★★【テレビ評】デヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス』 第1・第2シーズン (1990-1991)

はじめに

これは今を去ること25年前に書いた、『ツイン・ピークス』のオリジナル・シリーズのリビューです。実はあまりに好きすぎて、当時も書きたいことがありすぎるのに時間がなくて、未完のままで放り出してあったのをサルベージしてきました。理由は、第3シリーズについて書くのに、前提条件としてまた同じようなことを繰り返すのはしんどいと思ったのと、もし時間があれば、また旧シリーズを見直してちゃんと完成させたいと思ったから。
構想ではいろいろ画期的な新解釈とかが続くはずだったんだけど、結局役者評=キャラクター分析だけ、それも途中で終わってますが、『ツイン・ピークス』を初めて見たときの私の率直な気持ちが伝わると思います。
あと、なにぶん昔の日記ですので若書きはご容赦ください。って、別に今の方が老成したわけでもない、っていうか今の方がガチでガキっぽいのが恥ずかしいけど。あとここに出てくるネタその他、すべて25年前の話だってことをお忘れなく。(当時は写真なんて付いてなかったので、写真のキャプションは今書いてます)
インターネットもない時代に、解説本とかも読まずにすべて自分で見た感想として書いてます。もし認識に間違いがあったらごめんなさい。今回はあまり手を加えない方針だけど、すべて英語だった固有名詞を日本語に直したのと、あと現在の付記は青字で書いてます。

第374章(昔は日付の代わりにこういう章番号がついてたんだけど、いちおう記録として残しておきます)

年末特別座談会 TWIN PEAKS

♦ えー、皆さん本日は歳末のお忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございます。
♥ 口上はいいから早く始めてくれない? 本当に忙しいんだから。
♦ それじゃ唐突に本題に入って、『ツイン・ピークス』どう思いました?
♠ 唐突すぎる! せめて解題くらい言えよ。
♥ だってそんなの、いろんなところに書かれすぎて、見飽きちゃったんだもん。
♠ 他人が何を書こうが、私はこの日記には一度も書いてない。記録として残す意味でも書いてくれなきゃ困る。♣、解題やりなさい。
♣ なんで私が‥‥まあ時間もないことだし、それじゃかいつまんで。えーと、これはアメリカABCネットワークで1990年の4月から翌1991年の6月まで、29回に渡って放映されたシリアル・ドラマで、制作はデヴィッド・リンチ & マーク・フロスト。フロストという人はずっとテレビ畑で仕事をしてきた人で、ドラマの脚本書きなんかをしていたようだけど、リンチとの仕事が持ち込まれるや、わざわざこのドラマのために2人で制作会社を創設してしまったくらいの入れ込みよう。しかしもちろん目玉になったのはリンチの名前で、なにしろあのデヴィッド・リンチがソープ・オペラを撮るっていうんで、テレビ・コードへの挑戦だとかなんとか、始まる前から騒がれてたんだけど、蓋をあけてみたらこれが驚異の視聴率で、たちまち全米に『ツイン・ピークス』カルトを生んだという次第。
♦ さらに本国と並行してイギリスでも放映されたんだけど、これが当然ながら本国以上の受け方。日本でも今年からBSで放送が始まり、それと同時にビデオ発売、そしてこのクリスマスにはLD限定15枚ボックス・セットの発売で、それを一晩かかって見終えた私が、こうやって寝不足の目をこすりながらリビューを書いてるというわけ。
♥ 一晩っていうけど、トータルで24時間以上あるんだよ! まともに見たら一晩じゃすまなくて一昼夜かかる。私はちょうど真ん中へんまでレンタル・ビデオで見ちゃってたから一晩ですんだけど。
♣ でもこれ、そういう風に一気に見ようとするのって邪道だと思う。だって、これってシリアルの定石で、必ず「さて、○○の運命やいかに?」って感じで、サスペンスをもたせたまま終わるでしょう。それを一週間ヤキモキしながら待つのがいいんで、すぐに続きを見るのはずるいよ。

『ツイン・ピークス』と私

ツイン・ピークスの良心、エージェント・クーパーとトルーマン保安官

♦ おっと、内容についての話は後まわしね。それで私と『ツイン・ピークス』との馴れ初めだけど。
♠ そんなふうに放送前からさんざん話を聞かされて、それも絶賛の嵐だったもんだから、あまのじゃくの私はつい斜に構えてしまって、BS加入しようとも思わなかったし、それほど見たいとも思わなかったのだ。
♣ だいたいリンチはこのところ低調だったし、ぜんぜん期待もしてなかった。
♥ そう! 何度も言うが、劇場で『イレイザーヘッド』を見て感激して、すぐにソフト買ったという人は日本中でも何人もいなかったと思う。それだけリンチに惚れ込んだ私としては、今さらリンチ、リンチと騒ぐな!って感じで。
♠ いや、『イレイザーヘッド』は別格として、映画監督としてのリンチに対する私の評価はわりと低いのよ。というのも、『エレファント・マン』以降の映画が揃いも揃って駄作ばっかりだと思ったから。『エレファント・マン』は興業的には日本じゃ大ヒットだったけど、中味は憤飯ものだったし、『デューン』は壮大な失敗作と世評でも言われてるけど、まったくその通りだし、逆に批評家受けが良かった『ブルーベルベット』は私はまったく認めてないし、カンヌでグランプリ取った『ワイルド・アット・ハート』はふざけんなって感じだし。これは完全な一発屋だなと思って。
♣ というか、あの手の変化球は普通一回限りしかきかないものなんだよ。瞬間芸みたいなもんで、一回性だからおもしろい。あれをいつまでも続けていたらバカなだけ。

♦ というようなわけで、ただでさえ風当たりの強いリンチなので、私は眉にだいぶツバつけて、冷やかな目で見ていたのですが、とにかく一度は見てやらなくちゃと思って、序章にあたるパイロット版をレンタル屋で借りてきて見たわけです。ところがこれがおもしろいのなんのって。
♠ いや、私はそれほど感激はしなかったな。『イレイザーヘッド』以来の映画とくらべればいちばんおもしろいと思ったけど、『イレイザーヘッド』の感激からはほど遠い。だからすぐに続編見たいとも思わなかったし。
♥ 見たくてもいつも貸出中だったという事情もある。
♦ それでしばらく遠ざかっていたんだけど、この秋最初の3本(1~6話)を借りて見たところ不覚にも、
♣ ハマってしまった。
♦ そう。シリアルの怖いところは、はまったら最後まで抜け出せないということなんだ。

♥ だいたい私は凝り性ではまりやすい性格だし、はまるとハンパでなくはまりこむ人だし。
♠ そうなると1本のビデオを朝から晩まで、平気で繰り返し見たりする人だしね。
♥ 実際、レンタルで借りたやつも、翌朝返すまで3回は繰り返して見たよね。
♣ で、これはレンタルじゃたまらないなと思って、全巻ダビングするつもりで(この頃はまだLDの発売予定はなかったのだ)、わざわざそのために新しいビデオデッキまで買ったんだけど、ボックス・セットが出ることを知って、これはもう買うっきゃないと。
♥ 6万円のセットをボーナスはたいて予約してしまった。
♠ 安いもんだよ。これで何時間楽しめるか考えれば。1枚わずか4000円でしょ? ビデオは買えば15000円くらいするもんね。画質はダンチだし。(恐ろしいことにこれほんと。ビデオは買えば1本15000円、レンタルで1000円ぐらいの時代だった。インターネットもない時代だから、これ以外に映画を見たいと思えば映画館で見るほかなかった。レーザーディスクが出たとき、私が飛びついて買いまくったのも当然だった。しかし15枚組のボックスセットをポンと買うとは、この頃は金あったんだな)
♣ だいたい私は51000円で買っているから、1枚3400円だ。
♥ レンタルなら10回借りると思えば元がとれるな。
♠ 同じビデオをレンタルで10回借りるか、普通?
♥ これならやりかねない。
♦ 金で値段をつけることはできないね。この腹の底からふつふつと湧いて来る喜びは。

