★★【映画評】博士と彼女のセオリー(2014)The Theory of Everything

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原題を見て物理学の映画だと思って見たら恋愛映画だった。しかし、ロマンチックなラブストーリーには絶対になり得ないこの話を、これだけ美しくかわいらしい映画にした制作者には脱帽。
もともとホーキングが大好きなのと、男の子たちのかわいさに目がくらんだせいもあり、私としては珍しく甘い、スティーヴン・ホーキングの最初の奥さんの手記の映画化。

「でも科学はもっともっとロマンチックで美しいよ!」

Directed by James Marsh
Produced by
SCreenplay by Anthony McCarten
Based on Travelling to Infinity: My Life with Stephen
by Jane Wilde Hawking

スティーヴン・ホーキングと私

♦ というわけで、これはスティーヴン・ホーキングの伝記映画なのだが、始める前に私が長年にわたってホーキングのファンだってことは書いておかないと。
♥ ご多分に漏れず、“A Brief History of Time”(1988)(邦題『ホーキング、宇宙を語る』)が話題になったとき、すぐに買って読んでファンになったんだけど、これがベストセラーになったせいでNHKがホーキングのドキュメンタリー(たぶんイギリスで制作されたもの)を放映して、それを見て感動してますます好きになった。
♦ あれから30年近くたつなんて‥‥映画を見て、それからホーキングの画像探してネットを見たら、すっかりお爺さんになってるので驚いた。
♥ 自分もお婆さんになってるのを忘れてる。でも余命2年と言われた人が、それから50年以上たった今もまだ生きてるというだけで感動する。
♦ 健常者の多くより長生きしてるじゃないか!
♥ もし診断通り彼が数年で亡くなってたら、人類の科学は確実にある程度停滞していたことを思うと、やっぱり神はいるような気もしてくる。
♦ こらこら、それはこの映画の大事なテーマでもあるんでまた後で。

♥ で、結局なんでまだ生きてるの?
♦ なんちゅう言い方だ。これはネットを見てたらかなり勘違いしてる連中も多いんだけど、治ったわけじゃないよ。
♥ しかし筋萎縮性側索硬化症(ALS)って、原因不明、治療法なし、不治の病で、発症したら余命は2~5年ってすごいね。
♦ 彼の場合、病気の進行がすごい遅かっただけなんだよね。それでも病状は少しずつ悪化しているし、最後は自力呼吸ができなくなって死ぬけど、今は小型人工呼吸器があるので生き延びている。
♥ 人工呼吸器って、昔は「鉄の肺」って言ってたあれでしょ。よく映画とかに出てきたんで覚えてる。
♦ 部屋いっぱいぐらいのサイズの巨大なタンクみたいな装置で、患者はその中に身動きもできず閉じ込められてるやつね。
♥ それが今は車椅子に取り付けられるほど小さくなったんだ。コンピューターといい、やっぱり科学の進歩ってすごい。SFみたい。
♦ でも、私が知ってたころのホーキングは、確か片手の指が一本だけ動くとかで、指で入力装置を操作していたけど、それも動かなくなったので、頬の筋肉が少しだけ動くから、それで動かす練習をしたんだけど、それさえも難しくなってきて‥‥という、科学と病気の追っかけっこみたいになってる。
♥ でもおかげで新技術が開発されれば、障害者の人全部が助かるよね。その意味でも彼は人類に貢献している。

♦ それはそうと、映画ではちっとも彼の専門に触れてなかったんで、先に物理学の話をしよう。
♥ ええ~、なにしろ私、年取ってすっかりバカになっちゃったし、最近の物理学には疎くて‥‥
♦ 何もここでホーキング物理学の講義をしろとは言ってない! ただの感想でいいから。そもそも“ A Brief History of Time”読んでなんで気に入ったんだっけ?
♥ どうせわかんないだろうと思って読んだら、意外とわかった気になっておもしろかったから。
♦ なんだ、そりゃ?

♥ 私、先端科学の啓蒙書(一般人にもわかるようにやさしく解説した本)読むのがもともと趣味なんですよね。
♦ やむなく文系に進んだけど、本来は科学系に行きたかったので。
♥ その理由も高校で遊びすぎて、というかぜんぜん勉強してなくて高校もろくに行ってなかったので、勉強なしで行けるのは私大文系しかなかったという。
♦ もし希望通り理系に行けたら何を専攻したかった?
♥ 理論物理学(ホーキングの専門)か理論数学。
♦ どっちにしろ金にならない学問ばかり(笑)。
♥ なんでよー! 理論科学は学問の女王よ!
♦ それもたまたま理論物理学や理論数学を応用したSFが好きだったからというだけじゃない。
♥ 今ここではとても述べきれないけど、理論物理学ってSFですら想像もつかないような「ありえざる世界」を見せてくれて、ほんとにSFやファンタジーを超えてるから好き。
♦ ポイントはそれがファンタジーじゃなく事実だってところなんだけど。

♦ でも実際はあきらめて良かったんだよ。理論科学なんてやってたら今ごろ完全におまんまの食い上げだったから。
♥ いきなり現実に引き戻さないでよ。
♦ 確かに英文学だって食べられない学問の代名詞だったけど、私は英語教えられるからまだつぶしが利いて、未だに雇ってくれるところもあるからね。
♥ あの時代に女で科学なんてやってたら、どこかの中学の理科教師で一生悶々として終わるか、好きでもない男と結婚するしかなかった。
♦ 歴史学者とか経済学者なんて、文学よりはまだ需要ありそうに思えるけど、よほど運のいい人以外は食いっぱぐれてるもんな。
♥ 語学だって英語だけだよ。英語以外の語学教師はどれも仕事ない。
♦ おっと、これ読んで勘違いする学生とかいると困るから断っておくと、大学院出てれば仕事があったのは昔の大学の話。(それももちろん大学が限られるけど) いま日本人がまともな大学で英語教えようと思ったら、最低限、英米のまともな大学の博士号持ってる必要があるから。(まともと言ってるのは本当に大学もピンキリなので)
♥ それで給料はそれだけの投資にまったく見合わないという。そんな能力あるなら海外で就職した方がずっとまし。
♦ ていうか、今の日本の大学が職もないのに大学院生濫造しすぎなんだよ。私の時代は大学の先生になりたくて5年も6年もドクター試験受け続けて、それでもだめであきらめて去って行く人多かったもん。

