★★【テレビ評】『Sherlock』BBCTV(2010-2014)

sherlock11(言うまでもなくネタバレしまくってます。これでもいちおう「ミステリ」なんで念のため)

と、原作の面影はみじんもない異常なプロットに驚きあきれると同時に、シャーロックを演じるベネディクト・カンバーバッチの、エキセントリックなんてもんじゃない、ほとんど精神異常者と紙一重じゃないかと思える演技に、つい「ステキだ」と思ってしまったのも事実である。


ホームズに色気勝負で負けてISISに首ちょん切られるアイリーン・アドラー! もう発想が天才過ぎて凡人では付いていけませんわ(皮肉)。


むしろこれってシットコム(sit com=situation comedy)じゃないの? 毎度おなじみのおかしな人たちが出てきて、毎度おなじみのドタバタを繰り広げて笑いを取るという。そう思って見るとなかなか爆笑できるしおもしろいんだわ。

私のシャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズは私が初めて恋した架空の人物だった。

いや、現実の初恋とどっちが先だったか、あまりに昔のこと過ぎて記憶にないんだが、ちょうど同じぐらいのとき(小学校低学年)だったので、もしかして現実・架空問わずに私の初恋の男性だったかもしれない。
その後、成長して知恵が付いて、おまけに現実のボーイフレンドができてから(小学校5年ぐらい)は、小説やマンガや映画の登場人物に本気で恋するなんてことはバカバカしくてできなくなってしまったので、もしかしてシャーロック・ホームズは私が生涯で唯一恋した想像上の人物と言ってもいい。
私が(そのつもりはまったくなかったが結果として)英文学屋になったのも、生涯をイギリスに捧げることになった(これはまだ若い内に決心していた)のも、その理由の一部はコナン・ドイルのホームズ物語に負っていると言ってもいいぐらいだ。

シャーロック・ホームズと二次創作

そしてホームズほど舞台化や映画化やテレビドラマ化や、続編や舞台やシチュエーションを変えた新編や、とにかくそのたぐいのアダプテーションやらオマージュやらパスティーシュやらパロディーまで、これほど大量の「二次創作」が作られている作品はない
数えたわけじゃないが、シェイクスピアより多いぐらいじゃないか。もちろんホームズは古今東西最も有名な探偵であり、あらゆるミステリや名探偵の元祖であり(実際はアメリカのエドガー・アラン・ポーのほうが早かったが、ポーはミステリと言うにはあまりに荒削りだったし、現代のミステリの基本を作ったのはやっぱりコナン・ドイルだろう)、未だに小説や映画で新しいホームズものを見ない年はない。

それほどホームズが好きなんだから、当然そういう映画や小説を漁りまくっているだろうと思われるだろうが、実を言うとほとんど見てないし読んでない。たまたまテレビでやってたから見たとか、電車の中で読む暇つぶしに、ホームズものならあまりはずれがないだろうと思って読む程度。
だから空前の大ヒット作である、グラナダ・テレビのホームズ・シリーズですらほとんど見ていないぐらい。だが、なぜかマンチェスター行ったときグラナダのスタジオツアーに参加してるのでセットとかは生で見てる。ハドソン夫人の案内で(笑)。

なんで見てないかというと意図的に忌避していたからだ。理由はよくある「原作のイメージ(というか自分が最初に原作を読んだとき脳内に構築したイメージ)を壊されたくない」というもの。ただ、その頭に焼き付いたイメージが半端なく強烈なので、もうそこらの映画だの小説だのでは及びもつかないから。
なんでかというと、要するにあの年頃はまだまだ現実と空想の境目があいまいっていうか、小学生の私にとってホームズは実在の人物となんら変わらなかったので、その思い出を汚されたりゆがめられるのがいやなのよ。想像してほしいんだけど、あなたのお父さんが超有名人だったとして、そのお父さんの伝記映画とかお父さんが出てくる創作とか見る気がする? そういう感じ。まあ、初めて読んだ年からすると、ホームズはほんとにお父さんぐらいの年だし(笑)。

エキセントリック(変人)としてのホームズ

さらに中学生になって読み返したとき、また新たな理由が加わる。またホームズに惚れ直したんだけど、さすがに小学生のころは純粋に「かっこいい!」とか「すてき!」とか思って読んでいたのに新しい興味が加わった。こんなセクシーな男、小説で出会ったことないと思って。
少女の頃からここだけはホームズ並みにひねくれてて天邪鬼であった私は、昔から品行方正な清く正しいヒーローなんて嫌い。つーか、最初はそういうものだと思っていたけど、子供向けだと主人公はみんなおりこーちゃんばかりでうんざりしていた。(ついでに言うと、最近のミステリで流行りの、トラウマ抱えてウジウジ悩むヒーローもすごい嫌い)
その点ホームズは確かにめちゃくちゃ頭が良くて強くてかっこよくて自信に満ちあふれたヒーローだけど、「明らかに普通じゃなくてちょっとアレな人」ってところが私の厨房心(2ちゃん用語。でもほんとに中学生だし)に訴えたわけ。

犯人を追い詰めるためなら法律を破る行為や、コカイン常用(当時は現代のタバコ程度の「ほめられたものではないがしょうがない」レベルの悪癖だった)もそうだけど、それ以前にこいつってやることも言うことも普通じゃないし、なんかヤバくない?
子供時代は漠然とそう感じてただけなんだが、大人になってイギリス人のエキセントリック(奇人変人)好きを知って、「ああ、シャーロック・ホームズってまさにそれだったんだ」と納得した。それでイギリス人大好きで当然イギリス人が好きなものも大好きな私は、だからホームズも好きだったんだと。

ところが映像化されたホームズものを見ると、ホームズはせいぜいが気むずかしくて堅苦しいぐらいで、みんなノーマルで品行方正なヒーローになっちゃってる。それは映像メディアが本よりはるかに広いタイプの観客を相手に商売しなきゃならないことを思えば当然なんだが、そういうのって、私が好きだったホームズとはなんか違うし、そんなホームズは見たくないと思っていた。
ましてホームズがコカイン注射打ってるシーンなんて出るわけもないし、口にすらされないし。

ホームズ・シリーズのホモっぽさ

もうひとつ少女時代の私がちょっとムラムラしたのはこの露骨なホモっぽさ。いや、私はホームズもワトソンもホモだとは思わないよ。ワトソンはむしろ女好きだし、ホームズはホモセクシャルじゃなくてアセクシャルだという英国のシャーロック・ホームズ協会の見解に賛成だ。アセクシャル(asexual)っていうのは「無性」と訳すとアメーバみたいだけど、要するにセックスに関心がないってこと。やっぱりゲイより変だし、イギリス人らしくてよろしい(笑)。(イギリス男はセックスに無関心ということになっている)

