【映画評】ダレン・シャン (2009) Cirque du Freak: The Vampire’s Assistant

Cirque_du_Freak_poster

人気のファンタジー・シリーズの映画化ということでちょっと期待して見たのだが、実はトンデモ映画だったという話。

しかも吸血鬼ものでしょ? 吸血鬼ぐらい、ガキにエクスプロイトされてるジャンルもないしなあ。吸血鬼のそんな堕落した姿は見たくない。

ハリー・ポッターが出てくるなり、ヨレヨレのTシャツ着て無精ヒゲ生やしたデブのアメリカ人で、カンザスあたりの魔法学校の生徒だったらどうなると思う?

Director:

Paul Weitz

Writers:

Paul Weitz (screenplay), Brian Helgeland (screenplay), Darren Shan (series of books)

正直言って『ハリー・ポッター』には恨みを持っている。

本来なら英国ファンタジーというのは私のジャンル、私の専門、私の十八番なのに、『ハリー・ポッター』があまりに売れてしまったせいで、柳の下のドジョウを狙った国内出版社が、どこもこぞってファンタジーを翻訳出版し始めたからだ。もともとファンタジーが日本に紹介されることが少ないのを嘆いていた私としては願ってもないことのはずだったのに、残念ながらそうでもない。
そもそも『ハリー・ポッター』自体がクソみたいな小説なので、他のもみんな同じに見えてしまう。翻訳点数が少ない時代なら、それなりに厳選されたものしか翻訳されないから、言わば日本語で読める海外ファンタジーはあらかじめセレクトされていたが、このブームに乗ってどっと翻訳、あるいは本国で出版されたファンタジーが、すべて出来がいいはずがない。当然、取捨選択する必要があるが、こんなの片端から読んでいく時間も金も気力もない。しかも、本家に乗っ取って、どこも分厚いハードカバーで出しやがったので、高いし重いし場所取るし、よほどのことがない限り買う気が起きない。
とかなんとか言ってる間に、きっと玉石混淆の石の中にまぎれた玉を見逃してしまうんだろうなあと思うと、悔しくて悔しくて。
まあ、幸いにして『氷と炎の歌』という玉を発見したことで、すべて杞憂になりましたけどね。ただ幸か不幸か、『氷と炎の歌』が良すぎたために、他のすべてのファンタジーを読む気を失ってしまった。

そんな中でいちばん気にしていたのが、この『ダレン・シャン』サーガだ。と言っても別にたいした理由はないんだが、なんか『ハリー・ポッター』並みに売れてるみたいだし、いちおう英国ファンタジーだし。
それでもどうしても読む気になれなかったのは、これがどうやらジュブナイル小説みたいだから。これも最近の翻訳出版界の悪しき傾向だが、昔ならハヤカワとか創元みたいなところから出るSFやファンタジーはちゃんとした本格的な大人向けだったのに、最近さりげなく何の断りもなくジュブナイルを混ぜてくるのだ。
私もだまされて何度か引っかかった。なんかクソつまんない幼稚な話だなと思ったら、後ろの解説にジュブナイルと書いてあったり。別にジュブナイルが悪いとは言わないよ。対象年齢の子供たちにとってはすばらしい作品かも知れないけど、いい年こいた大人が中学生向けの本なんか読めるかよ

