【映画評】クライムダウン (2011) A Lonley Place To Die

LonelyPlaceToDieスコットランド、ハイランド地方の美しい大自然を見たいがために見た映画。イギリスの犯罪映画の独特の後味の悪さについての考察付き。

「でも現実の殺し屋とかギャングなんて、そういうキチガイか知恵遅れみたいなのばっかりで、マグショットとか見ると顔だって恐ろしく凶暴そうでグロくて醜悪だよね。まさに心の内面が顔に表れるっていうか。なのに映画の犯罪者は美化されすぎ。」

Director:

Julian Gilbey

♠ テレビで映画が見られるようになったのはいいけど、どうせ録画しても見る暇なんてないと思ったら、本当にそうだったね。おかげで見てない録画がたまりっぱなし。下手するとハードディスクいっぱいになりそうだから、見ずに消すことも。
♣ 実はレンタルで見てた時代もそうだったんだけどね。あとで見ようと思って録画しておくんだけど、結局見てないビデオが溜まる一方で、ハードディスクと違って置き場にも困るから、あんまりおもしろくなさそうなのから消すしかなかった。
♠ なんで若い頃はあんなにたくさん映画見れたのか不思議だよ。年取ると時間がたつのが早くなるって、比喩じゃないんだな。映画みたいに上映時間が決まってるものでさえそうなんだから。
♣ まあまあ、そういうババくさいことばっかり言わないで。

♠ それでこの映画もまだテレビ買ったころに録画したきり見てなかったやつ。だいたい録画する基準もいい加減だからさ。好きな監督や役者の作品はまだいいんだけど、それ以外でもなんか引っかかったものは、ろくに解説も読まずに片っ端から録画してたから。
♣ これなんかタイトル見てもなんの話かも記憶にないし、つい放ってあった。
♠ でも見始めて3秒でわかったね!
♣ つーか、画面が役者のアップからロングに転じて背景が見えた瞬間にわかります。
♠ (スコットランドの)ハイランドの山じゃないかー!
♣ と言うわけで、単にスコットランドが舞台だから録画したんだなと。あとイギリス映画はよほどのことがないかぎり見ることにしてるんで。
♠ でも思い出したけど、私はこれ登山の映画だと思って録画したんだよ。
♣ なんで? 登山なんて好きなの?
♠ もちろん自分が登るのはまっぴらだけどさ、山の景色がきれいだし、人が遭難したり転落したりするのを見るのが好きだから、山の映画好きなんだ
♣ なんだ、そりゃ。

LonelyPlaceToDie5♣ というわけで、初めのうちはそれっぽい感じで話が進みます。
♠ でもこのロッククライミングのシーン、手に汗握るし、スリル満点だし、マジで興奮しない? ずっとこれだけにすればよかったのに。
♣ アメリカ映画なら間違いなくスタジオでグリーンバック合成なんですけどね。これ本当にロケして登ってるところ撮ってるのよね。撮影風景のスチル見て驚いたんだけど。
♠ カメラマンもザイルでぶら下がっていて、これを役者にやらせるのはあまりにも酷だと思ったけど、本当に迫力ある絵が撮れたね。
♣ それはいいんだけど、日本での紹介文に「世界最高峰を目指す5人のパーティーが‥‥」とか書いてあって吹き出した。
♠ 最高峰のベンネヴィスでも標高1344mなんですが。英国最高峰だろー。
♣ 確かどこかの高山を目指すためのトレーニングとして登ってただけだよね。
♠ でも標高は低いけど、あの垂直のギザギザに切り立った崖はマジこわい。スカイ島を思い出す。

♠ で、いい感じで見てたんだけど、登山は単なる話のマクラに過ぎなかった。
♣ この5人の男女が山の中で生き埋めにされてる少女を見つけて助け出すんだけど、誘拐犯に追われるはめになって逃げ回るという話。
♠ なんか蛇足って感じがしたなあ。
♣ こっちが本編なんですが。
♠ 同じサスペンスでもさ、登山は自分との戦いって感じでストイックな美学があるけど、こっちは一般人が殺し屋に追われて逃げ回るだけじゃない。それも接近戦ならまだ戦い方もあるけど、見えないところからスナイパーライフルで狙われるって、手も足も出ないじゃない。
♣ おかげで、みんなあっさり殺されていく。確かにその意味怖いことは怖いけど、映画的楽しみは薄れますね。

♠ いちばんの疑問は、この人たち山に入るのに携帯持っていかないのかってことなんだが。
♣ それは思った。もしかして時代設定が昔なのかとも思ったけど。
♠ 携帯って出なかったっけ?
♣ カメラで写真撮ってるところはあったけど。
♠ とにかく山では必需品じゃない? 道迷ったらGPS使えるし、遭難しても救助呼べるし。
♣ まあ、でもあそこで携帯が使えたら話がぜんぜん別物になっちゃうけどね。すぐに警察と救援呼んでおしまいで。

