★【映画評】オブリビオン (2013) Oblivion

oblivion-16映像の美しさについてはピカイチ、話も役者もすばらしい、問題は古さだけ、というレトロSFの傑作。

Director:

Joseph Kosinski

Writers:

Karl Gajdusek (screenplay), Michael Arndt (screenplay) (as Michael deBruyn)

♠ 『バニラ・スカイ』に続きましては、同じトム・クルーズ主演のSFで『オブリビオン』。
♣ 時代はあれよりずっとくだって2013年の作品だけど、なんかタイトルだけでもどっかで聞いたような既視感が。『バニラ・スカイ』も記憶喪失の話だったし。
♠ こっちはオリジナル脚本だよ。監督のジョゼフ・コジンスキーが自作の「グラフィック・ノベル」を映画化したもの。ちなみに日本語表記が「ジョセフ・コシンスキー」になってるけど、ジョゼフ・コジンスキーだからね。もう人名表記がめちゃくちゃすぎて原語に戻そうかと思うぐらい。
♣ もともとそう思ったから原語で書いてたけど、あまりに読みにくいからカナに戻したんでしょ。グラフィック・ノベルというのは、あちらで大人向けのマンガを指す言葉だってことは、『シン・シティ』で学んだ。
♠ それで「絵」は確かにすばらしかった。
♣ ここんとこ、私がいちばん好きなファンタジー・アートはMichal Karczというアーティストの作品で、写真を合成して「ありえないがありそうな風景」を作り出す人なんだけど、彼の写真にそっくりなんだよね。
♠ 上のポスターなんて、まんまだよな。あれが動き出したみたいだ。だから、これの原作買うか、せめて写真だけでも見たいと思ってネットで検索したのよ。そしたら、出版社の刊行予定にも入ってるし、プリビューも出回ってるのに、結局出版されなかったみたいなの。
♣ えー。それは映画が当たらなかったからじゃないの?
♠ それはあり得る。ただ、今は本にならなくても電子出版とかあるのに、まったく作品化されていないってのが気になってさ。それぐらい絵は本当にきれいだったので。

♠ 気になったので興行成績を調べたんだけど、そんな失敗作ってわけでもないな。制作費の倍は稼いでるし。
♣ ただ、この監督の前作『トロン:レガシー 』(2010)が爆発的大ヒットで、コジンスキーは「映画史上最も処女作を成功させた映画監督」と言われてることを思えば、失敗と言っていいのでは?
♠ 『トロン』のリメイクがそんなに稼いだほうが驚きだわ。私はオリジナルもリアルタイムで見てるが、ぜんぜんピンと来なかったので無視してたけど、あれって何がそんなにおもしろいわけ?
♣ さあー? ゲーム的なスピード感はあったけど、当時としても古すぎるCGをバカにしてた記憶しかないや。
♠ 気になったからYouTubeでトレイラー見てきたよ。
♣ どうだった?
♠ フルフェイスのヘルメットかぶって光り物つけた、Daft Punkみたいな人がいっぱいいた。(サントラもDaft Punk)
♣ なんだ、そりゃー!
♠ これならこないだの『スピード・レーサー』とそんなに変わらない気がするんだけど、あれはコケてこっちは大当たりって、どう違うんだろ? ディズニーが商売うまいからか?
♣ もう、それはいいから『オブリビオン』の話してください。
♠ だって気になるじゃん。普通、処女作があれだけ当たれば次は大作か、少なくとも話題作を任されるものなのに、次がこれって。
♣ 同じSFだし、行けると思ったんじゃない?
♠ それにこの2本だけでその後まったく映画撮ってない。何者なんだ? この監督は?
♣ CM出身らしいね。まだ若いアメリカ人監督。
♠ 年は若いけど、『トロン:レガシー 』といい、これといい、SFセンスはめっちゃ古いな。