と、毎度矛盾の塊のようなことを言っているが、童話や幼児向けアニメに熱中するのを見ればおわかりの通り、私は子供向けのものを見るのはなんの抵抗もない。それはやっぱり(主として英国の)子供向けのコンテンツが非常に質が高く、良くできているからである。だから大人でも十分楽しめるし感動できる。
それにくらべて大いに抵抗があるのは、それより上の世代のティーンエイジャー向けの作品群で、これを普通ジュブナイル(青少年向け)と言う。たぶんアメリカ発祥だと思うけど、確信はない。日本で言うラノベに相当するものだな。
まったくJポップとかアイドルとかもそうだが、なんでまた西洋のいちばんダメなところを、さらに劣悪な形で劣化コピーするのか、その神経がわからん。
幼児向けはいいのに、なんで中学生向けがダメなのかは私にも謎なのだが、とにかくそういう中二病全開の小説は大人が読んでも白けるだけ。そもそもいかにも売らんかなの読者に媚びた作りだし、幼稚すぎてテンションだだ下がりだし、深い哲学もなければ、大人なら当然期待するようなエロやグロもないし、ぜーんぜんおもしろくない。
まあ、『ハリー・ポッター』そのものがそうなんですけどね。『ダレン・シャン』も似たようなものなんじゃないかと思ったわけ。しかも吸血鬼ものでしょ? 吸血鬼ぐらい、ガキにエクスプロイトされてるジャンルもないしなあ。吸血鬼のそんな堕落した姿は見たくない。

私はこの手のジャンル小説については原理主義者である。たとえばゾンビものならロメロ原理主義者なので、走るゾンビなんか認めない。
同様に吸血鬼ならブラム・ストーカー原理主義者(ハマー・フィルムもあり)なので、そのイメージに合わない、つまり品がなくて美しくなくて庶民的な吸血鬼なんて絶対認めたくないわけ。
だから吸血鬼大好きなくせに、ブラム・ストーカーとクリストファー・リー以外で気に入った吸血鬼ものってほとんどない。その希有な例外のひとつが『フィーヴァードリーム』で、これは『氷と炎の歌』を書いたジョージ・R・R・マーティンの作品なのだが、本論からどんどん離れていくので今日はこの話はナシ。

とまあそんなわけで、『ダレン・シャン』はかねがね気にしていた作品なのだが、なかなか読む気が起きないので、映画でも見て読むかどうか決めようと思ったわけ。あくまでサンプルとしてだから、映画の出来はまったく期待してなかった。それでも本当に優れた小説なら、何かしら感じるものがあるだろうと思って。


以上で能書き終わり。ここからやっと映画評。

見るからにみすぼらしい主人公とその相棒

見るからにみすぼらしい吸血鬼と主人公のダレン

タイトルバックのキャスト名を見たときはちょっとワクワクした。主役のクリス・マッソグリアなんて知らないが、渡辺謙が出てるし、ウィレム・デフォーが出てるし、私のお気に入りのおっさんが二人も出てるってだけで行けそうな気がする。

しかしその希望は始まった瞬間に打ち砕かれた。なにしろ主人公のダレン・シャンは12才の子供のはずなのに、映画では高校生になっている! しかも舞台がアメリカに変わっている。(あとから調べたのだが、原作でははっきり舞台が特定されるような描写はあえて避けているようだが、やっぱりイギリスが舞台らしい) イギリス人の小学生がアメリカ人の高校生に化けてしまうって、これもう別物だよ。原作レイプという点では『コンスタンティン』並みの改変だ。
アメリカ映画だからしょうがないという言い訳は許さない。ハリー・ポッターが出てくるなり、ヨレヨレのTシャツ着て無精ヒゲ生やしたデブのアメリカ人で、カンザスあたりの魔法学校の生徒だったらどうなると思う? それぐらいの冒涜。おかげでサーカスはぜんぜんサーカスに見えないし、フリークショーはぜんぜんフリークショーに見えない。すべてがミスマッチな感じで、学芸会か間違い探しみたいだ。