♦ それでは、『ツイン・ピークス』のどこがそんなに良かったのか考えてみよう。どこから行く?
♠ 今さらここでストーリー書いてもしょうがないしさ、これはむしろストーリーを追うドラマというよりは、キャラクター・ドラマだと思うんで、キャラクターの話をしよう。
♣ ていうか、このグシャグシャに絡みあった相姦図を解きほぐしてみるのがおもしろいのではないかと。

エージェント・デイル・クーパー(カイル・マクラクラン)

♦ そうね。それじゃその線でキャラクターをひとりひとり洗って行こうか。まずは当然、
♥ 監督や脚本もさることながら、この人がなかりせば『ツイン・ピークス』は成立しえなかったという。
♣ エージェント・クーパー(Kyle MacLachlan)ね。
♠ あー、でも私はやっぱり世間が騒ぎすぎたせいか、この人には飽きてしまった。
♥ それでもいちばんかわいいじゃない! アメリカ映画界でも屈指の美形だし。
♠ でも『ヒドゥン』を見てしまったからなあ。まじめそうなきれいな顔して、実はおつむてんてん、じゃなかった宇宙人というキャラクターがしっかり頭に染みついてたから。だからエージェント・クーパー見てもそれほど変に思わなかったし、宇宙から電波が送られてきたときもぜんぜん驚かなかった。向こうの御親戚から便りが来たんだなーとか思って。
♣ それそれ! クーパーのキャラクターって『ヒドゥン』そっくりだと思わなかった? あの絶妙のズレ演技
♦ 演技じゃなくて地なんじゃないの?
♠ でも『デューン』や『ブルー・ベルベット』ではあれほど変じゃなかったもんね。
♣ 絶対クリソツよ。あれもFBI捜査官だったし。私は『ツイン・ピークス』のラストで(もしラストと言えるようなものがあったとして)、実はクーパーはエイリアンだったというオチがついても驚きませんね。ありゃほとんど盗用に近いよ。リンチって悪い奴なんだ。
♥ でもカイルを最初に見つけてきたのはリンチなんだし。
♦ 少なくとも『イレイザーヘッド』以後のデヴィッド・リンチの最大の功績は、カイル・マクラクランを発見したことだと言えそう。

♦ でもなんでカイル・マクラクランなんだろう?
♠ なんでって?
♦ いや、ジャック・ナンスとかデヴィッド・パトリック・ケリーなら、リンチ好みってのはよくわかるんだけど、そういう変態役者とくらべてカイルって毛色が違いすぎない?
♥ 変態に変わりはないと思うけど。かわいい顔して変態ってところがいいんじゃないか。
♣ リンチに似てるって説もあるんだよね。父子みたいだって。
♦ だとしたら自分の分身ということだけどね。
♥ 似てない! 悪いけどあれほどハンサムじゃない。それが証拠にリンチの息子って父親そっくり! あれを小さくしただけなの。それがちっともかわいくない。
♦ 『ツイン・ピークス』にも出てきたね。ハロルドの隣の家にいる謎の老婆の孫役で。
♠ あれも謎解きがされないままだ。
♥ そういやカイルの弟のクレイグも出てるの。それも死体役で。これがまたお兄さんそっくり!
♠ ドッペルゲンガーというのは、この話のテーマのひとつなんだからいいじゃない。
♣ だったら、それをもっとうまく利用すればいいのに。ウィンダム・アールがあの浮浪者(Craig MacLachlan)を殺したのは、名字がキャロラインの旧姓と同じだったからという苦しい説明がついてたけど、クーパーに生き写しだったからとした方が、ずっと納得がいくのに。

♠ 話をカイル・マクラクランに戻すけど、結局みんな好きなんじゃないか。
♥ 問題はアゴだけね。
♦ 身長も足りない。
♣ 黒髪ってのは希少価値があるから魅力的なのはわかるけど、私は目も髪も薄い色の方が好きだな。
♥ あと髪型がいや。あの人は前髪たらすと、すごく少年ぽくてかわいいのに、べたっとオールバックにしないでほしい。
♦ それは役柄からいってしょうがないんじゃない? ダークスーツは似合う。ドン決まりに似合う。
♠ その代わりFBIから一時はずされたときのワークシャツは死ぬほど似合わない。アルバートが取って付けたように「似合うよ」と言ってたけど、イヤミとしか思えない。

♥ まあ、クーパーはそれでいいとして、実は『ツイン・ピークス』の役者の魅力は女優陣にあるのだ。私がLD買う決意をしたのも、実は女優に惹かれたからだったりして。
♠ おお、久々にレズ心が燃えたか。
♥ だって男の子が全滅なんだもん。それはともかく、ここのレギュラー3人娘――ドナ・ヘイワード(Lara Flynn Boyle)オードリー・ホーン(Sherilyn Fenn)シェリー・ジョンソン(Madchen Amick)――はいずれ劣らぬ美人揃い!
♠ リンチの女の趣味がわかるね。けっこう女には目が利くんだ。
♣ そお? イサベラ・ロッセリーニ(イングリッド・バーグマンの娘でリンチの元妻)がそんなにいい女?
♠ あれはあれで爛れた魅力があるじゃない。
♥ 見たところ、彼は小柄で細身で、被害者的なところのある女の子が好きらしい。
♦ それじゃひとりずつマナ板にあげてみましょうか。まずは誰かな?

ローラ・パーマー(シェリル・リー)

「世界一美しい死体」という宣伝文句で有名になった、ローラの死体。私は当時から「そうか?」と疑問に思ってたが。

♣ 3人娘に行く前に、最初は事実上の主役ローラ・パーマー(Sheryl Lee)の話をするべきなんじゃない?
♠ 死んでるのに主役ってのがなんとも‥‥
♦ ヒッチコックの『レベッカ』みたいだわね。レベッカも稀代の悪女だったし、ミステリ=スリラーとしての筋立てもなんか似てない?
♣ 世界が違いすぎる! あっちは基本的にハーレクイン・ロマンスの世界なのに、これは‥‥
♥ 単なる変態。要するにローラというのは2つの顔を持つ女だったわけでしょ? 学校の人気者の優等生と、変態のアバズレという。
♣ でも、そのわりにはたいしたことしてないと思わない? ヘロインやって、売春やって、縛られるのが好きだったというくらいで。そのくらいならきょう日、中学生でもやってますぜ。
♠ 関わった男をみんな破滅させる‥‥と言いたいところなんだけど、リーランドとハロルドはあれだったけど、ボビーにしても、ドクター・ジャコビにしても、ベン・ホーンにしても、その後もたくましく生きてるからな。
♦ それはともかく、ローラについては、これ見てもほとんどわからないというのも事実なんだ。その辺のところはもうすぐ公開される映画『ローラ・パーマー最期の7日間』の中で明かされるんではないかと。

♦ そのローラを演じたシェリル・リーは?
♣ 私、みんなが言うほど美人とは思えないんだけど。
♥ そう。やけにだだっ広いカエルみたいな顔でね。スタイルも悪いし。3人娘の方がはるかに美人。
♠ いいじゃん。しょせん彼女は死体役で、レギュラーじゃないんだから。
♥ マディが出てきたじゃない。
♦ あれもすぐに殺されちゃうからいいんじゃありません?

