【映画評】バニラ・スカイ (2001) Vanilla Sky

vanilla-sky1スペイン映画『オープン・ユア・アイズ』のリメイクだが、何も知らずに見た。
脚本もテーマも突っ込みどころ満載で徹底的にやられているが、大嫌いなはずのトム・クルーズを初めて美しいと思った映画でもある。まあ、こんなことも言ってるけどね。

♣ でもなんかアンバランスなのよね。顔は肉食人種らしい男臭さむんむんなのに、体は貧弱という。異常に顔でかいし。
♥ それにあのあごでしょ。だから腹話術の人形みたいに見えるのよ。でかい顔にでかいあごパクパクさせて、体はちんちくりんという。

♣ 完璧すぎる美貌って言うなら、傷が引き立て役になるのもわかるけど、この人はそこまでじゃないしなあ。二、三発ぶん殴ったほうが見られる顔になるってこと?(笑)

Director:

Cameron Crowe

Writers:

Alejandro Amenábar (film “Abre Los Ojos”), Mateo Gil (film “Abre Los Ojos”), 1 more credit

(鑑賞前の会話)

♣ 私はトム・クルーズが大嫌いだってことはいつも言ってるけど、なんでまた彼の映画2本も見ようという気になったんですか?
♥ SF映画特集って書いてあったから。
♣ もう何度SFって文字にだまされて懲りてるか忘れたの?
♥ もう何も期待はしていないんだけどさ、つい。それに食わず嫌いもいけないと思って。もしかして主演トム・クルーズっていうだけで、名作を見逃してたらいやだし。

♣ トム・クルーズなんて見たの、『宇宙戦争』(2005)以来かも。そういや、あれもウェルズだからしょうがなく見たんだっけ。
♥ 『マイノリティ・リポート』(2002)もディックだから義理でやむを得ず。
♣ SFばっかじゃない! なんでSFっていうとトム・クルーズばっかり出てくるのよ? およそ非SF的な役者だと思うけど。
♥ どういう人ならSF的なのよ?
♣ うーん、キアヌとか。
♥ 確かにキアヌはまったく生活臭や生臭さがないから未来っぽいかも。あと、『プロメテウス』見て惚れたマイケル・ファスベンダーのアンドロイドっぽさとか。
♣ べつにSFだからって宇宙人やロボットである必要はないが、こいつはプンプン臭うからなあ。
♥ でもトム・クルーズ主演の映画ならそれなりにお金はかかってるから、SF映画としてはましかもよ。
♣ トム・クルーズ主演のSF映画でおもしろい映画なんてあった?
♥ ないけど。
♣ そもそもSF映画でおもしろい映画なんてもうずっとお目にかかってないや。最近じゃ『グラビティ』がちょっと良かっただけで。

♣ というわけで、映画見る前に、なんでトム・クルーズが嫌いなのか、あらためてどうぞ。あ、どうせクソミソ言うからファンの人は遠慮してください。
♥ いちばんの理由はやっぱりサイエントロジーかな。なにしろヘボSF作家(L・ロン・ハバード)が書いたヨタをまるごと信じてるような奴だからな。
♣ なぜかここもSF(笑)。
♥ SFじゃなくてSF(笑)だからね。間違えないでよ。

♣ 宗教嫌いなのはわかったから他には?
♥ いちおう顔はある種のハンサムであることは認める。
♣ これぞオール・アメリカン・ボーイというか、アメリカ人が好きな顔だよね。
♥ あの巨大すぎるあごがなければ、顔はそれなりにきれいと言っていい。
♣ 私はこの人見るといつも、メッシとクリスティアーノ・ロナウドを足して2で割ったみたいだと思うんだけど。
♥ なんで?!
♣ だって似てない? 顔はいやったらしい色男成分はロナウドで、でもなんかメッシにもちょっと似てる。体型はメッシだけど、筋肉はロナウドって感じで。
♥ ふーん? べつにラテン系じゃないでしょ? 私にはドイツ系に見えるけど。
♣ 今調べたら、父系はウェールズだそうだ。
♥ あらら‥‥。
♣ あとイングランドとドイツの血も入ってるって。
♥ まあ、ウェールズの炭鉱にいてもおかしくはないな。