♠ それじゃとりあえず、あらすじ。例によって「あっと驚くラスト」まで全部ネタバレ注意。

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海水汲み上げ装置を見守るジャック

時は2077年。地球資源を狙う宇宙人「スカベンジャー」が襲来し、人類と戦争になる。人類はこの戦争に勝利するが、スカベンジャーが月を破壊したせいで地球は生態系が崩壊し、さらに核兵器による汚染のため、地表の大部分はもはや人間が生存できる場所ではなくなっている。
人類は木星の惑星タイタンへの移住を目指し、すでにほとんどすべての人々がテット(Tet)と呼ばれる巨大宇宙船に乗り込んで待機している。地上に残った数少ない人間は、海から水を吸い上げる装置の保守と、破壊工作をもくろむスカベンジャーの残党から装置を守る仕事をしている。

主人公のジャック(トム・クルーズ)はその地上要員のひとりで、ドローンの修理工。このドローンはスカベンジャーを探し出して殺すために作られている。彼は相棒のヴィカ(アンドレア・ライズブロー)とともに、天高くそびえるタワーと呼ばれる住居に住み、テットにいる司令官サリー(メリッサ・レオ)の命令を受けて働いている。
彼らは地球に赴任するに当たって、なぜかそれまでの記憶を消されているのだが(これがタイトルのオブリビオン=忘却)、ジャックは戦前の記憶らしきものに取り憑かれている。その記憶の中で彼は恋人らしき女性とエンパイアステート・ビルの展望台でデートしているのだが、彼女が誰なのかも思い出せない‥‥.

♣ という調子で書いてるときりがないから、さっさとネタバレしてしまうと、実はエイリアンだと思っていたのは人間で、人間だと思っていたのがエイリアンで、ジャックもヴィカもエイリアンの道具として作られたクローン人間で、ジャックの夢の女性は彼の妻でまだ生きていた、というお話。
♠ 端折りすぎだ! とはいうものの、確かにそういう話。
♣ 結局、ジャックとヴィカの記憶はすべて、エイリアンに植え付けられた偽の記憶だったんだよね。
♠ 人類は戦争に勝ったのではなく負けた方で、かろうじてわずかな数の生き残りがレジスタンスを結成して地下に潜り、抵抗運動をしていたんだけど、ジャックはエイリアンの手先と信じてその人たちを狩っていたことになる。
♣ ドローンもジャックが思っていたのとは反対に対人兵器だったし。海の水を巨大な装置で吸い上げて干上がらせるなんて、いかにもエイリアンがやりそうなことだし。
♠ 粗い映像でしか登場しないサリーなんていかにも人工知能か何かに見えたし。
♣ そもそも、なんでただの下っ端エンジニアが記憶を消されているのか、説明もないし、疑いもしない時点で‥‥
♠ というわけで、あっと驚く展開、のつもりなんだろうが、もう同じような話を何度も聞かされすぎて、悪いけどなんの驚きも新鮮味もない。
♣ その代わり、話は筋が通っているし、きちんとした整合性はあるね。SF映画っていうと、これがないほうが多い。
♠ そして最後はジャックとレジスタンスのリーダーがテットに乗り込んで、自爆攻撃でエイリアンを滅ぼすというお約束の展開に。
♣ う~ん。確かにマンガだなー。良くも悪くもマンガの域を出ていない。話としてはきれいにまとまってるし、『バニラ・スカイ』みたいな「なんだ、そりゃ」感はないけど。

♠ あと古い。っていうか、ハリウッドの作るSF映画は全部古いと言っていいんだけど。なんでハリウッドのSFって60年代で止まってるの?
♣ スタジオのお偉方が知ってるSFがそのあたりだからじゃない?
♠ この話なんかモロ、ディックだしね。
♣ ディックもどきが多すぎて、どれがどの映画か、どれがどの原作だったかわかんなくなってきてるよ。
♠ 確かに60年代~70年代のSF映画は豊作だったけどね。『タイムマシン』(1960)、『華氏451』(1966)、『ミクロの決死圏』(1966)、『2001年宇宙の旅』(1968)、『猿の惑星』(1968)、『時計じかけのオレンジ』(1971)、『オメガマン』(1971)、『惑星ソラリス』(1972)、『スローターハウス5』(1972)、『ソイレント・グリーン』(1973)などなど。
♣ ああー、こうやってタイトル並べただけでもなつかしすぎて涙が出る。
♠ この映画もたぶん1960年代に見たら大感激したはずだが、もう2015年なんですが。当時のSFが「夢の未来」(もしくは「悪夢の未来」)として描いていた時代なんだけど。
♣ ぜっんぜん未来に生きてる気がしないわ。夢としても悪夢としても中途半端だし。