ドナ・ヘイワード(ララ・フリン・ボイル)

♦ そこで、ローラの親友だったドナ・ヘイワード役のララ・フリン・ボイルだけど。
♣ ずばり優等生タイプの清純派美少女。頭が良くて善良で、正義観が強く行動力があって。
♦ 最初この子がヒロインなのかと思ってた。この話には男も女も特に主人公というのはいないんだけど。
♠ 変な登場人物ばかりの『ツイン・ピークス』の中ではわりとまともな部類で、その分つまらないと思ってたんだけど、途中からだんだんおかしくなるでしょう?
♥ そう。ローラのサングラスかけてタバコふかしたりして。
♠ ローラのまねしてみたかったんじゃないの? ドナとジェイムズとマディの3人はみんなローラに取り憑かれてるんだから。
♣ あれは何かの伏線なのかと思ってたら、しまいの方ではまた普通に戻ってしまった。
♦ ていうか、最後の方では、だんだんドナの扱いが軽くなって、キャラクター設定もいい加減になってきたような気がする。
♠ それはいいけど長い話だけに、途中でけっこうキャラクターが変わるんだ。いちばん変わったのはクーパーさんだと思わない? 最初はひとりで浮きまくってたのに、いつのまにか順応してしまって、普通の人になってしまったのは残念。
♥ ていうか、まわりが輪をかけて変なんだもん。それにこっちもあの変な世界に慣れてしまって、何をしてもおかしく感じなくなる

♦ そのドナを演じたララ・フリン・ボイルについては?
♠ 美人だよね、飛びつくほどじゃないけど、控えめで知的な感じの美少女。
♥ えー、でも彼女、シリーズが進むにつれて顔が崩れる一方で、ブスになってきたという、もっぱらの評判ですよ。
♣ カイル・マクラクランとつき合い始めたせいだという噂もある。
♠ えー! 変態のくせに人並みに!
♥ いやー、なかなか、ウィノナ & ジョニー・デップ(この頃は熱々カップルとして有名だった)にも匹敵するお雛様カップルじゃありませんか。
♠ なんだ、お雛様って?
♥ どっちも見るからに善男善女の、絵に描いたような美男美女で、しかも生活感とか血肉をまるで欠いてるってことで。
♦ カイルってホモじゃなかったの?(『ヒドゥン』が露骨にホモっぽかったので)
♠ がっかりしたような声を出すな。しかし私、ララとウィノナ・ライダーの見分けがつかなくてさ。顔は似てないけど、雰囲気がすごく似ている。
♦ いい勝負だね。ウィノナの方がかわいいけど、ララちゃんの方が品がある。
♥ あ、それでいきなり思い出したけど、『ツイン・ピークス』って『ヘザーズ』に似てない? 雰囲気が?
♣ ていうか、私は『ヘザーズ』がリンチみたいだと思ったんだけど。確かあの脚本の人は何かリンチと関わりがあったんだよね。
♥ 似てるよ。『ツイン・ピークス』のエピソードの中に『ヘザーズ』が割り込んでも、なんの違和感もない感じ。

オードリー・ホーン(シェリリン・フェン)

♦ 次はオードリー・ホーンを演じたシェリリン・フェンですね。
♥ 清純派のララとうって変わって、こちらはセクシーなヴァンプ・タイプで小悪魔ってところ。ただしグラマーじゃないし、年もちょっと若すぎるけど。
♣ しかも大人を振り回す勝手気ままな問題児で、当然、ドナ=いい子、オードリー=悪い子という図式が成り立つのかと思ったら、そうでもないんだよね。
♠ そう。はっきりいって、ドナよりオードリーの方がよっぽど堅いんだ。ドナでさえマイクとジェイムズの二股かけてたのに、オードリーはヴァージンなんだから。
♥ まさに処女と娼婦が共存した女というか、これってひとつの理想の女じゃない?
♣ ベンのセリフで、「あの子は関わった男をみな狂わせる」という話もあった。
♠ そもそも父親が言うことかよー!(笑)

♦ そんなオードリーの独壇場となるのが、「片目のジャック」(売春宿)のオーディションを受けるところ。これは(テレビ)映画史上に残るエロチックなシーンだと思った。
♣ つまり娼婦としての自分の商品価値を証明しなくてはならなくなったオードリーが、サクランボを口に含んで、舌だけで柄を結んでみせるという舌技を披露するところだけど。ほんとに高校生かよ!と思いましたね。
♠ しかも処女なんだ(笑)。ふだん何の練習してるんだよ!
♣ その処女性を傷つけずに色気を出さなきゃならないわけだからね。
♥ いやー、色っぽいよね。『ブルー・ベルベット』以来、リンチというとエロティシズムが喧伝されてるけれど、私はリンチ映画にはちっともエロは感じなかった。ダーティ・ジョークみたいなもんで、笑えるけどエロチックとは言えない。だけどこれはほんとにゾクゾクするほどエロチックだった。
♠ これはリンチのお手柄っていうよりは、やっぱりシェリリン・フェンの色っぽさの勝利じゃない?

♥ とにかくオードリーはいい。ドナよりずっと好き。色っぽいし、美人だし。
♣ それにかわいいところもあるでしょ? 悪いことするのはなんとかして父親の気を引きたいためだとか、クーパーに対する一途な片思いとか、ジャックとの大メロドラマチックな恋愛とか。
♠ 実はこっちの方が清純派だという、わざとひっくり返した構図がおもしろい。
♦ 昔のハリウッド・グラマーを思わせる女優さんよね。マリリン・モンローとヴィヴィアン・リーを足して2で割ったみたいだと思わない?
♠ 確かに似てる。南北戦争の衣装着て出てきたときなんか、怖いくらい似合ってたし。

♣ そのかわり現代の高校生って感じじゃないな。私、途中まで、これはてっきり50年代ころの話だと思ってたんだよね。
♠ 現代に決まってるじゃない。ビデオも出てくるし、だいたい昔だったらダイアンが存在するはずがない。
♣ 言われてみればそうなんだけど、女の子たち、それも特にオードリーのファッションがアナクロなんで。
♥ ぴったりしたセーターに長めのタイト・スカートって格好ね。それはオードリーがお嬢さまだからじゃないの?
♠ 田舎だからだよ! ここにギンギンのパンク少女とか出てきたら違和感あるよ。時代に取り残された田舎だからなの。

♦ その田舎というものも効果的に使われてると思わない? これのおかげで多くの人が、アメリカの田舎町について特殊な固定観念を持っちゃったという噂もあるけれど。
♣ ミス・ツイン・ピークスのコンテスト会場で、ボビーが「Small town.」と吐き捨てるように言うでしょ。あのセリフが好きだなあ。
♥ 私もイギリスの田舎には特別な思い入れ抱いてるけど、それはある程度アメリカにも言えるかもしれない。どこであれ、田舎というものには魔力があるよ
♠ しかし“In The Eyes Of Mr Fury”(未訳のフィリップ・リドリーの小説)読んでて思ったけど、この種の閉鎖社会は都会の真ん中にもあるものだしね。
♦ それにアメリカといってもワシントン州でしょ。あれだけ北の果ての僻地に行っちゃうと、もうアメリカって気がしない。事実カナダの国境近くだしね。どっちかっていうとカナダって感じ。
♥ カナダといえばクロネンバーグ。うーん、なんとなくわかるような気がする。
♣ リンチ自身もお隣のモンタナ州ミズーラの生まれなんだよね。ここではマディの出身地ということになってるけど。
♠ 北ってどこの国でもやっぱり変

シェリー・ジョンソン(メッチェン・アミック)

♦ 次がシェリー・ジョンソン(Madchen Amick)。この子はまあ、役柄としてはいちばん平凡で、良くも悪くも、いかにもアメリカの田舎のダイナーのウェイトレスらしいというか。
♥ ただし超のつく美人ということだけを除いては。好き好き好きっ! 私はシェリーがいちばん好き! こんな美人見たことない。惚れたぜ。
♣ ♥のこのところのレズ・アイドルは、ジョエリーとナターシャのリチャードソン姉妹だったわけだけど(てっきり同一人物と思っていたが、実は姉妹だったって書いたっけ? ちなみにこの姉妹もデッド・リンガー)、それとくらべてどうですか?
♥ うーん、あちらは愛するヴァネッサのお嬢さんだし、イギリス人だから一概にはくらべられないけど、顔の造作だけからいったらメッチェン・アミックの方が美人よ。
♠ 名前通りドイツ系らしいけど、やっぱりドイツ美女という気がする。ナスターシャ・キンスキーとかの系統。
♥ リチャードソン姉妹は背も高いし、スタイル抜群だけど、そのぶん大味なところがあるからね。メッチェンはほんとに一分の隙もない、彫像のような美女。しかも決して今風のモデル面でない、古典的で典雅な美しさがあるところがいい。しかもその美女が薄汚いおんぼろ小屋に住んで、安物のドレス着て、夫に虐待されるbattered wifeだってとこがまたたまらない。

