【映画評】デヴィッド・リンチ『ロスト・ハイウェイ』(1997)Lost Highway

♣ いつもながら今さらの作品ですみません。こうなったのにはわけがありまして‥‥
♠ ゲーム『キューブ・エスケープ』でも書いたように、私は『イレイザーヘッド』でデビューしたときからデヴィッド・リンチの超・超・超・大ファンだったんだが、そのわりに『ツイン・ピークス』以後の作品は見てないんだよね。
♣ 飽きた?
♠ 別に飽きたわけじゃないが、ちょっとお休みをもらった感じ。だいたい私は夢中になるものが多すぎて一度にあれもこれもは物理的に無理だし。そもそも『イレイザーヘッド』と『ツイン・ピークス』が好きすぎて、リンチの他の作品はわりとバカにしてたし。
♣ 『ツイン・ピークス』に狂いすぎて、臨界点を超えちゃったような気もするね。

♠ ところが、その『ツイン・ピークス』が25年ぶりに大復活!!! マジか!? あの予言は現実だったのか!?
♣ と興奮しまくっているところなんですが、例によってもったいぶって、旧作『ロスト・ハイウェイ』のリビューをやってみようかと。
♠ だってこれ書かないと新シリーズ見せてくれないって言うから。もうすでに最初の5話は録画してあるのに。
♣ うそうそ。実は『ツイン・ピークス』を予約しようと番組表を見てたらこれがあって、そういえばリビュー書いてないなと思ったから録っただけ。だいたいそれを言うなら、その前に、未完のまま終わってる『ツイン・ピークス』第1、第2シーズンのリビューを完成させなくちゃ。
♠ すごいいっぱい書いたのに、書くことがありすぎて中断したまんまなんだよね。
♣ 実を言うと期待が大きすぎて怖いから、これでも見てちょっとガス抜きをしようと思っただけ。

Director: David Lynch

♣ これ絶対見たような気がしてたんだけどなあ。
♠ これだけ映画たくさん見てると、似たような話が多すぎてわけわかんなくなる
♣ マジで。これもめちゃくちゃ既視感あったし。
♠ それもあるからこうしてリビュー書いてるんだけど。これは(たぶん)見てなかったので今回が初見。
♣ 妻殺しに関わる謎めいたプロットが話題を呼んだ作品、ということも覚えていたんだけど、単に宣伝で見ただけだったか。
♠ ところで、リビューに入る前に、

【カナ表記についてのお断り】

Reneeという妻の名は「レネエ」というのが字幕の訳語だが、確かにそう聞こえないことはないとはいえ、おそらくフランス名の「ルネ」(Renée)の英語版だと思われるので、「ルネ」で十分だろう。あえて英語音声に忠実に書くと、「ルネイ」になる。(英語では語尾のエは発音できないため。カフェが「カフェイ」になるのと同じ)
一方、日本語Wikiでは一貫して「レニー」になっている。この種の表記の不統一もなんとかしてほしいが、Wikiはたいてい独自表記にこだわってるので、おそらく字幕の「レネエ」が定訳なんだろう。でもレネエって‥‥オネエみたいで変すぎるし、原語と違いすぎるし。

女優のRenée Zellwegerも、日本版Wikiでは「レネー」で、従来は「レニー」表記だったがそれは間違いで「原音により近い日本語での表記は、「レネイ」または「レネーイ」であろう」と書いてるが、これも日本版Wikiに載ってるほとんどの英語の解説と同様間違っている(ここの執筆者に英語の専門家がひとりもいないことは断言してもいい)。
アクセント記号がついてるからnéeを「ネ」と読むのは正解。だけどストレスのない第一音節のeを「エ」と読むはずはないので、「ルネイ」または「ラネイ」が正解。もっともアメリカ人は人種のるつぼだし、人によっては他言語の読みを優先させる人もいるが、Wikiではネイティブの発音例までリンクしてるのに、どう聞いてもレには聞こえない。

