【映画評】チェンジリング (2008) Changeling

Changeling0(もう言うまでもないですが、のっけからネタバレありありです。あとアンジェリーナ・ジョリーがすごい勢いで罵倒されてるので、ファンの人にはきついかも。もちろん私のリビューはそこがおもしろいんですがね)

♦ というわけで殺人事件つながりで、今度はクリント・イーストウッド監督作品
♠ 実は私、イーストウッドがシリアルキラーの映画を撮ったと聞いてすごい期待してたんだけど、実際は“I fought the law and I won”という話だった。
♦ 誰がうまいこと言えと。

Director:

♦ というわけで殺人鬼はほんの刺身のツマで、実は被害者のひとりの少年の母親の、司法との戦いの映画だった。
♠ と言われても、事件を知らなきゃピンとこないよね。『取り替え子』というタイトルで察するべきだったんだが。

♦ これが事実は小説より映画より奇なりって話なのよ。1928年のLA、9才のウォルター・コリンズがシングルマザーの母親の留守中に行方不明になるんだけど、それから5か月して、ロサンジェルス市警はイリノイ州で見つかった少年をウォルターだとして、母親のクリスティンに引き渡す。ところがそれはまったくの別人だった‥‥
♠ この時点でありえねーよ! 他の人間ならともかく、母親が我が子をわからないはずないでしょ。まだ人間以前の乳児ならともかく、9才にもなった子供を!
♦ だからクリスティンは一目で違うと思うんだけど、つらい経験をしたから人相も変わるんだとかなんとか言いくるめられてしまうのよ。
♠ だから言われて「はい、そうですか」なんて言うかよ、普通。

「え? これがうちの子? マジで?」

「え? これがうちの子? マジで?」

♦ それでもしかたなく家へ連れて帰るんだけど、もちろんクリスティンはぜんぜん我が子だなんて思っていない。
♠ 顔や年格好だけの問題じゃないでしょ。盲聾唖児ならともかく、口きけるんだから話せば偽者だってことはバレバレじゃない。9才の子が大人をだましきれるはずないし、小さい頃の話とか親戚縁者の話を振れば、偽者なら答えられるはずないし。
♦ そんなことしなくても、失踪したウォルターよりずっと背が小さいとか(この年頃なら伸びることはあっても縮むことはないからね)、歯医者の記録と歯形が合わないとか、学校の先生も明らかに別人と言ってくれるとか。
♠ それだけ証拠揃ってたら誰も言い逃れできないだろ。
♠ まあこの手のimposterの話はよくあるんだけど、その中でもこれ以上ないぐらい弱いよね。それでそういう証拠を警察に突きつけたら‥‥
♦ 身内の失策を表沙汰にしたくない市警は、逆にクリスティンを狂人だと非難して精神病院に強制収容してしまう。

♠ ひっでえ。フランシス・ファーマーを思い出す。フランシス・ファーマーは30年代の美人女優なんだけど、ハリウッドのお偉いさんの言うことを聞かなかったために、精神病院送りにされ、そこでロボトミー手術をされたうえに薬漬けにされ、身も心もボロボロになったあげく、病院職員たちに体を売らされていたという話。
♦ ジェシカ・ラング主演で映画にもなったよね。ある意味、あれと比べるべき映画かも。
♠ アメリカは女が強いとか、女性の権利がとか言うけれど、この時代までアメリカじゃこういうのがまかり通っていたんだからね。私、いつも学生に言うんだ。イギリスで環境保護や動物愛護が発達したのは、それだけイギリス人が環境を破壊し動物を虐待してきたからだって。アメリカ女が強くならざるを得なかったのも、こういう風に女を家畜並みに扱ってたからなんだよな。

♦ それにしちゃアメリカの警察が腐敗してるのは今もぜんぜん変わってないじゃないの。
♠ もう自浄能力すらないとか。
♦ だからこそイーストウッドがこういう映画を撮らなきゃならなかったんだろうけどね。アメリカとかロシアとか中国とか、ああいう巨大国家はもちろん優れた人間もいるけど、まだまだ内部に深い闇を抱えてるからなあ。
♠ 土人国なだけよ。私、マジでそう思ってるから。
♦ まあ、落ち着けって。この当時の感覚ではこれでも人道的配慮だったんだと思うよ。精神病院にぶち込むっていうのは。
♠ 鉛玉ぶち込むよりましってか? それも今でもやってるじゃん。
♦ まあ、それでも一応、裁判とか弁護士とかいたぶん、かなり民主主義的なほうだったのでは?