♥ とにかく役者でチビはだめだ。
♣ 公称5’7”(170cm)だけど。
♥ 170あれば、よほどの奇形児でない限り、あんなに短足のはずないし、頭でっかちにはならない。私の見たところ165cmぐらいだと思う。共演の女優よりしばしば小さいし。
♣ 女優さんはヒール履いてるからしょうがないよ。でもなんかアンバランスなのよね。顔は肉食人種らしい男臭さむんむんなのに、体は貧弱という。異常に顔でかいし。
♥ それにあのあごでしょ。だから腹話術の人形みたいに見えるのよ。でかい顔にでかいあごパクパクさせて、体はちんちくりんという。
♣ わかってはいるけど、ほんとにひどいこと言いますね(苦笑)。
♥ え? だってそう見えない? アタシ何か間違ったこと言った?
♣ そんなこと言われたら、そうとしか見えなくなった。
♥ ほらね。でもべつにそういう人がいたっていいのよ。人間はルックスやスタイルだけじゃないんだし。だけど、この人はそのルックスやスタイルを売り物にしてる俳優じゃない。だから許せないと感じるわけ。
♣ 私はあのわざとらしく作った筋肉がいや。三島由紀夫とか、小男はコンプレックス隠すためによく筋肉作りするわね。
♥ 映画の中で警察でマグショットを撮られるシーンがあるんだけど、その時の身長が6フィート(183cm)弱になってる(笑)。見栄はってんじゃねーよ!
♣ とにかく、この人がスクリーンに映ってるだけでイライラしてだめなのよね。だからこの映画も傑作でないことを祈るのみ。

♣ これけっこう古い映画だよね。『マイノリティ・リポート』より前だし。なんでスルーしちゃったのかな?
♥ トム・クルーズだからでしょ。
♣ 私はぜんぜん知らなかったけど、これってリメイクだったのね。オリジナルはスペイン映画で、アレハンドロ・アメナーバル監督の『オープン・ユア・アイズ』。こっちも見てないや。
♥ しまった。知ってりゃそっちを見たのに。
♣ スペイン語でも?
♥ うーん、それはそれでちょっといやかも。
♣ とりあえずリメイクされるぐらいだから、原作はよくできてたんじゃないかと思う。そこに期待しよう。

(映画を見終わる)

♥ あ~‥‥
♣ う~ん‥‥まあ、こんなもんかな。
♥ だめじゃん! 途中まではいい感じだったのに。夢落ちかよ! 夢なら何だってありじゃん!

♣ いちおう最初から話を進めないと。
♥ 私は最近、映画はちょっとでも引っかかったやつはなんでもかんでも録画しておいて、最初の20分ぐらい見て「こりゃだめだ」と判断したのは、そこで見るのをやめて消しちゃうの。
♣ だから、クソミソにけなしてるように見えるリビューでも、それはいちおう最後まで見たってことだから、まだましなほうなのよ。
♥ マジで最近のアメコミ映画とか、20分も保たないしな。それでこの映画も最初の20分どころか40分が死ぬほどつまんなかったから、もう消そうと思ったんだけど、夢と現実が混ざり合い始めたところから、おおっ!と思って、消さないでよかったー!と思ったんだけど‥‥
♣ 最後まで見たら、消してもべつによかったかなと。