それはともかく、傍目から見てこの二人は露骨にホモっぽいのは確か。特に何事においても保守的なヴィクトリア調ロンドンで、独身中年男二人が兄弟でもないのに狭いフラットで同居生活をしているというのは変に思われてもおかしくない。ドイルがワトソンを結婚させたのも、おそらくそういう目で見られるのを恐れたからだろうと思うが、これには私は激怒した。
だってそうじゃない。ホームズとワトソンといえば「バディもの」の元祖(というか私はそう思ってる)。完全無欠のコンビなのに、そこに妻なんかが割り込んでくる余地はない。だいたいワトソンも結婚すれば家庭を第一に考えなきゃならなくて、今までのような活躍はできなくなるし、そんなことより何よりホームズを捨てて221Bを出て行くことが許せない!
と思ったのはおそらく私だけではなくて、当時の読者も同様だったろう(調べたわけじゃなく憶測だけで書いてます)。
いや間違いないよ。だって、結婚してもメアリー(ワトソンの妻)はほとんど家政婦並みの扱いで、すぐに唐突に死んじゃって、結局ワトソンがベーカー・ストリートに戻ってきたのは、それが理由としか思えないじゃん。

とまあ、なんかモヤモヤする関係なんでいろいろと人の想像をかき立てて、おかげでワトソンが女になってる翻案とかもありますけどね。(名前だけだが手塚治虫の『三つ目が通る』の写楽保介と和登さんとかね) しかしこれまた映像になったホームズもので、ほんのわずかでもホモっぽさをほのめかしたのは記憶にない。(前述のようにそんなには見てないんで、間違ってたらごめん)

間違いだらけのワトソン像

映像化作品に関する不満はまだある。ホームズがアメリカ人だったりワトソンが女だったりするのは論外としても、ワトソン像がどうも原作のイメージと違う。だいたいワトソンは天才のホームズに対する凡人代表で、つまり読者や観客の分身なのはいいとしても、ホームズの頭の良さを強調するためか、必要以上にボンクラのアホに仕立てられてないか?

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ベイジル・ラスボーン(左)とナイジェル・ブルース演じるホームズとワトソン

これに関しては今回ちょっと調べて長年の謎が解けた。30~40年代にハリウッドで大ヒットしたベイジル・ラスボーンとナイジェル・ブルースのシャーロック・ホームズ・シリーズが原因なのね。もちろん私は生まれてもいないから見たことがないが、このシリーズのワトソンはドジでコミカルな役柄で、それが定着しちゃったらしい。
吸血鬼ドラキュラといえばクリストファー・リーというのと同じで、どうしたってジャンルものにはこういう定番が生まれてくるのはしょうがないけど、原作から入った人はとまどうよな。(ちなみにクリストファー・リーは映画でホームズとマイクロフトの両方を演じた経験がある!)

というのも原作しか知らなかった私のイメージでは、ワトソンはそもそもホームズが一目置いて頼りにするほど頭も切れるし、退役軍人なんだから武闘派で戦うことも厭わない、けっこうできる男なのだ。退役軍人というと普通年寄りを連想するが、この人は負傷で退役したんだから年でもないし、ましてホームズの引き立て役なんかじゃ絶対にない。なのにワトソンといえば太ったチビのおじいさんというのが定番で、なんかなー。

ホームズとワトソンの肖像

ちなみにシドニー・パジェットによるオリジナルの挿絵のワトソンは、確かに顔の長いホームズにくらべると丸顔だが、チビでもデブでも年寄りでもなくてそれなりにかっこいい。

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シドニー・パジェットが描くホームズ(右)とワトソン

そうそう、やっぱりホームズとワトソンのルックスに関してはこれが原型でしょうという、雑誌連載時のシドニー・パジェットの挿画とそのモデルとされる弟のウォルター・パジェットの写真がこれ。

sherlock10ちなみにテレビの特番では、ウォルターをモデルにして描いたと言っていたが、日本語版Wikiでは否定されている。まあどっちでもいいじゃん。というぐらいそっくりな兄弟で、ついでに兄弟そろって挿絵のホームズともそっくりだし、二人ともハンサムだから問題ない。
私が長いこと、ホームズというと思い浮かべていたイラストは日本の有名なシャーロキアン、小林司と東山あかね『名探偵読本 シャーロック・ホームズ』の表紙絵だが、これなんか明らかにベイジル・ラスボーンがモデルだね。(ちなみに私の大学院の指導教授も有名なシャーロキアンで、この本でも座談会に出ているという縁もある)

sherlock03ベイジル・ラスボーンのホームズは痩せてて長身で、広い額に鷲鼻に長いあごで、これはほぼ原作そのままだから違和感ない。

グラナダ・テレビのシャーロック・ホームズ

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グラナダ版ホームズ(ジェレミー・ブレット)とワトソン(エドワード・ハードウィック)

話がそれたが、グラナダのテレビシリーズはこの間違ったワトソン像を原作通りの有能なワトソンに戻したそうなんだが、第1・2シリーズのデイヴィッド・バークはいいけど、第3シリーズ以降のエドワード・ハードウィックはやっぱりなんかおじいさん臭いなあ。
それでもこのシリーズはホームズのトレードマークと言えるディアストーカー(鹿撃ち帽)とインバネス(ケープのついた長いコート)はシドニー・パジェットの創作で原作にはないという理由で一切ホームズに着せないなど、徹底して原作に忠実で正統性を追求したのは好感が持てる。
ただ、それでもこのシリーズをほとんど見てないのは、ホームズを演じたジェレミー・ブレットが気に入らなかったため。写真で見ると若い頃は本当にびっくりするような美少年だったんだが、ホームズとしてはあまりにも年寄りすぎ、病的な感じがしたから。と思ってたら本当に病気だったようで早死にしちゃったけどね。あと微妙にミスター・ビーン入ってると思ったし(笑)。
は? ロバート・ダウニー・Jrのホームズ? へっ!(軽蔑の声)