♥ なんかホーキング先生とまるで関係ない自分語りになってますが
♦ そうだった。それでホーキングを読み始めたのもその趣味の延長だったということ。
♥ 私の場合、小説読んだり映画見るのは仕事のうちなんですよね。だから趣味としては科学書を読む。
♦ 中学生ぐらいの時にジョージ・ガモフと出会ったのが最初かな。それで物理学や数学に夢中になって、その後、オリヴァー・サックスハロルド・クローアンズにハマって神経医学の本を読みあさって、それから古生物学が好きだったからスティーヴン・ジェイ・グールドは全部読んでたんだけど、それが物足りなくなってきたころにリチャード・ドーキンスと出会って、今は彼が最大のアイドル。
♥ だから映画の話!
♦ はいはい。

「タイトル」の話(題名と称号の両方に引っかけてるのよ)

♦ 最初にお約束だから邦題にケチ付けておこうか。
♥ 原題は“The Theory of Everything”で、世界中の物理学者の永遠の命題である「大統一理論」自然界に存在する4つの力――電磁気力・弱い力・強い力・重力を統一的に記述する理論)のことなんですけどね。
♦ なのに『博士と彼女のセオリー』ってなんなのよ? 彼女って誰よ? いったいどういう理論なのよ?
♥ でもこの原題のおかげで私はだまされたから。物理学についての映画だと思ったから! それよりはこの邦題のほうがまだ内容に近いとは言えない?
♦ 物理学についての映画ってなによ? 教育番組的な何か? そんなわけないでしょ。
♥ だってスティーヴン・ホーキングの映画でこんな臆面もないラブストーリーになるとは思わないじゃない!
♦ 確かに。というわけで、まず予想外だったのは、これがホーキングと最初の妻ジェインとの恋愛映画だったってこと。
♥ そんなのあるか!
♦ でも難しいところだよね。恋愛映画でも、物理学についての映画でもなかったら‥‥
♥ 難病ものになってしまう!
♦ それそれ、これをお涙頂戴の難病映画にしなかったのは、やっぱりイギリス映画の見識だと思うんだ。
♥ 確かにそれはいやだな。まだラブストーリーの方がましだ。

♦ でも原題もけっこうひどいよ。宣伝文句が、

希望こそすべて
命こそすべて
愛こそすべて

だからね。
♥ 違うだろー! 彼にとっては「物理学がすべて」で、彼から物理学取ったら何も残らないじゃん。
♦ まあ、その辺が映画の限界でしょう。物理学の映画じゃお客入らないしオスカーも取れないから。

♥ ところで本題行く前に一言いっておきたいんだけどさ、この映画やホーキングについてネットを調べてて気付いたんだけど、なんでか日本ではどこでも「ホーキング博士」と呼んでるんだよね。
♦ そう言われてみるとそうだ。
♥ それがWikipediaでも一般人の感想でもそうなんだよ。この邦題も。これなんで? ふつう博士号持った科学者をいちいち博士つけて呼ばないよね。向こうでだって普通にStephen Hawkingで、Dr Hawkingなんて言わないよ。念のためリチャード・ドーキンスでも調べたけど、普通に呼び捨てだし。
♦ なんでだろうね? 本のタイトルも『ホーキング、宇宙を語る』で呼び捨てだったし。
♥ そういえば、向こうでの称号も付けるとしたらProfessorだよね
♦ 最近、医者以外はまずDoctorの称号は使わない。なんとなくバカにしてるように聞こえるからじゃないかと思うんだけど。
♥ 博士号はアメリカのゴミ大学とかが乱発してるし、もうありがたみないものね。

♥ それで日本の話だけど、私の思い過ごしかもしれないけど、なーんか障害者に対する逆差別みたいな気がしてならないのよ。「博士」を付けることでキャラクター化して差別感情を押し隠そうとしているような‥‥
♦ う~ん、差別かどうかは知らないけど、キャラクター化してるのは事実だしねえ。あまりにも印象的な人物だし。
♥ だから私は意地でも博士を使わないことにした。
♦ ご自由に。でも日本人はアインシュタイン博士とも言うよね。
♥ マンガの「ハカセ」キャラのつもりかな。
♦ なんかこれって意味のない敬称のつもりなんじゃないの? 〇〇先生みたいな。
♥ 先生はもっと嫌い。映画のキャラクターは普通ファーストネームで呼ぶんだからスティーヴンでいいや。
♦ なんかそれもなれなれしいと思うが。
♥ じゃあ、以後、映画のキャラの話はスティーヴンで、実在の人はホーキングね。
♦ ややこしいわ!

♦ そういや私は日本人が誰でも「さん」付けで呼ぶのが嫌いだ。黒澤関係で日本人の書いたものいろいろ読んでたんで、よけいそれが気になって。
♥ 「黒澤さん」とか「三船さん」とかね。
♦ 「さん」付けで呼んでいいのは個人的に黒澤や三船を知ってた人だけだ。不思議なことに「さん」付けのほうがなれなれしく感じて不快なんだよね。
♥ 関西の習慣かしら? 関西人ってなんでも「さん」を付けない? 「お豆さん」とか「電通さん」とか(笑)。

イギリス映画について

♥ とりあえず見始めて「うわー!」と思ったのは、久々に故郷へ帰ってきたというなつかしさ。
♦ ずーっと黒澤映画特集やってたからねえ。(まだ続くけど) それでその合間の息抜きにくだらないアメリカ映画ばっかり見てたから、イギリス映画が新鮮で新鮮で。
♥ ていうか、テレビってほとんどイギリス映画やらなくない? それだけがレンタルビデオに負けるかな。
♦ それはテレビだからじゃなく、イギリス映画自体が日本に輸入されることが減ってるのよ。ミニシアターが全滅してから、ほとんどヨーロッパ映画なんて見られない。昔は「こんなのまで?」と思うようなマイナー映画もよく輸入されたのに。
♥ まあ、今はAmazonで輸入盤でもなんでも買えちゃうからいいんだけど、「試聴」ができないのがなあ。

♦ とりあえず、イギリス映画最高! 景色がきれい! 色調がきれい! 家がきれい! インテリアがきれい! 言葉がきれい! 声がきれい! とどめに男の子たちがきれい!
♥ イギリス人が美形揃いとは私も言いませんけどね。ただ前にも書いたように、イギリスじゃ役者は基本的に舞台出身のせいか、声とルックスとスタイルのいい人が多いのよね。アメリカと日本はそうじゃないみたいだけど。
♦ それはどうか知らないけど、教室の場面なんてうっとりだったわね(残念ながらスチルなし)。建物はすばらしいし、そこに集まってる男の子たちもすばらしいし。
♥ 私はずっと大学が舞台なのかと思ってたから、すぐに家庭内の話になっちゃってがっかりしたよ。
♦ ケンブリッジの町自体きれいだし、校舎はロマンチックだし、男の子たちはみんなかわいいし、学生時代の話だけでも良かったのに。
♥ とにかく出てくる役者がみんなイギリス人顔だし、イギリス英語しゃべるし‥‥。
♦ って、イギリス映画だからあたりまえじゃん(笑)。
♥ あたりまえのはずなんだけど、本当に久々に見たからそれだけで感動した。