♥ オープニングはけっこうよく出来てたよね。
♣ 私はなんで出勤途中のトム・クルーズが、タイムズスクエアの真ん中で頭を抱えてわめき出すのかわからなくて、何度か巻き戻して見てしまった。
♥ なんでわからないのよ? ニューヨークの真ん中で誰も歩いていないし、車が一台も動いていないはずがないので夢とわかるんだけど。
♣ まあ私がボケなだけなんですが、言い訳すると観光シーズンでないロンドンは、それも私がいつも泊まるケンジントンかいわいだと、早朝なんか人っ子ひとり歩いていないなんてことはけっこうあるのよ。
♥ それでもメインストリートに車一台走ってないなんてことはないよ。
♣ それに普通の街路なんかじゃニューヨークとはわからないから、べつに誰もいなくても不思議に思わなかった。
♥ 『28日後』の無人のロンドンには大感激してたのに。
♣ そうか。やっぱり思い入れの違いと、普段の様子をよく知ってるかどうかの違いみたい。

♥ とまあ、映画は主人公のデイヴィッド(トム・クルーズ)が見る夢から始まるんだけど。こいつがもううんざりするほどいやな奴なんだ。
♣ 大手出版社の御曹司で、ハンサムで、いい車乗って、傲慢で、世界は自分のために回ってると考えるタイプ。
♥ 家には高い家具や絵を並べて自慢する、吐き気のするようなアメリカの成金野郎。
♣ 金持ちでもなぜかイギリス人だと許すんだけどね。
♥ 成金じゃない、本物の貴族はね。今さら金持ちだって言って非難してもしょうがない。あいつらは元々そういうものとして生まれてくるんだから。
♣ 最近は貧乏貴族も多いですけどね。
♥ だいたい家や絵や家具を買うってところが貧乏臭いんだ。本物の貴族はそんなもの買わない。家や絵や家具や宝石は代々相続するものだから。そういうのは何百年も前から家にあるもので、あって当然だから自慢もしない。
♣ ところがこいつはモネの「本物」が1枚あるのを見せびらかす(笑)。(私はモネが大嫌い) 貴族の家ならもっと古い「本物の」絵画が所狭しと並んでるのに。
♥ あとはジョニ・ミッチェルの絵(笑)とかね。
♣ 確かにジョニは歌手にしちゃ絵がうまいとは思うが、べつに好きじゃないし、欲しいとも思わないな。
♥ こういう成金は知ってるんだ。こういう奴らは絵の善し悪しなんてどうでもいいの。誰でも知ってる有名画家の絵じゃないとだめなんだ。でないと人に自慢できないから。

♣ とにかくここまでのデイヴィッドの暮らしぶりはもう見てるだけでイライラの連続で、途中で何度やめようと思ったかわからない。
♥ ほんと。アメリカ人嫌い。アメリカの町嫌い。アメリカンアクセント嫌い。さらにこういうライフスタイル――パーティーとウィットに富んだしゃれた会話(笑)――大嫌いというわけで、見てるだけで苦痛。
♣ ただ、SFというからには何か起きるはず‥‥という一念のみで我慢した。
♥ あと、こういうやな奴がひどい目にあうのを見たいという一念で(笑)。

♣ 少し雰囲気が変わってくるのは、事故のシーンから。
♥ デイヴィッドにはジュリー(キャメロン・ディアス)という恋人がいるのだが、パーティーで会ったソフィー(ペネロペ・クルス)に一目惚れ。さっそく彼女につきまとい、イチャイチャし始めて、本命のつもりだったジュリーは激おこ。
♣ あげくの果てに、ジュリーはデイヴィッドを乗せて車で陸橋からダイブして無理心中を図るんだけど、ジュリーは死に、デイヴィッドは顔にひどい傷を負うんだけど生き延びる。