この手の「日本語表記間違ってる」厨が、ただでさえ間違いだらけのカナ表記をさらに間違った方向へねじ曲げていくのは我慢できないので、私は「ルネ」で通させてもらう。ていうか、日本人にもなじみのある名前なら「ルネ」でいいじゃんか!
それにしてもこういう連中は、エリザベスなんて名前は存在しないから(事実だが)「イリーザベス女王」、アレキサンダーなんて人はいないから「アリグザンダー」、マイケルもいないから「マイコー」といちいち書くんだろうか。
まあ、かく言う私も「アンドルー」Andewを「アンドリュー」とは死んでも書けない(英音なら「アンドルー」、米音なら「エインドルー」)から、性癖の問題かもね。

♣ なんだ、これ?
♠ いや、今はSkyrimのカナ表記で頭が痛いんで、余計気に触って。
♣ だからSkyrimは英語だけでやることにしたんでしょ?
♠ うん、だから私はいいし、字幕の間違いなんていつものことだからどうでもいいんだけど、それを偉そうに指摘して「正しくはこうだ!」と間違った主張をする奴のほうが痛くて。
♣ そんなのほっとけば?
♠ でもデマも拡散すれば事実になっちゃうように、こういうのはやっぱり一人ぐらい違う!と声を上げないと、ますます日本人が英語できなくなると思って。
♣ だったらこんな誰も見てないブログでじゃなくて、ツイッターで流すとか、Wikiを自分で編集するとかすればいいじゃん。
♠ なんかそこまでして公衆に奉仕する気にならんのよ。学生にはお金もらってるから教えるけど。こういうのって広げれば広げるだけバカが食いついてくるし。ああいう連中って英語知らないくせに、ネイティブが言ってことにすらいちゃもん付けるからな。だから「いちおう書いたからな」という自己満足でいいや。
♣ 意味わからん。

♠ 気を取り直してここでまず、見たままのストーリー

自宅のフレッドとルネ

成功したジャズ・ミュージシャン、フレッド(Bill Pullman)は、美しい妻ルネ(Patricia Arquette)と暮らしていたが、秘かに妻の不貞を疑っているらしく、いつも浮かない顔をしている。
ある朝彼は何者かがインターホンで「ディック・ロラントは死んだ」とささやくのを聞くが、出てみるとドアのところには誰もいなかった。
フレッドは妻と一緒に出かけた、妻の友人アンディ(Michael Massee)のパーティーで、不気味な「謎の男(Mystery Man)」(Robert Blake)と会う。謎の男はフレッドを知っているらしいが、フレッドは思い出せない。どこで会ったのかと聞くと、「あなたの自宅で。ほら、私は今も自宅にいますよ」と答える。差し出された携帯で自宅にかけると本当に男が答えた。
さらにその前からフレッドの家には差出人不明のビデオテープが届くようになる。最初は家の玄関だけだった映像は次第に2人の寝室にまで侵入し、最後のビデオにはルネのバラバラ死体のそばにいるフレッドが映っていた。フレッドが寝室に駆け込むと、そこには惨殺されたルネの死体が。

訪れた警察にフレッドはまったく記憶にないことを訴えるが、信じてはもらえず死刑判決を下される。しかし死を待つdeath row(死刑囚監房)の中で、彼は頭痛を訴え錯乱状態になる。
驚いたことに看守が覗くとそこにフレッドの姿はなく、似ても似つかない若者ピート(Balthazar Getty)が座っていた。

釈放されたピートは両親の待つ家に帰る。彼は仕事に戻り、同僚や恋人や友人たちにも暖かく迎え入れられる。彼は腕のいい自動車修理工なのだが、顧客のひとりにミスター・エディ(Robert Loggia)というギャングのボスがいて、とりわけピートをひいきにしていた。ピートもミスター・エディはヤバい奴だということは知っていて、触らぬ神に祟りなしという感じで相手をしていた。
にもかかわらず、ピートはミスター・エディの愛人の美女アリス(Patricia Arquetteの二役)に一目惚れしてしまう。しかし相手が相手だけに慎重なピートだったが、アリスの誘惑に負けて関係を持ってしまう。
アリスはいっしょに逃げてくれとピートに言う。彼女はミスター・エディの愛人であるばかりでなく、無理やりポルノに出演させられているのだという。そのためには逃走資金が必要で、彼女の以前の愛人であるアンディから金品を奪って逃げようという計画に、ピートはまんまと乗せられてしまう。しかもその際、彼は誤ってアンディを殺してしまう。