♠ 確かにそれがいちばん不思議だったけど、微妙に違和感を覚えるところも多かったな。女の子が生き埋めにされてるのがわかっても、「犯人が戻ってくる恐れがあるから逃げよう」とか言い出す奴がいたり。
♣ 事実、そのせいで死んだじゃん。完全な正論じゃない。
♠ 命からがら町まで逃げて警察に駆け込んだのに、警察官がひとりしかいなくて、もしかしたらグルかもしれないから逃げようとか。
♣ 実際、警官はあっさり撃たれて死んじゃって、なんの助けにもならなかったじゃない。
♠ でもなんか変だよ。どうやって町までたどり着いたか描写がないんだけど、ヒッチハイクしたらしい。命を付け狙われてるんだから、人のいるところに戻ったらすぐに電話して警察呼べよ。ドライバーにもついててもらえよ。なのに怪我してるのによろよろ歩いて警察に入っていくし。
♣ 町はあれ、ホグマネイ(スコットランドの大晦日のお祭り)の最中なのかな? 観光客でごった返してるのに、孤立無援で逃げ回るってのも、あんまり実感ないよね。パレードの前に飛び出して「助けて!」って叫べばいいような。
♠ とにかく子供の誘拐って大事件だからさ、通報さえすれば大捜査網が敷かれるはずなのに、警察がまったく頼りにならない情況ってなんなんだ? インドとか中国の話ならわかるけど、法治国家イギリスでだぜ。
♣ まあいちおう、田舎だし大晦日だしお祭りの最中だから当直警官が2人しかいなくて、1人は先に殺されてたみたいだから、つじつまは合わなくもないのだが。

♣ あと誘拐犯も変じゃない?
♠ なんと国際誘拐団らしいのだが‥‥
♣ 私も最初そういう組織なのかと思ったけど、どうもあの主犯の男ひとりでやってるみたいね。相棒みたいなのは雇われてるだけで。
♠ それにしちゃすごい規模じゃない? なんでクロアチア人の子供誘拐して、わざわざスコットランドまで連れてきて埋めるのよ。
♣ 見つからないように?(笑)
♠ スコットランドなんて日本みたいな深山じゃないし、そもそも車で行けるようなところならハイカーもいるし観光客もいるし、すぐ見つかっちゃうじゃん。ああいう切り立った岩山なら人はいないかもしれないけど、子供連れて行けないし。そもそも英国よりもクロアチアのほうがそういう無法は通るような‥‥

♣ というより、そもそもどうやって入国したんでしょう?
♠ そうだった。国境フリーパスのEU内ならともかく、イギリスへの入国ってめっちゃ警備厳しいじゃん。そこを誘拐した子供連れて通過するって‥‥
♣ 小さい子ならともかく、あれだけ大きい子供だし。絶対無理無理。
♠ この前は日本人の子を誘拐したって言ってたよね。
♣ 世界を股にかけすぎ!
♠ というのは冗談で、ほんとはイギリス在住のクロアチア人や日本人なんだろうとは思うけど、説明がなさすぎて、最初はえええー?と思った。

♠ しかしそうじゃなくても誘拐って重罪なのに身代金の回収という危険が伴うから、ぜんぜん割に合わない犯罪なのになあ。なんでそこまでのリスクを引き受ける?
♣ 子供隠すのに地面に埋めるってのもわけわからないし(笑)。なんかの拷問とかならまだわかるが。
♠ 穴掘って、空気穴あけて埋めてあるんだけど、子供なんか簡単に死ぬだろ?って思ったら、やっぱり日本人の子は死んでたみたいで、へましたとか言ってる。
♣ だいたい、見張りをひとりも置かずに放置してあるから、登山者に見つかってしまう。
♠ よっぽどバカな犯人なのか、それとももしかしてこれって、ただのトンデモ映画?
♣ のような気がしてきた。

♣ 身代金を持って犯人に会いに来る連中もトンデモないよね。どう見たってヤクザか傭兵という奴らで。
♠ というのも女の子の父親はコソボの大虐殺に関わった黒幕だか、死の商人だからしい。
♣ どーしてわざわざそういうの誘拐してくるの! 誘拐する前に子供の素性ぐらい調べないの? なんかスコットランド人完全なとばっちりじゃないですか。
♠ そのせいか、あの女の子自身なんか気味悪い子だったね。
♣ 脅えて心を閉ざしてるのはわかるんだけど、先入観があるせいか不気味に見えちゃうんだよね。
♠ 私はラストシーンでヒロインが力尽きて倒れたとき、てっきりこの子が背後から犯人に襲いかかって高笑いしながら切り刻むものと思ってたぞ。
♣ ひどすぎ(笑)。
♠ だってほんとに暗くて何もしゃべらないし、薄気味が悪い子なんだもん。