佐清マスクのデイヴィッドと

佐清マスクのクルーズとカート・ラッセル

♥ いきなり佐清(すけきよ 『犬神家の一族』)マスクだからさ、どれほど醜くなったのかと期待したら、ぜんぜんたいしたことないじゃん!
♣ 確かに。顔を銃で吹っ飛ばされて生き延びた人とか、顔に硫酸かけられた人とか、インターネット見てると見たくもないのについそういうグロ画像見ちゃうから、あまりのたいしたことなさにがっくりした。
♥ 顔の真ん中が陥没してるとか、もっとグチャグチャのドロドロになってるのを予想してたのに!
♣ なんか不満そうだな(笑)。
♥ 顔の半分はなんともないし、片頬に傷ができて、片目の周囲の皮膚が引き攣れてるだけだよね。
♣ 実は映画の中でもすごく醜く見える時とたいしたことない時があって、一定してないんだよ。治療経過を表しているのか、たぶんデイヴィッドの主観を反映してるんだと思うけど。
♥ どっちにしろたいしたことないよ。少しばかり崩れたって、隣のカート・ラッセルのほうがまだ醜いから
♣ アハハ。でも実際のところ、あのメイクって事故の傷っていうより、単に老けメイクみたいに見える。年取れば誰でもあんなふうにまぶたは垂れるし、頬肉も垂れてくるから。

傷ありのトム・クルーズ

傷ありのトム・クルーズ。ほんとに単なる老けメイクに見える。ちなみにこのバックの空が「バニラ・スカイ」。

♥ でもファンにとっては「せっかくのきれいなお顔に傷が!」って感じでショックなんだろうな。
♣ それについては不思議なことがあるの。実は私、これまでトム・クルーズをきれいだなんて思ったことは一度もないんだけど、ここではなぜか美青年に見えることもあったんだけど。
♥ それはきっと髪型のせいよ。この人普通前髪をかき上げておでこ見せてるけど、ここでは髪が長めで前髪も乱れてることが多いから。
♣ あとやっぱりこの頃は若かったよね。こんな奴でもやっぱり若い頃のほうが魅力的なんだな。
♥ もしこの映画のトム・クルーズが魅力的に見えたとすれば、それはやっぱり傷のせいじゃないかと思う。
♣ それってこの映画のテーマそのものじゃん! あの、“The sweet is never as sweet without the sour.” ってやつだけど。
♥ 苦みがあるから甘さが引き立つってやつか? まあ、それは言えてるかも。でもしばしばきれいな顔のクルーズより、傷ありのほうがセクシーに見えたぞ。
♣ 完璧すぎる美貌って言うなら、傷が引き立て役になるのもわかるけど、この人はそこまでじゃないしなあ。二、三発ぶん殴ったほうが見られる顔になるってこと?(笑)

♥ あとマスクがなかなかいい。
♣ 佐清を例に取るまでもなく、こういうのって不気味に見えるだけのはずだけど。
♥ なんかロメロの“Bruiser”(『URAMI ~怨み~』)のジェイソン・フレミングを思い出しちゃってさ。
♣ あの映画の主人公は本当にかわいそうだし人間味があったけど、こいつは正反対じゃないさ!
♥ とにかく真っ白な仮面というところでいやでもダブってしまうんだよ。
♣ ジェイソン・フレミングのマスクは目の所に丸い穴が開いてるだけの、本当にただのお面だったけど、こっちは柔軟性があって顔に張り付くタイプだから、やっぱり佐清だよ。
♥ とにかくね、“Bruiser”を見た時も、仮面を付けたままなのに表情豊かなことに驚いたけど、このトム・クルーズの仮面もなかなか哀感があっていいんだよ。もう一生マスクを付けたまま過ごして欲しいと思うぐらい。
♣ やっぱり悪口言ってるようにしか聞こえないんですが、まあ、多少の傷はかえって男を上げるってことはあるか。

♥ で、自慢の美貌が傷ついたせいか、この事故の直後からデイヴィッドの言動がおかしくなってくる。
♣ ていうか、ここからのストーリーは獄中のデイヴィッドが精神科医のマッケイブ(カート・ラッセル)に語った話ということになっているから、時間がかなり前後してる。
♥ 誰かを殺して捕まったらしいということはわかるんだけど、誰かは明かされないんだよね。まあソフィーだろうというのはバカでもわかるけど。
♣ とりあえず順を追って言うと、事故直後のデイヴィッドは荒れたり引きこもったり、疑心暗鬼に駆られたりしてたんだけど、ソフィーの愛で自分を取り戻したように見える。ところがそこから彼の悪夢が始まるわけ。