アリスに促されるまま、二人は砂漠の中の小屋の故買屋を訪ねるが、小屋は無人だった。故買屋が帰るのを待つ間、二人は砂漠でセックスするが、「きみがほしい」とささやくピートにアリスは「私は決してあなたのものにはならないわ」と言って小屋に入る。
アリスを追って立ち上がったのはなぜかピートではなくフレッドである(しかし彼はピートの服を着て、あくまでピートとして振る舞い、ここにいることに何も疑問を持たない様子)。しかし小屋にいたのはアリスではなく謎の男で、アリスという名は偽名で本名はルネであると告げる。
フレッドは車で逃げ出し、ロスト・ハイウェイ・モーテルという名のモーテルにたどり着く。彼はそこでルネがミスター・エディ/ディック・ロラントとチェックインするのを見て、隣の部屋で二人を監視する。セックスのあと、ルネは一人で去り、ミスター・エディが残る。フレッドは彼を車のトランクに押し込んで走り出す。
砂漠の中でフレッドはミスター・エディを引きずり出し、どこからともなく現れた謎の男に手渡されたナイフで彼の喉を掻き切る。「何が望みだ?」と訊くミスター・エディに、謎の男はルネとエディがスナッフ・フィルムを見ながらからみあっているビデオを見せ、彼を射殺して消える。
フレッドはミスター・エディを砂漠に残し、彼の車で走り出す。

アンディの家では四人の刑事(前半のフレッドのエピソードに出てきた刑事二人と、後半のピートのエピソードに出てきた二人)が殺人現場を調べている。一人が手に取った写真にはミスター・エディ/ディック・ロラント、アンディ、ルネが写っているが、ピートが見たときはいっしょに写っていたアリスの姿はない。刑事たちは指紋から犯人はピートだと確信するが、写真のルネが(ピートの代わりに消えた)フレッドの妻であることに気づき、「こんな偶然ってあるか?」と言う。
フレッドは自宅のインターホンに「ディック・ロラントは死んだ」とささやくところを刑事に見つかり、パトカーに追われて砂漠を逃走する。そのうち彼は叫んで頭を激しく振り始め、画面は夜のハイウェイを映し出す。

♣ ああ、なつかしいというか、本当に何度も見たような既視感。偽の記憶とか、シミュラクラとか‥‥。
♠ まさに私のジャンルでしょ。
♣ しかもリンチそのものでもある。なんであの人の映画あれほど好きだったか久しぶりに思い出した。
♠ ただ本当に今さらなよくある話ではある。
♣ それでもいいよ。それをこれだけスタイリッシュに描いてくれれば。
♠ それそれ。これも忘れてたけど、リンチっておしゃれなお芸術監督だったんだよね。だから、映像も音楽も、演技や演出もセリフも、寸分の隙もなくクールでスタイリッシュだ。
♣ 環境ビデオとして見てもステキですね。
♠ 特に最近、タランティーノをまとめて見た後なんで、センスの良さに涙が出る。
♣ いわばリンチとは対極にあるダサさの極致がタラですものね。
♠ なんであいつがカルト監督としてリンチと同列みたいに語られるのかわからんよ。
♣ ニッチなファン層を対称にしてるという点ではいっしょかも。
♠ とにかくリンチはすべて好き。役者も好きなタイプばっかりだし(ただし『ツイン・ピークス』に限る)。
♣ タランティーノは見ただけで吐き気がするようなのばっかり出てきて、吐き気のするような会話をかわすのに。
♠ もうタランティーノはいいよ! 映画に話を戻す!

♣ だいたいこれ、難解って言われるけどそんなことないよね。
♠ ていうか、すべての「謎解き」をやろうとするともちろん行き詰まるけどさ。
♣ でもだいたいの筋はわかるじゃない。
♠ 元々が不条理映画だからな。『ひぐらしのなく頃に』は一見その手かと見せかけて、すべての理由が説明されたけど。リンチはそういうのは求めてない。
♣ 『ひぐらし』をリンチと比較しますか! 本当に好きなんだね。
♠ まあ、そういうふうに何にでも理屈づけをしたがるところが素人っていうか、「意味わからん!」って部分を残しておいた方がおもしろいのにね。

