★★★【映画評】クラウド アトラス (2012) Cloud Atlas (Part1)

cloud-atlas2『Matrix』三部作のウォシャウスキー姉弟と、『パフューム』を撮ったドイツ人監督トム・ティクヴァという私好みの個性的すぎる監督の夢の競演は‥‥
このタグの多さを見ただけでもわかるように、超大作にふさわしくリビューも超大作です。ただ例によって、聞くに堪えない罵詈雑言や不謹慎な差別発言多数ですので、いちおう閲覧注意。

長すぎるとどうもwordpress.comからの反応が鈍くてフリーズしたりするので、2部に分けました。普通、ブログにこんないっぱい書かないんだろうねえ。

Part2はこちら

♠ これは『Matrix』三部作のウォシャウスキー姉弟と、『パフューム』を撮ったドイツ人監督トム・ティクヴァが共同監督した話題作なんだけど。
♥ 検索する人の便を考えて、映画のタイトルは邦題で統一することにしたけど、私はどうしても『メイトリックス』を『マトリックス』とは書けないし、『パフューム ある人殺しの物語』もダサすぎるので副題は省略。
♠ 最初に断っておきたいんだけど、『Matrix』も『パフューム』も私にとってはすごい大事な映画で、その監督もただ者じゃないと思ったし、大いに評価している。だからいつもと違って、この映画は最初からバカにしてけなすつもりでは見てない。
♥ いつもはそのつもりで見てるのかよ?
♠ それどころか、テレビ買ってすぐに録画したんだけど、「もったいなくて」1年以上見るのを控えていたぐらいの期待作だったんだよ、私には。
♥ 例によってもちろん批評とかも読んでないし、監督名とタイトル以外、どんな映画かはまったく知らずに見始めた。

原作者のデイヴィッド・ミッチェルについて

♥ あ、でも原作者は知ってた。読んでないけど。原作は英国小説で、作者はデイヴィッド・ミッチェルというイングランド人なんだけど、NHKの「君が僕の息子について教えてくれたこと」という番組を見たんで。この僕というのがミッチェルのことなんだよね。
♠ 彼は日本人と結婚して、日本語も堪能なんだけど、子供のひとりが自閉症なんだって。それで東田直樹という13才の自閉症の少年が、患者視点から自閉症を語った『自閉症の僕が跳びはねる理由』という本に感銘を受けて、それを英語に翻訳したら‥‥
♥ そしたらこの本が世界中でベストセラーになって、自閉症の子供を持つ親たちにとっての福音書になったという話。
♠ 東田くんもある意味奇跡の人で、そっちも感動ものなんだけど、見ていてミッチェルという人は本当にすてきな、いい人だなあと思ったよ。

♥ ただ、いい人ならいい小説が書けるかというと‥‥
♠ あー、待て待て。小説については、読むまでは判断を保留させてもらう。いつものことだけど、小説と映画はまったくの別物。映画はラフなあらすじに、監督やら何やらが勝手な解釈を付け加えただけのものにすぎないし、映画だけで原作を語ったら、作家があまりにもかわいそう
♥ さんざん映画だけで原作を語ってるくせに。
♠ 他の小説もなかなかおもしろそうよ。『ヤコブ・デ・ゾートの千の秋』は鎖国時代の出島を舞台にした小説だそうだし。
♥ 『47 Ronin』! 『Shogun』! なんで外人が描く日本ってそればっかりなのよ!
♠ いくらなんでもああいうのと比較したらかわいそうだと思う。もしこれが映画化されたらきっとああなると思うけど。だから映画で小説を判断したらいかんのよ。

『クラウド・アトラス』あらすじ

♠ いちおう見てない人のためにあらすじ書かないと、これこそ解説抜きじゃわけがわからん話だし。
♥ だけど見てない人が読んだらネタバレもいいところじゃない。
♠ いつもそんなの気にしてないだろ。だいたいこれは書いておかないと私自身が確実に忘れる。