♥ このくだりはなかなか良くて、これを見て私の評価は手のひら返しになったわけ。前から何度も言ってるけど、私は夢と現実が入り乱れて何がなんだかわからなくなるときのクラクラした感じが好きで、まさにあのクラクラを感じたから。
♣ ていうかむしろホラーじゃなかった? 夜中に洗面所行って、パチンと灯りを付けると(治っているはずなのに)醜い顔が映るとか。
♥ ソフィーを抱いてるつもりなのに、いつの間にかジュリーと入れ替わってるとか。
♣ ここのキャメロン・ディアスの笑顔がホラーなんで、よけいこわいよ!
♥ まあ、ここらは出来の悪いホラー映画でもよくある手。はっとして見直すと元に戻っていたりしてね。いよいよ変だと思えてきたのは、彼が「ソフィー」だと思っている女の写真や絵がすべてジュリーに変わっているところ。
♣ まさかとは思いますが、この「ソフィー」とは、彼の想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか(注)

(注)「Dr 林のこころと脳の相談室」の精神科医、林先生の名言で、インターネット・ミームのひとつ。弟が執拗に嫌がらせをするという相談に、「まさかとは思いますが、この「弟」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。もしそうだとすれば、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないと思います」という返答をしたのが、ネット民に大いに受けた。

実際、この鏡のシーンは良かった

実際、この鏡のシーンは良かった

♥ いや、私もそれがすぐに頭に浮かんだから、てっきりデイヴィッドはショックのあまり発狂したんだと思ってたの。ジュリーに対する罪悪感から、ソフィーがジュリーに見えて、それで殺しちゃったんだろうと。
♣ ところが謎解きを聞いてびっくり。

♥ よくわかってない人多いみたいだから簡単に整理すると、この謎を解く鍵は、Life Extension社(人生延長の意味。以下LE社と省略)と呼ばれるクライオニクスの会社で‥‥
♣ クライオニクスとは人体冷凍保存のことです。
♥ SFでよくあるコールド・スリープと違うの?
♣ 私もそれを疑問に思って調べたのよ。SFで言うコールド・スリープというのは、いわば人工的に冬眠状態にして、長時間を生きる方法じゃない。冷凍される人は仮死状態だけど、死んじゃいない。
♥ そりゃそうでしょ。死んだ人を冷凍してどうするのよ。
♣ そう思うでしょ? ところがWikiによると(Wikiがどこまで当てになるかは知らないが)、クライオニクスは死亡直後の人を冷凍保存して、「医療技術の発展した未来に復活の望みを求めるもの」だというの。
♥ はあ~? 死んだ人間を生き返らせようってわけ?

♣ 少なくともアメリカにはそういうことができると信じている人がたくさんいて、すでにクライオニクスを請け負う会社が存在し、冷凍死体も作ってるのよ。
♥ それって単に金持ちのアメリカ人をだまして大金を巻き上げるための詐欺じゃないの?
♣ 私もそう思いますけどね。こういうオカルトまがいの疑似科学を信じちゃいけないって法もないし、金持ちが自分のお金を好きなことに使うのは勝手だから。
♥ そりゃ冷凍するところまでは今の技術でもできるだろうけどさ、生き返るって保証はしてくれないんでしょ?
♣ もちろん、それは未来の医学任せですから。
♥ 仮に将来、本当に死体を蘇生させる技術が生まれたところで、21世紀なんていう大昔に粗野な技術で冷凍した死体なんて、細胞から何からぐっちゃぐちゃだし無理無理ってことにならないの?
♣ 当然なるでしょうね。そういや、そういうSF読んだこともあるわ。
♥ 何だ、そりゃー! どうせ詐欺るにしても、死んでから冷凍するんじゃなく、生きてるうちに冷凍しておけば、少しは蘇生の可能性もあるのに、なんでわざわざ死体を?
♣ 私もそれが変だと思って考えたの。思うに、死体を冷凍するのは自由だけど、生きてる人を冷凍したら、ほぼ確実に死ぬわけじゃない。それだといくら個人の意思だと言っても殺人罪で告訴される可能性があるからじゃないかな。
♥ ひっでーな。

