自嘲気味に語っているように、世間的には負け犬で、主君もなく、住む家も家族もない浪人というあたりが、かえってリアルでなんともいい。世の中なんてそんなもんだよね。

弓を引く勘兵衛様

こういう人はたいてい頭脳派で、それは勘兵衛も例外ではないんだが、ラストの決戦では見事な弓さばきも見せてくれてかっこよかった。ところでWikiには「『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(ピーター・ジャクソン監督)の合戦シーンでは、『七人の侍』の雨の中で弓を引く勘兵衛のショットがそのまま引用されていた」と書いてあるが本当か? 弓って言うとレゴラスか? でも弓引くときって誰でもこうなるんじゃないの?
ちなみに私の父は若い頃弓をやっていたそうだし、私は大学の体育で弓道を取った。乗馬は高校でやってたから、馬に乗って弓を引く流鏑馬やりたいと思って(笑)。夢だったけどね。でもこういう映画を見ると今でも血が沸く。

菊千代はコミック・リリーフの役で、かっこいい三船敏郎が見たい私としてはちょっとあれだが、こっちのほうが地だったみたいね。「野生児」三船もまた良いし、若さと身体能力の高さを見せつける演技はすばらしい
そうして笑わせておいて、水車小屋の女房と子供を助けるシーンでは、孤児となった赤ん坊を抱いて「こいつは俺だ!」と号泣する。これも文句なく泣ける名場面。

一方、人気が高いわりにはどうも乗れないのは剣豪の久蔵役の宮口精二。いや、こういう病的な顔つきの役者は好きなんだが、体が貧相すぎるし、どうもあまり強そうに見えなくて。と思ったら、やっぱり元々そういうタイプの役者じゃなかったみたいね。でも絵としてはかっこいいから許す。

お坊ちゃまの勝四郎役の木村功も、「童貞うぜー」という感じでわりと嫌い。何より、役のわりには若くも美少年でもないところが気に入らない。
子犬みたいに久蔵を慕っていて、面と向かって「あなたはすばらしい人です!」とか言っちゃう青さも、今なら腐女子とかが喜びそうな展開だが、私はけっこう鼻白んだ。
でもその勝四郎の相手役、志乃を演じた津島恵子は、いかにも百姓娘らしい色気がたまらない。あまり美人じゃないけどそこがリアルでいい。髪を洗うシーンの土俗的エロティシズムは、もちろん映画史に残る名シーン。(『エンジェル・ハート』で黒人の女の子が髪を洗うシーンはこれへのオマージュ?)

残る3人の侍、稲葉義男加東大介千秋実の、のんきそうなデブ3人組(と、私には見える)ははっきり言ってしばしば見分けが付かない。

むしろ百姓4人組のほうが個性豊かで印象に残る。利吉(土屋嘉男)茂助(小杉義男)万造(藤原釜足)与平(左卜全)の4人だが、利吉と女房のエピソードとか、万造と娘のエピソードとか、単なる脇役にとどまらない存在感を見せるし考えさせられる。
利吉の女房(島崎雪子)なんてセリフすらない役なのに、村のために野武士に売られた女のつらさ、くやしさ、その野武士の砦が焼き討ちに遭ったときの復讐の念に燃える凄絶な笑み、そして助けに来た利吉を見て、火の中に逃げ戻る切なさ哀れさを、わずかな表情の変化だけで演じきる鬼気迫る熱演。

seven-samurai-bokuzen

左卜全の存在感はすごかった

でもある意味主役二人を食ってしまうぐらいの存在感があるのは与平を演じた左卜全だよなあ(笑)。ここまで徹底して、弱くて哀れっぽくてみじめなだけという存在は、笑わせると同時に百姓たちの置かれた立場を体現している。それを何もしないで立ってるだけでわからせる左卜全はすごい。この人はおそらくこの役しかできないが、こういうのも名優と言うしかない。与平が虎の子の米を盗まれたことを告白するシーンの哀れさもたまらない。
これは同族嫌悪なのか、さんざん与平をバカにしていじめていた菊千代が、自分のミスで与平を死なせてしまって号泣するのも哀れすぎて胸が張り裂けるシーン。