♠ 話は時代と場所を超えて絡み合う6つの物語からなる。直接の共通点は、各エピソードの主人公の体に彗星の形のあざがあることだけなんだけど、
♥ 南総里見八犬伝?
♠ あのインフォグラフィック貼っておけば?
♥ はい。もし小さかったらクリックして拡大して見てください。横軸はぜんぶ同じ俳優で、縦軸が6つのエピソードに対応してます。(Protagonist)とあるのが、各エピソードのあざ持ちの主人公です。
♠ 私もあとになって気付いたんだけど、日本のブログは写真クリックすると新しいタブで開くのに、海外のやつは同じタブで開くのがデフォルトなのね。おかげで自分のサイト読んでると、私もしょっちゅううっかりサイトを閉じちゃうので、「戻る」ボタンで戻ることをお忘れなく。こういうの変えられないんですよ、すみません。

エピソード(縦列)別 登場人物(横列は同一俳優) 一覧表

エピソード(縦列)別 登場人物(横列は同一俳優) 一覧表

♥ それじゃ各エピソードについて簡単に。年号は参照した資料によってかなり違ってたのであくまで目安に。
♠ ちなみにストーリーは映画だけから判断してるので、原作読んだ人には自明の間違いとか勘違いがあるかもしれません。
♥ テーマについては映画だけでは情報が少なすぎて、あくまで私の印象、推定です。エピソード1とか2とかいうのは、私が勝手に付けた名前です。古い順に並べましたが、この順に出てくるわけでもありません。
♠ 太字が彗星のあざを持った主人公ね。

エピソード1

監督 ウォシャウスキー姉弟
舞台 (過去)1849年 南太平洋
物語 アメリカ人弁護士のアダム・ユーイング(ジム・スタージェス)は、義父(ヒューゴ・ウィーヴィング)の命を受けて、黒人奴隷の買い付けに行く。彼は船に密航していた脱走奴隷オトゥア(デヴィッド・ジャーシー)を見つけてかくまうことになる。一方、船の医師(トム・ハンクス)はユーイングの金に目を付けて、彼を毒殺して金を奪うことを画策していた。ユーイングはあわやというところでオトゥアに助けられ、妻ローズ(ペ・ドゥナ)と共に奴隷解放運動に身を捧げることを決意する。
形式 物語はユーイングの書いた航海記として伝えられ、次のエピソードの主人公フロビシャーが読んでいる。
テーマ 奴隷制・人種差別反対 白人の拝金主義批判

エピソード2

監督 トム・ティクヴァ
舞台 (過去)1936年 ベルギー
物語 才能あふれる作曲家志望のイギリス人青年ロバート・フロビシャー(ベン・ウィショー)は、往年の名作曲家ヴィヴィアン・エアーズ(ジム・ブロードベント)に採譜係として雇われる。フロビシャーは仕事の傍ら、自作の交響曲「クラウド・アトラス六重奏」を作曲している。やがてエアーズと反目するようになったフロビシャーは辞職しようとするが、エアーズは辞めるならフロビシャーがゲイであることを暴露すると脅迫し、曲も自分によこせと迫る。フロビシャーはエアーズを射殺し、逃亡生活の中で曲を完成した後自殺する。
形式 フロビシャーが彼の恋人ルーファス・シックススミス(ジェームズ・ダーシー)に書き続けていた手紙の形で伝えられ、後にシックススミスと知り合いになった次のエピソードの主人公ルイサ・レイの手に渡る。
テーマ 『アマデウス』(若き才能に対する老人の嫉妬と、芸術の産みの苦しみ)

エピソード3

監督 トム・ティクヴァ
舞台 (過去)1973年 アメリカ
物語 ジャーナリストのルイサ・レイ(ハル・ベリー)は、物理学者としてアメリカの原子力発電所計画に従事するルーファス・シックススミス(ジェームズ・ダーシー)と出会う。実はこの原発には重大な欠陥があるのだが、意図的に原発事故を起こして利権を確保しようと考える石油資本がそれを隠蔽しようとしていたのだ。シックススミスはルイサの力を借りてそれを告発しようとするが、計画の首謀者ロイド・フックス(ヒュー・グラント)が送り込んだ殺し屋(ヒューゴ・ウィービング)によって殺される。ルイサにも殺し屋が迫るが、同じく彼女を阻止するために送り込まれたジョー・ネイピア(キース・デイヴィッド)は、彼女の亡父の戦友であることがわかり、ルイサを守って戦う。ルイサはシックススミスの報告書を手に入れ、告発本を書く。
形式 ルイサの書いた本の形で伝えられ、原稿は次のエピソードの主人公カヴェンディッシュの手に渡る。(カヴェンディッシュが出版したものと考えられる)
テーマ 原発反対、資本主義の非人間性