ワシントン

これがワシントンのなれの果て。美しい。

♣ でもね、この映画はいいところもあって、最初から書いてるけど、「絵」は本当に美しい。
♠ 人類滅亡後の地球とか、核戦争後の地球を描いた小説は星の数ほどあって、私は幼い頃からそれこそ何度も夢に見るほど強烈な印象もってた。
♣ 「私にとっての映画は夢を見るための材料に過ぎない」なんて書いてたね。
♠ うん。それでそういう映画もたくさん見たが、これほど美しい終末風景はなかった、と言っていいぐらい美しい。
♣ なんでなんだろうね? 破壊された自由の女神像がころがってるのなんて、それこそ『猿の惑星』でも見た風景なのに。
♠ むしろ『猿の惑星』があるからこれがよけいじーんとくるんじゃない? アメリカにもニューヨークにもまったく何の思い入れもない私が見てもそうなんだからね。アメリカ人が見たらそれこそ感無量だと思う。
♣ エンパイアステート・ビル、自由の女神、スーパーボウルのスタジアム、ニューヨーク公共図書館、ワシントン記念塔といった、いかにもアメリカそのもののランドマークが廃墟になってる様子が、なんともなごむ、じゃなかった胸が痛む光景なんですわ。
♠ 私はこういう風景なごむけどな。いいねえ。いいけど死ぬほど60年代だなあ。

♣ という風景が最初の10分にわーっと流れるんだけど、この10分は本当に圧巻だし感動した。
♠ allcinemaのリビューに「『プロメテウス』と同じロケ地?」と書いてるやつがいてさ、ふざけんな! スコットランドとニューヨークの見分けもつかんのか! と、最初は怒ったんだけど‥‥
♣ 確かに文明の名残りを見なければけっこう似てるかも。
♠ なんとスカイ島は人類滅亡後の未来の地球だった!!! なんかますます好きになってきたじゃないか。
♣ いやむしろ、スコットランドのハイランズがそういう私の夢の情景に似ていたから好きになったんだよ。
♠ おお! よく言った! 言われてみると確かにそうだ。すると何か? 私のスコットランド(ひいてはイギリス)愛は、まだほんの小娘だった時代から培われてきたものだってことか?
♣ ていうか馬の話でも言ったけど、血なんだと思うな。でなきゃこういう景色を見ただけで、こんなに血が騒ぐはずがない。
♠ じゃあ私はどこか文明の滅びた惑星から亡命してきた宇宙人か?
♣ さあね。前世の記憶かも。
♠ オカルトじゃねーか! オカルト嫌いとあれだけ言っといて。それなら石神さんはなんなのよ?(石神さんは私のスコットランド友達。そういや、前回の旅行記まだ完成してません。ごめん!)
♣ それが大いなる謎だ。

♠ そんなわけで、廃墟の地球の風景は本当にきれい。この現実にはありえないほど美しい風景がまさか絵じゃなくて実写だったとは思わなかったでしょ?
♣ 嘘でしょ? マットペインティングかCGか知らないけど、これはぜんぶ絵でしょ?
♠ なんで人を嘘つき呼ばわりする? 初めてスコットランド行ったときも、現実にはありえないほど美しい風景がまさか本当に存在するとは!と驚いたでしょ。
♣ えー、それじゃまさか、ほんとにスコットランドだったの!?
♠ 残念ながらちょっと違ってアイスランドだけど、まあ近いし似たようなものだ。はい、証拠写真。

冒頭のシーンの撮影風景。マジかよ!

冒頭のシーンの撮影風景。マジかよ!