『Sherlock』の第一印象

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221bの前でポーズを取る現代版ジョンとシャーロック

とまあ、なまじ惚れた小説だけに、なんだかんだでダメ出しばっかりして、ホームズものというと敬遠していた。だからBBCの新シリーズ『Sherlock』が始まったときも思い切り眉にツバ付けて傍観していた。
ホームズとワトソンを現代の若者にしたバージョンだって? なんかいかにもありがちなアイディアだわね。ロンドン・アイとか30セント・メリー・アクスとかの新ランドマークを入れて、妙にシャレオツでハイテクで「現代のロンドン」を強調した映像もわざとらしいと思った。(私はやっぱり昔ながらのロンドンの方が好きで、こういう新名所はバカにしている) そうじゃなくてもホームズの魅力はヴィクトリア調のあのくすんだレトロ感覚だし、なんかまったく相容れない感じがして。

それでもBBCだし、いちおう義理で見るつもりではいた。なのに見るのをやめたのはスチルのベネディクト・カンバーバッチを見ちゃったから。はああ? なにこの貧相なネズミ男は? いや、どこがネズミかと言われても困るが、なんかこのちっこい釣り目の三白眼が。
だいたいホームズにまったくと言っていいほど似てないし。いや、ホームズというのはもちろんシドニー・パジェットのホームズのことだけど、これまでのホームズものは多かれ少なかれあの路線だったので、これは目を疑った。

ベネディクト・カンバーバッチのこと

べつに原作のホームズはハンサムとは一言も書かれてないんだけどね。デコ広いし(つまり生え際がかなり後退してるし)わし鼻だし、むしろ醜男の部類かもしれないんだけど、パジェットの挿絵や、その後のホームズを演じた俳優たちのおかげでハンサムという印象がある。その中では一番醜いホームズかもしれない。
あー、この調子で悪口書いてるとファンから殺されそうなんで、あくまで感情を交えず解剖学的に言わせてもらうと、ベネディクト・カンバーバッチは目鼻立ちがほんのわずかずれれば絶世の美男となったかもしれないタイプ。だけど、それがほんのちょっとずつ間違った方にずれてしまってるので、なんとも変な顔になってしまっている。
両親とも俳優だから素材が悪いはずはないしね。(トビー・ジョーンズはあくまで例外です) やっぱり英国人俳優って基本的にハンサムだしかっこいい。背も高いし、声は低くて豊かな響きがあって素晴らしいし、演技だって文句ない。ただ顔があれじゃねえ‥‥
たとえば私が映画界でいちばん美しい男だと思うのはキアヌ・リーブスだが、キアヌだって(背の高い人はだいたいそうだが)顔長いしあご長いし、半分中国人(というが、お父さんの見た目はこすっからい東南アジアの悪党系)だから目は小さい。だけどその配置が絶妙なところでパーフェクトなので彼は絶世の美男なのだ。ほんと美醜なんて紙一重。

ベネディクトのほめられるところは高い頬骨。それと色がないほど薄いペイル・グリーンの目。この手のガラス玉のような目はキリアン・マーフィーやジョナサン・リース=マイヤーズを初めとして絶賛してきたが、それも顔次第なんだなとよーくわかる。日本では淡色の目の人がいないから珍重されるが、実は茶色い目(日本人は全員これ)のほうが黒目がちで、男も女もかわいく見えるんだよね。この人はもともと目が小さいのに色がないのでよけい目が小さく見えてしまう。特に瞳孔が縮んでるとなんか人の目じゃないみたいで気持ち悪い。

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ベネディクト・カンバーバッチの目。目はすごいがやっぱ不細工だなー。

でもさすがにこういう目は白人でも珍しいほうで、そのせいか、今写真を探したらBenedict Cumberbatchでeyesという検索語が自動で出てくる。それを見ていたら、heterochromiaという検索語もあって「あれっ?」と思った。ヘテロクロミアというのは虹彩異色症のこと。亡くなったデヴィッド・ボウイみたいに左右の目の色が違う人。
と思っていたから、ベネディクトは同じじゃん、と思って調べたら、左右の色は同じでも光の当たる角度によって緑や青に色が変わる人のこともヘテロクロミアと言うらしい。なるほど、それなら納得。そう言えば小説読んでいても、「色の変わる目」のことは非常に珍しく美しい目の例としてよく出てたが、これのことだったのか。それを思うとほんと顔があれなのが惜しい。

ただ、将来はかなり楽しみ。美少年だったジェレミー・ブレットが(病気のせいもあるだろうけど)見る影もない年寄りになってしまったのと逆に、たぶんこの手は年取ったら化けるよ。風格のあるイギリスのおじいさんって、イアン・マッケラン(ガンダルフ)やマイケル・ガンボン(ダンブルドア校長)を筆頭に、若い頃は(今でもだが)二目と見られないほどの醜男のことが多いし。ただし、背が高いことは絶対条件。これは年取っても変わらないから。その意味この人はむしろもっと年取ってから見たかった。

あと声! これは先に見た『ホビット』で知って驚愕した。なんて美しい声なんだ! 私は役者は顔も大事だが、50%は声とアクセントだと思ってるぐらい声は大事なので(アメリカ人役者が嫌いなのもそのせい。日本人は渡辺謙みたいなごく少数の例外を除きほぼ論外。特に若いやつは)、これでかなりベネディクトを見直した。
それもはっきり言って(惜しくも今年亡くなった)アラン・リックマンにそっくり。あのねっとりした低音だけじゃなくてアクセントまで! 目をつぶって聞いていたらどっちかわからないぐらい。向こうでもやはりその認識らしく、テレビショーでスネイプ先生の物真似やらされてた。私には『ホビット』のスマウグの声はぜんぶアラン・リックマンの物真似に聞こえたけど。とりあえず、アラン・リックマンも醜男だけど彼に惚れたのはあの声とアクセントのせいだから、後継者ができてよかった。

背が高くて痩せてるのはホームズとしては必要最低条件だからまあよし。でもやっぱり若すぎる! ジェレミー・ブレットを年寄りすぎると言ったり、今度は若すぎると言ったり、文句ばかり言ってるようだが、イメージの問題なんだって! 特に自分が年取ってからは、このぐらいの坊やは青臭いガキに見えちゃって‥‥と書いてから、いくつなんだろう?と思って調べたら今40才って出てゲゲー! 若く見えるんですね。まだ20代かと思ってた。マーティン・フリーマン(44才)は、こちらはベースは対照的にかわいらしい童顔なのに、年相応にしわ顔で老けてるからよけい。4つしか違わなかったのか!
というわけで現代版ではあるが、若者版と思ったのは完全な誤解だった。年は相応じゃん!(ワトソンと出会った頃のホームズはたぶん30代半ば) ベネディクトはある意味異形なんで年齢不詳、マーティンは童顔で小柄でかわいらしい顔立ちなので若く見えるだけだったか。あと現代風の服装ってのもあるな。この二人と過去のホームズもののコンビを並べても同世代とはとても思えないよ!

