【映画評】どーでも映画劇場 アルゴ(2012)Argo

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♥ これが本当の「スパイ大作戦」。いかにもアメリカらしいスカッとする話だし、映画が人命を助けたんだから映画の題材としてはうってつけという感じよね。
♠ と思うじゃない。ところがこれがとんだ食わせ物で、実話と銘打ちながらほとんどがでっち上げのお話だったという次第。

Director:

Ben Affleck

Writers:

Chris Terrio (screenplay), Tony Mendez (based on a selection from “The Master of Disguise” by) (as Antonio J. Mendez) , 1 more credit

♠ これは1979年に起きたイランのアメリカ大使館人質事件におけるCIAの活躍を描いた映画。
♥ あれがもうそんなに昔のことなの! ホメイニ師とか、つい昨日の出来事としか思えないのに!
♠ で、宗教全般を憎んでいる私としては当然ホメイニ師なんかクソ食らえだけど、同様に、「CIAは日夜、真実と正義とアメリカン・ウェイのために戦っているのです」というプロパガンダを見るのがいやなので敬遠していた。
♥ アメリカやCIAはもともと嫌いだけど、中東問題に関しては中東びいきなんだね。
♠ 私は政治のことなんか何もわからんけどさ、純粋にそこに暮らす人たちのことを思うとかわいそうで。昨日もネットで「5年前のシリアと現在のシリア」という写真を見たけどショックだったよ。5年前はきれいでにぎやかな町でお店も繁盛してて、子供たちが屈託なく笑ってるのに、同じ通りが今は灰色の瓦礫の山になっていた。

♥ まあ、そういうのはちょっと置いといて映画の話。
♠ 人質事件といっても、人質救出の話じゃないんだよね。大使館が占拠される直前に逃げ出した大使館員が6人いて、カナダ大使の公邸にかくまわれてたんだけど、その人たちを国外に脱出させるために、CIAが一芝居うって、架空の映画をでっち上げ、大使館員をそのクルーに仕立ててこっそり出国させるという作戦を実行したんだって。これはもちろん当時は報道されなくて、あとになって明かされたので映画もこんなにあとになったんだけど。
♥ これが本当の「スパイ大作戦」。いかにもアメリカらしいスカッとする話だし、映画が人命を助けたんだから映画の題材としてはうってつけという感じよね。
♠ と思うじゃない。ところがこれがとんだ食わせ物で、実話と銘打ちながらほとんどがでっち上げのお話だったという次第。
♥ 救出作戦がでっち上げという意味じゃないよ。それは本当にあったんだけど、この映画に描かれてるのとはぜんぜん違ったというだけ。それもかえってハリウッドらしいが(笑)。

♠ くやしいことに映画自体はおもしろいんだよ。特に空港から飛行機に乗って脱出するクライマックスは、いつばれるか、いつ追っ手が追いつくかというハラハラドキドキに、いろんな妨害や障害が立ちはだかって、ラストはお約束通り、追いすがる警察を振り切って、危機一髪で飛行機が離陸する。
♥ 確かにあれはハラハラしたし、助かってほしいと思った。
♠ ところがそれが全部うそ。実際はなんの問題もなくフリーパスであっさり出国できたんだって。
♥ なにそれ?
♠ 特に映画の初めで出国管理がいかに厳しいか、あらかじめ欠けてる書類があるのをどうやって切り抜けるかを力説してたから、よけい拍子抜け。実際は書類なんかなくても「はいよ」ってスタンプぺたん。そこがいかにも中東らしいけど。
♥ でもそれはまあ、映画的嘘としてはしょうがないんじゃない?

♠ あと、肝心かなめの架空の映画ね。そのタイトルが“Argo”なんだけど。
♥ ストーリーボード見ると『スターウォーズ』の出来そこないで笑える。
♠ 本物らしく見せるため、本物の脚本やストーリーボードを用意して、嘘の広告や記事をばらまいて、ハリウッド・プロデューサーまで引っ張り出したという話を聞いたとき、てっきり革命下のイランで本当に映画を撮ったんだ、あるいは撮るふりぐらいはしたんだと思ったんだよ。大使館員にもそれらしい演技させてね。
♥ そしたらそうじゃないの。あくまで「映画関係者」という肩書きで出国させただけ。英語教師ってことにするか農業指導者にするか迷っていたみたいだけど、べつになんでもよかったみたい。
♠ べつに映画関係ないじゃねーか!と思ってしまった。

♥ そういや、与えられた役柄になりきるために、生い立ちから何から全部覚えるんだ!とか力説してたわりに、そんなもの一度も訊かれる場面なかったから変だとは思ってたんだ。
♠ 唯一映画クルーらしきことをしたのは、バザールにロケハンに行くと称して出かけて、怪しまれて逃げ出したところだけだったけど、そんなことも現実にはなくてずっと家にこもっていたんだって。
♥ 隠れていた場所も分散されていて、こんなふうにみんないっしょじゃなかったし。
♠ こうやって見ていくとほとんど「事実」は残ってないんだよね。