主演のエディ・レッドメインについて

Theory-of-Everything04♥ 彼はなにしろこの演技でアカデミー主演男優賞とったし、いちおう名前だけは前から知っていたけど見るのは初めて。
♦ イギリス人俳優は名前からしてかっこいいもんなー。アメリカ人は名前聞いただけで萎える。
♥ 『赤毛のレッドメイン家』(1920年代の英国の推理小説)。
♦ 何が言いたいわけ?
♥ 単に言ってみたかっただけ。

♦ それでエディ・レッドメインがどんな顔してるのかも知らなかったんだけど、この手の伝記映画ではどれだけ本人に似せるかがポイント
♥ 最初の場面を一目見て「ホーキング博士だ!」と思ったもんね。
♦ 博士は使わないんでしょ。映画は彼がまだケンブリッジの大学院に在学中、ALSを発病する前から始まるんで、その当時のホーキングの姿なんて知らなかったにもかかわらず、確かに彼が若くて麻痺してなければこうだったろうと思える顔なんだよね。
♥ こうだったろうという顔の多少美化したバージョンだけどね。でも基本的にはそっくり!
♦ それもそのはず、この人たち典型的なイギリス人顔じゃない。でかい目、でかい鼻、がま口みたいなでかい口、馬みたいなでかい前歯、かわいい~!!!
♥ 私の美意識疑われるような発言は控えてほしいんだけど。
♦ だってかわいいじゃない! 絶対タイプ!

♥ と思ったんだけど、素顔のエディを見ると、そばかすだらけのわりと貧相な小僧なのよ。背は高い(180cm)けどね。
♦ これは髪型がいけないんじゃないかな。この手の子は絶対おでこ出すべきじゃない。前髪下ろすとかわいいじゃない。
♥ ほんとだ! かわいい!
♦ すごく少年っぽい顔立ちだから、髪型もくしゃくしゃっとした子供っぽい髪型がすごく似合う
♥ そういや、この頃(1960年代)男の子はだいたい前髪下ろしてたんだよねー。いい時代だった。
♦ でも基本的にホーキングと似た顔立ちなんだと思う。彼も74になる今でもどこか少年っぽいじゃない。
♥ それはそうかもね。ほんと病気でさえなければホーキングもかわいかったのかも。
♦ というところで、ほら、証拠写真。どっちが本物かわかるかな?

上段 若い頃の二人 左が本物 右が偽物 下段 中年の二人  右が本物 左が偽物

上段 若い頃の二人 左が本物 右が偽物
下段 中年の二人  右が本物 左が偽物

♥ すげえ! ジェインの顔見るまでどっちが本物かわかんなかった!
♦ ジェインは本物よりかなり美人というか‥‥。

ヒロインのフェリシティ・ジョーンズについて

♦ じゃあついでだから、ジェインを演じたフェリシティ・ジョーンズについても。
♥ まずジェインには似てないし、似せようという努力もしてない。
♦ それはべつにいいんじゃない? つまりホーキングは顔が知られてるから似てなかったら問題だけど、別れた奥さんの顔まで知ってる人はそうはいないから。それにどうせならヒロインは美人のほうが観客にはアピールするし。
♥ 本物のジェインもちょいブスだけど、感じのいい人なんだけどね。

ジェインを演じたフェリシティ・ジョーンズ

ジェインを演じたフェリシティ・ジョーンズ

♥ この人も初めて見る顔だなー。
♦ 彼女も典型的イギリス美人。品が良くて清楚な感じの古典的美人で。
♥ 役柄的にはそれでいいと思うけど、30過ぎてたのには驚いた。すごく若く見えない?
♦ それは映像のマジックで、素顔だとそれなりだよ。
♥ ただ、私はこの手の女の子はいまいち。背低いし、かわいいけどピンとこない。

ブライアンを演じたハリー・ロイドについて

学生生活を謳歌するブライアン(左)とスティーヴン

学生生活を謳歌するブライアン(左)とスティーヴン

♦ おおー! この写真いいなあ。特に男の子たちの服装が!
♥ アメリカや日本の大学生とは格の違いが明白ですな。
♦ さすがに今はここまでクラシックじゃないけど。ところでブライアンというのは学生時代のスティーヴンのルームメイトで、映画では生涯を通じての友人ということになっている。ドラマ的にはちょい役なんだけど、とにかく出てきたときからあまりにもハンサムなんて私は彼に目が釘付け
♥ それで、絶対見たことのある顔だなあ、でもどこで見たのか思い出せないなあと悩んでたんだけど、あとから調べてびっくり! 『ゲーム・オブ・スローンズ』のヴィサーリス・ターガリエンじゃないか!
♦ 人間離れした絶世の美男美女ばかりのはずの、ターガリエン王朝の最後の最後の男子にしては不細工だと私は不満だったのだが。まあ、あれは役柄もアレだったが。
♥ あれは髪型が悪いよ。ターガリエン家は全員銀髪なんだけど、女の子はまだしも、男はハゲ散らかしたおっさんに見えちゃって。
♦ そこまでひどくはなかった! でも素顔はこんなに美少年だなんて知らなかった!
♥ だからそれも前髪補正入ってるよ。実際、オフのおでこ出した顔はこれほどかわいくないし。
♦ ターガリエンはやっぱりトールキンのエルフのイメージなんで、髪なんかあのストレートのブロンドのカツラで良かったのに‥‥ぶつぶつ‥‥
♥ とにかくかわいい! 彼の映画もっと見たい。年とっちゃう前に。
♦ (フィルモグラフィーを見ながら)やっぱりイギリス役者はテレビが多いなあ。『ドクター・フー』にも出てたんだね。

しつこくハリー・ロイド

しつこくハリー・ロイド

♥ 名前もいいよね。ハリー・ロイドなんていかにもイギリス人らしくて最高。
♦ エドワードとか(エディはエドワードの愛称)ヘンリーとか、「王様の名前」はいかにも育ちが良さそうで良いね。それにくらべてアメリカ人は‥‥ドウェインだのドワイトだの、名前聞いただけで肥臭い田舎者丸出し‥‥って、イギリス人に言ったら本当にそうだと言って笑い転げてたけど。
♥ ただ、名前がかっこよすぎて名前だけ聞くと50才ぐらいの紳士を思い浮かべてしまう。若い子のように思えない。
♦ (ハリーの経歴を見ながら)げっ、この人、チャールズ・ディケンズ(イギリスを代表する小説家)の曾曾曾孫なんだって!
♥ うっそー! じゃあ、ほんとに名門のお坊ちゃまかも。
♦ ディケンズは貧民の出だったけど、この人はイートン校からオックスフォードへ進んだっていうからお坊ちゃまには違いないし、頭も良さそう。
♥ うっとり~‥‥。