♦ あなた、女の子にも「掃き溜めに鶴コンプレックス」持ってるの?
♥ そうかもしんない。とにかく美女は薄幸に限りますわよ。
♦ しかし、気品なら絶対リチャードソン姉妹の方が上だと思うけどな。メッチェンは確かに顔はきれいだけど、軽薄で子供っぽいじゃない。
♥ そこがいいんじゃない。笑い顔がいたずらっぽくて無邪気でかわいいのよねえ。ドナとオードリーは高校生という設定だけど、この2人は実際は20代半ばだと思う。たぶんメッチェンがいちばん若くて19才。この初々しさと、はつらつとした若さは何物にも換えがたい。それに彼女のキャラクターの軽さは、多分に役柄のせいもあると思うよ。この人はちゃんとした格好させて気取らせたら、ぞっとするような美女だよ。
♠ そのキャラクターがシェリーはいちばんつまらないじゃない。頭も悪そうだし、キャーキャーいっておびえるばかりの被害者で
♥ あのおびえる姿がなんとも色っぽくてかわいい
♠ 倒錯した愛情だ。

素顔のメッチェン

♣ リンチもそうなんじゃないかと思う。
♦ 何が?
♣ あの人、女をいたぶっておびえさせるのが好きなんじゃない?
♠ 映画と実生活を混同するなよ!
♣ だってー、『ブルー・ベルベット』でも『ワイルド・アット・ハート』でもヒロインをいたぶる場面が異様な迫力でインパクトがあったじゃない。好きだからとしか思えない。
♥ それに彼、シェリーがいちばん好きなんじゃない? 彼女がいちばんひどい目にあうってことは。
♠ またー、ドラマと現実を混同するなよ。ゴードン・コール(リンチの役名)が惚れる女がシェリーだからって言うんだろ?
♦ 残念でした。リンチは実生活ではシェリリン・フェンとつき合ってるそうです。イサベラ・ロッセリーニと別れたのは彼女が原因だという噂もある。
♥ えー! ちょっと話ができすぎじゃない!
♦ 余談だが、カイルは『ブルー・ベルベット』で共演して以来、ローラ・ダーンとつき合ってたんだが、ここでララ・フリン・ボイルに出会って別れたらしい。
♠ こいつら公私混同してるんじゃないか?! それじゃなんでゴードンが惚れる女がオードリーじゃないんだよ?
♦ そこまでやったらやりすぎでしょ。
♣ なんか『ツイン・ピークス』のややこしい相姦図の影には、現実の相姦図もうごめいてるようですね。
♥ それもドラマに取り込んでしまえばいい。ここにイサベラ・ロッセリーニが出てきて、シェリリン・フェンと張り合ったり、ローラ・ダーンがララ・フリン・ボイルと張り合ったりしたら、すげー怖い話になるぞ。(やっぱりその縁か、ローラ・ダーンはシーズン3のダイアン役で初登場する。あいにくララ・フリン・ボイルは出演しなかったが、単品でも十分こわい)
♠ こえーよ! 怖すぎる! ボブや超自然のモノノケなんかより、その方がよっぽど怖いよ! 2人とも見るからに魔物然とした女だけに。

♦ しかしリンチは女を見る目があるかどうかは疑問だが、女好きなことだけは間違いないな。
♥ それってカイルにも言えそう。
♦ ホモじゃなかったのか‥‥
♥ ねーねー、それじゃメッチェンは誰とデキてるの?
♠ そこまで知るか!
♥ やっぱりボビー役のダナ・アッシュブルック(Dana Ashbrook)かな?
♦ メッチェンくらいの美人なら、もっとましな男がいるんじゃない?
♥ いやー、しかしあの雰囲気の中では血迷うということもあるし、あのカップルは息が合いすぎてるし、ありうるぞー。
♣ 彼女は以前、カイル・マクラクランの恋人役で共演したこともあるんですよ。
♠ 乱れた関係だ。

ツイン・ピークス・ガールズをめぐる男たち ドナ編

高校の悪ガキコンビ、マイク(左)とボビー

♦ どうも現実の相姦図の方が先行しちゃったけど、ここらでその3人娘をめぐる男たちを洗ってみたいんですが。まずはドナから。

♠ 物語の発端では彼女はマイク(Gary Hershberger)とステディだったんだよね。
♣ でもあまりうまく行ってなかったみたい。マイクもけっこう邪険だし、彼女の方も彼が嫌いみたいだし。
♥ マイクとボビーは高校の悪ガキコンビとして出てきて、最初はすごく嫌いだった。よくあるタイプの、オツムの足りないティーンエイジャーかと思って。
♠ オツムの足りないティーンエイジャーじゃないんですか?
♥ それはそうなんだけど、かわいいところもあるって知って。もちろんマイクの場合はネイディーンとのからみね。
♦ あ、その話はあとでね。
♥ とにかくマイクはなかなかかわいいよ。私だったらジェイムズみたいなジャガイモ面より、マイクの方がいいと思うけどな。
♠ マイクだってブロンドのブタじゃん。

一見仲よさそうな、ジェイムズ、マディ、ドナ

♦ というわけで、ドナがマイクを捨てて乗り換えたのが、元ローラの隠し彼氏だったジェイムズ・ハーリー(James Marshall)なんですが。
♣ 私、ジェイムズってきらーい。顔はともかく、この世の不幸を全部背負ったような深刻な顔しちゃって、そのくせやたら女に手が早かったりして。
♥ そう。マディにもフラフラとなっちゃうし、年増女の色気に負けてあっさり手玉にとられちゃうし。ドナは貞操守ってるのに。
♦ これじゃドナもグレるよな。
♦ マディ(シェリル・リーの二役)は?
♥ なんか影の薄い人。殺されるために出てきたみたい。
♣ 最後までローラの影でしかなかったみたいね。
♦ いちおう彼女はジェイムズとモヤモヤして、ドナをヤキモキさせる原因となるんだけど。
♠ 彼女の方は単なる同情でしょ? ジェイムズは彼女の中にローラの面影を見て、クラクラするわけだけど。
♣ ドナとマディというのも、仲がいいようでそうでもないし、この3人ってみんな妙にクールなのね。
♥ クールっていうよりキャラクターが薄いんで、この連中はつまらない。

見るからにアレっぽいハロルドとドナ

♦ そこでもうひとり、このトリオにからむのがハロルド・スミス(Lenny Von Dohlen)。彼もローラとなにやらあったみたいなんだけど。
♥ ただでさえ常軌を逸してる人物ばかりの『ツイン・ピークス』には、ダメ押しとしてオツムがいかれてる人たちもたくさん出てくるんだけど、この人もそのひとり。アゴラフォービアなのね。
♣ 他にはオードリーのお兄さんのジョニー(Robert Bauer)は知恵遅れだし、ネイディーンは完全にキ印、老人はみんなボケてるし。
♠ こいつ気持ちわるいよ。神経過敏で自閉症というキャラクターは好きなんだけど、この男はなんだか生臭くて、単なる変態に見える
♥ 単なる変態でしょ?
♣ ていうより、小説を書くとかいって女の子に身の上話をさせるところ、ずばり『セックスと嘘とビデオテープ』のジェイムズ・スペイダーのキャラクターだと思った。
♦ あー! ほんとだ! 不能ってところもいっしょだし。
♠ 不能なの?
♦ 少なくともローラとも関係はなかったと思うね。ドナに対してもそういう下心はないし。
♣ そのくせドナの告白っていうのは、完全な身の下話なんだよね。
♥ そっくりじゃん。ああ、これを演じるのがスペイダーだったら、ばっちり感じるエピソードになったのになー! 残念。
♦ 世間から隔絶した温室の中で蘭を育てているというのは、ピンチョンとかを思わせるところもあるんだけど、まあいいや。