普通ならそれだけで私はNGなのだが、ひどいのはそれだけじゃない。安っぽい演出に安っぽい演技、安っぽいセットに安っぽいカメラ、安っぽい脚本、安っぽいCG。要するにハリウッド映画としても箸にも棒にもかからないE級映画なのは最初の30分でわかったので、あとはとてもじゃないがちゃんと見る気にならず早送りで見た。これぐらいひどい映画はそうはないぜ!
今どきの映画は、映画そのものはヘボでもCGだけは気合いが入ってたりもする(ただし予告編に映る10秒間だけ)ものだが、これはそこからしてひどいもんな。
主人公のダレンは蜘蛛好きで、蜘蛛が重要なモチーフなのだが、この蜘蛛の出来が最悪。出来損ないのおもちゃみたいでとても生き物には見えない。蜘蛛なんてCGにするにはうってつけの素材なのに。
蜘蛛に噛まれただけで、おっと間違い、吸血鬼に噛まれただけでいきなりいろんな超能力が身につくのも『スパイダーマン』並みって言うか、マンガ並みだなあ。原作もこんなもんなんだろうか?

と思って後で調べたら、この映画、原作ファンにはめっちゃくちゃ評判悪いし、そもそも映画自体もヘボすぎて大コケしてるじゃん!
なにしろDarren Shan Movieでググっただけで、“You just raped and killed the innocent”というポスターみたいなやつ(日本のboketeはこれのパクり。写真の下に笑えるキャプション入れるやつ)がすぐにヒットするぐらい。
原作レイプだけじゃなく殺しちゃったのかよ。私が『アリエッティ』について感じたのと同じだな。それじゃ原作はこんなんじゃなくておもしろいのか?

調べたところでは映画は原作の3巻までの話を混ぜ合わせたもので、おかげでものすごい早送りになってしまったわりには、ほとんどプロローグだけで終わっているらしい。これも長いシリーズものだとよくある話。
でも当然続編が作られるんだろうと思ったら、コケたために続編はお流れになったらしい。ひでー! ほんとに導入部だけで終わっちゃうのかよ。敵は顔見せだけで戦いとか全部なしかよ。これはファンは怒りますな。

というわけで、映画のヘボいところを指摘したところで意味ないようなので、あとは役者の話でも。

Cirque_du_Freak_Chris-Massoglia

若い頃のマルコム・マクダウェル(をハンサムにした)を思わせるクリス。顔だけならマジ好みなんだが、この髪型はひどい。襟足のばすな! 耳隠すな!

主役のダレン・シャン(Darren Shan)を演じたクリス・マッソグリア(Chris Massoglia 変な名前)はひどい髪型のせいで最初はオエ!と思うが、よくよく見ればかなりの美少年で、ちょっと爬虫類っぽくて中性的なところも私好みなのだが、これが映画デビューで、このあと消えちゃったみたいね。もったいない! まあ、演技もアレだったから当然といえば当然だが。
そういや、ダレン・シャンって原作者の名前なのよね。原作者はデブのおっさんですが。主人公に自分の名前付けるってどれだけナルシシストなんだ。

期待したウィレム・デフォーは、フリークっぽい吸血鬼役で、オカマみたいな白塗り化粧が気持ち悪いし、出演場面も少なくほとんどカメオ出演レベル。
渡辺謙はサーカス団の団長で、本人もフリークという役。Mr. Tallという名前で異常な大男の設定なのだが、30分ぐらい見ていても気付かなかった。というぐらい特撮が下手くそで、メイクもかなり気色悪い。この二人はかわいそうすぎて写真を貼る気になれないので、気になる人はググって。
でも役者としていちばん良かったというか、少なくともまともな演技を見せたのは渡辺謙だったな。いつの間にか英語もいくらか上達していて笑った。もっともこの役は典型的な「怪しい東洋人」だから、べつに訛ってても良かったんだけど。

むしろ役者ではサルマ・ハエックのヒゲ女が見られたというのが収穫では?(笑) なにしろ濃いラテン系だからヒゲが似合うんだ、これが。未だに美人なんだけどね。

ヒゲ女に扮したサルマ・ハエック。この写真はライティングのせいで作り物っぽいが、劇中ではとっても自然なおひげでした。

ヒゲ女に扮したサルマ・ハエック。この写真はライティングのせいで作り物っぽいが、劇中ではとっても自然なおひげでした。

ジョン・C・ライリー(John C. Reilly)演じるクレプスリーは「いい吸血鬼」代表で、ダレンの保護者役でもあり、この映画では準主役の重要なキャラなのだが、不細工だしかっこ悪いし、メイクいらずのフリーク顔で、こんなの吸血鬼と認めたくない。