♦ デビュー作はBBCのドラマ『デイヴィッド・コパフィールド』で、ひいひいひいお爺ちゃんの作品だったんだなー。
♥ それって(ハリー・ポッターの)ダニエル・ラドクリフのデビュー作じゃないか! それDVDで持ってる!
♦ スティアフォースの少年時代を演じてたって。これは見返してみなくちゃ。
♥ で、さっそく見たんだけど‥‥あんまりかわいくない(笑)。
♦ ていうか、彼がダニエル・ラドクリフよりずっと年上なのに驚いたわ。
♥ ダニエルが89年生まれで、ハリーが83年。6才しか違わないんだけど、10才のダニエルがまだ赤ちゃんそのものだったのに、ハリーはちゃんとティーンエイジャーになっていて驚いた。
♦ この年頃の年の差は大きいからね。今はむしろハリーのほうが若く見えない? で、確かにこの顔なんだけど、あんまりかわいくなかった。
♥ まあ、この当時のダニエル・ラドクリフは、ほとんどチャイルド・ポルノ級の愛らしさだったから、それと並ぶと不利だよ。
♦ どうしてあのまんま大きくなれなかったのかしら。単にかわいらしいだけじゃなくて、すごいセクシーだったのに。
♥ ところでホーキング博士はどうなったんですか?
♦ そうだった。それはそうと、このBBC版『デビッド・コパーフィールド』(上と違うが日本ではこの表記になってる)は、ダニエルとハリーの他にも、マギー・スミス、ボブ・ホスキンズ、ゾーイ・ワナメイカー、イアン・マッケラン、エミリア・フォックスなど、イギリスの名優勢揃いで見応えたっぷりでおすすめよ。
♥ 特にマギー・スミスのファンは絶対見るべき。マギー・スミスのファンっているのかどうか知らないが、少なくとも私はファンだ。

恋愛映画としての “The Theory of Everything”

ラブストーリー嫌いだけど、この人たちはかわいいからいいや

ラブストーリー嫌いだけど、この人たちはかわいいからいいや

♥ というわけで、結婚するまでの部分は身も蓋もないラブストーリーで、もう恥ずかしくなるぐらいお花畑のロマンチックなシーンばかりで、そういうのはまったく予期してなかった私は、ぽかーん‥‥だったんだけど。
♦ う~ん、でもべつに悪い気はしなかったよ。映像は美しいし、なにしろ二人とも若くてかわいいし。
♥ ソフトフォーカスで光がキラキラ、夜のシーンはライトがキラキラで花火も上がっちゃうし、カメラはぐるぐる回っちゃうし、もうどうしましょう!って感じ。
♦ 普通ならそういう映画は嫌悪するんだけど(笑)、この人の場合、若いうちに普通の恋愛ができて良かったねとしか思わない。
♥ ていうか、スティーヴン・ホーキングが自転車乗ったり、走ったり、スポーツしたりしているのを見ると、なんか泣けてくる‥‥
♦ ほんとにねえ‥‥(涙をぬぐう)なにしろ若かったしねえ、まさか自分が二度とそういうことはできなくなるなんて、夢にも思わなかっただろうし‥‥。

♥ だから、普段なら嫌う恋愛部分も泣きながら見れたからいいとする。でも、これを恋愛映画にしてしまうのって神経疑うと思った。
♦ 絶対にハッピーエンドにはなり得ない話だからねえ。夫は若死にするのがほぼ確実‥‥というのを除いても‥‥。
♥ なにしろ結婚して子供3人産んでも、家事育児や家の管理運営に夫の協力は一切得られないばかりか、指一本動かせない人を24時間完全看護だからねえ。それをやりながらこの人(ジェイン)は博士論文も書いてたんでしょ。
♦ それは私も、最初にNHKのドキュメンタリー見ながら思った。この女性、よく結婚する気になったなと。
♥ その答は、まあこれを言ったらおしまいだけど、そんなに生きるとは思わなかったんでしょう。生きられるのは2~3年、長くても10年ぐらいなら、せめて最後まで人間らしい暮らしをさせてあげようと思ったんじゃない?
♦ 発病前からの恋人ならやっぱりそう思うよね。あと、心が汚れたこと言ってすみませんが、夫の介護を我慢すれば、もれなく天才の遺伝子がもらえる
♥ いや、結婚した時点じゃまだ無名だし、天才かどうかはわからなかったでしょう。頭がいいことだけは確実だったけど。その意味、ジェインはほんと天使だったと思うよ。うら若いお嬢さん、それも彼女も大学院へ行ってて輝かしい将来ある人が、あの年で介護人生に身を捧げるって。
♦ あそこでジェインに捨てられたら、本当にダブルショックで自殺とか考えた可能性もあるしね。
♥ 別れはしたけど、その意味ではジェインには心から感謝しているらしい。

介護映画としての “The Theory of Everything”

♥ ただ、その介護人生が何十年と続くと、さすがにきれいごとでは済まされなくなる。
♦ いや、これは映画見るまで知らなかったんでショックだったんだけど、あれほどの人(才能も障害の程度も)なら、当然、選りすぐりのプロの介助者や看護師のチームが付きっきりで世話してるものとばかり思ってたんだよ。
♥ まさか‥‥(笑)。
♦ なのに、奥さんひとりで何もかもやってただなんて! なんで?
♥ 映画では「人を雇ったら?」と言われて、奥さんが「そんな余裕ない」と言ってたけど。
♦ 確かにイギリスなら医療費はすべて国が持ってくれるとはいえ、人件費高いんで住み込みの看護師雇うのは半端ないお金がかかるし、大学教授の給料なんてたかが知れてるし、本がベストセラーになったと言ったって、物理学の本じゃタレント本ほどにも売れないし。
♥ これがアメリカなら、テレビとかにバンバン出て、「悲劇の天才」アピールして、スポンサー付けて、それで費用をまかなうんだろうけど、イギリスじゃ考えられないな。
♦ さすがにイギリスはそこまで落ちてないし、彼自身も静かな生活を優先したかっただろうし。