エピソード4

監督 トム・ティクヴァ
舞台 (現在)2012年 英国
物語 小さい出版者を経営するティモシー・カヴェンディッシュ(ジム・ブロードベント)は、元ならず者のダーモット・ホギンズ(トム・ハンクス)の自伝を出版する。この本は批評家に酷評されるが、怒ったホギンズがその批評家をパーティーの席上で殺してしまったため、本は売れてカヴェンディッシュは大もうけする。ところがその金を狙うホギンズの兄弟たちに金を用意しなければ殺すと脅迫され、裕福な兄デンホルム(ヒュー・グラント)に助けを求めるが、もともとカヴェンディッシュを厄介者扱いしていた兄は、彼をだまして強制収容所のような老人ホームに監禁する。カヴェンディッシュは他の老人たちと力を合わせてホームから脱走し、この経験を本に書いて出版する。
形式 カヴェンディッシュの本とその映画化作品。この映画を次のエピソードの主人公ソンミが見る。
テーマ コメディ、人間の自由と尊厳

エピソード5

監督 ウォシャウスキー姉弟
舞台 (未来)2144年 韓国、ニューソウル
物語  「純血人」(purebloods)に奉仕するために作られた人造クローンのソンミ451(ペ・ドゥナ)は、彼女が働いているレストランで落とし物のスマホ(のようなもの)を見つけ、それで「ティモシー・カヴェンディッシュの試練」と題された映画の断片を見る。やがて彼女の同僚のひとりが雇い主を殺して処刑される事件が起き、ソンミは徐々に自分の置かれた境遇に疑問を抱くようになる。
彼女をそこから救い出し、教育してくれたのはヘジュ・チャン(ジム・スタージェス)という男で、彼はクローンに人権を与え、全体主義政府を倒そうともくろむ革命組織「ユニオン」のメンバーだったことがわかる。ヘジュ・チャンを愛したソンミは彼の意思に従い、クローンの秘密を告発し、殉教者として死ぬことを決意する。
形式 ソンミの言葉は後に宗教となり、映像や本として次のエピソードへ伝えられる。
テーマ 人とは何か、人権問題、『ソイレント・グリーン』

エピソード6

監督 ウォシャウスキー姉弟
舞台 (未来)2321年、ハワイ
物語 海面上昇で近代文明のほとんどが崩壊した後のハワイでは、人々は原始人のような暮らしに戻っていた。ソンミの教えを信奉する部族に属するザックリー(トム・ハンクス)は、人食い人種のコナ族に義弟と甥を殺される。彼はまたオールド・ジョージーと呼ばれる悪魔の幻覚にも悩まされている。
そこへ、いまだに進んだ文明を維持している種族の女メロニム(ハル・ベリー)が訪れ、住民が「悪魔の山」と呼んで恐れている山への道案内を頼む。ザックリーは姪の命を救う薬を分けてもらうことを条件に、案内役を引き受ける。実はこの山には文明崩壊前に地球を脱出した人々の住む、宇宙コロニーとの通信機器が隠されていたのだ。二人が通信を終えて村に戻ると、村はコナ族の襲撃を受けて壊滅状態だったが、ザックリーはメロニムと力を合わせてコナ族を撃退する。映画はどこか他の惑星で、大勢の孫に囲まれて幸せそうなザックリーとメロニムの姿を映して終わる。
形式 老いたザックリーが孫たちに語って聞かせる話。
テーマ 『マッドマックス』(嘘)