♦ お話かわってジェイムズとイヴリン・マーシュ(Annette McCarthy)のエピソードだけど、これってなんか浮いてなかった?
♠ 浮いてるも何も、他のストーリーとまったく何の関係もない話でしょう。いかにも時間稼ぎのエピソードで、なんであれを入れたのかわからないな。
♣ ストーリー自体はよくできてたけどね。
♠ よくある話じゃない。金持ちの妻が、行きずりの若い男をたらしこんで夫殺しの罪を着せようとするっての。最後には彼に情がわいて、悲劇的な死をとげるっていうところまで、典型的なメロドラマ。ここだけマジすぎ、まともすぎて、『ツイン・ピークス』の中では完全に浮いている。
♥ クソミソですが、私はこれにはちょっと感じるものがあるんだけどな。私の運転手コンプレックスのもとになった『危険がいっぱい』というアラン・ドロン主演、ルネ・クレマン監督の映画だけどね、これって何から何まであれにそっくりなのよ。運転手じゃないけど、車の修理を頼まれるんだから、ほとんど同じだしね。
♦ でも、あそこにあれを入れる必要はなかったな。それにあそこだけツイン・ピークス(町)の外に出てしまったのもよくない。あくまであの密室のような狭い町の中で展開するドラマだからおもしろいのに。構成上、完全なミスだな。
♣ でもあの女も、いかにも薄情な悪女って感じの美人で、キャスティングは見事ね。

ツイン・ピークス・ガールズをめぐる男たち オードリー編

オードリーとクーパー(夜這いまでかけたのに‥‥)

♦ 次はオードリーをめぐる男か。といっても、彼女は実は堅物なんで、あまり浮いた話はないんだけど。
♥ デヴィッド・リンチの愛人っていうだけで十分ですよ。
♦ 現実と混同するな。
♣ 前半はクーパーに対する一途な片思い、後半はジョン・ジャスティス・ウィーラー(Billy Zane)との大恋愛というわけね。

なぜかガチでラブストーリーをやっているジョンとオードリー

♥ このジョンっていう男も気に入らない。突然ひょいと出てきて、オードリーの処女を奪って、またあわただしく去って行くという勝手なやつで。
♠ 顔も嫌い。なんかヌメヌメした目をしたナメクジ男で、セリフもキザでたまらないし。(この後『タイタニック』でも盛大に嫌ってたね)
♦ いちおう色男ってことなんだろうけどね。確かにオードリーみたいな無経験な処女なら引っかかるかもな。
♥ だいたいクーパーは食わなかった据膳を、なに食わぬ顔して食っちゃうからな。許せん!
♠ あいつ、帰ってくるんだろうか?
♣ 私は帰ってこないだろうと思うな。それでオードリーは一生彼を思い続けて、オールドミスになるっての、いいと思わない?

ツイン・ピークス・ガールズをめぐる男たち シェリー編

こんな場面はあったはずがないので(あったら二人とも殺されてる)おそらく雑誌用のフォトセッションだと思うが、かっこよかったので。危険な三角関係のシェリー、ボビー、レオ。

♦ そしてお次はシェリーか。
♥ 誰でも抱く疑問は、なんでレオ・ジョンソン(Eric Da Re)みたいな、まったくどうしようもない男と結婚したのかってことよね。
♠ ズバリ、バカだし若すぎるから。最初は惚れてたんでしょ? それが結婚してみて、相手の正体がわかったと。
♣ よくある話だと思うな。なんの映画に出てくるセリフだっけ? アメリカの田舎の典型的な若い娘ってのは、「ハイスクールでは夫捜しに奔走し、そのことを一生後悔しながら余生を過ごす」っていうの。
♦ 『ミシシッピー・バーニング』の保安官補の妻じゃない? 彼女もシェリーと似たような境遇だったけど。
♥ でも、それならなんで離婚しないのよ?
♠ やっぱりレオがこわいからだろうな。

♥ それもわからん話だが、そもそもあんなブタ野郎のどこがよくて結婚したんだろう?
♣ でもなんかのリビューに「きれいな顔をしたトラック運転手」って書いてあったよ。シェリー自身もいい男だと思ったから結婚したんでしょ?
♥ あれが?!
♠ これは役柄が役柄だけど、ちゃんとすればけっこう見られる人かもしれん。
♥ だってブタじゃん!
♦ でも、前にも書いたアメリカ人の美意識からすると、ボビーよりはレオの方が男らしい体型だと思うんじゃない?
♣ うん。ボビーがレオのスーツを着て「ブカブカだ」と言う場面で、シェリーが「レオにはきつかったの」というところがあるんだけど、なんかそのセリフにふっと夫の体を思い出している風情があって、たまらんかったね。
♥ げー。私には理解できん。シェリーなんてあんなに小さくて細いのに、それがあんなブタと‥‥!
♣ そんなわけで、バカだし粗野だし下品だし、シェリーをいじめるし、レオも大嫌いだったんだけど、そのレオが突然かわいく見えてきてしまったのは、ハンクに撃たれて、ほんとのバカになってしまってからなのだ。
♥ かわいいっていうんじゃないけど、笑かしてくれたのは確か。まったくリンチ映画に出る役者は楽じゃないわ。
♠ ボビーとシェリーが、今までの意趣返しのつもりか、車椅子のレオの前ではしゃいだりいちゃついたりするシーンがたまらなかったね。おかしいんだけど、ものすごく怖い。いつレオが正気に戻るかわからないのに。
♥ そこらへんがいかにもバカで何も考えてない感じ。
♣ でもレオにしてみればこれ以上の屈辱はないわけで、なんかかわいそうにも見えてくる。
♠ おまけにそのあとはウィンダム・アールに捕まって、いいようにいたぶられるしね。いくら悪役とはいえ、ちょっとひどすぎる。
♦ でも、最後にちょっといいところ見せるでしょ。ウィンダム・アールがシェリーを殺そうとしていると知って、彼に抵抗するところ。やっぱり心の底ではシェリーを愛してたんだな。
♥ だったらなんでシェリーを二度までも殺そうとしたんだよ?!
♣ バカだから。かっとなると見境がなくなるんだよね。でも人が殺そうとしているのは黙って見てはいられない。
♠ それにシェリーを殺そうとしたのも嫉妬からでしょ。愛してなければ嫉妬なんかしないもんね。
♦ やっぱりいいところもあるんじゃないか。
♥ いいっていうか、そういう男に惚れられるのもえらい迷惑だと思うけど。

♦ そんなわけで夢も希望もないシェリーが、惚れた男がボビー・ブリッグス(Dana Ashbrook)だけど。
♥ 女優が美人揃いなわりには男優がぱっとしない『ツイン・ピークス』の中では、いちばんの上玉だよね。
♠ 髪型だけでしょ?
♥ ダークヘアに大きな濃い青い目は好きなタイプだし、スタイルもいいし、けっこうかわいいじゃない。それとアクセントが好きだな。あのねっとりした甘いささやき声
♦ 最近それにこだわってない?
♥ アメリカ英語にはイギリスにはない独特の色気があるよね。あのネチャっとからみつく感じ。それってちょっとそそる。
♣ ウィレム・デフォーの弟みたいでない? これってリンチの好きなタイプかも。
♠ 似てはいないけど、ニコラス・ケイジもそのタイプだな。下品なチンピラ風ってところが。
♥ 小賢しいようでいて、ちょっとおマヌーなところがかわいいの。