なんか顔の話しかしてないが、とりあえず第一印象は本当に顔のまずさだけだったんで(笑)。ちなみに『ホビット』のリビューに書いたようにマーティン・フリーマンは最初見たときから大好き。典型的なイギリス人顔でこれは好きにならずにはいられない。そういえば、ホームズとワトソンってまさにイギリス人の2タイプの典型そのものだよね。ホームズみたいに長身で貴族的でクールな英国紳士タイプと、小柄でぽっちゃりした人の良さそうなホビットと(笑)。(もちろんこのワトソンは後のイメージで最初は二人とも紳士タイプだった)

『最後の誓い』

とにかくそんなわけで敬して遠ざけていた『Sherlock』を見直すきっかけとなったのは、たまたまテレビでやっていた『最後の誓い』を見たせいだ。これは第3シリーズの最終話、つまり現在のところ最新のエピソードで、私はシリーズものをいちばん最後から見たことになる。まあ、(原作の)話は全部知ってるからいいやと思ったからなんだが、私の知ってるホームズではまったくなかった。しかも見たのが途中からだったせいか、タヌキに化かされたかキツネにつままれた気分。

なにしろ、いきなりシャーロックが敵(C・A・マグヌセン)の秘書を色仕掛け(?)で利用したと話していたかと思うと、その秘書が床に倒れて死んでいる(実は死んでない)。かと思うといきなりシャーロックが撃たれて死んじゃうんだが(実は死んでない)、撃ったのはなんとワトソンの妻のメアリーである。なななな、なんなんだー!と思う間もなく、死んだはずのシャーロックは彼の「記憶の宮殿」の中をさまよっているというシュールさ。
もちろんシャーロックは命を取り留めるのだが、なんでか彼を殺そうとしたメアリーは味方らしいし、しかもメアリーの正体は国際スパイ(!)だし、最後、警察の見ている前で(メアリーの秘密を守るために?)証拠がないから捕まらないと楽観しているマグヌセンをシャーロックが問答無用で射殺しちゃうし、もうめちゃくちゃ! おまけに証拠隠滅のためか、マイクロフトはシャーロックをチャーター機に乗せて東欧に送りだそうとするのだが(政府高官が殺人犯の国外逃亡をお膳立て!)、そこへ死んだはずのモリアーティがジャーン!と復活して、わずか数分でシャーロックは呼び戻される。

なんとまあ、1時間ばかり見ただけでジェットコースターに乗ってめちゃくちゃに振り回された気分というか、変な夢を見た感じというか、ラリってるというか、ここまで狂ったホームズは見たことがない!! これは何が何でも全部見なくちゃ!となったわけ。いやー、私はてっきり、単に舞台を現代に移し替えて、主人公をナウいヤング(笑)にしただけの翻案だと思ってましたよ。これはまいった。一本取られた。っていうか、恐るべしBBC。

手のひら返しの『Sherlock』礼賛

と、原作の面影はみじんもない異常なプロットに驚きあきれると同時に、シャーロックを演じるベネディクト・カンバーバッチの、エキセントリックなんてもんじゃない、ほとんど精神異常者と紙一重じゃないかと思える演技に、つい「ステキだ」と思ってしまったのも事実である。

というわけで、今はシーズン1と2の全話と、番外編の『忌まわしき花嫁』を見終わったところ。(シーズン3は最終話以外録画に失敗して見られなかった)
それで先に言っちゃうと、シーズン2までの脚本と演出はそれほど狂ってなかった。かなり大胆に翻案しているとはいえ、それでも原作がわかるし。どうも人気があるのをいいことにシーズン3から制作者の暴走が始まったと見るがどうか? というのも、この最終話の続きである『忌まわしき花嫁』が同じぐらい狂ってたんで。

それはまたあとで話すとして、ベネディクト・カンバーバッチ演じるホームズは本当にすてきだ。(なに、この手のひら返し?) なにしろサイコ野郎と罵られると、自分で「僕はサイコパスじゃない。高機能性ソシオパスだ」と言い切っちゃうもんなー。ちなみにハフィントン・ポストで拾ったソシオパスの定義は、

兆候その1:過大な自我の持ち主である
兆候その2:嘘をついて、人を操るような行動を示す
兆候その3:共感の欠如
兆候その4:自責の念や羞恥心の欠如
兆候その5:恐ろしい状況、危険な状況でも、不気味なほど落ち着いている
兆候その6:無責任な行動や、あまりにも衝動的な行動を取る
兆候その7:友人がほとんどいない
兆候その8:魅力的である――ただし、表面的に
兆候その9:「楽しいかどうか」を人生の行動指針にする
兆候その10:社会規範の無視
兆候その11:視線が強い

このシリーズのシャーロック(原作のとは言ってない)にほぼすべて当てはまるじゃん! というわけで、シャーロックは退屈だという理由で部屋の中で拳銃を乱射したりバッキンガム宮殿にシーツを体に巻き付けだけの全裸で乗り込んだり大暴れ。ちがう‥‥やっぱりホームズじゃないが、でもこれはこれでおもしろすぎる!

私はこういうホームズを待ってたんだ! というわけで、さすがに7%溶液を静脈注射する場面までは出ないが、注射器は出るし、ラリったシャーロックの幻覚はあるし、エキセントリックなホームズを見たいという私の長年の願望は叶えられたし、やっぱりこのホームズはセクシーだ。ワトソンとの初対面のシーンじゃ、狂ったように鞭を振り回して死体を鞭打ってるし(笑)。もう最高!(実は死後のあざのでき方について実験してた)

そしてワトソンのほうも十二分に満足のいく出来。マーティン・フリーマンの芝居は私がこれまで見た『ホビット』三部作も『銀河系ヒッチハイクガイド』もこれもまったく同じなんだが、あの困ったような顔つきがかわいくて最高。それでいて、銃の名手で頭もいいという私の思った通りのワトソン像で、見せ場もいっぱい。

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かわいいマーティンの写真も貼っとこ

ジョンの立場が原作より強いのはけっこうだが、最後のほうになると、ジョンはシャーロックにお説教したり心配したりばっかりで、なんかお母さんか奥さんみたい。シャーロックがやたらガキっぽいからそう思えるんだけど。

『Sherlock』とゲイ

さらにゲイっぽさに関しては、家主のハドソン夫人はもちろん、どこへ行ってもまわり中から完全にゲイ・カップルだと思われているところに笑った。確かに現代だとそうなるよなあ。ヴィクトリア朝だと思っても口に出せないが。しかも二人ともお互いのことをゲイだと思い込んで、さりげなく自分はゲイに偏見はないってことを知らせようとして、かえって誘っていると思われるというギャグも効いている。
それでつい「Sherlock gay」で検索したところ、衝撃の事実が!!!