♥ でもこれが日本なら、スティーヴンの両親とか、ジェインの両親が黙って見てはいないよね?
♦ 噂ではホーキングの両親はジェインが嫌いで、どうせすぐに別れると思っていたんだという。そうなれば息子は戻ってくるから、それまではわざと放っておいたみたいな。
♥ ううっ、重い。でもあんな苦労しているの見たら、奥さんのお母さんはきっと手助けに来るし、そうでなくても資金援助ぐらいはするでしょう?
♦ なのに成人した子供には手を出さないあたりが、いかにも英国の個人主義だよね。もちろんスティーヴンがひとりだったら親が面倒みたとおもうけど、ジェインはすべてわかっていて結婚したわけだし。
♥ まあ、資金援助ぐらいはしただろうけど。

♦ その辺の事情を知りたいとは思ったけど、私、すでに出ているホーキングの自伝も、ジェインの手記も読んでないんだよね。
♥ ホーキングは物理学者としての実績だけですばらしいんで、そういう個人的なドロドロした部分は知りたくなかったから。
♦ ただ、だいたい察することはできるんだ。まず、ホーキング自身がジェイン以外に介護されるのをいやがったというのを読んだけど、その気持ちは大いにわかる。
♥ 最初から障害者だったら慣れてただろうけど、成人になって発病した若い男性にとって、自分のそういう弱い部分を他人に見られるのはすごい屈辱だってのはわかるんだ。相手が親でもいやかも。
♦ まあわがままではあるけど、その気持はわかるし、なんとかしてあげたい妻の気持もわかる。

♥ ただ、これは映画では描かれてないけど、ホーキング自身、決して付き合いやすい相手ではないよね。
♦ うん、これもはっきりとは言われてないけど、それとないほのめかしで容易に想像できちゃう。悪い人ではないけど‥‥
♥ 変人(笑)。
♦ これは彼自身が認めてる。ついでに家族も全員変人だって(笑)。
♥ 自戒も含めて、大学なんて変人しかいないから。ていうか、そうでなかったら学者なんてならないし、ましてや天才科学者、ましてや変人を偏愛するイギリス人(笑)では、普通人だって聞かされたらかえってがっかりするから、これは期待通り(笑)。
♦ ただ、そういう人は見てるぶんにはおもしろいけど、いっしょに仕事したり、いっしょに暮らすとなると大いに問題ある。

♥ 実際、奥さんはホーキング家の家風になじめなかったって。彼のお母さんには面と向かって「私たちあなたが嫌いなの」と言われたって。それとなくだけど、映画でもほのめかすシーンがあるでしょ。
♦ 彼の実家に招かれるシーン? あそこで出てくるスティーヴンのお父さん(サイモン・マクバーニー)いいじゃない?
♥ ちょっとしか出ないけど存在感抜群! すごい好き! どこがどうとは言えないんだけど、なんか変で。お父さんも研究者だよね?
♦ 医学だけどね。寄生虫学の専門家らしい。
♥ いかにもすぎる!
♦ 大学なんてああいうのばっかりだよ(ただし性格の話でルックスはもちろん役者のほうがいい)。たぶんスティーヴンも何もなければああいう大人になったんだと思う。魅力的だけど厄介なタイプの男性に。
♥ だけど、それが病気である程度ゆがんだと考えると‥‥。
♦ これはもう難しい人になっただろうね。奥さんの苦労が忍ばれる。

変人っぷりがすてきだったサイモン・マクバーニー

変人っぷりがすてきだったサイモン・マクバーニー

♥ というわけで、ジェインは精神・肉体の両面で疲弊しきってしまう
♦ そこへ現れたのがジョナサン・ジョーンズ(チャーリー・コックス)。彼は教会の聖歌隊の指導者だったんだけど、介護の気晴らしに聖歌隊に入ったら?という勧めに応じたジェインが教会へ行ったことで知り合った。
♥ 映画ではなんかいい人オーラ全開で笑っちゃったけど。
♦ いい人だったんじゃない? ジェインが苦労してるのを知ると、すすんで介護を手伝ってくれたんだから。
♥ でもスティーヴンはいやがらないのね。奥さん以外に世話されるの嫌じゃなかったの?
♦ 最初はすごい嫌な顔してたじゃない。食事中にジェインが席を外したとき、ブライアンがスプーンで食べさせてやろうとすると。

♥ でもなんでかジョナサンはホーキング家に受け入れられてしまう。
♦ この辺がやっぱり変人というか普通の夫婦じゃないんだけど、ジョナサンとジェインのことは夫公認だったらしい
♥ その辺、映画ではぼかされてたんでよくわからないんだけど、あの二人は結婚するまではプラトニックじゃなかったの?
♦ なわけあるかい。ていうか、家に他の男性入れるにあたって、スティーヴンがいちばん期待してたのはそっちのサポートでしょ。自分では妻を満足させられないことはわかってたんだから。

♥ 映画でも3人目の子供(ティム)はジョナサンの子じゃないかっていうのがほのめかされてた。
♦ それについては、インタビューでジェインがティムは間違いなくスティーヴンの子だって。ここまで公認なのに嘘ついてもしょうがないから、これは本当だと思う。
♥ ていうか、あの状態でも子供三人作れたのにも驚いた(笑)。
♦ ALSで麻痺するのは筋肉だけだから。あれは筋肉でできてるわけじゃないから。血圧ポンプだもんね。神経さえ生きてれば大丈夫。
♥ なるほど。あそこまでひどい障害で、神経系は無傷ってのも不思議な感じがするが。
♦ だからこそ脳は完全に正常なままでいられたんじゃない。
♥ でも彼自身は微動だにできないわけだから、全部奥さんにやってもらうことになるね。これじゃ、セックスじゃなくて単なる下の世話だね。
♦ 身も蓋もない言い方だけどそうだね。でもジェインが言うには、性的な不満より寂しさに耐えられなかったんだって。ジョナサンも奥さんを亡くしたばかりで、二人を結びつけたのは孤独と寂しさだそうだ。
♥ せめて精神面で奥さんを労ってやることはできなかったのかよ!
♦ 彼は天才だけど神じゃない。そこまで何から何までは無理。

難病映画としての “The Theory of Everything”