♦ ストーリーの話を続けると、ロボトミーこそされなかったけど、クリスティンも病院(とは名ばかりの社会不適合者の強制収容所)で虐待されるんだけど、孤立無援の彼女の味方をしてくれた長老派教会の牧師ブリーグレブの手で救い出され、弁護士を立てて市警を訴える。そして彼女は勝訴し、担当の刑事と市警本部長は免職になるのだが‥‥
♠ 本部長はすぐに復職して、結局その場しのぎの取り繕いじゃない。しかも子供はとっくに殺されてたんだよね。

♦ そこんところ、映画は違ってたよね。養鶏場から逃げ出した少年が見つかって(これは事実)、その子の証言ではウォルターはいっしょに逃げたと言うので、クリスティンは息子がどこかに生きているという希望を抱くんだけど‥‥
♠ いちおう映画でもウォルターが逃げおおせたのか捕まったのかはわからないということになっていたけどね。ゴードン・ノースコット(犯人)が何人殺したのかもわかってないんだけど(映画では20人以上と言ってた)、裁判で立証されたのは3人で、確かウォルターは最初の犠牲者じゃなかったっけ?
♦ そのせいかあのラスト、絶望の果てに、「それでも私はあきらめない」という希望が見えた明るいラストなんだけど、よけい残酷な気がした。

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なんか陽気な殺人犯のノースコット

♠ しかし、養鶏場殺人事件はまんまとスルーされちゃったな。もちろん、あえてその舞台裏を描くという意図はおもしろいし、ある意味、こっちのほうが社会的には殺人以上にひどい事件なんで、社会派イーストウッドがこれを映画化した気持ちは大いにわかるんだけど‥‥
♦ ウォルターに何が起こったかはほのめされるだけだったね。このノースコットってペド殺人者なんでしょ?
♠ ペドでホモ。幼い少年ばかりを次々に誘拐して、自分の養鶏場に監禁し、強姦・拷問のすえに、飽きると殺して、バラバラにして埋めていた。
♦ そんなの母親が聞いたら、それこそ本当に気が狂ってしまう。嘘でも希望を持たせてあげたくなるわ。
♠ まあ、これがサブプロットになるのはいいの。私が不満なのは、ノースコット本人を映画に登場させて、裁判や死刑の場面まで出しながら、彼の罪をほとんど描いていないことなんだ。
♦ それをちゃんと描こうとしたら5時間あっても足りないよ。
♠ だってこれじゃノースコットがただの脳天気な兄ちゃんに見える。彼の狂気の部分は断片的に語られるだけだし。
♦ あえてそこをぼかしたのは、まあレイティングのこととかもあるかも。
♠ あと、映画ではノースコットの姉は逃避行の途中で出てきたけど、母親の存在は完全にカットされてたよね。実は彼の殺人の多くに母親も荷担してるんだけど。その辺の闇も深そうで知りたかったのに。『サイコ』を引き合いに出すまでもなく、だいたいこの手のシリアルキラーは親が引き金になってることが多いからね。こういう怪物を生み出したのはどういう母親なんだろうと、それが知りたかった。
♦ 母子ものという点ではクリスティンとウォルターの母子と、こっちの母子を対比させるという手もあったな。
♠ 結局、悲劇のヒロインを描きたかっただけなんだなと、ちょっと不満。
♦ ある意味王道路線じゃない。

♦ ただ私も、見ながらなんかモヤモヤしたものは感じた。
♠ たとえば?
♦ つまりクリスティンは大正義なわけじゃない。フランシス・ファーマーはまあ、女優と言うだけでも堅気の人間じゃないし、ハリウッド自体が魔窟だから、ああいうこともあるかって感じだけど、子供を失った母親なんて、普通ならいちばん同情され、保護される立場なのにあれだけのひどい仕打ち。しかも彼女には寸分も落ち度がない
♠ あえて言うなら、子供をひとりで置いて仕事に行ったことだけど。(これはアメリカでは犯罪)
♦ でも断り切れなかった事情とかはちゃんと説明してある。それにくらべると、事件に絡んだ周囲の人間はみんなうさん臭い奴らなんだよね。牧師だって、結局は政治的野心だかなんだかがあるから彼女を助けただけだし。あまりに善悪がはっきりしすぎて、ちょっと気持ちが悪い。彼女だけが聖母みたいで。
♠ だってほんとに何の罪もないんだもん。ただ、そういう人がひどい目に遭う話って、この手の社会派の映画にはたくさんあるけど、見ていてあんまりいい気分にはならないよね。これなんか、ちゃんと正義の裁きが下されて、悪人は滅びるにも関わらず、なんか後味が悪い。
♦ それが現実なんだよ。だから私は現実を描いた映画ってあまり好きじゃないんだ。