♣ それで謎解きをやってみると、もちろんルネやアンディやディック・ロラント=ミスター・エディを殺したのはフレッドで、彼は死刑を目前にした恐怖から、別人になることを望み、ピートに憑依(言い方はなんでもいいが)して運命から逃れたけど、そこでもやっぱりルネの分身であるアリスに翻弄され、同じ罪を犯してしまう。それで最後は死刑が実行され、フレッドは死んだと。
♠ おもしろいのは、ピートになってからのくだりは、すべてデス・ロウにいるフレッドの妄想かと思ってたんだけど、ピートもミスター・エディも実在するみたいなんだよね。
♣ 実在しないのが確実なのは謎の男だけでしょ。
♠ アリスも実在しないんじゃないかな。あれはルネそのもので。刑事視点だと写真から消えてたし。
♣ じゃあ、フレッドとピートの入れ替わりはなんなの? あの部分は「現実」だよね?

アリスとピート

♠ まあ、わかってる部分から進めていこうや。おもしろいのはフレッドとピートが対照的な人物だってこと。壮年の裕福な成功したミュージシャンのフレッドに対して、ピートは若く貧しいカーメカニックだし。
♣ ピートは両親や恋人や仲間たちに囲まれて、みんなに好かれているみたいなのに、フレッドはどうやら友達いない孤独な人間だし。
♠ ピートがジャズを嫌いらしいところもポイントかな。
♣ あそこで流れていた曲はフレッドが演奏していたやつなんだって。要するに自分とはまったく違う誰かになりたかったんだな。
♠ だからピートは架空の人物だと思ってたんだけどなあ。
♣ これも不思議な感じでおもしろかった。何考えてるんだかわからないフレッドよりピートの方が地に足が付いたリアルなキャラクターだし。

♣ でも彼にも謎はあって、「あの晩」何が起こったの? 「あの晩以来ピートは変わってしまった」って、両親や彼女が深刻に話してて、実際、家に戻ったピートを腫れ物にさわるように扱うけど。
♠ 最初は当然、デス・ロウで見つかったことを指してるんだと思ってたけど、どうやらそれ以前の話みたいだよね。
♣ 唯一の手がかりらしきものは、ピートが道ばたに立っていて、両親と彼女が「ダメ! 行かないで!」と叫んでる場面なんだけど。これが何度もフラッシュバックする。
♠ あれって、そもそもフレッド視点でしょ。フレッドが車で走ってる時に見た光景。それにフレッドとピートが出会う唯一の場面でもある。
♣ それも推測に過ぎないんだけど。
♠ まあ、完全な憶測を言わせてもらえば、あそこでピートは自殺を図ったんじゃないのかな。両親らの反応を見てるとそんな感じ。はねたのがフレッドなのか、目撃しただけなのかわからないけど、その時の光景がフレッドの目に焼き付いていたから、彼に転生したと。
♣ だって、ピートはフレッドのこうなりたかったという理想なんでしょ? 自殺した人を理想と思う?
♠ 確かに変だな。ほんとこれはわからん。

♣ もうひとつどうしてもわからなくて引っかかってるのは、あのビデオを撮ってたのは誰なのかってこと。彼らの寝室(ましてや殺人現場)のビデオなんて撮れるのはフレッド以外に考えられないけど、自分で撮ったビデオを自分に届けるというのもおかしいし。
♠ 狂人なんだからなんだってありだろ。それにビデオが実在してるのかどうかもわからないし。フレッドの記憶映像かもしれない。
♣ だってルネも警察も見てるよ。
♠ そうか。

♣ なんか謎解きで盛り上がるかと思ったらさっぱり盛り上がらないね。
♠ うーん、確かに映像的・音楽的には100点満点なんだが、話がおもしろいかというとアレだからな。妻がギャングの親分と浮気してたから殺しちゃったとか、恋人がギャングの情婦だから殺しちゃったとか、私には「そうですか」というだけで、ほんとどうでもいい話だし。『ひぐらしのなく頃に』が他は0点なのにストーリーだけがめちゃくちゃおもしろかったから、よけいそれを感じちゃうな。
♣ なんか『ひぐらし』に取り憑かれてない? まあ確かに普通、浮気殺人とかギャングとかカーチェイスがメインプロットの映画なんて、それだけでつまんなそうだから絶対見ないよね。
♠ これもO・J・シンプソン事件をネタにしてるらしいけど(他にもそういうのがいっぱいある)、そもそもなんであれがそんなに受けるのかわからないからなあ。
♣ アメフト・スターによる殺人人種問題テレビで実況中継されたフリーウェイ上でのリアル・カーチェイス、しかも無罪って、話題性十分じゃないですか。
♠ そりゃその時は騒がれるだろうよ。でも芸能人の犯罪なんてすぐ忘れ去られない? だけど、アメリカじゃほとんど現代の神話みたくなってるじゃない。どうもあの感性はさっぱりわからん。