♥ という憤慨はおいといて、とりあえず、テレビでLE社のことを知ったデイヴィッドは、LE社を訪れる。
♣ その辺の心理もよくわからないんだけど、彼は死にたかったんでしょ? 生き返ったらだめじゃん。
♥ ところが、LE社の売り物はクライオニクスよりもむしろ、冷凍中に明晰夢(現実と区別が付かないほど鮮明な夢)が見られるということらしいのだ。
♣ なんかそういうのもよくあるな。「夢売ります」みたい話。それこそSFでは数え切れないほどあるし、マンガでは確か藤子不二雄にもあったし、諸星大二郎にもあったし、『マトリックス』だって、カプセルの中で夢を見ているという点では同じだ。
♥ そのどれも死んではいないけどね。
♣ どう考えても死者を蘇生させる方が夢を見させるよりすごいんで、そっちを話の焦点にすべきなような‥‥

♥ とりあえず、デイヴィッドは単に現実逃避したかったんだと思うよ。顔は醜くなり、事故の後遺症のひどい頭痛に苛まれ、会社の重役会は彼から会社を取り上げようとしている。もう生きてる意味はない。死んでいい夢見てる方がいいと思ったから契約したんでしょ。
♣ そういうわけでデイヴィッドはLE社と契約した後、睡眠薬を飲んで自殺する。彼の死体はさっそく冷凍され、死の前後の記憶を消した上で、夢を見ることになる。
♥ 選択した記憶だけを消せるって、それもすごい技術なんだが。
♣ したがって、彼の記憶からはLE社のことも自殺のことも消えている。現実なのは、映画で言うとソフィーとクラブへ行ったところまで。そこからあとは全部夢
♥ あのさあ、夢落ちって、創作する人がいちばんやっちゃいけない禁じ手なんだけど。夢なら何だって可能だし、どんな理屈も通っちゃうからね。

♣ だって本当にそういう話なんだもん。で、本来なら楽しい夢だけを見ているはずが、デイヴィッドの深層意識からは事故のことやジュリーのことが消えず、そのトラウマがああいう悪夢となって現れていたわけ。ところが、LE社にはそういう場合の対策もあって、サポート技術者(ノア・テイラー)が夢の中に現れ、デイヴィッドを導こうとする。
♥ 死んでて、なおかつ冷凍状態なのに、脳は活動してるんですか。はあ~。
♣ そういう科学的突っ込みはむだだから。これぜんぜんSFじゃないから。それでもにっちもさっちも行かなくなったあげく、技術者はとうとうデイヴィッドにすべてを打ち明け、彼は夢を見続けることもできるし、生き返って現実に戻ることもできると告げる。
♥ なんと蘇生技術もすでに実現してる!

♣ 実はここもわかりにくいんだけど、デイヴィッドが冷凍されてから、現実には100年以上たっているらしいのよ。
♥ そんなセリフはひとつもなかったんで、私も混乱した。「現実ではぼくは生きてるけどソフィーは死んでる」って、逆だろう?と思って。
♣ オリジナルにはちゃんと説明あったのかどうか知らないけど、これは不親切だわね。ただ、服装の古さと流れる音楽が懐メロばっかりなんで、過去の話だってことはなんとなく想像ついたんだけど。
♥ デイヴィッドが生きてた時代は80年代か90年代ぐらい?
♣ それでたぶん「現在」は近未来。

♣ そういうわけでラストはビルの屋上で二者択一を迫られることになる。夢の中では彼はソフィーといっしょにいつまでも幸せに暮らせる。現実では彼は文無しになってるし、知り合いはもう全員死んでいるけど、顔の傷は治療できれいになっている。
♥ コールド・スリープに入る時は、普通目覚めるまでの資産管理をしっかりするんだけどねえ。むしろインフレや利子で、目が覚めたら大金持ちというほうが普通なのに。
♣ 突っ込みはいいから。そこで彼は現実を選び、夢のソフィーに別れを告げ、ビルの屋上から飛び降りる。
♥ 高所恐怖症だってことは最初から言っていて、これはそれを克服するためらしいんだけど、高いところから飛び降りれば高所恐怖症って治るもんなんか?

