【映画評】ヒューゴの不思議な発明 (2011) Hugo

hugo0スコセッシ老いたり。エセヨーロッパ臭が鼻につく、ファンタジー仕立ての「映画についての映画」。ただし映像と音楽だけは超一流。

Director:

Martin Scorsese

Writers:

John Logan (screenplay), Brian Selznick (book)

♦ じゃあ、映画対談シリーズ、次は似たようなファンタジー仕立ての映画ってことで、スコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』に行きます。
♣ 私もあっちのほうがよかったなあ。
♦ 分担したんだからしょうがないでしょ。
♣ だってあっちのほうが映画としておもしろかったし。
♦ それを言ったらおしまいでしょ。じゃあ、先にストーリー。(一気にネタバレです)

ジョルジュのおもちゃ屋

ジョルジュのおもちゃ屋

パリ、モンパルナス駅の時計台に隠れ住む12才の孤児、ヒューゴ(Asa Butterfield)は、ある日駅構内にあるおもちゃ屋から部品を盗もうとして、おもちゃ屋の主人のジョルジュ(Ben Kingsley)に捕まり、父の遺品だった大事な手帳を取り上げられてしまう。

ヒューゴは博物館の学芸員だった父(Jude Law)の死後、時計台の管理人だった乱暴者でアル中のおじ(Ray Winstone)に引き取られた。しかしそのおじが失踪した後は、ひとりきりで時計台に暮らしていた。ヒューゴの心のよりどころは、父が博物館から持ち帰って修理しようとしていたオートマトン(自動人形)の修理を終えることで、手帳はその設計図だったのだ。
修理の腕を認められたヒューゴはジョルジュの店で働かせてもらうことになり、ジョルジュの養女イザベル(Chloë Grace Moretz)とも仲良くなる。
自動人形の修理を終えて動かしてみると、人形は月に刺さったロケットの絵を描き、「ジョルジュ・メリエス」とサインする。実はジョルジュは『月世界旅行』を撮った「映画の父」ジョルジュ・メリエスであり、妻のジャンヌ(Helen McCrory)は彼の映画の花形スターだったのだ。

しかし時代に取り残されたジョルジュは、フィルムを始め映画についてのすべてを売り払い、生活のためにおもちゃを売りながら鬱屈した生活を送っていた。
ジョルジュの映画について調べ始めたヒューゴとイザベルは、メリエスを崇拝する映画学者のルネ(Michael Stuhlbarg)と知り合い、2人を引き合わせる。ルネが持ってきたかつての自分の作品と再会したメリエスは元気を取り戻し、あやうく孤児院に送られかけたヒューゴを引き取って、みんなハッピーでめでたしめでたし。

♦ えーと、それじゃあどこから行こうか?
♣ いちばん印象に残ったという意味では映像でしょ。
♦ うん、これはスコセッシとしては初のデジタル3Dムービーだそうで、そのぶん映像はがんばったのは一目でわかる。
♣ とりあえず、オープニングとラストのノーカット長回しはすごい。これCG使ってるのかと思ったら実写だみたいなのをYouTubeで見たんだけど。
♦ デ・パルマかと思った(笑)。
♣ 確かにこれはブライアン・デ・パルマのトレードマークですわ。
♦ 確かに映像はすごいんだけどさ、いきなりこういうテクニックをひけらかす手法ってどうなの? ファンタジーにはあまりふさわしくないんじゃないの?
♣ この作品は童話仕立てなだけで、超自然的なことは何も起こらない、という意味で厳密にはファンタジーじゃないし、映画についての映画なんだから、これはかえってふさわしいんじゃない?

♦ じゃあ先にそれについて。「映画についての映画」っていうやつ。昔から良くあるよね。ピーター・ボグダノヴィッチの『ニッケルオデオン』とか、タヴィアーニ兄弟の『グッドモーニング・バビロン!』とか、『ニューシネマ・パラダイス』とか。
♣ フェリーニの『81/2』とか、ジョー・ダンテの『マチネー』(色物監督ウィリアム・キャッスルについての映画)とか、ティム・バートンの『エド・ウッド』(最低映画監督エド・ウッドについての映画)のほうが近いんじゃない? 映画監督についての映画なんだから。
♦ またバートンとデップ! 勘弁してよ!(エド・ウッドを演じたのが、言うまでもないけどジョニー・デップなのだ)
♣ いいからジョニー・デップは忘れて。しかもスコセッシと言えば有名な映画おたく。そしてメリエスは映画の原点だから、ある意味、すごく彼らしい映画と言える。
♦ 確かに。これは撮りたかった映画だろうね。映画生誕100年記念してスコセッシが英国Channel 4のために作ったドキュメンタリーを見たんだけど、この人、ほんっとうに映画が好きで、ジャンルを問わず、いい映画ならどんな映画でも好きなんだよね。