♠ まあ、先に書いたように元々不条理映画の監督なんだから、理屈で解読しようとしても無駄だ。それより、誰でもわかるいいところを書いていこう。
♣ まずは役者評ね。フレッドを演じたビル・プルマンはもうお爺さんになっちゃったけど、この頃は絵に描いたような二枚目だった。
♠ カイル・マクラクランと似たようなタイプの、セクシーだけどもっさりした二枚目で、こういうのリンチの趣味なのかな。

♣ ルネ/アリスのパトリシア・アークエットは、アークエット・ファミリーの美人な人、といえばわかるかな。
♠ 確かに5人兄弟(男2女3、全員俳優)の中で彼女だけが異色に美人。
♣ 私はなぜか昔からこのファミリーをひいきにしてるんだよね。
♠ というか、お姉さんのロザンナがすごい好きだっただけ。
♣ 弟(デヴィッド)も好きだよ。『スクリーム』シリーズ良かった。
♠ しかし似てない姉妹だ。ロザンナはあの顔なのに。

アークエット・ファミリーの売れてるほうの3人。左からデヴィッド、パトリシア、ロザンナ

♣ でも他の人たちが個性的すぎて、パトリシアがいちばんルックスはつまんなく見えた。
♠ それにやっぱりあのファミリーだから、美人に見えて実は‥‥というところもあるんだけど、この映画はパトリシアをいちばんきれいに撮ってくれたね。
♣ でもやっぱりアークエット家の血なのか、リンチの趣味なのか、ただの美人では終わらないすごみを感じさせた。

♠ ていうか、怖いよ! 『シン・シティ 復讐の女神』のエヴァ・グリーンなんて、中坊が必死で考えた悪女という感じだったけど、ここのルネ/アリスはまさに男を食い尽くすファム・ファタールそのもの。
♣ ロドリゲスで思い出したけど、あそこで、ロドリゲスやタランティーノの映画にはセックスが完全に欠如してるって言ったけど、さすがリンチって言うか、この濃厚なエロティシズムにはうっとり‥‥。
♠ セックスはおろか、おっぱいひとつ見せてくれないタラと違って、乳首までちゃんと映すしね。
♣ それを言うなら、アメリカ映画は乳首どまりがほとんど。セックスシーンも上半身のみ。でもこれがヨーロッパ映画だと、別に官能系の映画じゃなくても、セックスじゃ乳もんだり乳首吸ったりするし、全身の絡みを見せるし。
♠ だから見せりゃいいってもんじゃないんだって。それよりリンチは雰囲気がエロいんだよ。あと、あの露骨なSMっぽさはここでも健在だった。頭に銃突き付けてストリップさせるところとか。
♣ ファム・ファタール自体が陳腐なクリシェだけど、なかなかそれをちゃんと描ける人はいないからね。よくやった。女優としてはクロネンバーグ同様、あんまり出演したいタイプじゃないだろうけど。とにかくパトリシアはよくやったよ。
♠ あえて難を言えば、あの前髪パッツンとバカっぽいふわふわブロンドのヘアスタイルは他になかったのか?
♣ 私も前髪パッツンはいやだわー。正直あの髪型だと誰でも美人に見えないし。
♠ それでまた『ひぐらしのなく頃に』を思い出したんだけどさ、前髪切り揃えるのって普通キチガイの印だよね。
♣ ひどいことを(笑)。まあ、確かにある種の強烈な個性を持った人を表す記号かな。アンディ・ウォーホルとか、藤田嗣治とか、草間彌生とかがまさにそういう感じだけど。
♠ なのに日本のアイドルってほとんどあれなのは、やっぱりおたくってキチガイ女が好きってことでよろしいんでしょうか?
♣ 知るかい!