編集について

♥ うーん、これだけ見ても突っ込みどころは満載のような‥‥これってある意味、輪廻の物語だよね。彗星マークが継承されて行くし。でも彗星を付けた主人公たちに共通点って何もないんだよね。
♠ でも輪廻ってそういうもんじゃないの? 前世とはぜんぜん違う何かに生まれ変わるという意味で。
♥ 前世の因果が巡るってわけでもないし、いわゆる東洋的輪廻思想とは違うな。
♠ ご覧の通り、同じ役者が毎回違う役柄で出てくるんだよね。主役だけじゃなくて脇役もそう。これも輪廻の雰囲気を強調していると思うんだけど。
♥ トム・ハンクスなんか悪人と善人の両方をやってるけど、善人だけ悪人だけの人もいるし、特に法則性はないか。
♠ 1850年に夫婦だったジム・スタージェスとペ・ドゥナが、生まれ変わっても恋に落ちるっていうのはあるけれど、他にそういうケースはないし。
♥ 行き当たりばったり、と感じてしまうのよね。
♠ 特に役者に個性は持たせてないみたいね。

♠ そして各エピソードは細かくカットアップされ、つなぎ合わされている。
♥ おお! ウィリアム・バロウズですか?
♠ そこまで細かくないけど、映画としては観客が付いてこられるギリギリまでカットアップした感じ。これでとまどう人は多いだろうね。
♥ でも同じ役者が出てくると言っても、顔がまるで変わってしまうほどのメイキャップをしているから区別は容易につくし、時代順は前後するとはいえ、各エピソードの中の時間は正常に流れているから、ちゃんと見てればわからないってほどでもないよ。
♠ 時間の流れまで逆流しちゃったら、もう付いてこられる人はいないよ!
♥ 私は『インセプション』よりよっぽど見やすいと思った。

♥ しかしこの編集はすごくうまかったね。
♠ うん。エピソードの切り替え部分は、ちゃんと関連を持たせてつなぐんだよね。本を開くとか、大きな音がするとか、それがキューになって場面が変わるんだけど。
♥ これは映画でないとできない、小説では不可能なテクニックだしね。
♠ 前にもこういう映画見たことある気がしたんだけど、思い出せない。
♥ カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』
♠ ああ、確かにあれも異なる時代の異なるエピソードの中を旅する話だった。あっちは主人公は共通だけどね。でもそれじゃなく、こういう場面の切り替えがすごいスムースで驚いた映画があったじゃない。確かヨーロッパ映画で。
♥ そんなの知るかい。

♥ Wikiにはこれは「グランドホテル方式」だって書いてあるけどそれはぜんぜん違うよね。グランドホテルってのは同時進行でしょうが。これは時代がぜんぜん違うのに。英語Wikiにもそんなこと一言も書いてないし。
♠ 日本語Wikiなんてどうせ頭の良くない文学部の学生が書いてるんだから、真に受けるなよ。
♥ 確かに文学部の人気が落ちて、ここまでレベルが下がってしまうとしょうがないか。それにしても英語Wikiとのレベルの差にはあきれかえるよ。

監督3人のご尊顔。左からティクヴァ、ラナ、

監督3人のご尊顔。左からティクヴァ、ラナ、アンディ

性転換と『スピード・レーサー』について

♥ とにかくウォシャウスキー姉弟もトム・ティクヴァも、3人ともめちゃくちゃ凝り性の監督だってことはわかってたから、何か仕掛けをしてくるだろうとは思ってたがこういうのだったとは。
♠ その姉弟っての、まだどうしても慣れないんだけど(笑)。
♥ ラリーのほうが2008年に性転換してラナになったんだよね。
♠ その話を聞いたとき、私はてっきりあのスキンヘッドのデブのほうかと思って青くなったんだけど(笑)。
♥ メガネの兄の方だってば。あの人は前からちょっとオカマっぽかったから、それほど違和感ない。
♠ オカマっていうか、絵に描いたようなおたくだったけど、今はどピンクの髪なんかして、どうしても女装のオカマにしか見えなくて。
♥ かわいいじゃん。それに性転換してから体型もぜんぜん変わって細くなった。
♠ とにかく兄弟が姉弟になっても仲良いようでけっこうなことで。
♥ 日本語は便利で兄弟→姉弟で通じるけど、英語だとsiblingと言うしかないんんだな。