♣ 実際、この人はジャンルを問わない監督ですしね。
♦ ただ、これもどこかで読んだんだけど、いやでも義理で作らなければならない映画というのもあるんだとこぼしてた。そう言われてみると、スコセッシの映画って明らかに商業目的で作ったやつと、好きで作ったやつがあるじゃない。
♣ ていうか、私がスコセッシ映画を見なくなってきたのは、そういうのが多すぎたからなんだ。『タクシー・ドライバー』のころは神だと思ってたのに。なんか最近の彼の映画って、金のための仕事みたいなのが多くない? まあ、だいたいそういうのはクソつまらないからわかるけど。
♦ 今フィルモグラフィー調べていて驚いたんだけど、最近ドキュメンタリーばっかり撮ってない? ボブ・ディランのドキュメンタリーとか、ストーンズやジョージ・ハリソンのドキュメンタリーって、何これ?
♣ ザ・バンドのドキュメンタリー『ラスト・ワルツ』(これは傑作)があるし、ブルースの歴史の映画も撮ってるし、音楽はマジで好きなんじゃない?
♦ そうなんだ? とりあえず、この映画は撮ってて楽しかっただろうなというのはわかる。こういうギミックあふれる映画。
♣ 実は私、ファンタジーだと思ったから録画しただけで、これがスコセッシ作品だということすら知らなかったの。だからエンディングでスコセッシの名前見たときちょっと感激したよ。なんか実にスコセッシらしい映画だし、撮るのを楽しんだだろうと思うとほっこりした気持ちになって。
♦ 『シャッター・アイランド』見たときはげんなりしたのにね。
♣ というわけで、これはいい映画。悪い映画じゃないんだけど、ただ‥‥

エイサ・バターフィールド演じるヒューゴ

エイサ・バターフィールド演じるヒューゴ

♦ おっとそれはあと。まずは役者の話からしよう。
♣ 子役からですかね。エイサ・バターフィールドどう思いました?
♦ イギリス人の子役は全部好きな私から見ても、この子は使えると思ったよ。
♣ それはなぜ?
♦ かわいくなくてこまっしゃくれたところが、初めてクリスチャン・ベイルを見たときの感じを思わせるから。
♣ 印象だけですかい。子供のくせに醒めた冷たい青い目が印象的だね。うまく育ったらこれはおもしろい役者になるかも。

♣ イザベル役のクロエ・モレッツは? なんか美少女として大人気なんだよね。
♦ ロリ嫌いの私だが、こういう普通に少女らしい少女は嫌いじゃないよ。ただそれほどの美人とは思わないけど。美少女っていうのはナタリー・ポートマンみたいな子を言うんであって、この子は普通のかわいいお嬢さん。
♣ 役柄も幼かったしね。

♦ そしてメリエス御大を演じたのはベン・キングズレー
♣ 英国の名優だが、顔はあんまり好きじゃないんだ。お父さんがインド人なんで、顔が濃すぎる。
♦ 『ガンジー』を演じるにはぴったりだったんだけどね。
♣ でもメリエスによく似てた
♦ 私は白塗りすぎて、ちょっと気持ち悪かったけどな。ただ演技に関してはもちろん言うことないです。
♣ それだけ? なんかもうちょっと言うべきことあるんじゃない?
♦ だってほんとに裏とかなくて、あらすじに書いた通りなんだもん。

ヒューゴと在りし日の父

ヒューゴと在りし日の父

♣ ところでここにもジュード・ロウが出てました。ヒューゴのお父さん役で。
♦ そうかあ、ジュードもお父さん役が回ってくる年になっちゃったのかと詠嘆。でも丸メガネが似合ってステキだったので、もっと見たかったのに、回想シーンでちょこっと出るだけですぐ死んじゃったのにがっかり。
♣ あと、クリストファー・リーが古本屋の店主で出てたけど、この人はいつ見ても風格と威厳があってすばらしい。

♣ なんか話が盛り上がらない!
♦ だって映画もわりと淡々とした映画なんだもん。やはりこの映画で見るべきものはカメラとセットでしょ。
♣ うん。写真貼るのにスチルを集めていて、取捨選択に困るぐらい絵はきれいなんだよね。
♦ 特に時計台の内部のセットは興奮した。時計台に住むのって夢でしょ?
♣ そうなの?
♦ なんか昔からこういうのってよく映画に出てきたじゃない。ここでもキートン(?)の映画が引き合いに出されてるけど。こういうところに住むのが夢だったんだよ。
♣ それでもどうせ住むなら私はパリよりロンドンの駅がいいな