♥ なんかすごい重い話!
♦ というわけで、最初にもちょっと触れたALSについての話だけど。
♥ ホーキングには興味あるけれど、これまで彼の自伝とかドキュメンタリーとかあんまり見る気が起きなかったのは、どうにも救いがなさ過ぎて、気の毒すぎるから、身につまされるのがいやで‥‥。
♦ 私なんかと較べちゃ罰が当たるけどさ、私も膝が悪くなって初めて、跳んだり走ったり、それまでどうってことなくできたことができないのが、こんなにもつらいってことを知った。
♥ それを言うなら、私がバセドー病になったのはちょうどホーキングがALSを発病したのと同じぐらいの年なんだけど‥‥。
♦ いや、彼のほうがずっと早いでしょ。21才のときなんだから。
♥ え? でも大学院生の時でしょ?
♦ 彼は17歳でオックスフォードに入ってるから。
♥ 飛び級かよ! やっぱり天才は違うね。っていうか、日本にも飛び級あったら私だって早稲田ぐらい‥‥。
♦ 天才と張り合うなよ(笑)。
♥ それで、薬さえ飲んでれば何の支障もなく生活できるって聞いても、もう一生治らないと知ってこの世の終わりみたいな気がしたから。「なんで私が?」という感じで。
♦ 今と違ってネットもないし、あんまり情報なかったからね。
♥ 私はなんとなく治っちゃったんだけど(笑)。
♦ 医者行かなくなったら治った。だいたい私の病気は何でも、医者に通うと悪化する。
♥ それはちょっと(苦笑)。

♥ とにかくそんなこんなで、つい彼の気持ちになって考えてしまうのよ。
♦ 本当に想像するしかないけど、自分の肉体という牢獄に閉じ込められた感じだろうな。
♥ 文字通り、自分の肉体が手枷足枷になって拘束された状態だからね。
♦ 手枷足枷で拘束衣着せられて、顔には仮面を付けられて表情ひとつ変えられず、呼吸もできないっていう感じかしら。毎日が拷問でしょ。
♥ それでいて、頭はまったく正常というのも、かえって拷問に近いかもね。
♦ かと思うと、肉体にはまったく何の問題もないけど、頭はパーという人もいるからね。世の中って皮肉にできてるわ。
♥ どっちがましだろうと考えちゃう。ある意味、パーのほうが本人は楽かもしれないとか。

♦ でも本当に彼の本職が頭の中だけでできる仕事で良かったとしか。
♥ それにしてもさ、こういう人の仕事って書くことじゃない。それが最新技術をもってしても、1分間に4語だっけ? それはそれで拷問だわ。私なんかも論文書くときは(実はこのブログも)大量にあっちこっちに書き散らして、それから考えるのに、それができないんでしょ?
♦ 確かに病気がなければ今の10倍の仕事ができただろうとは思うね。それであれだから、本当にニュートン以来の天才だわ。

♥ 有名人でこれほどの重い障害持った人って、ヘレン・ケラーしか知らない。
♦ 盲聾唖か。これもどっちがましだろうと考えちゃう。
♥ ホーキングは体はいうことを聞かなくても、美しいものを見たり音楽を聞いたりはできるからまだましかな。
♦ でも生まれつきだったら(正確にはヘレン・ケラーは2才の時から)最初から知らないなら、自分が何を失ったかもわからないから、それで満足していられるんじゃない?
♥ ホーキングがかわいそうなのは、若い盛りの、まだこれからって時に病魔に取り憑かれたこともあるね。『五体不満足』の乙武くん(早稲田に在学中に見た)も生まれつきだし、手足はなくてもそれ以外は自由に動くし、スティーヴンほど気の毒じゃない。
♦ というか、ヘレン・ケラーも乙武くんも単に自伝を書いた障害者っていうだけじゃない。あれだけの障害を持ちながら、人並みのことができたから偉いという。なのにホーキングはこれだけの障害を持ちながら、人並み以上どころか、歴史に名が残る仕事をしたからすごいのよ。

♥ ただ、彼は家族にも知人にも、病気については一切語らないんだってね。
♦ 言ったってどうなるもんでもないからねえ。
♥ まるで病気は存在しないみたいにふるまってるんだって。
♦ だって彼が病気なのは一目見ればわかるし、口に出すまでもないじゃない。
♥ ジェインも孤独だったかもしれないけど、少なくともスティーヴンも別の種類の孤独に耐えてたと思うよ。こればかりは誰とも分かち合えるものではないから。
♦ 奥さんの扱いにひどいところはあったかもしれないけど、とにかく彼は死ぬまでに残された時間で何ができるかという死との競争を50年間やってきたわけで、誰にも責められないと思う。
♥ 奥さんもべつに責めてはいないよ。ただ、こういう人は結婚するべきじゃなかった。

子供たちの話

スティーヴンと子供たち 上が本物、下が偽物

スティーヴンと子供たち
上が本物、下が偽物

♦ でも子供はほしかったはずだよ。若くして死ぬ運命とさとったら、当然自分の遺伝子を残したいという本能が目覚めるはず
♥ 今度はドーキンスかよ(笑)。
♦ 何かにつけて出てくるけど、私の考えではイギリスが生んだ最大の科学者がニュートンとダーウィンで、ホーキングとドーキンスはその後継者と考えてるのでつい。
♥ それでその遺伝子はどうなったの?
♦ 長男のロバートはソフトウェア・エンジニアで、マイクロソフト勤務のアメリカ在住。
♥ 裏切り者かよ!
♦ まあそれはおいといて(笑)、マイクロソフトに入れるってことはやっぱり超級の秀才でしょ。ちなみに科学に興味を示した子供は彼だけだって。
♥ いちばん優秀なのもこの子みたいね。
♦ しかもすごいハンサムなんだよ! もちろん今は彼もハゲのおっさんだけど、若い頃の写真見たら映画スター並みだった。
♥ マジで!
♦ うん。
♥ てことはスティーヴンもまともならいい男だったんだな。少なくともエディー・レッドメイン並みの。
♦ 奥さんは感じのいい女性だけど、決して美女とは言えないからね。長女のルーシーはジャーナリストで小説家と書いてあるけど‥‥。
♥ あのつまんない子供向けのSF宇宙への秘密の鍵)書いた人か。
♦ あれはがっかりだったよね。お父さんと共著になってるけど、どう見ても彼女が書いたものに箔付けするために連名にした感じだし。
♥ ホーキングは書くものもおもしろいからと思ってだまされたじゃないか!
♦ 次男のティムは何してる人か知らない。

離婚と再婚の話

♦ とまあ、そんなわけで、端から見ると奇妙な三角関係が続いていたんだけど、それが崩壊したのは結婚30年目
♥ と言うけど、やっぱり普通の意味でもともと正常な結婚じゃなかったから。
♦ 離婚の原因はひとつじゃないと思うけど、映画で見るかぎりでは、エレイン・メイソンという女性が現れたから。彼の世話をしていた看護婦なんだけど。
♥ なんとスティーヴンの浮気が原因で離婚というのでびっくり! 身動きもしゃべることもできない人が浮気できるってのが(笑)。
♦ だから浮気というのとはちょっと違うと思う。要するに妻よりいつもいっしょにいる看護婦との絆のほうが強くなっちゃったんでしょ。
♥ つまり彼が妻に求めるのは介護者だったと。
♦ そういうイヤミは自分が全身麻痺になってから言いなさいね。ある意味、無理もないでしょ。自分の生存のすべてが彼女の手にかかってると思えば、いやでもなんらかの感情が芽生えるでしょ。
♥ 実際、ジェインと二人暮らしだったときは、彼女にものすごく依存してたというしね。
♦ そしてジェインはジョナサンと結婚してめでたしめでたし。