♣ などと、細かい突っ込みはまだまだあるでしょうが、全体としてどうでした?
♥ だめ。ぜーんぜんだめ。オリジナルがどうだったかは知らないけど、こんなご都合主義があるか。全部夢だったなんて。
♣ 夢でも途中までは楽しめたよ。でもあの謎解きが始まってから、なんかどうでもよくなった。結局、夢のソフィーってすべてデイヴィッドが頭の中で作り上げた理想の女ってだけだよね。
♥ たぶん現実のソフィーはデイヴィッドのことなんか眼中にない。もともとがデイヴィッドの親友が図書館で引っかけてパーティーに連れてきただけだし、デイヴィッドには体も許してないし、あくまでお友達でいましょうねという関係。
♣ まあ、それはいいよ。夢の中で正気を保つために、彼が作り上げた避難所がソフィーなんだから。
♥ でもこれラブストーリーじゃないさ。なのに恋愛対象が夢の女って、それって単なるオナニーじゃない。
♣ そう言ってしまうと身も蓋もないな(笑)。

♥ あと、変に感動のラストに仕立ててるのが気持ち悪い。「現実がつらいんで夢に逃避してみたけど、やっぱりやめます」っていうだけなのに、なんでこいつがヒーローみたいな扱いなんだよ。普通の人間はみんなそのつらい現実の中で生きてるってのに。
♣ 確かにこの男は何も学んでないし成長してないな。
♥ これじゃジュリーがあんまりにもかわいそうじゃない? 確かに無理心中はよくないけど、彼女はデイヴィッドのおかげで人生をめちゃめちゃにされて死んだのに、それに対する反省はデイヴィッドにはまったくない、っていうかジュリーは悪夢でしかないし。
♣ それは殺されかけたわけだから無理ないけど。
♥ でも映画の終わりでもやっぱりこいつはクソ野郎のままじゃない。
♣ まあね。○○は死んでも治らないということわざ通り。

♥ あの落下シーンも笑った。落ちていく間、楽しかった思い出が走馬燈のように、って本当に走馬燈が出てきちゃって。
♣ 笑っていいんじゃないですか。
♥ なんかだせえんだよな、この映画。どこまでがオリジナル脚本のせいか知らないけど。

♣ このラストシーンで、空がタイトルの『バニラ・スカイ』なんだよね。
♥ 元はデイヴィッドがモネの絵の空を形容して言った言葉で、「アイスクリームみたいな空」ってことかな?
♣ それが私にはちっともきれいに見えなくて。ただ絵に描いたみたいな空だなとしか。
♥ 実際絵だし(笑)。空の美しさに関しては、私のことは専門家と呼んでもらってもかまわないってぐらい、イギリスの空の美しさに魅せられてるからね。こんなのだめだめ。西葛西の空のほうがまだ美しい。
♣ まじで今の季節の東京湾の夕焼けは死ぬほどきれいです。

♥ あのテーマの”The sweet is never as sweet without the sour.”っていうのもさあ、当たり前のことを今さら言われてもねえ。
♣ まさに、だから何?って感じ。なのに、これが意味ありげに何度も出てくるんだよね。
♥ 具体的に言えば、デイヴィッドは何不自由なく「甘い生活」を楽しんでいたけど、多少の苦み(恋人が無理心中をはかるとか?) があったほうが、より人生が甘美なものになるって聞こえるよね。ひどくない?
♣ ひどいとしか思えない。なんかいっぱしに哲学的なセリフがいっぱい出てくるけど、浅くて勘違いだらけでやめてよって感じ。