なんとこのシリーズの産みの親の一人で制作総指揮で脚本も書き、さらにマイクロフト役で出演もしているマーク・ゲイティスはゲイで、ちゃっかり自分のパートナーの俳優イアン・ハラードを出演させてもいる。あとモリアーティ役のアンドルー・スコットもゲイだって。なんか『ホビット』からこっちゲイばっか! それだけ英国演劇界にゲイが多いってことだろうけど。(演劇界だけじゃないけど)
とりあえず産みの親と言っていいマーク・ゲイティスがゲイなんで、この過剰とも言える同性愛についての言及は納得。もちろんこのシリーズでもシャーロックはゲイじゃないけどね。ゲイ向けサービスショットも盛り沢山! ただ、シャーロックとモリアーティとのゲイっぽい絡みとかはあまり見たくなかった(笑)。

マーク・ゲイティス

マイクロフトに扮したシリーズの産みの親マーク・ゲイティス

マーク・ゲイティスはブラックな笑いで人気があったイギリスのコメディーグループ「リーグ・オブ・ジェントルメン」のメンバーだった人。と言っても、私はどうしてもモンティ・パイソンとくらべてしまってバカにした記憶しかないし、彼のことも、まったく記憶になかった。ただ、LOGのメンバーと聞いて、このシリーズの狂ったユーモアの理由がわかったけど。いや、あくまでストーリーはシリアスなんだけど、露骨に笑いを取りに来たようなセリフが多かったんで。
それで役者としてのマーク・ゲイティスも悪くない。ただ、マイクロフト・ホームズという柄じゃないと思うんだが。そもそもベネディクトとまったく似てないし。まあ、原作でも似てない兄弟でしたけどね。むしろこの人はモリアーティを演じるべきだったと思うんだが。見るからに憎々しい悪人面なんで(笑)。最初いかにも悪そうな顔で出てきたときはてっきりモリアーティだと思って見てた。(最初はモリアーティ役だったと聞いて納得)
とりあえず、マーク・ゲイティスは共同制作・脚本のスティーヴン・モファットともども、すごくデキる人だし頭も良さそうだとは思うが、役者としては大嫌いなんで、できれば顔出しはしないでほしかった。だって、身の毛がよだつタイプのキモい男なんだもん。でもこの人がいなかったら『Sherlock』も存在しなかったので、唯一の汚点と切って捨てるわけにもいかない。
せめて登場シーンを減らせよ。「作者特権」で出張りすぎ! マイクロフトなんて原作ではほとんど出ないんだから。

余談だが、このシリーズのメイキングだったかで、ゲイティスが「映画では監督が神だが、テレビドラマでは脚本家がすべての実権を握ってる」と言うのを聞いて、私が感じてたことそのものなんで「やっぱり!」と思った。『ホビット』はピーター・ジャクソンの作品と誰もが考えて疑いもしないし、プロデューサーや脚本家が誰かなんて気にしない。だけど、『Sherlock』の話では、「作者」として出てくるのはいつもマーク・ゲイティスとスティーヴン・モファットの脚本家コンビで、ちょっと不思議な感じがしてたんだわ。確かにテレビシリーズの監督って毎回変わることも多いし、単なる雇われ監督なんだなと納得。

シャーロックとマイクロフト

ところで、ホームズ兄弟の間柄も原作とかなり違うような気がする。(なにぶん原作読んだのは大昔なんで記憶に自信がない) テレビのシャーロックは何かにつけて反抗期のガキみたいにマイクロフトに反発するが、マイクロフトは影ではシャーロックのことを心配し面倒をみている。シャーロックが反発するのには過去に何か理由があったみたいなほのめかしもあって、もしかしたら私がまだ見てないエピソードに出てくるのかも。
原作だと二人ともああいう性格だから非常にドライでクールな関係だと思ってたんだが、これ見てるともっと感情的でディープな感じ。ゲイティスが演じる役だから原作にはないおまけを付けたのかな。そういうよけいなことはやってほしくないんだが。
ホームズ兄弟のパパとママまで出演するのもやり過ぎ。ホームドラマかよ! しかもその両親を演じてるのが、ベネディクト・カンバーバッチの実の両親(もちろんここも俳優一家)という楽屋落ちもやり過ぎ。おまけにジョンの奥さんはマーティン・フリーマンの実の妻のアマンダ・アビントンだし、ゲイティスの「夫」まで出てるし、そういう楽屋落ちはやめてほしい。

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カンバーバッチ一家、もとい、ホームズ一家(右端だけ他人)。こうやって見ると、ベネディクトは目はパパ似、鼻はママ似なのがよくわかるね。ほんとにほんのわずか配置がずれれば美青年だったのに。

モリアーティ

役者評を続けると次はアンドルー・スコット演じるモリアーティ
というわけでホームズとワトソン、もとい、このシリーズではファーストネームで呼ぶことになってるんだった、シャーロックとジョンには満足だったんだけど、このモリアーティには最初唖然とした。モリアーティ教授と言えば、数学教授にして犯罪界の黒幕。当然イメージ的には、長身痩躯で陰気だけど威厳のある、学者風の年配の紳士というのが従来イメージ。さしずめクリストファー・リーがぴったり。(あいにくクリストファー・リーは実際にはホームズとマイクロフト、ヘンリー・バスカヴィル卿は演じているが、モリアーティはやってない)
なのにアンドルー・スコットはデコッパチでクリクリした大きな目のオカマっぽいチビって、意図したものだろうが違いすぎる~! いやまさかこの人がモリアーティとは思いませんでした。意外性という点では確かに意外でおもしろいけど。