♥ アカデミー賞3つも取ったんだよね。
♠ あれも政治的理由でしょ。でも映画見た関係者が口々に「嘘っぱちじゃねーか!」と騒ぎ出して、化けの皮がはがれてしまった。CIAが全部やったみたいな話になってるけど、実際はカナダ大使館がほとんどのお膳立てをしたようで、カナダ大使マジで怒ってる。
♥ イギリスでも賞取ったんだけど、「なんであんなのにやるんだ?」と非難もあったようね。
♠ だから実話だなんて銘打たなければいいのに。「これは実話を元にしたフィクションです」というのはよくあるじゃないか。

♥ 監督・制作・主演を兼ねたベン・アフレックについても一言どうぞ。
♠ 『グッド・ウィル・ハンティング』でブレイクした人だけど、私はたまたまこれを見逃してて、その後の主な出演作が『アルマゲドン』に『パール・ハーバー』と言ったクソ映画なんで私は初めて見る。
♥ なにしろ多芸な人みたいなのは確かだし、ハンサムだね。
♠ 私はなんかこの正義のアメリカ人づらが気に触る。
♥ 私はアラン・アーキンが出てるっていうんで楽しみにしてたんだけどな。実際、彼はいかにも彼らしい怪演だったけど。
♠ あのハゲのプロデューサーがヨサリアン(アランが演じた『キャッチ22』の主人公)かよ! 大好きだったんで彼が未だに映画に出てるだけでもうれしいよ。

♠ だから映画はそれなりにおもしろくできてるんだけどさ、別に本筋とはなんの関係もない、ベン・アフレックと別居中の妻と息子のお涙ちょうだいエピソードとか混ぜて、いかにもわざとらしくてあざといんだよ。話となんの関係もないじゃん。
♥ カナダ公邸の現地人メイドの話もわざとらしいな。これなんか確実にフィクションとわかるけど。
♠ 裏切って通報するかとさんざん見せかけて、実は黙っててくれて、最後はイラクに亡命するんだよね。
♥ イラン人も悪い人ばっかりじゃないですよー、というのを言いたくて出しただけのキャラ。

♥ 私はこれコメディにすればいい映画になったと思うな。何をやってもドジなCIAのエージェントがドジを踏みまくってみんなを何度も危機にさらすんだけど、そのつどなぜか危機を免れるっていうタイプの。イラン人も実は見かけだけのアホばっかりという設定で。
♠ それはちょっとおもしろいかも。
♥ だいたい映画の中でアフレックの上司も「これが失敗したらアメリカとCIAは赤っ恥かくぞ」って言ってたけど、ほんとにアホな計画なんだもん。笑うしかないじゃん。
♠ でもベン・アフレックにコメディはできないだろうなあ。
♥ ああいうくそまじめな顔した人がバカをやる方がおもしろいのに。

♥ しかし冷戦が終わって、映画の悪役をどこにするかで困ってたようだけど、もう中東で確定ですな。
♠ イスラム国もがんばってるしね。でもこの頃のアメリカにはまだいちおうの大義名分があったし、こういう行動力もあったんだよなあ。9.11以降はなんかすべてがだめになってる感じ。
♥ 確かに昔のアメリカならイスラム国なんか、あっという間に飛んでって叩きつぶしたと思う。
♠ オサマ・ビンラディンを探し出すのにもあんなに時間がかかったし。
♥ そういえば9.11関係でもたくさん愛国映画が作られてるみたいだね。私は絶対見ないけど。
♠ 世界はもうアメリカの嘘にうんざりしてるし、この映画の嘘に非難ごうごうなのも、そういう憤懣が積もり積もってるからでしょ。そうじゃなかったら、この程度の創作は映画じゃあたりまえのことだから。
♥ それは中東問題関係のフォーラムだけ見ててもわかる。アメリカを支持してるのはアメリカ人だけ。それ以外からはほんとに嫌われてる。
♠ イスラム国のニュースのコメントでも、「アメリカ何やってる?」と揶揄する声ばっかりだった。私は60年代からアメリカを非難し続けてきたけど、ここまで落ちぶれちゃうとちょっとショックだよ。
♥ その腰巾着に成り下がったイギリスはもっとみじめだけどね。

♠ この映画、英語版のキャッチフレーズが “The movie was fake. The mission was real.” というんだけど、奇しくもこの映画もフェイクってことが判明しちゃったと。
♥ “The movie was fake. The mission was real. But this movie was fake, too.” だったね。

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