♣ えー、何これ?! こっちのほうが作り物に見えるよ。バッカじゃないの!
♠ バカっちゅうことはないだろ。
♣ だって、こんな景色、今なら簡単にCGで作れるし、実写との合成だってまったく違和感なくできるのに、わざわざこんな遠い島の、こんな辺鄙なところへ行って、こんな高いところ登らなくても!
♠ 監督のジョゼフ・コジンスキーはその必要があると思ったんでしょ。
♣ しかも役者だけ岩の上に置いて、ヘリで空撮すればすむものを、こんな危なっかしいところに足場組んで、こんな大勢乗っかって撮る必要あったの?
♠ 確かにそれは思う。だからよけいこの監督はただ者じゃないって気がして目が離せなくなった。なんというか、ここまでやる人は嫌いになれないわ。

♣ これは例の海水を汲み上げてる場面で、下に広がってるのは干上がった海底なんだよね。
♠ あの白いのは塩のつもりなんだろうなと思って見てたけど、アイスランドなら雪か氷なんだろうな。
♣ アイスランドかあ。行きたくなっちゃうじゃないか。比較的近いせいか、やっぱりスコットランドの北の島々と風景も似てるね。雪と氷と火山のあるスコットランドって感じ。
♠ 実は以前からアイスランドが呼んでるんだよ。どういうわけか。ちょうどスコットランドに呼ばれたみたいに。とにかくこれ見て気になったので、もしやと思って『プロメテウス』のロケ地検索してみたのね。そしたらオープニング・シーンのあの滝はやっぱりアイスランドだった。
♣ ええー!! スカイ島じゃなかったの?
♠ 字幕にスカイ島って出るからてっきりそうかと思ってたんだけど、あの規模の滝はスカイ島にはないから、ここはCGだろうと思ってたのよ。実写にCGの風景重ねるのって今は普通だから。ところがあれはちゃんとアイスランドに実在する滝でした。
♣ ええー! それは絶対行かなきゃ。でもスコットランドよりまだ遠いし、高いし。
♠ そういうのはその気になればなんとかなる。あとは石神さんをどう説得するかだけなんだけど。
♣ まだ頼る気か。
♠ だってこういう所はいくらなんでも車なしじゃ行けないでしょう。飛行機雇えるだけの金があればべつだけど。
♣ じゃあ、他の地上の風景も実写だったんだ。
♠ いや、最近のCG技術じゃ、本当にどこまでが実写でどこまでが絵か区別が付かない。でもあれだけ大がかりなロケして、あのシーンだけしか使わないはずもないから、けっこう実写がまざってると思う。
♣ ああー、惜しいなあ。これがイギリス映画で、舞台もイギリスっていう設定で、遺物もビッグベンやタワー・ブリッジやウェンブリー・スタジアムやストーンヘンジだったら、私は冒頭の10分で号泣しながらブルーレイ買いに飛び出して行っただろうに
♠ 逆に言うと、まったく思い入れがないばかりか嫌いなNYなのに、これだけ風景にうっとりするということは‥‥

雲の上にそびえるタワー

雲の上にそびえるタワー

♣ 風景の話はわかったから、そろそろストーリーに行かないと‥‥
♠ 建物も良かったわ。特にジャックとヴィカの住む「タワー」ね。
♣ この内装がまた昔ながらの「未来の家」で笑っちゃう。真っ白で、ピカピカハイテクのクロームとガラスの家。クリシェすぎて笑われるんだけどなあ、今ではこういう家けっこう現実にあるし。ここまで高いのはないけど。
♠ でも雲の上だから、全面ガラス張りでも覗かれる心配はないね(笑)。
♣ 高所恐怖症じゃなかったの?と、つい『バニラ・スカイ』と混同してしまった。
♠ それどころかトム・クルーズがあのプラットフォームの縁に立ってる写真もあった。こんなとこ住んでみたいなー。
♣ そお?
♠ 最高の暮らしじゃん。眺めはいいし、スモッグとも地上の喧噪とも無縁で。
♣ 限りなく天国に近い住居だな。あのプールはちょっといいと思った。
♠ そう! なんと雲の上の透明プール! 底も壁もぜんぶ透明なの! あんなところで泳ぎたい! 鳥になった気分になれそう。
♣ しかも泳ぐのが夜のシーンってところがいいんだよね。まるで宇宙にぽっかり浮かんだようで。あのシーンには心底嫉妬を覚えた。うらやましい。ああいうのがSFっていうんだ。
♠ そうか?(笑) 高所恐怖症の人には悪夢だと思うけど。

