【映画評】赤ひげ(1965)黒澤明監督特集13

kurosawa-red-beard1♠ 私が最後までちゃんと見られなかった黒澤映画第二弾の登場です。
♦ でも『赤ひげ』と言えば、黒澤映画の中では大ヒット作じゃないの。2年の歳月をかけた超大作でもあるし。
♠ いや、実を言うとね、ここで偉そうなこと言ってるけど、黒澤映画を見たのはどれも大昔のことなんで、実は内容なんてろくに覚えてなかったの。ただ覚えてたのは中期の作品はおもしろい、後期のはつまらないというだけで。
♦ まあ、それは合ってるでしょ。
♠ 『七人の侍』ですら、おもしろかったのは覚えてたけど、前回のリビュー書いた時に見直して、あらためてこんな良かったのか!と感動したぐらいで。それで今回、全作品(じゃないけど)を順に見ていって、やっぱり黒澤ってすごいなと思ったから、昔は嫌いだったやつも良さが見えてくるんじゃないかと思ったのよ。
♦ それはあるかもね。なにしろ私が日本映画なんて見てたの、うんと若い頃だけだし、今じゃ私も年取ったし、それなりに経験も積んで目も肥えてきたし。
♠ それでこの映画なんかも、つまんないという印象しかなかったけど、今見ればきっと評価変わるだろうと思って。
♦ ていうか、これって見たことある? 最初の方は確かに見覚えあるんだけど、どうしても見たような気がしない。
♠ たぶん前に見た時も途中で挫折したんだと思う。
♦ それでか!

監督 黒澤明
脚本 井手雅人
小国英雄
菊島隆三
黒澤明
音楽 佐藤勝
撮影 中井朝一
斎藤孝雄
編集 黒澤明

キャスト

♠ でも、今回はなんとか我慢して最後まで見ようとがんばった。どんなに苦しくても、これまでの黒澤明の偉業に免じて。
♦ なんだ、それは(笑)。
♠ ほんと苦しかった。途中何度かセリフのなさそうなところは早送りするしかなかったぐらいに。それで終わった時はほっとしたのなんの。それでも動悸がするぐらいつらかった。
♦ だからなんでなのか言いなさいよ。
♠ つまんないぐらいなら予想してたからいいんだけど、それを上回る衝撃だった!
♦ もったいぶるなって。
♠ 気持ち悪すぎて吐きそうだったのよ。
♦ ひどいなあ。でも『白痴』でもそんなこと言ってたね。
♠ あれとはまったく別種の気持ち悪さだけどね。でも『白痴』同様、この映画は私とはまったく相容れないってことがよーくわかった。

♦ だから具体的に何がだめなのか言いなさいって。好きでもない映画のために時間割きたくないんだから。
♠ いつ終わるともなく続く愁嘆場。これでもかこれでもかという不幸の押し売り。
♦ 確かにな。
♠ さあ、かわいそうでしょう、感動するでしょう!と言わんばかりのお涙頂戴。
♦ 浪花節の世界そのものだよね。
♠ しかもそれを得意の長回しでやるから拷問もいいとこ。もうくっさくて見てらんねーよ。映画そのものも長すぎ! 主なエピソードは3つしかないのに、3時間超って。ついでに鼻も曲がらんばかりの加齢臭
♦ さすがにその言い方はひどすぎる(笑)。
♠ 黒澤も年取ったし、三船も年取ったし、なんかいかにも爺さん婆さんが好きそうな話じゃない。ご教訓っぽくってさ。
♦ それは原作の山本周五郎のせいなんじゃない?

♠ そう言えば今回初めて知ったんだけど、後半のストーリーって『赤ひげ診療譚』じゃなくてドストエフスキーなんだって?
♦ うん、ほんとドストエフスキー好きなんだな、というか、私ってほんとドストエフスキーだめなんだなと言うべきか。黒澤映画でどうしても生理的に受け付けなかったのがこれと『白痴』だものねえ。
♠ ドストエフスキーって本当にこんなんだっけ?と疑いたくなるよ。
♦ 山本周五郎がどれだけ嫌いかについては、次の『どですかでん』で述べます。

♦ まあ、♠がこういうの嫌いなのはわかるけど、黒澤と言えばヒューマニズムの監督でもあって‥‥。
♠ だけど、昔の黒澤はこういう撮り方はしなかったでしょ? 底辺の貧乏人を描いているという点では『どん底』と同じなんだけど、ここまで違うか?と思うぐらい。
♦ そこがやっぱり原作の差というか、ゴーゴリと山本周五郎の違いだと思うな。
♠ この映画って、瀕死の病人をカメラの前に立たせてさ、「どうです? かわいそうでしょ? 哀れでしょ? だけどこの人はこれまでもこーんなつらい目にあってきたんですよ。なのにもうすぐ病気で死んじゃうんですよ。ほーら、泣けるでしょ?」って、ずーっと耳元でわめき立てている感じ。
♦ それは確かに言えるかな(笑)。
♠ それに対して『どん底』は、「ほらね、こいつバカだろ。もう救いようのないバカだし、ダメ人間だし、もう死んだ方がましだよな」と言いながらも、暖かい視線が感じられた。この違いは大きいだろ!