頼りないけどセクシーなボビー

♣ そう。最初は悪役っぽく登場したんだけど、実は根っからのワルじゃないんだよね。
♦ だって彼がグレたのはローラの差金だったんでしょ?
♠ それと親に対する反抗ね。こいつ、実はお坊ちゃまなんだよな。
♥ とにかくこのカップルはかわいい。2人ともちょっと抜けてて子供っぽくて、やってることはけっこうあくどいんだけど、なぜか憎めない。
♦ ところで、シェリーっていくつの設定なんだろう? どう見ても高校生のボビーより年上には見えないんだよね。
♣ 16才で学校やめて結婚して、今は19ってところかな。ボビーが18で、シェリーの方がひとつくらいお姉さんな感じ。
♥ 私は普通ラブシーンなんて退屈で見てられないんだけど、この2人のからみは楽しめた。
♣ それにセクシーでしょ。あまりからみがない『ツイン・ピークス』の中では、唯一盛んなカップルだし。ボビーがシェリーに‘You drive me crazy.’っていって抱きつく場面があるでしょ。あれ、すごく実感ある。
♦ これで2人とも、もうちょっと勇気があったら、『ワイルド・アット・ハート』になりそうなカップルだけど。
♠ それには子供すぎるし臆病すぎるんだよね。
♥ それにしてはけっこう大胆ではないか。レオみたいな狂暴な殺人鬼の夫がいるのに、平気で昼間からイチャついてるんだから。
♠ なんちゅうか、この人々は考えあまい! 悲惨な状況にも妙に楽天的なのはやっぱり2人そろってアホだからか。
♣ レオがパーになったときも、引き取って世話しようとか言い出すし。もちろん保険金が目当てなんだけど。
♦ シェリーはいやがってたんだよね。お金なんかいらないと言って。それをボビーが無理やり説き伏せて。
♠ そのくせ、目当ての金は入らないし、レオの世話に疲れたシェリーが泣き言をいうと、急に冷たくなったりして。
♥ でも、気持ちはわかるじゃない? ボビーみたいなわがままな高校生が、病人の介護なんかできないよ
♦ だったら、最初から言い出すなっての!
♠ ボビーは金にこだわるんだよな。これも奇妙。ボビーが金に困ってるはずないのに。
♥ いや、そこんところはわかる。高校生くらいのときって、自分の自由にならない親の金なんて存在しないも同然なのよ。ボビーはとにかく今、シェリーと楽しくやりたいってことしか頭にないんで、目先の金を追い求める。で、たいていは高校中退して彼女と結婚して、ケチな仕事について、結局貧乏のせいで2人の仲もこじれるって末路が見えてるじゃない。ほんとは我慢して大学出て、ちゃんとした仕事についた方が絶対得なのに。学校もろくに行ってないようだし、心配だわ。(この心配はシーズン3で現実のものとなる。予想とはちょっと違ったが)
♣ 何を心配してるんですか? でも、いちおうこのカップルはハッピーエンドに終わったんじゃないの? シェリーに結婚を申し込んで、承諾を得られたんだから。
♠ だってまだ(いちおう)レオが生きてるんだぜ! 彼がいるかぎりこの2人にも幸せはこないよ。
♣ ボビーは一時オードリーともあやしくなかった?
♠ あれはボビーの勘違いなの。オードリーは父親を取り戻すために彼を利用しようとしただけなのに、ボビーが勝手に気をまわして、自分に気があるんじゃないかと思い込んで。
♥ それでボビーはついフラフラっとなるんだけど、そうなっても「でもシェリーが‥‥」とか口走って、オードリーに「シェリーがどうかしたの?」とか言われちゃうのが情けない!
♦ 情けないけど、いちおうシェリーに操を立ててるところがかわいいじゃない。

パーマー家の人々

パーマー一家、セーラ、(ありし日の)ローラ、リーランド

♦ それじゃ、子供たちはこれくらいにして、次は大人たち。誰から行こうか?
♠ 順番からいうと、その親たちだな。となると、最初はローラの両親、リーランド・パーマー(Ray Wise)とセーラ(Grace Zabriskie)
♥ ああ、リーランド、リーランド!
♣ もう最高だよね。カイルみたいに地でやってる人はともかく、レイ・ワイズは演技賞ものの名演だった歌って踊って発狂しての大熱演に加えて、もうセリフのひとつひとつ、表情のひとつひとつが芸だった。(泣くにしろ笑うにしろ、この顔芸はもはや芸術の域だった)
♠ 演技賞あげるなら、私はネイディーン役のウェンディー・ロビーと、ベンのリチャード・ベイマーにもあげたいな。しかしこの人々はもう他の作品に出られないな。これだけ強烈なイメージ焼き付いちゃうと。
♥ 娘を失っての御乱心だけでもすごいと思って見てたのに、ましてや犯人だったなんてすごすぎる!!
♦ まあ、この結末についてはあとで考察するとして、リーランドについて他にないんですか?
♠ ていうか、彼こそ『ツイン・ピークス』そのもの。大根クーパーや、ブスっ娘ローラなんかメじゃなく、主役がいるとしたらリーランドしかない。

♦ それじゃ他にも大勢いるので、とりあえず次行って、セーラは?
♥ 怖かった。顔も怖いが、あの金切り声は身の毛がよだつ恐ろしさ。
♠ おまけに恐山のイタコみたいなオカルトばばあなんだもん。
♣ この人が変なものばっかり見るんで、話がよけいややこしくなるという気も。
♥ とにかくクラクラするほど濃い夫婦。こんな親じゃローラもおかしくなって当然だわ。
♣ もちろんリーランドがおかしくなったのは彼のせいじゃないんだけど。
♠ ボブのせいで完膚なきまでに家庭崩壊しちゃったね。

ヘイワード家の人々

♦ 次はドナの両親、ウィリアム・ヘイワード医師(Warren Frost)とアイリーン(Mary Jo Deschanel)
♥ ウォーレン・フロストは制作のマーク・フロストのお父さん。
♣ リンチ=フロスト・ファミリーは、他にもリンチの娘のジェニファーがローラの日記を書いて出版してるし、フロストの弟のスコットは脚本書いてるし、クーパーの自伝を出版してる。
♠ なんだ、こいつらは? 要するに家族愛人総出演なんじゃないか。完全に公共の電波を私物化しているな。
♥ いいじゃありませんか。楽しければ。
♣ それにウォーレン・フロストは良かったじゃない? なかなか味がある。
♠ 善人すぎてつまんない。
♥ とか思ってたら、最後にきて妙なことになってきたんだけど、期待だけ持たせて終わってしまった!
♣ ところでアイリーンはなぜ足が不自由なのか説明あったっけ?
♦ ない。それとベン・ホーンとのいきさつは謎のままだ。
♥ でもベンがドナのお父さんなのは間違いないんでしょ?
♠ それだってわかったもんじゃない。
♣ ほかにも、ドナには2人の妹がいるのですが、この子たちは一回か二回、ちらっと出るだけです。

ホーン家の人々

ベン・ホーンと弟のジェリー

♦ それではそのベン・ホーン(Richard Beymer)。グレート・ノーザン・ホテルのオーナーで、オードリーのお父さんで、ドナのお父さんらしき人。
♥ 好きだ! こいつはひょっとしてこの町でいちばんの悪党なんだけど、これだけお茶目な悪党は好き!
♠ 彼に関しても、まだ明かされてない謎が多すぎるな。ローラの秘密の日記によると、ベンはローラの死に深く関わってたみたいなんだけど、そこのところが何も解明されてないじゃない。
♣ 今のところわかってるのは、ローラが一時「片目のジャック」で働いていたことと、そこでベンと関係があったことと、ベンはローラを愛していたらしいことだけ。
♥ かわいそうなオードリー。父親がクラスメートと寝てたり、クラスメートの父親だったり、これじゃグレるのも当たり前
♦ それでもオードリーのことは内心では愛してたんでしょ?
♣ そうでもないんじゃない? オードリーが誘拐されたときなんか、もっと取り乱してもいいのに妙に冷静だったし、無事生還したときも、やけによそよそしかったじゃない。だからこそ、そこに何か秘密があるんじゃないかと思うんだけど。
♥ わかった! オードリーはベンの実の娘じゃないんだ!
♠ じゃ、誰の子だよ?
♥ うーん? この世界ではなんでもありだからなー。
♦ だいたいが、これだけむちゃくちゃやっといて、リーランドは良心の呵責に耐えかねて自殺(?)したのに、こいつはいきなり善人になるとか言い出すのは考え甘いんじゃないの?
♣ そこがベンのいいところじゃない。
♠ 正確にいうと、製材所がらみの陰謀に失敗して、ショックで頭がいかれて、治ったとたんに、いきなり改心しちゃったんだよね。
♥ 彼が発狂したときの南北戦争ごっこも最高でした。