♣ じゃあ、家つながりであの山小屋は?
♠ まさに「タワー」の対極として出したんだろうけど、この対比が鮮やかでいいんだな。
♣ ジャックは山の中にきれいな森に囲まれた湖を見つけるんだよね。なぜかこの周囲だけは自然がまったく損なわれていないオアシスみたいな場所で。そこに小さい山小屋が建っていて、もう家はボロボロで屋根も壁もほとんど残ってないようなところなんだけど、彼はそこでこの上ない安心感を覚える。
♠ だけど、そこは高濃度の放射能に汚染されていましたとさ。
♣ こういう心温まるエピソードでなんでそういうこと言うの?!
♠ なんかひねりが欲しくて。まんま過ぎるしご都合主義過ぎるから。地球は人間住めなくなったんじゃないのかよ?
♣ それはエイリアンのデマだったんだってば。ジャックは知らないけど、戦争が終わってから何十年もたってるし。
♠ やっぱりタワーは人の住むところじゃないってことじゃないってことか。
♣ しょせんはエイリアンの考える住まいで、人間はやっぱり地面に根を下ろしてないと、というメッセージでしょ。タワーマンションなんて高い金出して住むとこじゃないな。
♠ そうかなあ。日本のタワマンなんて興味ないが、この「タワー」なら住んでみたいがなー。

ジャックが見つけた山小屋

ジャックが見つけた山小屋

♠ ここの景色もきれいだった。
♣ 私は普通、アメリカのこういう景色は好まないし、あまりにありふれた景色で絵葉書みたいだと思うけど、それまで見てたのがあまりに荒涼とした風景だったから、緑を見てほっとする気持ちはよくわかった。
♠ ここはどこかな? ロッキー山脈?と思ったけど、ニューヨークの近くだから違うよね。
♣ アメリカの地理なんて知らないからわからない。でもここって文字通り失われた過去のタイムカプセルなんだよね。
♠ ジャックが木の幹に作られたバスケットのゴールでバスケするところなんかは、ついほろとしちゃったわ。
♣ ジャックは小屋の中でレコードの詰まった箱を見つけるんだけど、中身はどれも80年代ぐらいまでの懐メロで、どれをかけるのかなーと見ていたら‥‥
♠ Led Zeppelin! だからアメリカ人は音楽のセンスが‥‥
♣ 別にZepはいいけどさ、こういう場所で、このシチュエーションで聞く音楽じゃないだろ(笑)って話。
♠ じゃあ、なんならいいのさ?
♣ だから、ここはやっぱりアメリカの田舎っぽい音楽にしなさいよ。ジョン・デンバーとか(笑)。
♠ しかし電源どこにあったんだ?

♣ それでストーリーはどうなったの!
♠ それで、ジャックが仕事をさぼってこの山小屋でくつろいでいると、空から何かが落下してくる。行ってみるとそれは宇宙船の残骸で、周囲にコールドスリープのカプセルが散乱してるんだけど、ひとりだけまだ生きている女が見つかって、それが彼の夢の女なわけ。
♣ ジャックは彼女をタワーに連れ帰って蘇生させるんだけど、なぜか彼女はジャックの名前を知っていて、自分はジュリア(オルガ・キュリレンコ)だと名乗る。
♠ それを見てヴィカは不満げで、サリーにジュリアのことをチクり、サリーは彼女をテットに連れてこいと命じる。
♣ でもフライトレコーダーを回収しに行ったジャックとジュリアはスカベンジャーに捕まってしまう。そこでジャックはレジスタンスのリーダー、ビーチ(モーガン・フリーマン)と会い、スカベンジャーが実は人間で、テットにいるのが宇宙人だと聞かされる。さらに盗んだドローンを改造して爆弾を仕込み、テットに送り込む計画も明かすんだけど。
♠ でもボンクラなジャックは信じないんだよね。
♣ そりゃ洗脳はそう簡単には解けないでしょ。彼はまだあそこに人類がいると信じてるのに、爆弾送り込んでぶっ飛ばすから、と言われても、そうすぐにうんとは言わない。