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えらく罵倒されてるアンジェリーナ・ジョリー

♦ じゃあ、ここらで役者の話でも。まずはクリスティンを演じたアンジェリーナ・ジョリー。というかこの映画はほとんど彼女のひとり芝居なんだけど。
♠ 熱演は認めるけど、私、この人は生理的にだめなんだ。
♦ なんで? あの「反日映画」『アンブロークン』があったから?(最近封切られたアンジェリーナ・ジョリーの初監督作品が、第2次世界大戦中の日本軍によるアメリカ人捕虜虐待を描いた小説の映画化なのだ)
♠ どこが! 私は『太陽の帝国』(J・G・バラード原作、スピルバーグ監督)を崇拝してる人間なのに。だいたい日本人なんて同じテーマの『戦場のメリークリスマス』(ヴァン・デル・ポスト原作、大島渚監督)を女子供が大歓迎するような国なんだから、反日ぐらいビクともしないよ(笑)。まあ、あれはあれでうさん臭く思ってはいるがね。
♦ じゃあ何が気に食わないわけ?
♠ あの人のやることすべて。あのおっぱい切り取るって話どうなったの?(彼女は乳癌になりやすい家系らしく、その「予防」のために乳房切除手術を受けるという話が2013年5月に話題になった)
♦ 切ったみたいよ。ただ、報道によるとまるで両乳房を全部切り取ったみたいだけど、実際に取ったのは乳腺だけ。再建手術もして、見た目はほとんどわからないらしい。最初聞いたときは女優は体が商品なのにどうすんだと思ったけど。
♠ どっちにしろああいう奇矯な行為に走る人って、ある種の狂信者だから怖いし嫌い。
♦ 確かにあれは大いにうさん臭いし、ヤバいと思った。さっそくネットでは陰謀論が渦巻いてるけどね。遺伝子検査の会社や医療機関から金もらっての宣伝だとか。
♠ ていうか、今、正確な情報が知りたくて少し検索したら、手術反対の立場も賛成の立場も、ヤバそうな団体のサイトばっかりが次々引っかかるんだよ。どっちみちまともな人間のやることじゃないからね。
♦ スターがああいうことをやってるのを見たら、真似する人間がぞろぞろ出てくるに違いないけど、もしそれで何の予防にもならないとか、逆に健康被害が出たらアンジーはどう責任取るんだろうとは思ったな。
♠ まあ、金持ちとかハリウッドスターなんて、おかしくない奴のほうが珍しいけどさ、アンジェリーナ・ジョリーからは近付いちゃいけないキチガイ臭がプンプンするんだよ。あの色とりどりの養子とか見ても、なんか気持ち悪い人だとしか。
♦ 「色とりどり」ってそういう意味で使う言葉か!(笑)
♠ とにかく、いくら美人でもあんな女はやだ。トム・クルーズのサイエントロジーとか、ハリウッドスターってキチガイばっかり。
♦ そういえば彼女の乳房除去手術に反対しているサイトはサイエントロジーの息がかかってるみたいだったよ。
♠ だから類は友を呼ぶんだってば。

♦ あえてアンジェリーナ・ジョリーで良かったところを探せばファッションかな。まるで20年代のファッションショーみたいに、服を取っ替え引っ替えして出てくるんだけど、そのドレスや帽子がどれもステキ。
♠ ジャズエイジ・ファッションなんて好きなの?
♦ これまではあまり意識したことなかったけど、この映画見ているうちに気に入った。特にアンジェリーナ・ジョリーは背が高くてモデル体型だからこういう服装が似合うのなんのって。いいなー。リバイバルしないかな?
♠ 逆にこれって背が低くて太った人が着たら、目も当てられないことになりません?
♦ 締め付けないストンとした服だから、細い人はますます細く、太ったおばさんが着ればまたそれなりに優雅に見えるよ。ていうか、私、年とって太ったらこういうシルエットしか似合わなくなっちゃってさ。こういうテロっとした体に沿う生地で、ゆるめの服がなぜかいちばん痩せて見えるんだ。縦長のシルエットだから背の高さが生きるし。あと私、帽子マニアなんだけど、やっぱりこういう丸っこい帽子が似合うんだ。
♠ 個人的事情かよ!