♦ 弟のジェリー(David Patrick Kelly)ともいいコンビだよね。
♠ ほとんど漫才兄弟ね。2人ともグルメで、女好きで。
♥ でも弟のことはほんとに愛してるみたいね。なんか子供時代がいちばん幸せだったみたいで、つらいことがあると昔を思い出して追憶に浸ってる。
♣ そのわりにジェリーの方はドライっていうか。ベンがおかしくなったときも、このままの方がビジネスには都合がいいとか言って、オードリーににらまれてる。
♦ それと知恵遅れで自閉症の長男ジョニー(Robert Bauer)
♥ インディアン(笑)。
♠ いつもインディアンの格好している。この子おもしろいからもっと出してほしかったのに。
♦ 実はベンには奥さんもいるんだけど(笑)、なぜか異常に影が薄いシルヴィア(Jan D’Arcy)
♠ あまりに薄すぎて、かえってこの人もなんかあるんじゃないかと疑いたくなるな。
♣ とにかく闇深い一家。このドラマは全員そうだけど。

ブリッグス家の人々

ガーランド、ベティ、ボビーの親子

♦ あと誰がいたっけ? ああ、ボビーの両親ね。ここのうちもけっこうすごい。ガーランド・ブリッグス大佐(Don Davis)と奥さんのベティ(Charlotte Stewart)
♥ このタコも最初すごく嫌いだったの。この親じゃ、ボビーが反抗したくなる気持ちもわかるっていうか。厳格な軍人の頑固一徹親父で。
♣ ところが実はいい人だったと。
♠ いいっていうか、クーパーとタメをはる変な人だった。
♦ まさかこの親父さんが、こんな重要な役を果たすことになるとは思わなかったね。
♠ だいたい、彼の失踪が国家存亡の危機に関わるとか言われるが、あの人はいったい何者なんですか?
♥ 仕事のことを聞かれると‘It is classified.’とか言わないし、そのくせどこにでも現われて、妙なことばかり口走る

♦ いちばんの謎の人物だな。でもあの父子和解の場面は泣かせるじゃない。
♠ 泣かせるっていうか、あんなアホみたいな夢の話聞かされて、うるうる泣くなよー! まったくどっちもどっちっていうか。
♥ あの親にしてあの子あり。
♦ しかし見た目は似ても似つかない親子だ。エドとジェイムズの叔父甥はどっちもジャガイモ面でよくわかるんだけど。
♠ ボビーと親の関係で変なのはさ、タバコ吸っても横っつら張られるくらい厳しい家庭なのに、息子が人妻、それもレオみたいな札付きの悪党の妻と不倫してるのに、そのことは何も言わないのな
♦ 親は知ってるんだろうか?
♠ 知ってるよ! ほとんど家にいないくらいシェリーの所に入り浸ってるんだし、レオが撃たれてからはどこでも大っぴらにイチャついてるし、だいたいが秘密なんか持てないような小さな町なんだもん。
♣ でもレオが撃たれるまで保安官は知らなかったみたい。
♠ でもボビーとシェリーがいっしょのところに親父さんが来たこともあるよ。
♥ それはあれよ。頭が宇宙の彼方にある人だから、そういう地上的な細かいことには気がつかないのよ。
♠ それと奥さんもけっこう変じゃない?
♦ 私は典型的な「宣教師の妻」タイプだと思ったけどな。
♣ 品のいいかわいらしいおばさんなんだけど、何があっても超然と微笑んでいて、あれくらい悟りきった人じゃないと、あの人の妻はつとまらないと思うけど。

ジェニングス家の人々

ノーマと夫のハンク

♦ 親たちってのはこれくらいか。それじゃ次は誰かな?
♥ シェリーの働くダイナーの経営者ノーマ・ジェニングス(Peggy Lipton)とその夫ハンク(Chris Mulkey)、ジェイムズの叔父でガソリンスタンドを経営するエド・ハーリー(Everett McGill)とその妻ネイディーン(Wendy Robie)の2組の夫婦の永劫の四角関係ですわね。犯人捜しの本筋とは関係ないところだけど、これだけでもドラマとして楽しめちゃう。
♦ いちおう筋を整理しておくと、エドとノーマは高校時代から相思相愛のステディだったんだけど、ふとした誤解がもとで、それぞれ気に染まない相手と結婚し、20年間それを悔やみ続けているという不幸なカップル。
♣ おまけにノーマの夫は殺人犯だし、エドの妻はキ印という、これ以上ない悲惨な家庭環境。
♦ となると、これまたどうして離婚して再婚しないんだろう?と不思議に思えるところだけど。
♠ なまじ相手がそんなだけに、不憫で別れられないのよ。2人そろって自己犠牲の権化というか、犬も食わないほどの善人という設定。

シェリーに劣らず大好きなノーマ

♦ それじゃワン・バイ・ワンで、まずはノーマね。
♥ 美人! 大人の女性の中ではいちばんの美人。
♣ 美人で、優しくて、働き者で、思いやりがあって‥‥という、女の理想みたいな人。
♥ シェリーとも大の仲良しで、本当の姉妹みたいだと思ってたのに、変な妹とかが割り込んできたのには嫉妬した。
♠ 何を考えてるんだ、あんたは?
♦ 確かにノーマとシェリーは、他に愛している男がいながら、ろくでもない男と結婚しているという点で、境遇も似通ってるんだよね。
♣ でも『ツイン・ピークス』ではまともな人ほどおもしろくないという気も。
♥ いや、むしろここではまともな人が少ないから、そういう人がまわりの性格破綻者に翻弄されてオロオロするのがおもしろいんじゃないか。
♦ その意味でもノーマとエドは最大の被害者だわね。
♣ ノーマのお母さんヴィヴィアン(Jane Greer)もけっこう危ないおばさんでなかった?
♦ 連れてきた再婚相手アーニー・ナイルズ(James Booth)というのが、実はハンクのムショ仲間の犯罪者だったりして。
♠ 徹底的に娘をいたぶるのね。あれでよくねじけもせずに育ったもんだ。
♥ でもあのお母ちゃんも美人。美人の家系なのね。

ラブラブのクーパーとアニー

♦ それでノーマの妹のアニー(Heather Graham)だけど。
♥ 嫌い! 顔も嫌いだけど、いい年こいてああいうブリブリした女は我慢ならん! デブだし。
♣ べつにブリッコじゃなくて、本当に無知なんじゃないの? なにしろ修道院育ちの無菌培養という設定なんだから。
♥ だいたいクーパーが人並みに恋なんかするのは許せんよ、変態のくせに。
♦ だからそのクーパーさんの恋人なら、あれくらい変な女じゃないと合わないんじゃない? オードリーでは無理だよ、やっぱり。
♠ ていうか、あれってまるで星飛雄馬の恋人みたいだと思った。
♥ なんだ、そりゃー!?
♠ 『巨人の星』の連載中に、あれが出てきたときの感じってのが、まさにああいう感じだったのよ。絶対恋なんかできるはずのないキャラクターに、唐突な登場のしかた、強引な恋の落ち方、それに輪をかけて無理な展開、結局死んじゃうところまでそっくりじゃない。
♦ アニーは生きてるよ。少なくとも最終回の時点では。
♠ そうか。それじゃアニーの前の恋人キャロラインと合わせれば完璧だ。ああいう奴とつき合って、まともな死に方はできないんだ。
♥ でも修道院出身というからには、ラストは‘Power of Christ compels you!’とか言って、ボブと対決してほしかったのに。
♠ エクソシストじゃないもん!
♣ しかし、さしものクーパーさんも最後の方、なんか影が薄くなってきたなと思ってたら、これで一発かましてくれましたね。この2人の会話の不自然さとおかしさはなんとも言えない。デートに誘うのに、「自然観察に行きませんか?」とかいうアホがいるか!