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アンドルー・スコット演じるモリアーティ

ただ、彼の演技はよくある頭のネジが吹っ飛んだサイコ野郎で、しかも変にユーモラスで憎みきれないというキャラは、ヒース・レジャー演じる『バットマン』のジョーカーで見慣れてしまったので、なんか二番煎じのような気がする。あとキャラクターが違いすぎるから同じには見えないけど、シャーロックもある意味頭のネジが吹っ飛んだサイコ野郎なんで、キャラがかぶってる気も。好意的に見ればこの二人は表裏一体という暗示なんだろうけど。でもこの気持ち悪さはなかなかで、その意味ではほんとに憎らしいからいい。
ただ、キモさと憎らしさは一流なんだが、どっちかというとかわいらしい顔した小男なんで、ぜんぜん怖い気はしないんだよな。怖くないモリアーティってやっぱりなしのような気がする。どう考えてもシャーロックの好敵手には見えないのが最大の難点かも。

その他脇役

あとシャーロック周辺では、ハドソン夫人(221bの大家さんだが、下宿屋のおかみ的な役回り)役のユーナ・スタッブス。後述するように女っ気のない話なんで、ハドソン夫人を若い女性にしちゃうとかいった姑息な手を使う場合もあるが、このハドソン夫人は原作に忠実な初老の未亡人。
「私は大家で家政婦じゃありませんからね」とか言いながらもかいがいしくシャーロックの世話を焼くお母さんっぽい立場。シャーロックも家政婦みたいにあごで使いながらも一目置いているという設定。これまでのホームズもののハドソン夫人はやっぱり家政婦みたいな扱われ方だったが、このシリーズではかなり重要な役割を果たす。

レストラード(従来の翻訳ではすべて「レストレード」だったが、ここではみんなはっきり「レストラード」と発音しているのでそちらに合わせる)はさすがに登場しないだろうと思っていた
だってそうじゃない? 19世紀ならまだしも、現代のイギリスで、民間人がスコットランドヤードの捜査に首突っ込んだりするなんて考えられないもん! ところが平気でやっちゃう。いちおうそれでレストラードがまずい立場になる描写はあるが、べつにクビになるわけでもない。いったいどうしてそういうことが可能なんだ? マイクロフトがうしろで手を回したのか? というか、そういうリアリティーは無視なんだけどね。
演じるのはルパート・グレイヴス。一目見て、『モーリス』の「美少年」がこんなおっさんに!とあせったが、考えてみれば当然だし、まだ若い頃の面影(クリクリした黒目がちの目)は残っているので、そんなに驚くほどじゃない。真性美少年のジェレミー・ブレットがあんなんなっちゃったのに、ほんと年の取り方って人それぞれだね。

ルパート・グレイヴス

かつての「美少年」ルパート・グレイヴス

アイリーン・アドラー

ほとんど女っ気のないホームズもので、唯一のヒロインっぽい女性キャラといえば、(どうやら女嫌いらしい)ホームズが唯一一目置いた女性アイリーン・アドラーで、当然テレビシリーズでも欠かせない。しかし、現代版アイリーン・アドラーはなんとSMの女王様! そうなのか? 本当にそれでいいのか?
しかも、シャーロックと最初に会うときのアイリーンは特別な勝負服(全裸)でお出迎え。エマニュエル夫人かよ!?(古くてすみません) こうなると、アイリーン・アドラーがシャーロックを鞭でしばくサービスショットを期待してしまうが、さすがにそれはなかった。
でも、BBCでここまで男性サービスする必要あるのか? と思っていたら、同じエピソードでゲイ(&女性)向けサービスショットもちゃんとあってシャーロックのフルヌード(かろうじて前だけは押さえてるけど、お尻は丸見え)でした。

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『ベルグレービアの醜聞』より、シャーロックとアイリーンのお色気対決(なのあるか!)

いや、これはアイリーンと関係ない。どうやらマイクロフトに対する当てつけらしいのだが、シーツ1枚巻き付けただけの裸でバッキンガム宮殿での会見に乗り込んで、出て行こうとするシャーロックのシーツのすそをマイクロフトが踏んづけるとシーツが床にはらり、「僕のシーツからどいてくれ! さもないとこのまま出て行くぞ」となるわけ。
アイリーン・アドラーを演じたララ・パルヴァーは大変きれいな人で、ヌードも色っぽかったのだが、この強烈なシーンのおかげでそっちはかすんでしまいました。いや、裸のせいじゃないっす。ベネディクト・カンバーバッチのヌードはガリガリかと思ったら意外や筋肉質でそれなりに目の保養だったのだが、それよりこの兄弟のガキっぽさに開いた口がふさがらなくて、そっちのほうが衝撃だった。やってることが5歳児だよ、こいつら。しかもバッキンガム宮殿で!

というわけで、役者は好きだが、どうもこのエピソード(原作の『ボヘミアの醜聞』をもじった『ベルグレービアの醜聞』)は好かん。だいたいSMの女王様って要するに売春婦じゃん。なんだかアイリーン・アドラーを汚されたような気がする。(原作ではアメリカ人オペラ歌手。まあ原作でも元愛人のボヘミア国王をエロ写真ばらまくと言って脅迫するような女ですが)
それに女王様の勝負服は裸じゃないだろ! ボンデージだろ!という突っ込みも。裸よりそっちのほうがよっぽどエロいのに、わかっとらんな、素人は。

あと、当然のようにこの二人の間に流れるケミストリーも、原作ではほのめかす程度だったのが、テレビだと露骨に性的になる。でもあれって結局シャーロックのほうはなんともなくて、ツンデレだけどシャーロックに惚れてしまったアイリーンが、惚れた弱みで自滅しただけだよね。これも原作と違いすぎる! 原作はアイリーンがホームズに知性で勝ったから意味があるのに、色気で負けてるんだから。
原作ではそんな惚れたはれたはなかったけど、ホームズを出し抜くほど頭が切れる女だったからこそ、ホームズも好敵手として一目置いてたのに、これじゃ賢いどころかバカ女丸出しで、女としても不愉快この上ない。スマホのパスワードが“I’m Sherlocked.”って、女子中学生かよ!
こんなバカ女は自滅して当然なんだが、だからといって、中東でテロリストに首はねさせるという最後も悪趣味すぎ後味わるすぎ。「時事問題も取り入れちゃう俺たちかっけー!」というゲイティス=モファットのドヤ顔が見えるような気がして気色が悪い。ホームズに色気勝負で負けてISISに首ちょん切られるアイリーン・アドラー! もう発想が天才過ぎて凡人では付いていけませんわ(皮肉)。