干上がった海底を疾走するバイク

干上がった海底を疾走するバイク

♣ そこでレジスタンスはしかたなく2人を解放するんだけど、途中でジュリアはジャックに真相を話す。
♠ いや、ジュリアも冷凍睡眠中だったから本当の真相は知らないんだ。だからこの時点では断片しかわからない。でも、放射能汚染がひどくて、入っただけで死ぬと聞かされていた放射能汚染地帯がなんともなかったり、自分のクローンと対面したりするあたりから、ジャックの疑念もふくらんで、すべての謎が解けるのは、ジャックが爆弾抱えてテットに向かうシャトルの中でフライトレコーダーを聞いた時。
♣ 本物のジャックはジュリアの夫で、テットが出現した時に、調査のため最初に近付いた宇宙船のパイロットだった。ジュリアもこの船に乗り込んでいたが、他のクルーといっしょに冷凍睡眠に入っていたの。でもテットに引き寄せられ危険を感じた彼は、ジュリアたちクルーを救うため、船室を操縦室から切り離す。そのままクルーは何十年も宇宙を漂い、ジャックと副操縦士だったヴィカはエイリアンの捕虜となってクローン栽培されてたわけ。サリーは実際はNASAの管制官で、通信記録の音声と映像から宇宙人が作った人工知能。
♠ 地上の「タワー」には、どこもクローンのジャックとヴィカがいるんだよね。たぶん本体は2人ともとっくに殺されてる。
♣ それでジャックは、瀕死の重傷を負ったビーチと共に、爆弾を持ってテットに乗り込み、見事玉砕して宇宙人を滅ぼすんだけど‥‥

これが敵の正体なんだが

これが敵の正体なんだが

♠ しかし、あの宇宙人はなんだったんだ?
♣ その謎は解けてないんだよね。いちおう目的は地球の資源らしいのは確かなんだけど、なんのためにジャックたちをクローンしたのかとか。
♠ それは労働力が必要だったからじゃない?
♣ じゃあ、あれって1体きりだったの?
♠ そもそもどんな姿なのかもわからない。見えたのはあの逆三角形に赤い「目」のついたやつだけで、あれが宇宙人なのか、あの中に入っているのかもわからないし。
♣ テット自体も逆三角形だったよね。だからよけい宇宙人なのか機械なのかわからない。
♠ 『2001年宇宙の旅』へのオマージュだってことはよくわかりますけどね。
♣ HAL9000か!
♠ 赤い一つ目に無機的なしゃべり方ってそのままじゃん。これまだ続編が作れそうだな。次を作るとしたらやっぱりこの宇宙人の正体が明かされるという、『プロメテウス』みたいな展開を希望。

♠ というわけで、宇宙人はジャックもろとも宇宙の藻屑と消えて終わりかと思ったら、まだあった。
♣ ジュリアはジャックに同行してテットに行くつもりだったんだけど、ジャックは彼女をだまして例の山小屋に置き去りにする。ジャックの子を宿していたジュリアはそこでひとりぼっちで子供を産んで育てていたんだけど、ある日、そこへ生き残ったレジスタンスの面々がやってくる。そしてその一行の中にいたのは、ジャックのクローン(たぶんジャックが以前戦ったやつ)。というところで、この人たちが新たな地球の継承者となって、人類は存続する‥‥というハッピーエンドと言っていいのか?