♠ もしかしてこれって性転換後初の映画だよね。
♥ うん、この前の2008年に日本のテレビアニメ『マッハGoGoGo』が原作の『スピード・レーサー』を撮ってるんだけど、手術はそのあとにしたみたいだから。ラナちゃんが人前に初めて姿を見せたのもこの映画の完成後。
♠ 『スピード・レーサー』は見ないんだ?
♥ 私、あの人たちほど日本びいきじゃないんで。
♠ 竹熊健太郎が「アメリカの小学生が脳内で描いた妄想を、一切の制限なく大金かけて映画化したような作品」と書いてたけど。
♥ いやそんなに立派な映画じゃない。YouTubeでクライマックスだけ見たけれど、パチンコ屋そっくりなキンキラ極彩色のCGのサーキットを車が走って、実写の役者がド下手な白々しい演技するだけの映画だったよ。性転換に失敗して脳みそも摘出したんじゃないかと思うぐらい
♠ なんだ、そりゃー!
♥ ほとんどCGなんだけど、ほんと色使いとか視覚効果がパチンコそのものなのよ。ほんとに日本が好きなんだなあ。
♠ じゃあ、この映画はこれでもずいぶん持ち直したんじゃないか。

♥ それでも興行的には大失敗だったんでしょ。
♠ 制作費の3割しか稼げなかったとどこかで読んだ。まあ、予算湯水のごとく使ってるからなあ。そんなもんじゃない? ただでさえ受けなさそうな、SF要素の入った現代文学原作長尺のうえにややこしい構成
♥ スターもカンフーも出ないし。
♠ いちおうスターは使ったが、トム・ハンクスにハル・ベリーじゃねえ
♥ 実は最初にラナに原作小説を渡して読めと言ったのはナタリー・ポートマンだそうで、その縁でソンミ451はナタリーが演じるはずだったのに、彼女が妊娠しちゃって流れたんだって。あれがナタリー・ポートマンだったら、私の評価は確実に上がったのに。
♠ それは残念なことしたなあ。ナタリー・ポートマンの韓国メイクはそれなりにきついものがあるが。

♠ じゃあトム・ティクヴァとはどこでつながったの?
♥ 前から友達だったらしいよ。上の要約にも書いたけど、6つのエピソードをウォシャウスキー姉弟とトム・ティクヴァで3つずつ分けて撮ってる
♠ しかも、実際の撮影は完全に2班に分かれてて、スタッフもぜんぶ別、共有するのは役者だけという完全分離だったという。
♥ それで共同で撮る意味あったのか?
♠ とりあえず試みとしてはおもしろい。特にSFになる最後の2本はウォシャウスキー姉弟で、エピソード1を除くヨーロッパ風のドラマはティクヴァと、ちゃんと個性を使い分けてるし。
♥ 私はエピソード1と3は逆にすべきだったと思うな。3はアメリカが舞台なんだし、活劇主体だから姉弟向けでしょう。

イエローフェイス

♠ とりあえずね、映画的・映像的試みとしてはおもしろかったし、その辺は特に不満はないんだ。それ以外のアラも、過去のよしみに免じてすべて許してあげるつもりだった。だけどこれだけは絶対に許せないと思ったのは‥‥
♥ ソンミ451を演じたペ・ドゥナ?
♠ 彼女はまだ我慢できるよ。我慢できないというか、一目見て吐いてしまったのは男の方。つまり、エピソード5の主な韓国人男性役は、yellowfaceの白人が演じてるんだよ。
♥ ちなみに「イエローフェイス」というのは、昔のハリウッドで白人の役者が東洋人風のメイキャップで東洋人を演じることを言います。有名なのは、えーと‥‥
♠ 『王様と私』のユル・ブリンナーとか、『八月十五夜の茶屋』のマーロン・ブランドとか。でも昔だけじゃないよ。21世紀に入ってもまだけっこういる。