もうこの調子で1シーン毎に感想を書いていたらきりがないからやめるが、4人の壮絶な死に様、戦のあとの田植え歌のすがすがしさ、そして勘兵衛の「また負け戦だったな」という名台詞まで、本当に息をする暇もない名作。映画ファン、特に日本人ならこれを見ずに死んではいけない。

あえて文句を言うなら

その1。白黒であること。もちろん時代が時代だから当然だし、モノクロ映画の美しさがどうこうというのもわかるけど、これはやっぱり可能ならばカラーで撮るべきだった映画でしょ。
邪道だと言われそうだが、今の技術ならカラー化は案外かんたんなので、『風と共に去りぬ』みたいにカラー化してはいけないんだろうか? 特に大勢の人物が入り乱れるロングショットや、土砂降りの雨のシーンは白黒だと見にくくて、もっとはっきり見たいと思ってしまう。

その2。音楽がうるさい。早坂文雄の音楽は名曲と言われるし、悪くはないんだが、今の感覚だとうるさい(笑)。特に金管がパッパラパー!と鳴る感じは今の映画ではありえないよなー。

その3。セリフが聞き取れない。これは黒澤映画全般に共通する欠点。なんでもアフレコ嫌いとか、マイクの性能が低かったとか、フィルムが古すぎるとか理由はいろいろあるみたいだけど、もともと日本人のセリフすべてが聞き取りづらい私は、実を言うとほとんど聞き取れない。今は字幕放送とかあるし、脚本もネットで読めるからいいんだけど、これだけ名台詞の連続なのに惜しい。

その4。まあ演技もちょっと古いよな。これはそういうものと思って見れるけど、あのオーバーアクション(特に三船)はちょっと恥ずかしい。逆に言うと今の人でこれができる人はいないからすごいとも思えるんだが。オーバーなのでなんか舞台を見ているみたいね。

クライティリオン版ブルーレイについて

というわけで、「これはやっぱビデオ買わなきゃ!」と思った。特にセリフの問題があるので、字幕が付くディスクが欲しかった。それもできればブルーレイで。

レーザーディスクからDVDに移行したとき、画質がLDより悪いのでがっかりしたのだが、あれから慣れてしまったので、DVDがこんなに画質が悪いのを忘れていた。それを思い出したのは、テレビをいいものに買い換えたのと『マイリトルポニー』のDVDを買ったからで、この『マイリトルポニー』のDVDがテレビ放映の録画にくらべ、ボケボケなのだ。(本国でもDVDしか発売されていない)
やっぱり買うならブルーレイだよなあ、と思って調べたところ、アメリカのCriterion Collectionというのが定番らしい。これの日本盤は出ていない。これは買いでしょ。と思ってさっそく米Amazonに注文した。

それで見て驚きました。見づらいと思っていた雨中の合戦とかくっきりはっきり写っていてテレビの録画よりずっと見やすい。音もかなり聞きやすくなってる。ただ期待した字幕は英語字幕しかついてなかった。まあ、米盤に日本語字幕付ける意味はないが、研究者や日本語を学んでる人のためにはあってもいいと思うがなあ。
メイキングやドキュメンタリーも付いて、間違いなくこれが現在の定番といっていい。例の旗をあしらったパッケージデザインもおしゃれだし。

蛇足だが、例によっての英語つっこみ。“Seven Samurai”じゃなくて“Seven Samurais”でしょう?と言いそうになったが、複数形の語尾がiになるのはギリシア語ラテン語起源の単語だと珍しくない。pegasus(ペガサス)の複数形がpegasi(ペガサイ)になったりして。(『マイリトルポニー』にハマってるのですぐにこれが出てくる。もっとも今辞書で引いたらこんな複数形はないので、もしかして造語かも)
だいたいそれなら侍の単数形はsamurusになってしまうが、聞き慣れない外国語だし、英語耳にはむしろsamuraiのままで違和感ないのでこれでいいのだ。
ちなみに名台詞は英語で読んでもかっこいいので、日本語聞きながら英語字幕で見るのがけっこう気に入ってます。

あらためて黒澤明の偉大さがわかる、『荒野の七人』の酷評リビューもついでにどうぞ

 

広告
カテゴリー: ★(おすすめ), 映画評 タグ: , , , , , パーマリンク