♠ アンジェリーナ・ジョリーに話を戻すと、顔も好きじゃないな。モデル的な意味では美人なんだろうけど、骸骨みたいで気味が悪い。人間味が求められる女優としては演技の幅が偏ると思う。
♦ なんでだろうね。私もこの手のキツそうなブルネットはだめだ。私は男はブロンド嫌いなんだけど、女優は昔からフワフワしたブロンドが好き。グレース・ケリーとか、シャロン・テートとか好きだったし。
♠ ♥のおばさん好きは?
♦ あれはイギリス人に限るって条件が付いてるし、そもそも私はイギリス人と言うだけでえこひいき入ってるから別。前の記事のスカーレット・ヨハンソンだって、顔だけなら好きよ。
♠ また話がそれてる! とにかくアンジェリーナ・ジョリーは気持ち悪いし嫌い。でも男なんてバカだから、ああいう美人が涙流せばそれでメロメロになっちゃうんだろうな。
♦ 『キャリー』のリビューでもそんなこと言ってたし、最近男と何かあったのか?(笑)

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髪の毛があると違和感あるマルコビッチ

♦ 取り付く島もないね。じゃあ、牧師を演じたジョン・マルコビッチは? 大好きでしょ?
♠ うん。でも彼にしてはまともすぎる役柄でつまんなかった。それならノースコットを演じたジェイソン・バトラー・ハーナーのほうが印象的だった。なんか気持ち悪い男で。
♦ 刑事を演じたジェフリー・ドノヴァンもすごく気持ち悪かったよね。
♠ 気持ち悪い奴しか出てないじゃん! この映画を楽しめなかったのはそのせいか?
♦ もともと楽しめるような内容じゃないし。私が感心したのは、っていうか、アメリカ映画を見るといつも感心するんだけど、驚異的な子役のうまさね。
♠ あれは本当に演技賞ものだったな。特にノースコットの甥役の少年。子供なのにノースコットのペット兼奴隷にされ、あげくの果ては少年たちの誘拐や殺人にも荷担させられてたんだよね。それだけ壊れてしまった子供があんなにまともだというのはちょっと眉唾だが、それでも罪を悔いて呻吟するところがいじらしくてすごいかわいそうだった。
♦ それを言ったら逃げ出した少年役の子もうまかった。あの年で、ああいうトラウマ体験を演技で表現できるのってすごい。
♠ あの偽ウォルターは逆に気持ち悪さがすごかった。
♦ 実は単に映画スターに会いたくてウォルターのふりをした、という子供っぽい動機なんだけど、やっぱり普通の子じゃないよね。
♦ だいたい息子の安否が心配で気が狂いそうなのに、自分の家に息子のふりをした見ず知らずの他人が住んでるのって、これ以上いやなことある? ほんとクリスティンは修羅場の連続だったと思うわ。

♦ 監督の話もしてあげなさいよ。
♠ イーストウッドは監督としても大好きだし、すごい才能のある人だと思うよ。これも彼のまじめな性格がよく表れた、それなりに端正な映画になっている。ただやっぱり後味悪いし、楽しめないんだよな。
♦ 史実なんだからしかたがない。
♠ そこでふと思い出したのは、アラン・パーカーの『ミシシッピー・バーニング』なんだけど。あれも公民権運動への弾圧というあまりに重すぎる題材だったけど、後半、ジーン・ハックマンとウィレム・デフォーの二人のFBI捜査官が、バッサバッサとレイシストどもをぶった切って行くところが爽快で、なぜか見終わって楽しくなった。ああいう才能はイーストウッドにはないかなあ。役者としてのイーストウッドはエンタテインメント畑の人なのに。
♦ だってあれは、というか少なくともFBI捜査官のくだりはフィクションでしょう? 黒人からは非難されてたよ。当時のFBIは完全に黒人の敵だったって。
♠ それは映画でも描かれてたように思ったけど。むしろあの二人はダーティ・ハリーみたいなもんで、完全に組織のはみ出し者でしょう。それにエンタテインメントをまぶすことで、そうじゃなかったらあんな映画見るはずもない人たちに人権問題を考えさせるという意味では正しいやり方だと思ったよ。

♦ まあ、私もなんかすっきりしなかったのは確か。この(今となっては)突拍子もない話の展開とか、ラストの大逆転とか、ストーリーとしてはものすごくおもしろいし、おもしろい映画になったはずなのに、なんか全体に重苦しいからね。
♠ だからアンジェリーナ・ジョリーの愁嘆場ばっかり映しすぎなんだって。この話とノースコットの話を並行に描いたら残酷だけどおもしろかったかも。
♦ 口で言うだけなら簡単だが、それはむずかしいと思うよ。変にいじらず正攻法で映画化したイーストウッドはやっぱり正しかったと思う。

【蛇足】

♦ ところで、ネットで写真を集めようと“changeling”で検索したら、本家の妖精の取り替え子のほかにも、なぜか『マイ・リトル・ポニー』の画像がたくさんヒットして笑ってしまった。
♠ ポニーの種族にチェンジリングというのがいるんだよ。悪役だけど。
♦ ていうか、アメリカじゃ本当にMLPって人気あるんだなと驚いた。
♠ ブロニー、恐るべし。

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