『八月十五夜の茶屋』のマーロン・ブランド

『八月十五夜の茶屋』のマーロン・ブランド扮する日本人

♥ おお! なかなか気合い入ったメイクじゃないか。それでも日本人には見えないけど。
♠ 左の写真はちょっと若すぎたかな。でも日米ハーフぐらいには見えるでしょう。
♥ これってなんでなんだろうね?
♠ 昔はおそらく東洋人俳優が少なかったせいと、インターレイシャル・マリッジ(異人種婚)タブーのせいだと思う。
♥ 昔のこととはいえ、ひでー理由。つまり『王様と私』や『蝶々夫人』みたいにたとえ原作がそうであっても、白人男女が釣り目の東洋人なんかとキスするのは汚らわしいからという発想でしょ。

♠ うん、だからここでウォシャウスキー姉弟があえてそれを使ったのは、人種差別に対するアンチテーゼだという理由はすごくよくわかるんだけど‥‥
♥ それほどちゃんと考えてないような気がする。この映画はどの俳優も役柄を変えて使い回すのが原則だけど、そんなに東洋人の役を用意できなかったからやむを得ずじゃない?
♠ それを言うなら、東洋人でも女優2人はちゃんといろんな役を演じてるじゃないか。なのにこのメイクは男だけで、女はちゃんと東洋人が演じてるのも奇妙だと思わなかった?
♥ うん。うがった見方をさせてもらうと、女優さんをこんなひどい顔にするのは気の毒だからかと思えたよ。
♠ さもなきゃ、「女ならまだ許すけど、東洋人の男なんてブッサイクすぎて見てらんねーよ!」という理由か。

あまりにも醜すぎるイエローフェイスのジム・スタージェス(左)とヒューゴ・ウイーヴィング(右)

あまりにもグロすぎるイエローフェイスのジム・スタージェス(左)とヒューゴ・ウイーヴィング(右)

♥ というのも、醜すぎる!!!! グロい!
♠ はい、その証拠写真見てください。
♥ これわざとだよね? 意図的にこういう顔にしたんだよね?
♠ 確かに昔から、「こんな日本人や中国人いねーよ!」というのは多かったけど、マーロン・ブランドの時代でさえ、あれだけのメイキャップ技術があったのに、今の技術でリアルな東洋人顔作れないはずないんだよね。
♥ ということはなんらかの風刺かギャグのつもりかと思うところだけど。
♠ でも、もともと醜男だし変な顔のヒューゴー・ウィービングはまだしも‥‥
♥ ヒューゴ・ウイーヴィングはバルカン星人そのものって気も。
♠ バルカン星人も明らかに東洋人をイメージしてるからな。でも、ヒューゴ・ウィービングはまだネタとしてみてられるが、ジム・スタージェスなんか、元があれだけハンサムだし、ロマンチックなラブストーリーのヒーローだよ。
♥ 最初はお面でもかぶってるのかと思った。でなきゃボコボコに殴られて目が腫れふさがってるのかと。
♠ 元は美青年なのに、それがなんでこんな奇形児に?!
♥ 奇形児っていうか、そのまんまダウン症の人の顔みたい
♠ それも当然で、ダウン症というのは昔は蒙古症と言ったぐらいで、白人の目にはモンゴロイドみたいな顔になるからなんだ。だから白人を無理やり東洋人化するとダウン症になってしまうわけ。
♥ なんか人種差別だけじゃなく、身障者差別も入ってるように聞こえる。

♥ それは言い過ぎとしても、整形失敗した人の顔ってこんな感じだよね。
♠ 失敗しなくてもこんな感じの顔に見える。理由はわかるんだ。失敗しなくても整形ってのは顔のあっちこっちをつまんだり引っ張ったり、削ったり盛り上げたりして作るもので、それは特殊メイクも同じだから。生きた肉でやるかフォームラテックスでやるかの違いだけで。
♥ ふ~ん? でもこれって全員韓国人という設定だよね。それに韓国と言えば整形天国で有名だし。もし、これが白人の考える韓国人の顔だとしたら、ネトウヨが大喜びしそう。
♠ 連中に東洋人の顔の区別なんかつくかっての。だいたいこんな映画はネトウヨは見ないよ。彼らには高尚すぎるし難解すぎるから(笑)。
♥ しかしなんで韓国にしたんだろうね? 上に書いたように作者のミッチェルは日本に詳しいし、日本に住んでたこともあるのに。
♠ 日本を舞台にした小説はもう書いたからでしょ。未来の話だし、別に韓国らしい描写なんてなかったよ。せいぜい言葉が韓国語でハングル使ってるぐらいで。