♠ 顔が同じなら誰でもいいのかよ!
♣ その突っ込みは誰でも思いつくけど、このクローンは普通のクローン(単に遺伝子が同じだけの一卵性双生児)じゃなくて、オリジナルの記憶や人格までコピーした、宇宙人のスーパー技術によるクローンだってことを忘れないで。
♠ それでも「彼女のジャック」じゃないだろうに。
♣ それを言ったら主人公のジャックだってクローンだから本物のジャックじゃなかった。べつに彼と今後くっつくかどうかもわからないし、いいんじゃない?
♠ 他のジャックとヴィカはどうなったんだよ?
♣ だから描かれてないぶんは勝手に想像してればいいの!
♠ 彼女の方は抵抗あるだろうけど、男のほうは少なくとも妻を愛した記憶は持ってるんだから、最初はギクシャクしても結局は‥‥ってなるんだろうな。

♠ しかし、思ったよりきれいにまとまったな。
♣ うん。それだけでもすごいと言っていい。この手のSF映画って、特にミステリタッチでトリックを使おうとすると、矛盾だらけでお話にならないのが多いから。
♠ しかもその中に、「自分は自分が思っていた人間じゃなかった!」「現実は自分が思ってたような現実じゃなかった!」「人類と愛のための自己犠牲!(しかも二度死ぬ)「どっこい(クローンだけど)生きてる!」といった、月並みではあるけれど、定番の感動テーマがこれだけ入ってるのってお得じゃない?
♣ 損得で言われてもあれだけど、すごいよくできた映画(ハリウッド製SF映画としては)だと思ったよ。
♠ こういうのは予想してなかったな。「絵」もそうだったけど、ストーリーもきめ細かくよく作り込まれた話だった。
♣ いい映画だったね。もう一度見ようと思うかどうかはわからないけど、少なくとも見て損したという気にはならなかった。

♣ あと、役者についても簡単に触れてください。
♠ まずはトム・クルーズだけど、あいにく『バニラ・スカイ』のあとで見ると汚くなったなーと。
♣ そりゃ、あれから12年たってますから。
♠ それに恋愛映画ならほとんどアップですむからチビが目立たないけど、こういう体を張ったアクションは全身が映るのでかっこ悪く見えちゃう。
♣ でもこの人のスタントを使わない体当たりアクションは定評があるんですけど。
♠ だからがんばってるのは認めるけどさ、やっぱりどうせ見るならかっこいい男のアクションのほうがいいわ。

♠ あとはほんと出演者少ない映画なのよね。特にレジスタンスが姿を現すまでは、ジャック、ヴィカ、ジュリアの3人だけで話が進むし。
♣ というわけで女優2人はどうでした?
♠ まずぱっと見の印象として、キャメロン・ディアスとかアンジェリーナ・ジョリーとかニコール・キッドマンとか、いかにもな女優を使わなかったのは正解だと思う。
♣ 「いかにもな」って?
♠ だからいかにもハリウッドスターでございますっていう感じの女優。それより無名だけどクールでSFチックな女優さんを並べたのはとりあえずマル。
♣ 前も言ってたけど、そのSF的かそうじゃないかっていうのの違いがよくわかりませんね。

お人形のようなアンドレア・ライズブロー

お人形のようなアンドレア・ライズブロー

♣ じゃあ、各人の感想をどうぞ。まずはヴィカ(ヴィクトリア)を演じたアンドレア・ライズブロー(Andrea Riseborough)は?
♠ イングランド人で、陶器の人形のような透き通った感じの、はかなげな女性で、顔立ちも淡白で幼げ。私はまったくタイプじゃないけど、べつに嫌いでもない。でも好きな人にはたまらないだろうなというタイプの女優さん。
♣ なんか彼女すごくかわいそうじゃなかった? あの薄幸な感じも男にはたまらんかも。タワーでは彼女とジャックは恋人同士だったわけよね?
♠ まあ、他に誰もいなかったし。
♣ それで静かな満ち足りた暮らしをしていたところへ、彼の妻を名乗る女がいきなり現れたわけだから、内心の動揺は半端なかったよね?
♠ うん。だから、私はてっきり彼女がジュリアに何かすると思って、ドキドキハラハラしちゃった。あの辺のサスペンスもよかった。
♣ でも結果としてはベソかいてサリーに言いつけるぐらいしかできないあたり、あー、やっぱり悪い人じゃなかったんだと。
♠ ジャックは真相を悟るけど、ヴィカは自分の正体も何も知らないまま、あっけなく処分されちゃうところもかわいそうだ。