♥ めでたしじゃないでしょ! すさまじい修羅場でしょ、これは! なんか最初の雰囲気と違いすぎない?
♦ もしかしたら内面は修羅場だったのかもしれないけど、ジェインとは友好的に別れてるよ。ちなみにこの映画の元になったのは、ジェインの “Travelling to Infinity: My Life with Stephen” という暴露本というか告白本ね。別れた奥さんの目から見てこうだったんだから、ほんとに友好的な別れだったんでしょ。
♥ その本の内容は知らないけど、映画の描写を見て「ほおー」と思ったね。いかにもイギリス的なアンダーステイトメントで、すごいドロドロの修羅場のはずなのに、誰も泣いたりわめいたりもしないし、すごく穏やかに淡々と描かれてるの。だから最初のロマンチックな雰囲気ともそれほど違和感ないし、いやな感じはしない。

♦ しかし現実はそこまで理想的にはいかなかったようで、エレインともうまく行かずに結局別れている
♥ なんなんだよー、このおっさんはよー。
♦ こっちはスティーヴンのせいじゃないみたいよ。これも噂だけど、エレインという女性はものすごく支配的な気の強い人だったみたいで、最後は虐待疑惑で子供たちが警察呼ぶはめになっている
♥ 虐待ってエレインがスティーヴンを?
♦ 逆は不可能だろ!
♥ 動けない人を虐待って何したんだ、いったい?
♦ 知らないけど、スティーヴンが妻を訴えるつもりはないと言い張ったんで、裁判沙汰にはならないですんだそうだ。
♥ ふ~ん? スティーヴンたらそういう趣味も‥‥。
♦ 勝手に憶測するんじゃない!

♥ だって、ジェインは見るからにおとなしそうで、尽くすタイプの献身的な妻じゃない。それでエレインは支配的で夫を尻に敷くタイプ。だけど惚れた弱みで逆らえないと。なかなか大変だったね、彼も。
♦ どうも家族は全員エレインとの結婚には反対だったみたいね。だからエレインと別れてからは、ジェインや子供たちや孫たちとの付き合いが復活して、今は幸せな老後を送っているようだ。
♥ ジェインは糟糠の妻だけど、エレインは彼が有名になってから出てきた女だしね。どうもうさん臭いね。
♦ そのせいか、映画ではエレインはほんのちょっと登場するだけ。
♥ CBE(大英帝国勲章)の授賞式にもジェインと出席したんだね。これは良かった。
♦ ナイトの称号は辞退したけどね。
♥ ビートルズかよ。
♦ この人はこう見えてもロックだよ。けっこう反骨精神旺盛だから。

宗教について

♦ 実はさっきからドーキンスの影がちらついてるのはこれのせいもある。『ホーキング、宇宙と人間を語る』で宇宙創造に神は関わってないと書いたせいで、彼は長年、無神論者としてバッシングを受けてきたのだ。
♥ あたりまえのことを言っただけなのになぜ叩かれるのか。まともな科学者で創造説なんか信じてる奴はひとりもいないでしょ。
♦ それはそうだけど、言わなくてもいいことを言っちゃうのがホーキングやドーキンスで、私が彼らを好きな理由のひとつがそれ。ジェインは敬虔な信者だったんで、彼女とはそこも合わなかったみたいだけどね。
♥ ホーキングはドーキンスみたいなガチガチの戦士と違うけどね。ドーキンスはすごいよ。本のタイトルからして『悪魔に仕える牧師』とか『神は妄想である』とか挑戦的だもんね。
♦ タイトルはあれだけど、言ってることはすごいまともで、なおかつリチャード・ドーキンスは科学者としてはトップクラスの名文家で、彼の書くものはみんな死ぬほどおもしろいので、生物学や宗教に興味ない人でもおすすめです。
♥ つーか、頭の悪い奴の書いたもの読むとこっちも頭悪くなるけど、この人たちの書いたものは読めば確実にそれだけ賢くなれるから好き。

♦ とりあえずそういうわけでドーキンスはホーキングを同志とみなしてたみたいなんだけど、確か彼、日和って「科学と信仰は両立する」みたいなこと言い始めなかったっけ?
♥ 私も記憶があいまいで調べたんだけど見つからないなあ。たぶん、ドーキンスがホーキングの言葉尻をとらえて、「日和るな、この野郎!」みたいなこと言ってたの読んだんじゃない?
♦ そんな気もする。とりあえず、あまり当てになる情報じゃないけど、日本語Wikipediaには最近のホーキングの発言として、

人間の脳について「部品が壊れた際に機能を止めるコンピューターと見なしている」とし、「壊れたコンピューターにとって天国も死後の世界もない。それらは闇を恐れる人の架空のおとぎ話だ」と否定的な見解を述べ、改めて宗教界との認識の溝を示した。

と書いてあるよ。
♥ 言え言え! 言ってやって!

(映画を見直してみたら、神を肯定するっぽい言い回しはちゃんと劇中に出てきました。どうもこれはジェインを喜ばせるために書いたみたいだけど)

♦ なのにこの映画のラストシーンはどういうことなの?
♥ ラストシーンじゃないよ。ラストは女王から勲章もらうところで、バッキンガム宮殿の庭で遊ぶ子供たちを見ながらのフラッシュバックだよ。
♦ だったらその前だ。アメリカらしい場所での講演会で、聴衆の質問時間にひとりの男が立って「あなたは神を信じないとおっしゃいましたが、何かそれに代わる人生哲学はお持ちですか?」と訊ねるんだよね。すると、最前列に座っていた女の子の万年筆が床に落ちる。それをじっと見ていたスティーヴンはおもむろに車椅子から立ち上がり、ペンを拾って女の子に手渡す‥‥
♥ ‥‥のはもちろん現実のはずがなくて白昼夢なんだけど、なんであそこであれを見せたんだろう? 一瞬、あれでスティーヴンが「神は存在する! 私がその証拠だ!」と叫び出すんじゃないかとひやひやしたよ。
♦ まさかねえ‥‥(笑)。で、我に返ってのスティーヴンの返事は、「宇宙に限界はない」というもので、ますますわかりにくんだが。
♥ 要するに、神がいればああいう奇跡も起きるかもしれないが、神はいないからそんなことは起こらない。だけど人間、神なんかいなくても、どんなに体が不自由でも、やろうと思えばなんでもできるってことでしょ。
♦ なるほど、それは彼の口から出ると(口じゃなくてスピーカーだけど)よけい説得力があるね。
♥ 信仰にできるのはせいぜいペンを拾うぐらいだが、私は車椅子に閉じ込められたままで宇宙の秘密を解読した!という勝利宣言にも見えるな。
♦ ああ、それってすごくいいね。