ジョシュ・ハッチャーソン(Josh Hutcherson)演じるスティーヴは、主人公の親友でライバルで仇敵みたいな、おそらくシリーズ中最も重要な役柄なのだが、映画では本当にただの紹介だけで終わっていて、誰?というだけ。

意外な収穫だったのは悪役のマーロック役のレイ・スティーヴンソン(Ray Stevenson)がすごくいい男だった(ちなみにこの人はイギリス人)のと、ダレンのルームメイトになるヘビ少年(Patrick Fugit)がわりと好きだったこと。

しかしヒロインはすごいよ。ダレンが心を寄せるサーカスの少女レベッカを演じたジェシカ・カールソン(Jessica Carlson)はゲジゲジ眉毛のオカメちゃん。私は原作を知らないので何とも言えないのだが、ダレンはブス専とかそういう設定でもあるのかね? しかもしっぽの生えた猿少女だからなあ。
いや、ブスというのとは違うかも。年相応に可憐でかわいい子なんだが、あまりにも普通すぎる、そこらにいそうな女の子で、映画に出る女優とはとうてい思えないし、ましてやヒロインになるようなタイプじゃない。予定していた女優さんが急死して、他に候補が誰もいなかったとかそういうケースしか考えられない。
その意味、これって革新的な映画かも知れない。なんでこれが当たらなかったんだ! イヤミ抜きにマジでヒットしてほしかった。だってここまで突き抜けたヒロインっていなかったもの。
彼女もこれがデビューで、やっぱりこのあと消えているのは残念。まあ、この映画がコケた原因の1つが彼女かも。

これが

左から、ヘビ少年、ダレン、レベッカの仲良し三人組。

というわけでこの三人組見てください。これが『ハリー・ポッター』のロン、ハリー、ハーマイオニーに当たるトリオなわけですからね。なんでこの映画が大コケしたか、この写真見ただけでもわかるね。

ああー、これだけひどい映画久々に見た。これだけひどいのって『チルドレン・オブ・ザ・デッド』(2006年9月5日)以来かも。いや、『借りぐらしのアリエッティ』があったか(笑)。
しかしこれだけの人気作の映画化なんだから、もうちょっとなんとかできなかったのかねえ。低予算自主制作映画だってこれよりはまだ丁寧に作られている。っていうか、作り手が完全にやる気がなくて投げやりに作ったとしか。
サーカスとかフリークスとか、本当ならすごい私好みの映画になったかもしれないのに。アメリカ人にだって撮れないわけないでしょうが。ブラッドベリとか、『ラーオ博士のサーカス』とか、アメリカにもそういう話いっぱいあるじゃない。まあ、才能ないやつは何やっても無駄だがね。

それで、これを見たもともとの目的なんだが、これ見たあとで小説読む気になるかというと、いくらなんでも無理です。もちろん原作はこんなもんじゃない。はるかによくできてることは想像に難くないけど、それでもなおノー・サンキューな感じ。なんか臭いし、ラノベっぽいし。『借りぐらしのアリエッティ』を見た人も、いくら原作は違うと言われてもメアリ・ノートン読もうとは思わないだろうしね。その意味では罪作りな映画だった。

しかしこういうの見ちゃうと、『ハリー・ポッター』ってよくできてたんだなと思う。いや、小説の方は読んでないからもちろん断言はできないけど(いちおうWikiのあらすじは読んだ)、『ハリー・ポッター』よりおもしろそう、と思う要素がまるで見つからないんで。

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