♦ そこなんだよね。ヒューゴとメリエスの話と並行して、駅の人間模様みたいなのが描かれるでしょ。
♣ 義足のジャンダルム(昔フランス小説読みあさっていたときに覚えた。inspectorより感じ出てるでしょ)と花売りの女性との恋とか、愛犬家の中年カップルとか。
♦ なんかいかにも昔のヨーロッパ映画風じゃない。パリのエスプリって感じでさ、あと駅もたぶんオールセットだと思うけど、ヨーロッパの雰囲気が濃厚。だけど、それを見ていたら、だんだんうさん臭い感じがしてきて‥‥
♣ どういう意味?
♦ 嘘くさいんだよ。いかにも作り物めいていて。
♣ それはギリアムのところで言っていたように、意図したものなんじゃない? ある種のおとぎ話っぽさを与えるための。
♦ フランスの話なのにフランスっぽさがないし。
♣ だって演じてるのがイギリス人やアメリカ人なんだし(笑)。

♦ で、どうも変だなあと思って調べたら、これ原作がアメリカ小説なのね。
♣ 小説じゃなくて絵本。絵と文章が半々ぐらいの。原作はアメリカの絵本作家ブライアン・セルズニックの『ユゴーの不思議な発明』ですね。
♦ なんで原作はユゴーなのに映画はヒューゴなんだ? フランス人なんだからユゴーでしょうが。
♣ でも映画は英語でヒューゴーって言ってるし。
♦ じゃあジョルジュじゃなくてジョージって呼ばなきゃ変じゃない。
♣ だんだんただの言いがかりになってますが。

♦ 原作ってどうだった?
♣ 私はたまたま古本屋に原書があったんで立ち読みしただけだけど、あんま好きじゃないな。絵が嫌い。個性もないしアートっぽくもないし、私の目にはただの殴り書きにしか見えなくて。
♦ なんだ、そりゃ。ひどいな。『アリエッティ』の話で英国の挿絵画家を褒め称えたところなのに。
♣ 正直この絵でお金取れるのかと思いました。かわいくも美しくもないし。ただ、各キャラクターは原画の雰囲気にかなりそっくり。

駅でのヒューゴとイザベル

♦ 映画に話を戻すと、とにかく、なんかいかにもアメリカ人の考えたパリっていう感じがしてきて、どうも安っぽく見えてきてしまったのだ。フランスでもイギリスでもいいけど、やっぱりアメリカ映画とヨーロッパ映画って空気が違いすぎる。
♣ わかる。私はイギリス映画とそれ以外の国は空気見ただけでも違いがわかるもん。アルトマンの映画にあったじゃない。アメリカの話のはずなのに屋外シーンは全部パリで撮ったやつ。あれも見ていてすごい違和感おぼえたんだけど、最後にエッフェル塔が見えて、やっぱり!と。
♦ アルトマンらしいギミックだわね。でもこっちはその嘘っぽさに気付くとかなり白けてしまって。
♣ スコセッシは良くも悪くもアメリカンな監督ですからね。そりゃ違うわ。
♦ そう思うと、今度はこれヨーロッパの監督に撮らせたら、はるかに詩的で幻想的な話になっただろうなと思うと、やっぱり残念な映画に見えてきてしまった。

♣ うーん、やっぱり言いかがりに思えるけど、確かにこぢんまりときれいにまとまってはいるけど、それ以上に訴えるものはないかな。
♦ でしょう? たとえばこれ、同じアメリカ人でもティム・バートンに撮らせたら、まったく別物になるかもしれないけど、おもしろい映画にはなりそうでしょう。
♣ ジョニー・デップが時計台に住んでる話になると思う。

♦ というわけで、映画に寄せるスコセッシの情熱はわかるし、もちろんうまい監督だとは思うけど、この人はほとんど燃え尽きてると思った方がいいかも。
♣ 人間、本当に創造的な期間なんて短いから当然と言えば当然なんだけどねえ。
♦ いろいろ賞も取ってるけど、アカデミー賞は全部門にノミネートされながら、作品賞と監督賞は逃した。取ったのは撮影、美術、視覚効果、音響、録音だけっていうのは、私の印象と同じだ。
♣ 英国アカデミー賞も美術賞と音響賞だけ取ってますな。
♦ やっぱりこの映画でいいのは音と映像だけ。脚本とか演技とか演出とかの映画の根本のところは並みなんだよな。
♣ 悪い映画じゃないし、ほのぼのした感じはいいんだけどねえ。
♦ でもかつてのスコセッシの切れ味はこんなものじゃなかった。かつては愛した人だけにちょっと残念。

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