♠ とにかくもうこの不幸の押し売りはうんざりだよ。吐き気がしたよ。あと、女はよよと泣き崩れて男にすがるような女ばっかりだしさ。
♦ 香川京子が演じた狂女は違うんじゃない? 男を見ると殺そうとするような女だよ。
♠ あれもひどかった。精神病んでる女に色情狂ってレッテル貼って蔵みたいなのに閉じ込めるって。それでもヒューマニストかよ。
♦ まあ、あの時代じゃしょうがないとは思うが(苦笑)。

♠ それ以外の話もよく考えたらちっとも美談じゃないよね。佐八(山崎努)とおなか(桑野みゆき)の話なんて、勝手に男の方が美化してるだけで、単なる女房寝取られた話じゃないか。六助(藤原釜足)と娘のおくに(根岸明美)の話だって、単に六助の女房が性悪の浮気女だっただけの話で。どっちも浮気の話なのもくどいし。
♦ まあ、あくまで大勢いる病人の過去にまつわるいちエピソードとして、軽くセリフで触れるぐらいならいいけど、それをもういいって言うぐらい、えんえんやるもんなー。あれには恐れ入った。
♠ もう医術も赤ひげも関係なかったね。ただの不倫もののメロドラマ

加山雄三演じる新人医師

加山雄三演じる新人医師

♦ ラブストーリーと言えば、主人公の保本(加山雄三)の結婚話もひどくない? 自分の留学中に婚約者(藤山陽子)が浮気したからと言って、その妹(内藤洋子)に乗り換えるなんて。
♠ それも好きになったからじゃなく、双方の親に押しつけられたからでしょ。そうでもしないと孫も抱けないからって。
♦ まあ、結婚というのはそういうものだった時代だし、最終的には好きになったのかも知れないけど、結納(みたいな儀式)に元婚約者が来るってのも、いやがらせにしか見えなかった。ああいう爽やかな若者には、もうちょい爽やかな恋愛させてやればいいのに、めちゃくちゃドロドロなんだよね。

♦ そんなだから、ここからドストエフスキーなんだけど、子供らが主役の話になった時はほっとしたぐらい。
♠ 最初はちょっと期待したよね。虐待されて心を閉ざしてしまった少女おとよ(二木てるみ)の心を徐々に開かせるところとか。
♦ あの辺は今の精神分析にも通じて興味深いと思った。
♠ ところが子ねずみ(頭師佳孝)が出てきたあたりから、またも終わりなき愁嘆場に(苦笑)。
♦ あの子、『どですかでん』の「電車馬鹿」だったんだね!
♠ この子役二人がまたうますぎて、芝居しすぎであざといんだわ。
♦ 大人だって泣けるんだから、子供出しておけばもっと泣くだろうという魂胆が見え透いてるし。

天才子役ふたり 二木てるみと頭師佳孝

天才子役ふたり 二木てるみと頭師佳孝

♠ もうマジでこんなの受けたのかよ? こんなの見て何が楽しいわけ? 拷問でしょ、これは。
♦ もうここまで行くと、日本人的感性がまったく私にはわからない、理解できないとしか言いようがないかもね。陰湿で恨みがましくてお涙頂戴って、まさに私の嫌いな日本映画そのものじゃない。
♠ ていうか、そもそもそう思ったから邦画見るのやめたんだから。黒澤明でこれなんだから。
♦ とにかくすべてがウェットなの。
♠ いつも土砂降りの雨だからそりゃ濡れるさ。
♦ これも中期までは監督のトレードマークとして楽しんでたけど、もう何が何でも雨降らせるのが目的でやってる感じになってきた。
♠ しかもその雨がすさまじいし。ここは南米のジャングルかよ?というぐらいのスコール。