♣ お父さんのことを先にばらしちゃったのも演出上の失敗だと思わない?
♠ うん。あれはやっぱり、犯人が逃げ切ったと思ってふっと気を許した瞬間に、お父様ご一行がぬっと現れて、「ふっふっふ‥‥わたしを誰だか知ってるのかね?」というほうがおもしろかった。拷問シーンも最後まで見せないし。
♣ ちょっと! でも復讐は拷問より子供たちと同じ目にあわせてやるほうがよかったと思う。生き埋めにしてやれよ。ただし空気穴ふさいで。
♠ それじゃすぐ死んじゃってつまらないじゃないか。ここはやっぱりなるべく長く生きるようにして、子供たちの味わった孤独と絶望を味わわせるべき。

♣ でもやっぱりイギリス映画ってなんか変だよね。これ、ハリウッドならもう展開が全部読めるじゃない。山の中ではクリフハング、町に入ったらカーチェイスって(笑)。
♠ あるある。それで最後はヒロインが子供をひしと抱きしめて、泣き崩れて終わり。
♣ それはここでもそうだったけど、なんか手放しに喜べないというか、この後味の悪さがいかにもかな。

♠ 実は私、イギリス映画なら何でも好きなわけじゃなく、イギリスの犯罪映画とかギャング映画って嫌いなのだ。
♣ へー、なんで?
♠ なんか陰惨だから。そう思わない? 日本のヤクザ映画とかアメリカのギャング映画って、確かに残酷な場面も多いけど、なんかもうちょっと人間らしくて、親しみが持てるじゃない。
♣ 『ゴッドファーザー』の印象だけで語ってない?
♠ いや、商業的な意味でも、ギャング映画でギャングを徹底的にいやな奴に描いたら興行的に不利なわけよ。それに観客も本当にリアルな殺人や暴力を見たいと思ってるわけじゃないしね。
♣ あくまでもフィクションだから。
♠ そう。なのにイギリスの犯罪映画って変にリアルで残虐で胸くそ悪くて、登場人物がどいつもこいつも血も涙もない冷酷な悪党ばかりなのよ。
♣ 『キス★キス★バン★バン』は?
♠ あれはコメディだし、ファンタジーじゃないか。イギリスの犯罪者って言うと、クレイ兄弟みたいなキチガイのサディストのイメージが強すぎて。
♣ さっき拷問見たいとか言ってたのは誰でしたっけ?
♠ だからフィクションならいいの!
♣ でも現実の殺し屋とかギャングなんて、そういうキチガイか知恵遅れみたいなのばっかりで、マグショットとか見ると顔だって恐ろしく凶暴そうでグロくて醜悪だよね。まさに心の内面が顔に表れるっていうか。なのに映画の犯罪者は美化されすぎ。
♠ だからその意味イギリスのほうがリアルだと言ってるのよ。
♣ その代わり後味悪いと。
♠ まあ見ててあんまり楽しいものじゃないなあ。

♣ 役者は?
♠ 主演のメリッサ・ジョージ(Melissa George)はいいと思った。オーストラリア出身の女優さんで、美人だけどいわゆるチアリーダータイプで、私はいまいちだったんだけど、こういう体育会系映画にはオーストラリア人が向いている。かわいいし、スタイルいいし、体を張ったアクションもこなしたし。
♣ 男性陣は?
♠ とりあえずイギリス人ってだけで全員合格。特に目立つ役者もいなかったけど。
♣ つーか、メリッサ以外不甲斐なさ過ぎるし。

LonelyPlaceToDie2

神々しくも美しいハイランドの山々(でも低い)

♠ でまあ、そんなことはどうでもいいのだ。私はスコットランドの雄大で美しい自然さえ見られれば。
♣ 見られた?
♠ もちろん見られましたとも。景色(それも空撮が最高)眺めてるだけでこんなに興奮できるのってハイランドだけだわ。
♣ グレンコーもばっちり見られたしね。
♠ ドラマ部分いらないから、景色だけ映す山岳映画にしてくれればよかったのに。なんでなんだろう。ただの殺風景な景色なのに、このあたりの風景を見ているとこんなにも胸が痛いほど締め付けられるのは?
♣ また行きたいからじゃない?
♠ おまえ少しは空気読めよ。

♠ しかしいつもながらいい加減な邦題が頭来るなあ。原題は“A Lonely Place to Die”で、「死ぬには寂しすぎる場所」というおしゃれでスタイリッシュな題なのに、『クライムダウン』て何?
♣ 『降りる』かな?
♠ 意味ねー!

♣ これ日本未公開だったんだよね。
♠ イギリス映画なんてほとんどがそうだよ。まあこれなんか地味だからわかるけど、映画そのものは『ダレン・シャン』なんか見たあとで見ると、すごくていねいに心を込めて作られてるのに。
♣ このポスターもすてきだね。どっちがどこ版かわからないんだけど、よく見るのはメリッサがロッククライミングしている写真のポスターやジャケットなんだけど。
♠ それじゃ私と同じで山岳映画と勘違いする人が多そう。こっちのほうがぜんぜんいいよ。子供が埋められてたのも森の中なんだし、森の写真がとっても神秘的できれいだし。
♣ やっぱりイギリス映画って、(役者のルックスを含めた)映像はパーフェクトなんだけど、それ以外がなあ。

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