♠ ピートを演じたのはバルサザール・ゲティ。この名でわかるように、アメリカの大富豪ゲティ家の御曹司
♣ まだ子供だった頃、『蠅の王』で主演だったよね。だからてっきりイギリス人かと思ってた。
♠ さすが豪族だけあって、イギリスのパブリックスクールを出てるのだ。
♣ おおー! だけど顔は一瞬タランティーノの息子かと思ったぐらいのデコっぱち(笑)。
♠ 笑うなよ。十分ハンサムの範囲内だと思うよ、アメリカ人の基準では。

♠ ミスター・エディ/ディック・ロラントのロバート・ロッジア
♣ すごい好き。好々爺前とした普段と切れたときの落差が(笑)。
♠ ていうか、このロードレイジ(車を運転していて、他のドライバーに対してカッとなること)・シーン、もうロードレイジと言えばロバート・ロッジアの顔とこの場面しか思い浮かばないほど、私の中ですでにミーム化してしまったよ。
♣ 別に相手を殺すわけでもない、結果としてたいした暴力は振るわないのに、勢いだけがすさまじいんだよね。
♠ あのニコニコ顔で「車間距離を守れエエエエエ!」と切れるところが、完全にギャグなんだけどかえって恐ろしい。やっぱりエロだけじゃなく暴力に関しても、リンチは知り尽くしてるわ。タランティーノみたいなトロいお子ちゃまとは天地の差だわ。

あいにくロードレイジの写真がなかったんだが、とにかくよかったロバート・ロッジア

♣ 謎の男を演じたロバート・ブレイクは白塗りの年寄りオカマみたいな顔でマジで気味悪かった。
♠ 若い頃の素顔も十分気持ち悪かったけど、それが年取ったのを白塗りにして出す神経がわからん。
♣ ロバート・ブレイクというと私はテレビシリーズの『刑事バレッタ』の刑事の印象。当時もぜんぜん好きじゃなかったけど。ところがなんと‥‥
♠ あ、その話はあとで。先に役者をまとめちゃおう。
♣ ほとんどこれで全部でしょ。

♠ 私はピートの両親が好きだった。
♣ ゲイリー・ビジールーシー・バトラーね。あれってアメリカのDQNそのもののイメージじゃん! 日本のDQNがジャージなら、アメリカは革ジャンとジーンズ、あるいは袖を切ったデニムジャケットという定番通りの夫婦。
♠ 私はあの格好が好きなんだよ、特にお母さん。
♣ 日本のDQNはバカにしているくせに。
♠ それに見かけはああだけど(ていうかあの見かけは彼らの階級を表す記号なんだけど)中味は普通に優しい両親なんだよ。
♣ ゲイリー・ビジーは一度見たら忘れられない顔で、そのわりには何で見たのか覚えてない。
♠ いつも脇役だからね。実際、今フィルモグラフィーを見てもそんなに印象に残った映画ないんだけど、それでも見ると「あっ、ゲイリー・ビジーだ!」と思わせる、そういう役者。
♣ 個性派っていうことでは、アンディのマイケル・マッシーもめっちゃくちゃ印象的な顔だよね。
♠ この人も顔見たら「ああ!」と思うんだけど、何に出てたのか思い出せない。この人たちが出てる映画はいっぱい見てるんだけど、どこにどういう役で出てたのかも覚えてないのに、顔だけははっきり覚えているという。
♣ あと、処女作以来リンチ映画には必ず出てる常連のジャック・ナンス、今回もピートの同僚役で、人の良さそうなおっさんを好演してました。

♠ それで何が言いたかったかというと、この映画は呪われてる!
♣ というのも、謎の男っていうのは明らかにフレッドのダークサイド(妻殺しの願望)を体現したものなのに、それを演じたロバート・ブレイクは、4年後の2001年に妻を殺した容疑で逮捕されちゃったんだよね。証拠不足の推定無罪で無罪にはなったものの、民事で30億円の支払いを命じられて、芸能界からは追放され、社会的には殺されたという。
♠ と言うとオカルトじみているけど、それぐらいアメリカじゃ妻殺しが多いってこと。もちろん銃社会のせいと、あのバカ高い慰謝料のせいじゃないかとおもうけど、それがわかっていてホイホイ結婚するのが不思議。