ラストシーンのノア・テイラー

ラストシーンのノア・テイラー

♥ 少しはいいところも書こう。良かったのはサポート技術者を演じたノア・テイラー
♣ って誰でしたっけ? 絶対見覚えのある顔なんだけど。
♥ 『シャイン』でジェフリー・ラッシュの若い頃を演じてたじゃん。
♣ ああ、あのメガネくんか。
♥ ジェフリー・ラッシュはあのキチガイ演技でアカデミーの主演男優賞取ったけど、あれってほとんど早口言葉で受賞したようなもので、私はこの子のほうが演技は上だと思ったよ。
♣ 『シャイン』ではあのすさまじいヘアカットと牛乳瓶底メガネで、顔なんかわからなかったよ。
♥ うん。だけど、素顔の写真見たらすっごいかわいいの。絶対私のタイプ!
♣ 何というか、個性的な容貌の人ですね。がま口みたいな口で。
♥ かわいいじゃん! 彼は『ゲーム・オブ・スローンズ』にも出てるよ。ロックの役で。
♣ ぜんぜんわかんなかったよ! あれだけメイクしてちゃ。
♥ 年取ってきた現在は、なにしろあの独特な容貌だから性格俳優しかできないけど、それはそれですごい楽しみ。
♣ オーストラリア人らしい変わり者ですね。確かにこういう役者は嫌いじゃない。

♥ あと、もちろんティルダ・スウィントン様。すてき。美しい。
♣ なんかLE社関係者ばっかりじゃないか。
♥ 意図的なものかしら、これは? LE社の人間は人間離れした感じでSF調で、それにくらべてトム・クルーズの周辺の人物は思いきり俗物ばかりっていうのは。

♣ せっかく「スター」が出てるんだから、ペネロペ・クルスキャメロン・ディアスについても何か言ってあげて。
♥ もちろん有名スターだから名前も顔もよく知ってるけど、彼女らの映画ってあまり見たことないような気がする。
♣ それは「スター」が売りの映画を避けてるからでしょう。
♥ キャメロン・ディアスといえば、『シュレック』のフィオナの印象しかないわ。
♣ それじゃそのキャメロンについては?
♥ モデル出身で、いかにもモデルって感じのブロンド。高級車に寄りかかってにっこりしてるタイプの。それだけ。
♣ でもこういう女を怒らせたら怖いって感じで、適役だったと思う。

トム・クルーズとペネロペ・クルス。確かにかわいい。

トム・クルーズとペネロペ・クルス。確かにかわいい。

♥ ペネロペ・クルスはオリジナルの『オープン・ユア・アイズ』でも同じ役だったんだよね。こういうのちょっとめずらしくない?
♣ 確かにかわいいし、わかるような気がする。
♥ スペイン女ってどうなんだろ?
♣ 今はべったり化粧していかにもスペイン女って感じになったけど、この頃は初々しくてかわいいじゃん。
♥ ジュリア・ロバーツのスペイン版という気がする。妖精っぽいかわいらしさがあって。
♣ あいにく50になったらどういう顔になるかもわかっちゃうんだけど。

♣ あとなんか言い残したことなかったっけ?
♥ ボブ・ディランのジャケットの真似をするところとかは悪くなかった。
♣ 生きてた頃に好きだったものの記憶が夢に出てくるという設定なんですよね。どうせならああいうのがもっと入ってればよかった。
♥ というわけで、中盤以降はまあまあ楽しめたし、「きれいなトム・クルーズ」がたっぷり見られるので、ファンにはおすすめ。グロいトム・クルーズも出るけど。
♣ 脚本は確かにインパクトはあるけど、リメイクするほどの出来かなあって感じ。
♥ 私は夢には一家言あるので、つい採点が辛くなるけどね。

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