再び現実へ

♥ なんか終わっちゃった。とにかくいい映画だったよ。とてもいい話にはなりえない恐ろしい、しかもかなりドロドロした話を、美しい気持ちのいい映画にしただけでもすごいわ。
♦ それでいて事実はちゃんと押さえてるしね。
♥ 前に「キュートでポップなイギリス映画」をイギリス映画の一つの典型としてほめたけど、こういうロマンチックで美しい映画もいいかも。
♦ 「ロックでむちゃくちゃなイギリス映画」がなつかしいんだけど最近そういうの見てない。

♥ しかし奥さんの書いた暴露本を映画にされて、本人はどう思ってるのかしら? 私は日頃から伝記映画は好きだけど、まだ存命の人の映画を作ることに関しては批判的なんだけど。
♦ まずその本については、出たときに聞かれてるけど「読んでない、自分について書かれたものは読まないことにしている」ということでノーコメント。だけど映画は見たんだよね。
♥ マジで?
♦ 見たどころかホーキング博士全面協力だよ。映画の小道具に使えるように、震えたサインのある古い論文貸してくれたり、例の人工音声装置を貸してくれたり。だから、あの声は本物のホーキングの「声」なんだよね。
♥ マジかよ!
♦ いや、おそらく同じ装置を貸してくれただけで、ホーキングが自分でしゃべってるという意味じゃないよ。
♥ でも普通いやじゃない? 自分の人生がスクリーンで映されて世界中の人に見られるなんて。さすがにセックスシーンこそないが、トイレ介助のシーンまであるのに。
♦ まあ、人間70まで生きればそんなことどうでもよくなって怖いものなくなるっていうのはあるな。それにこれだけ美しい映画にしてもらえれば、私なら泣いて喜ぶよ。
♥ それで見ての感想は?
♦ 何も言ってないけど、見終わったら看護婦が涙をふいてたって。
♥ 泣くか。泣くよな、やっぱり(涙)。

♦ ジェインと別れなければなあ、そしたらほんとに美談だったんだけど。
♥ でもあの年であの体で他の女に血迷うあたりが、彼もやっぱり人間だし男だって気がして、それはそれでいいかも。ジェインは幸せになれたのかな?
♦ 実物のジョナサンは映画よりいい男で、似合いのカップルだし幸せそうよ。
♥ ジョナサンて人もすごいよね。何十年って待ったわけでしょ。それだけジェインを愛してたんだなあ。
♦ 彼女は30年辛抱したんだからね、幸せになる権利があるよ。
♥ というわけで、いつのまにやら大団円。

人工音声装置

♦ ところで例の人工音声装置をもらったときのスティーヴンの反応がめっちゃ笑える。
♥ さっそく「デイジー、デイジー」の歌を打ち込んでしゃべらせてみたり(笑)。
♦ ちなみにこれは映画『2001年:宇宙の旅』の人工知能、HAL 9000の最後のセリフです。
♥ それもHALがメモリを抜かれて、だんだん意識が薄れて行くときのセリフってところが意味深。ちょうどスティーヴンがだんだん体の自由を奪われるように。
♦ 逆にスティーヴンはこの装置のおかげで息を吹き返したと言ってもいいんだけど。
♥ それから紙袋かぶって『ドクター・フー』のダレクごっこ。
♦ ほんと子供みたい。SFファンだって聞いてたけど、本当だったんだ。
♥ SFって『ドクター・フー』だったのかよ! バリントン・J・ベイリー(イギリスのSF作家)みたいなんじゃないのかよ。私が物理SFが好きって言うのは、彼の『シティ5からの脱出』あたりをイメージしてたのに。
♦ いや、この人は相当お茶目だから。『シンプソンズ』にも出演するぐらいだし。

♦ あと、最初に “My name is Stephen Hawking.” としゃべらせるんだけど、それ聞いたジェインがすごい嫌な顔して「アメリカ語だわ」って言うところで笑った。
♥ 「他のはないの?」なんてね。アメリカ製だからこれしかないんだけど。
♦ すっごいわかる。私もアメリカ英語が鳥肌立つほど嫌いだから。あんなの人間の言葉じゃない。鼻すすってるようにしか聞こえないよ!
♥ というか、夫がいきなり外国訛りで話し始めたらいやじゃない。
♦ この当時ならともかく、今なら声や訛りぐらい自由に作れそうなもんだけどな。
♥ 長年使ってるとそれなりに愛着が湧いてくるんじゃない? 昔のは知らないけど、確か今の機械はインテルが全面協力して、彼用に作ってるんだよね。
♦ 息子がマイクロソフトなのは、もしかしてそういう縁か?
♥ ロバートは本当にこういうのが専門なんだから作ってあげればいいのにね。

最後に

♦ じゃあそろそろ締めよう。結論としては?
♥ 最初はとにかく「うげー!」と思ったんだけど、これはDVD買うわ。
♦ なんだ、そりゃ?(笑)
♥ 男の子たちがきれいな映画は最近貴重だから。次にエディ・レッドメインが出る映画を見ても、そこでもかわいいとは限らないし。
♦ 顔だけかい! オスカーものの演技には触れてくれないの?
♥ 終始変なポーズで硬直したままなのはつらかっただろうなあとは思うけど、それを名演と言えるかどうかは疑問。ただ本当に似てた。♦の感想は?
♦ う~ん、あらためてホーキングの人生と仕事はすごいと実感して感動したけど、これはあくまで彼を支えた奥さんの映画だからなあ。上に書いたようにとんでもなく大変な仕事だったんで、彼女の貢献を否定するつもりはないけど、ちょっと物足りないかも。
♥ だってジェインの本が原作なんだから、どうしたって奥さん視点になるよ。
♦ かといって、ならばホーキングの視点で描いたら‥‥
♥ ‥‥おそらく一般人の共感は得られない(笑)。
♦ そういうのもあってもいいと思うけどなあ。
♥ 本物のジェインが「本当のライバルは物理学だった」みたいなこと言ってたけど、そこら辺がすっぽ抜けてしまって描けてないからなあ。映像にはできないから無理なのはわかるけど。
♦ 物理学者の話なのに、女でそれも文系の人が見たホーキングだから、微妙な違和感は残る。
♥ 結論! ロマンチックで美しい映画だった。でも科学はもっともっとロマンチックで美しいよ!

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