♣ それは単なる偶然の一致としても、この映画出ていた人って不幸になった人が多いんだよ。まず、ジャック・ナンスはこれが遺作でしょ。
♠ じゃあ、新ツイン・ピークスにはピート・マーテルは出ないのか、それはショック!
♣ しかもこの映画の公開前の1996年に53才の若さで不審死。脳内出血で死んだんだけど、本人は死ぬ前にヒスパニックと喧嘩して殴られたと言ってて、でも警察は自分で酔って頭をぶつけた可能性もあるというので、真相はわかってない。
♠ ひどい死に方。いい役者だったのに。
♣ あともうひとり、これが遺作になった人がいたんだけど誰だか忘れた。

♠ 脇役だけど、Lou Eppolitoという役者はマフィアの殺し屋だったらしく、複数の契約殺人で2005年に捕まって刑務所に送られてる。
♣ ひえー! いくらイタリア系でも殺し屋兼任はすごすぎ。
♠ マイケル・マッシーはこの映画より前のことだし、事故だけど、映画『クロウ』でブルース・リーの息子のブランドンを撃って殺してしまっている。(空砲のはずが手違いで実弾が入っていた)
♣ 不幸な事故だったねえ。
♠ でもいちばん恐ろしいのは、タランティーノがロバート・ブレイクの事件を知って、映画化しようと計画していたってことかな。
♣ ヒー!
♠ っていうのは冗談だけど、『ツイン・ピークス』の出演者陣(特に女性陣)なんて、みんなあれだけ魅力的で、あれだけ飛ぶ鳥を落とす勢いの人気があったのに、あのあとはみんな鳴かず飛ばずで、やっぱり呪われてるような気がしてきた
♣ その彼女らが現在どうなってるのかを見るのが楽しみなような怖いような。

♠ というわけでいろいろ業が深いリンチなんだけど‥‥
♣ あの人、間違っても天国には行けないっていう気がしている。何も悪いことはしてないんだけど、ああいう人間は成仏させてはいけないような。
♠ だからもうそれはいいから! 他にすごいと思ったのは、音楽。音楽監督はいつも通り、アンジェロ・バダラメンティとトレント・レズナーで、これだけでも私は泣いて喜ぶんだが、他にもサントラには、David Bowie、This Mortal Coil、Barry Adamson(元Magazine)、Billy Corgan(元 Smashing Pumpkins)、Marilyn Manson、Rammsteinと大物が揃い踏み。
♣ それも単にありもののヒット曲を並べただけじゃなく、あまりにも画面にぴったりの状況で出てくるんだよね。
♠ Bowieで泣いた。マリリン・マンソンは出演もしてたね。スナッフ・フィルムの中で(笑)。
♣ なぜかヘンリー・ロリンズもボディーガード役で出てたよ。
♠ こういう奴らこそろくな死に方しそうにないように見えたのに、現在の写真見たら普通に円満に年取ってるんでだまされたような気がした。なんでBowieが死んじゃってこんな奴らが‥‥。

♣ あー、話変えてカメラもいいよね。
♠ この夏、ヘボいB級ホラーいっぱい見たからよけいそう思うわ。
♣ ただの真っ暗闇映してるだけで、これだけ神経に応える映画もないわー。
♠ ちょっとした間合いの取り方もすごいうまいんだよね。人を不安にさせるという意味で。
♣ 正直リンチってこんなにうまい監督だったっけ?と思ってしまった。なにしろ熱中して見てたのが25年前なんで(笑)。
♠ 年取って丸くなった代わりに円熟した感じ。そういえばクロネンバーグにも同じこと感じたんだけど、ものすごく老練で洗練された感じになったけど、若い頃のむちゃくちゃさは薄れたなあと。破天荒さが売りの監督だったのに、ちょっときれいにまとまりすぎている。
♣ 『新ツイン・ピークス』はどうなるのかな? あれがきれいにまとまってたらいやだな。
♠ だめだ! やっぱり『ツイン・ピークス』のことしか考えられないや!
♣ 他のときなら十分感動もしたし、書くことはいっぱいあったんだけどねえ。とりあえずロードレイジと鼻血を見るとこの映画を思い出さずにはいられない。

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