♣ でもほころびみたいなものは、ジュリアの登場以前からあったよね。たとえば、ジャックはあの山小屋に魅せられたけど、そういう気持ちはたぶんヴィカにはわからない。
♠ そりゃ、ジャックが彼女を喜ばせようと持ち帰った花を、汚染されてるから捨てろと言うような女だから。
♣ ジャックは彼女を地上に連れて行きたがるんだけど、それも断固拒否するし。
♠ 彼女はガラスの塔の中でしか生きられなかったんだなと。
♣ ていうか、それだけエイリアンの洗脳が完璧だったということでしょう。ジャックは消したはずの妻の記憶が残っていたというところだけ見ても、完全にはエイリアンの道具にはなりきれてなかったけど、ヴィカはもう人間じゃなかった。
♠ やっぱりかわいそうじゃないか。

主人公のジュリアとジャック

主人公のジュリアとジャック

♣ 続いてはジャックの妻、ジュリアを演じたオルガ・キュリレンコ(Olga Kurylenko)。
♠ 名前からしてロシア人?
♣ ウクライナ人。ファッション・モデル出身で、2008年の007『慰めの報酬』でボンドガールに選ばれたことで有名になった。
♠ さすがモデル出身だけあって、すらっとした体つきは好きだけど、あんまり美人じゃないんだよね。なんかおばさんくさい顔立ちで。
♣ そのせいか、日本じゃヴィカのほうがずっと人気があって、ヴィカを捨ててジュリアを選んだことに納得いかない人が多いみたい(笑)。
♠ この役は戦うSFヒロインだから、これでいいと思ったな。問題はあんまり顔が好きじゃないだけで。
♣ ここに♥がいたら熱狂しそう。
♠ 確かに。「タンクトップ着てるだけでもいい」って言いそう。
♣ この2人のヒロインはどっちもほとんどスッピンなのも気に入った。生きるか死ぬかの冒険の最中に、しっかりメイクしている女優見るとアホかと思う。

♠ 男優の話もしよう。モーガン・フリーマンはいつも通りモーガン・フリーマンだった。
♣ なんだ、そりゃ?
♠ あの人出しておきさえすれば、映画に深みが出て、シリアスな印象になるという、ある意味チートな役者。
♣ 彼は出番も少なく、ちょっと印象薄かったな。それを言ったらレジスタンスはみんなそうだったけど。レジスタンスの暮らしぶりや苦難をもう少し描くともっと深みが出たかも。

レジスタンスの幹部の面々。右が「ジェイミー」。

レジスタンスの幹部の面々。右が「ジェイミー」。

♠ でもモーガン・フリーマンの片腕みたいな存在の若い男がジェイミーだったのよ!
♣ ジェイミーというのは『ゲーム・オブ・スローンズ』の登場人物で、それを演じたニコライ・コスター=ワルドー(Nikolaj Coster-Waldau)が出てるということを言いたいみたいです。
♠ やっぱりかっこいいよね。
♣ うーん、『ゲーム・オブ・スローンズ』はやっぱり金髪補正というか、ラニスター補正がかかって美青年に見えるけど、こうやって汚くしてるとまあそれなりかなと。
♠ なに言ってるのよ! ジェイミーも汚れ役がいいんじゃない。どうせなら彼ももっと見たかったので残念。トム・クルーズのアクション・シーンなんていらないから!

♣ というわけで、まったく期待せずに見始めたわりにはおもしろかったし、いい映画でした。
♠ この監督のコジンスキーはかなり撮れる監督だと思う。だからもっと見たいんだけど、作品が2本しかないというのはどうしても納得がいかない。
♣ いちおう予定されてるのも『トロン』のパート3だけだしねえ。
♠ もったいない。それよりこのグラフィックノベルちゃんと出してほしいわ。
♣ ほんとにくどいようだけど、映像の美しさとデザインの良さはピカイチだった。『2001』に匹敵すると言ってもいい。
♠ そういや、メカデザインもかっこよかったよね。なんとも古いだけで。
♣ というわけで、ノスタルジーに浸りたいSFファンにはぜひおすすめ。

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