♦ 黒澤明は例外中の例外だと思ってたのになあ。他に私が好きな日本の映画、というか少なくとも見ることが許容できた映画って何があったっけ?
♠ 寺山修司鈴木清順。鈴木清順は『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)と『陽炎座』(1981年)しか見てないけど。
♦ どれも幻想的なファンタジーで、私の専門だからそれはわかるけど。
♠ 黒澤がそういうの撮ってくれないかなーと思っていたら、『夢』があれだったのがとどめだったかな。
♦ 『夢』のリビューはあとでやるから、そうやって先に結論言わないで。

♦ でもさ、どんな監督でもミュージシャンでも作家でも、年取って劣化しなかった人なんていないし、特に映画監督はいい映画4、5本も撮れれば御の字でしょう。その点、これだけたくさんの傑作をものにした黒澤はやっぱりすごい
♠ そんなのはわかってるってば。それよりその最高傑作とこういうのの落差がありすぎるのがショックなの。
♦ もしかして私は黒澤明は本来大嫌いなのかも知れない。なのにたまたま大天才過ぎたから、そんな私でも感動できただけで。
♠ そんなところかもね。手塚治虫、宮崎駿を大嫌いだと言ったのと同じことかも。

♦ これだけで終わるのもなんだから、せめて主役についても一言いってあげなさい。特に三船敏郎はこれが最後の黒澤映画なんだから。
♠ だから醜態はさらしてほしくないと思ったけど、かろうじて威厳は守ったんじゃない? 少なくとも赤ひげはメソメソ泣いたりはしなかったから(笑)。
♦ というか、出番もセリフも思ったより少なかった。むしろ主役は加山雄三で。
♠ 加山雄三については『椿三十郎』に詳しく書いたのでそちらを参照してください。
♦ 『椿三十郎』はそんなに感心しなかったんだけど、とりあえず今回見ていて、こんなに芝居できる人だったのかと驚いた。確実に成長したね。
♠ ハンサムだし初々しくて、いかにも若者らしさが出ていてよかったよ。でも話はクソ。ゲロ吐きそう。

♦ あと、名医の話なのに、赤ひげが名医らしいところ見せる場面ってほとんどなかったよね。助かりそうにない患者を見事に治すとかさ。
♠ むしろバンバン殺してるような(笑)。単に人道主義者っていうだけよね。
♦ あと、貧乏人からは取らないけど、金持ちからは多額の報酬を頂くっていうブラックジャックみたいなことやってて‥‥
♠ その言い方はひどい。手塚の『ブラックジャック』がこれをパクったんでしょ。
♦ そうだけど、あれもすごいわざとらしくて白けた。
♠ 要するに、決して聖人じゃないってことを強調したかったんだろうけど、そんなわざとらしいことしなくても、『酔いどれ天使』の志村喬のほうがはるかに清濁合わせ持った聖人に見えたよ。
♦ 志村喬の医者よかったよねえ。そういや志村喬がほんのちょい役でしか出ないのもつまらなかった。
♠ わざとらしいと言えば、地回りのヤクザをひとりで全員、しかも素手でやっつけたり(笑)。
♦ 三十郎じゃないんだから(笑)。映画を間違えてるんじゃないかと思ったよ。なんであんなに強いんだよ。医者が強かったらなんなんだよ。
♠ ああいうわざとらしいサービスシーンも、かえってみじめな感じがした。

♦ カラー化した『どですかでん』以降がだめなのは言うまでもないけど、やっぱり私にとっての黒澤明って『悪い奴ほどよく眠る』までだわ。そのあとの『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』は、いちおうよくできてはいるけど、なんかピンとこないし、安っぽい感じがする。
♠ 逆にその前の作品が出来が良すぎた。

♦ 実は今回失敗したと思ってるんだ。
♠ 何を?
♦ せっかくの一挙放送だったのに、いくらなんでも初期の作品は今さら見るまでもないだろうと思って、『姿三四郎』から『醜聞』までは録画しなかったんだよ。『酔いどれ天使』だけは美しい三船敏郎が見たかったから録ったけど。
♠ 三船以前はともかく、『静かなる決闘』と『野良犬』はその美しかった頃の三船が出てるんだから見るべきでしたね。
♦ だから後悔してるって。それにこれまで興味なかった初期作品ももしかして傑作だったのかも知れないと思って。さすがに今見たら古すぎるだろうと思ってパスしちゃったんだけど。
♠ 根拠は?
♦ だって年取るほどだめになってるじゃん。
♠ それもそうだけど、これだけ一挙に見るまで、私は自分がそんなに黒澤明好きだなんて思ってもみなかったんだもん。
♦ とにかく、人によって得手不得手はあるだろうけど、これは私にとってマジでトラウマもの、見なきゃ良かったと思う映画だった。

広告
カテゴリー: 映画評 タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , パーマリンク