「最後の事件」

1シーズンがわずか3話という短さ(長さ?)のせいか、人気エピソードは惜しげなく出してしまう方針らしい。というわけで、なんと第2シーズンの終わりでシャーロックは死んでしまう。いや、上に書いた第3シーズンの話じゃなく(あれは死んでないし)、「最後の事件」を第2シーズンに持ってきたことを言ってるのだが。
原作のようにモリアーティを道連れにライヘンバッハの滝から転落するのではなく、テレビのシャーロックはロンドンのセントバーソロミュー病院(通称バーツ。原作でもテレビでもホームズとワトソンの出会いの場)の屋上からひとりで飛び降りる。

コナン・ドイルは本気でホームズを葬りたかったらしいが、誰も二人の最後を見てないんだから、必要とあればいつでも生き返らせることはできた。こっちはワトソンに一部始終を目撃させ、死亡確認をさせることで視聴者をひっかけたつもりだろうが、(原作でホームズが死んだときと違って)シャーロックが死んでないのは誰もが知ってるし、今回はどういうトリックを使ったかに話題が集中したようだ。でも、かんじんの落下地点は建物の影で見えないし、駆けつけようとしたジョンに通りかかった自転車がぶつかって転倒させるとか、もう偽装工作が見え透いててバレバレなんですが(笑)。
それはともかく、確かに仰天させるシーンではあるし、テンションの異常な盛り上げ方はすごい。なにしろモリアーティはシャーロックの目の前で自分で頭撃ち抜いて自殺しちゃうし、そのためシャーロックはワトソンや「仲間」を助けるために自殺するはめになるんだから。(詳細は説明が面倒だしネタバレなんで自分で見てください) トリックよりこっちの「ひねり」の大胆さのほうに口あんぐりでしたわ。
あと、シャーロックがジョンはもちろんだけど、レストラードやハドソン夫人まで、名誉と命に替えても守らなきゃらならない「仲間」と考えていることがわかって、私はむしろそっちのほうがショックだったかも。まあ、この辺からどうやらこれは私の知ってるホームズ物語とは別物だと言うことがわかってきたんだけど。

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ラース・ミケルセン

第3シーズンはそんなわけで最終話の最後の部分しか見てないのでノーコメント。ただ、モリアーティの後釜の悪役マグヌッセンを演じたラース・ミケルセンについては一言。ミケルセンと聞いた瞬間に、『タイタンの戦い』を見て惚れたマッツ・ミケルセンだと思って「やったー!」と飛び上がったんだが、確かに似てるがお兄さんのほうでした。どっちにしろハンサムだし、冷血で蛇みたいなところがすごい気に入った。
ふーん? 私は北欧系は嫌いなはずだったんだが、ニコライ・コスター=ワルドー(『ゲーム・オブ・スローンズ』のジェイミー)もデンマーク人だったし、デンマークは別格でいいか? 言われてみるとこの人たちやっぱり共通点があるんで、ただの金髪ハンサムじゃなくてワイルドな獣性が感じられるところがいいね。ちょっとデンマークにも行きたくなってきたぞ。

メアリー・ワトソン

役者と言えば、これも第3シーズン通して見てないんでなんとも言えないんだが、ジョンが結婚するメアリーを演じたアマンダ・アビントンは最悪。いや女優としてダメっていうんじゃなくて、キャラもキャスティングもダメダメってこと。

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このおばさんが国際スパイという設定は苦しい

まずキャスティングだが、マーティン・フリーマンの実の奥さんってところがまずい。夫婦が夫婦役だからリアルでいいと思われるかもしれないが、私は実の親子とか夫婦とか恋人同士とかは絶対映画で共演しちゃいけないという持論の持ち主。
なぜかというと、なまじ相手を知り尽くした仲だけに、どんなに演技力のある人たちでも、つい地が出るというか、馴れ合いっぽくなって所帯じみてしまうからだ。特にこういうファンタジー(すでにミステリとは思ってない)では、所帯臭さが透けて見えるのは白ける要因でしかない。アマンダがそうだったというんではなく、そうなるんじゃないかと思うだけでもいや。(例外として兄弟姉妹はいい。兄弟が兄弟役をやるのはいつ見ても興奮するし、どの映画だったか忘れたが実の兄妹のピーター&ジェーン・フォンダに恋人役やらせたのはエロくて良かった)
だいたい、マーティンの年から言って当然だが、おばさんすぎるし魅力的でもない。(べつに彼女がブスってわけでもないのに、大の「英国おばさんフェチ」の私らしくないセリフだが、基本的に小さいおばさんに興味ないせい)(私のおばさんフェチについてはこちらに)

おばさんをスパイにするなら、『スパイ大作戦』(Mission: Impossible)(私はこのTVシリーズの大ファンだったので映画版は認めない)のバーバラ・ベインぐらい色っぽくて美人でなきゃいやなの! バーバラは若い頃からおばさんっぽかったが、すげークールで色っぽくて、少女時代の私のレズアイドルのひとりだった。
と書いてから思い出したが、バーバラ・ベインは『スパイ大作戦』でも『スペース1999』でも夫のマーティン・ランドーと共演してたんだっけ。なぜかこっちはまったく所帯臭くなかったんだよね。二人ともちょっとアレなせいか。あと、実際は夫婦なのに他人のふりをするところがかえって良かった。

メアリーのキャラにいたってはもう何をか言わんや。確かに今の時代だから、原作では影が薄い上にあっという間に殺されちゃった気の毒なメアリーにも花を持たせてやろうというのはわかる。だからと言って、なんでジョンの奥さんが国際スパイでプロの殺し屋にならなきゃならんのか。ジョンのキャラに不似合いすぎだし、ただのおばさん(に見えるよね、やっぱ)がそれって非現実的すぎだし、しかも有能すぎだし。
これじゃどう考えてもシャーロックはジョンとコンビ解消してメアリーと組んだ方が仕事がはかどるじゃん! これだけキャラが立っていては彼女ばっかり目立ちすぎてかんじんのジョンがかすんでしまう。それとも(シーズン3の終わりではそう見えたが)これからはコンビじゃなくてトリオでやっていくつもりなのか? もしかしてマイクロフトも入れてカルテットか? やめてよ-!
というわけで、原作のメアリーですら出てきたときいやーな気分になった私としては、こっちのメアリーもとっとと殺してほしいとしか思わない。でもいやな予感がするなー。殺すつもりならたぶんもっと早く殺すだろう。アイリーン・アドラーみたいに。
ところでこうなるとアイリーン・アドラーをあっさり殺しちゃったのがもったいないな。どうせレギュラー化するなら、あっちのほうがはるかに美人だし、若いし、お色気要員としても使えたのに。