♥ ネトウヨというのは冗談としても、それじゃ彼らの目には東洋人がみんなこういう顔に見えているわけ?
♠ そっちは嘘とは言い切れないあたりが、東洋人の自尊心を大いに傷つけるわけですよ。
♥ まあ、実際こういう顔の人もいないわけじゃないけど‥‥
♠ 日本人の大多数は違うわい! 私がよく外人に間違えられるって話したと思うけど、「あなたは目が細くもないし、つり上がってもいないし、日本人のはずがない」って言われたんだぜ! とにかく、白人の考える東洋人のステレオタイプって未だにそれなわけ。
♥ ついでに言わせてもらうと、一重まぶたでもないし、まぶたが腫れぼったくもないし、鼻ぺちゃでもないし、エラも張ってないし、出っ歯でもないわ!
♠ 私の場合は身長もあるだろうけどね。とにかく日本人は小さいと思われているのに、私は世界中どこの国の女性の平均身長よりでかいから。まあ、個人的な憤慨はともかく、一東洋人としてこれは許しがたい。

♥ とりあえず私は政治的信条や差別感情なんかどうでもいいんだ。スクリーンで醜いものを見るのが耐えられないだけ。ましてそれが東洋人だとものすごい侮辱に感じる。
♠ あの顔がスクリーンにちらちらするだけで気が散って、映画に集中できなくなるんだよね。
♥ 醜いだけじゃなく、メイクのせいで表情こわばってるからから気持ち悪いし。
♠ 私も映画のグロいモンスターは好きでいろいろ見てきたけど、その中でも屈指のグロさだったわ。いつもモンスターは人間に近いほどグロいと言ってるけど、これは限りなく人間に近いだけにその中でも最高のグロさだわ。
♥ なんか聞いてると、♠のほうがよっぽどひどい差別発言してるみたい(笑)。

♥ でもこれだけ侮辱的な東洋人見せられて、日本のユーザーリビューは何もそのこと言ってないのが不思議だ。お決まりの「日本と中国・韓国を混同している」という非難は多かったけど。
♠ なんかのタブーに触れたとか? 韓国人ならいいとか?
♥ というのも、私、この映画についての英語フォーラムいくつか読んだけど、やっぱり非難が集中してるのがこの顔なんだよ。発言者の人種はわからないけど、たぶんほとんどが白人だと思う。それで、東洋人をバカにしているという内容の非難が多かった。
♠ 個人的にはウォシャウスキー姉弟にそんな差別感情あるはずがないと思うけどね。だってあれだけ日本大好きなんだから。ただ、この人たちあんまり賢くないし、これが東洋人の顔だと本気で思ってる可能性も否定できない。
♥ このキモい顔さえなければ、好きな映画と言ってもよかったのに。唯一の汚点と言ってもいい。これのメイキング見たいわ。この顔をなんと言ってるのか知りたい。

♠ とにかくだね、ラナのケースを見てもわかるように、この人たちは差別やなんかには敏感なはずなんだ。だからこそ時代や人種や性別の枠をすべて取っ払ってやろうという考えは大いにわかるし賛同できるんだよ。
♥ うん、エピソード2はゲイ・カップルのラブストーリーだし、男優が女性を演じたり、女優が男性を演じたりのトランスジェンダーも入っている。あと、韓国人のペ・ドゥナや中国人のジョウ・シュンが白人の女性を演じたり、ヒスパニックの女性を演じたり。

♠ そういうのを見ると、メイク技術すげー!ってなるので、よけいあのグロyellowfaceの意味がわからん。
♥ もしかして本気であれを美しいと思ってるとか? これもよく言われるし、私も言ってきたでしょ。でなきゃジョンが小野洋子に惚れるわけないって。
♠ ジョンは彼女の内面に惚れたんだと思いたいところだが‥‥
♥ やっぱり私の方が差別主義者のような気がしてきた。

Part2に続く

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