女性キャラといえば、原作には影も形もないのになぜかレギュラー扱いになってるのがバーツのモルグで働く法医学者モリー・フーパー(ルイーズ・ブリーリー)。ルックスもぱっとしなくて、なんかいつもオドオドしてて自信がなくて気の弱そうな若い娘なんだが、シャーロックに片思いしているという設定。でもまったく気がないばかりか無神経なシャーロックにいつも邪険にされて傷ついてるらしいんだが、いつのまにか昇格して「仲間」扱いになってる。なんかもう原作と離れすぎてて文句を言う気力もない。学園ドラマのヒロインかよ。(なぜか少女マンガにはこの手のヒロインが多いので) あと、こういうキャラ日本のおたくにも受けそう。と思っただけでもキモいのでなんとかしてほしい。

ここらでキャラ以外についても

スタイリッシュでおしゃれな映像は最初こそいやだなと思ったものの、慣れれば美しいしかっこいいと思うようになった。それより見て誰もが驚くと思うのは、ひっきりなしに画面に登場する字幕。字幕と言ってもセリフではなく、登場人物が読んでるEメールとか手紙の文面とか、さらには頭の中だけで考えていることが画面上に流れるのだ。誰でも考えそうなことなのに、実際にやったのは初めて見た。
確かにこれはアイディアかも。従来の映画やテレビではたとえば手紙が来たら、必ず登場人物が(観客にわかるように)声に出して読み上げる。これってなんか不自然だと前から思ってたから。電話だとその心配はないのだが、今はやっぱり電話よりメールだからね。(ホームズの時代は電報)
さらに登場人物の「心の声」は小説やマンガなら当然のようにひんぱんに出てくるのに、映画だと使えなかった。独白としてナレーションを乗せることはできるが、すごくダサいし。これも不便そのものだったので、このやり方が一般化するとおもしろくなりそう。見ていて、ある意味映画がマンガに近付いたなと思った。(中味もマンガだしね)

そういえば、日本では角川からこのドラマのコミカライズが出ていて(作画Jay)サンプルを見たんだけど、本当に細部までドラマの再現なので驚いた。ジョンはぜんぜん似てないというか、マーティン・フリーマンのかわいさがまったく出てないのでだめだけど、逆にカンバーバッチは美化してるにもかかわらずすごく特徴を捉えている。これの英語版がほしいな。
そうそう、この字幕は日本でも英語のままだったのだが、なぜか『忌まわしき花嫁』だけは字幕まで日本語に訳されていて、英語で見ていた私は字幕が出るたびにいきなり日本に引き戻されるのが非常に迷惑だったのでやめてほしい。

あと、わりとがっかりしたのは221bのセット。ホームズものの楽しみの一つが、この部屋のインテリアで、ごちゃごちゃしてるんだけど美しくて居心地がよいという、どうすればそうなるのか教えてほしいという英国インテリアの典型なんで好きだったんだが、ここではもちろん部屋も現代風になっている。それはいいんだが、なーんか殺風景じゃないか? 特に壁紙のデザインがひどい。『忌まわしき花嫁』の19世紀版221bは普通にすてきだったのでよけいそう感じる。

まとめ

というところで、なかなか楽しめるシリーズだし、びっくりさせられるという点だけとっても評価したいんだが、どこをどう解釈してもこれはホームズものではないな(笑)。なんかホームズみたいな人とワトソンみたいな人が出てくるドラマと言うだけ。
確かに原作のホームズも普通じゃない変人だったが、それでも女王(国)に対する忠誠心と、犯罪を憎む心だけは揺らぐことがないから、読者も安心して見てられたのに、このシャーロックはどっちもゆるゆるだから見ててハラハラする。とりあえず、サイコのホームズは認めるけど、ホームズが人殺しってのはまずいでしょ。完全に本人が犯罪者じゃん。それ言ったらジョンだって第一話でシャーロックを守るために人殺してるし(苦笑)。
『忌まわしき花嫁』ではジョンがマイクロフトに「早く恩赦を認めさせろ」と迫ってたけど、法治国家で人殺して平気なんか。やっぱりこれは私が愛したホームズとは違うわ。
そういや、第一話ではシャーロックはニコチンパッチをしてて、ヤク中じゃなくてニコチン中毒らしいんだが(最後の方ではやっぱりヤク中になってた)、私のホームズなら吸うなら吸う、吸わないなら吸わないで、ニコチンパッチみたいなものに頼る軟弱ものじゃないわ。(自分がそうだったから強気。私も必要だろうと思って最初ニコチンパッチを買ったのだが、すぐに「こんなものイラネ」と思って捨ててしまった)

それを言ったら、ミステリとしてもたいしたことない。さすがに原作にインスパイアされたトリックとかは元がよくできてるからいいと言いたいんだが、すでに星の数ほどあるホームズパスティーシュとくらべると見劣るし、オリジナル部分は強引さと幼稚さが目立つばかりで、まともなミステリファン・ホームズファンから見たら噴飯物だろう。
エピソードの出来にもかなりばらつきがあり、中国の秘密結社のやつ(『死を呼ぶ暗号』)なんかはっきり言って古くさくて退屈だし、『バスカヴィル家の犬』の忠実な翻案である『バスカヴィルの犬』もなんか原作を水で薄めたみたい。(個人的にはダートムアの景色だけでなごみましたけど) じゃあ他のがよくできてるかというとそうでもなくて、役者のすごみで気圧されるけど、ドラマとしてはトンデモの部類。

見ていて、これはミステリ・ドラマだと思うから悪いんだと思った。むしろこれってシットコム(sit com=situation comedy)じゃないの? 毎度おなじみのおかしな人たちが出てきて、毎度おなじみのドタバタを繰り広げて笑いを取るという。そう思って見るとなかなか爆笑できるしおもしろいんだわ。
結論。まあだいたい予想はしてたが、笑えるしおもしろいし狂ってるけど、これはシャーロック・ホームズではまったくない。ただ、ベネディクト・カンバーバッチは本当に不思議な魅力があって、危険な色気もあるし、今後目を離せなくなってしまった。
それにおもしろいことはおもしろいから、第4シリーズ以降ももちろん見るつもり。あと『忌まわしき花嫁』について書いてる時間がなくなっちゃったので、これについてはまたあとで。

終わり。

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