ハーリー家の人々

こんな場面はありえないから‥‥と書こうとして、やっぱり本当にあったような気がしてきた。左からネイディーン、エド、ノーマ。

♦ それじゃ次はエドね。
♠ この人はノーマとほとんどいっしょで、ひたすらいい人。親類縁者に変な人が多いノーマにくらべると、甥のジェイムズもまともな方だし。
♣ そのぶん女房が他の全員合わせたより変だからいいよ。
♦ でもジェイムズのお母さん、エドの妹(だか姉)に当たる人はとうとう出てこなかったね。飲んだくれの不良母らしくておもしろそうだったのに。
♥ 私は最初のうち、エドとハンクの見分けがつかなくて混乱した。だってエドの方が悪党面してるんだもん。
♠ 確かにどっちがいい男かといえばハンクなんだけど。
♣ 人は見かけによらないってことで、いいんじゃないですか? この2人は性格も正反対で、エドが聖者みたいなら、ハンクは血も涙もない悪党という設定で。
♦ でもハンクもノーマのことは愛してるんだよね。エドのことを知って嫉妬して、彼を襲うでしょ?
♠ この連中はそれ以外の愛情表現を知らないのか!
♥ でもレオよりだいぶましっていうか、少なくともノーマを虐待したりしないし、彼女の言いつけは黙って聞くじゃない。
♣ それは保釈を取り消されるのがこわいからよ。少なくともレオほどバカじゃない。
♥ ところでハンクって何をしてる人なの?
♠ ベン・ホーンの下働きで、もっぱら表に出せないような汚い仕事を引き受けてるんでしょ。アンドルー・パッカードを殺した(生きてたけど)のも彼だし、レオを撃ったのも彼だし。
♦ でも、レオはハンクの下働きをしてたんじゃないの?
♠ だけど、あまりにバカで勝手なことをするから、ベンには邪魔になったんじゃない?
♥ それじゃレオがやってた麻薬の取り引きは? ベンはあれにはからんでなかったんでしょ?
♠ それはレオがアルバイトでやってたんじゃないか? あの辺はゴチャゴチャしてて、もう忘れちゃったよ。
♣ でも、この人も最後はネイディーンにのされて刑務所へ逆戻りになったりして、どこかマヌケな感じが憎めない。

♦ そして問題のネイディーンですが。
♣ 好き!! 序章でカーテンレールで騒いでいたときも好きだと思ったけれど、自殺未遂のショックで17才に退行してしまってからは、もうネイディーンの独壇場!
♠ それだけならまだしも、なんでいきなりスーパー怪力アドレナリン絶倫女になっちゃうんですか! むちゃくちゃな展開だな。
♥ それだけならまだしも、高校に入学してレスリング部に入り、マイクに恋するにいたっては!
♦ いやー、女は強い、キチガイ女はもっと強い。このパワーがあればボブなんかメじゃないような気がするが。

高校生に退行したネイディーンとマイク

♠ しかし、キチガイをここまで笑いものにしていいんか? テレビコードをなめてるな。
♣ そもそもネイディーンがおかしくなった原因は何だったんですか? それについては触れられてないでしょ? ベンが一時的におかしくなるのは、息子もそうだし、血筋だという話もあったけど。
♦ あの目は猟銃の事故でエドがやっちゃって、だから負い目を感じてるというのはあったけど。
♠ いや、この人がヤバいのは目じゃなくて頭でしょ
♥ もともとああなんじゃない?
♣ 嘘だー。いくらエドでも最初からあんなだったら結婚なんかしないよ。
♠ 結婚したせいじゃない?
♦ そう、ありそうな話じゃない。エドは彼女にとっては手の届かない高嶺の花で、ネイディーンは彼をいつも物陰からそっと見ていたんだけど、そのあこがれの王子様が自分のものになってみると‥‥
♠ 舞い上がって気が狂っちゃうのか?
♣ あんまりないんじゃない、そういう話?
♦ とにかく、けっこういじらしいところあるんだよね。どんなになってもエドを心底愛してるでしょう。
♠ マイクと浮気してるのは?
♦ それは17才になっちゃったからさ、エドは「大好きなおじさん」ポジションになっちゃったのよ。セックスするのは同年代というわけで。
♥ むしろエドはほっとしてる感じ。あれに愛される方がたまらない。
♣ そう。そのたびエドが泣くに泣けず、笑うに笑えない顔してるのがおかしくてしょうがない。

♠ そして高校生に戻ったネイディーンが惚れる相手がマイクだというのが、またたまらないね。
♥ 相棒のボビーはおいしい役もらってるのに、あまりにもかわいそう。
♦ あの、いやーな顔!(笑)
♠ でも、結局は彼も惚れちゃうんだぜ。それもセックスにまいっちゃって!
♦ 弱き者、汝の名は‥‥ってところですかね。しかし中年女のテクニックと、怪力が合わさると、いったいどうなるんだろ?
♠ エドは毎晩トラックに轢かれるみたいだと言ってたけどな。さすがマイクは若い。
♥ きゃー。でもそれをボビーに自慢気に話すなよ。ボビーは笑ってるぞ。

パッカード一族の人々

製材所をめぐる二魔女、ジョシーとキャサリン

♦ それじゃ次はパッカード製材所をめぐる人々
♣ 善人同士だったノーマとエドにくらべ、こちらは誰をとっても海千山千の古ダヌキ。まさにキツネとタヌキの化かしあいって感じで。
♠ ここの人間関係もゴチャゴチャしてて、すぐわからなくなっちゃう。最初はベンとキャサリンが手を組んで、ジョシーから製材所を乗っ取るつもりなのかと思っていたら、実はジョシーとベンは裏でつるんでキャサリンを陥れる計画を練っていて、ところが死んだはずのアンドルー・パッカードが生きていて、影でキャサリンを操っていて、しかもジョシーはアンドルーのライバル、トマス・エッカードの手先で、そこへ謎の中国人ジョナサンや、謎の日本人Tojamura(さすがに日本語字幕ではタジムラになっていた。トジャムラはないぜ!)がからんで、結局はアンドルーとトマスという2人の古ダヌキに、ベンとキャサリンという小悪党が踊らされたってことなのかな?
♦ だいたいそんなところじゃない? それでいつも蚊帳の外の窓際族ピート(笑)。
♥ あー、わけがわかんない! そもそもいちばんわからないのは、あんな製材所がどうしてそんなに価値があるのかってことなんだ。
♠ ベンは土地がほしいだけでしょ。再開発計画のために。
♥ だって、土地なんて有り余ってるじゃないさ。あんな田舎なんだから。だいたい地価だって二束三文でしょ? 人殺してまで手に入れたいほどのもんか?
♣ よっぽどロケーションがいいとか?
♥ わからん。

♦ それじゃベンの話はすんだみたいなんで、パッカード一族かな。キャサリン・マーテル(Piper Laurie)ですね。アンドルー・パッカードの妹で、彼の死後は製材所を切り盛りしている。よそ者でしかも中国女が、一家の貴重な財産である製材所を棚ぼたで手に入れたことを猛烈に恨んでる。
♠ このバアさんもこえー。
♦ でもセーラみたいに得体が知れないってことはない。色と欲という魂胆は見えてるだけに。その辺がかわいくもある。
♣ パイパー・ローリーは『キャリー』のお母さんをやった人だよね。あの演技だけ見ても、まさに『ツイン・ピークス』女優の資格は十分。
♥ 「変装」も怖かった。冗談は顔だけにしてほしい!
♠ あれが本当の変装だったらもっと笑えたのに。
♦ でもあのヒヒみたいなオヤジが「一目見たときから愛してたわ」と言ってピートに迫るのは最高だった。
♣ 獄中のベンに面会に行ったときも、足のペディキュア見せたりするのはグロの極致! おまけにベンがその足にキスしちゃったりして! さぞ気持ち悪かっただろうな。リンチ役者は楽じゃないわ。

♦ そして、そのキャサリンのお人好しの夫、ピート・マーテル(Jack Nance)
♥ 『イレイザーヘッド』のヘンリーが、いつのまにやらおじいさん。
♠ リンチはよっぽど気に入ってるらしく、ほとんどの映画で彼を使ってるけど、私は『イレイザーヘッド』の印象が強すぎて、何を見てもピンとこなかったの。でもこのピート役は存在感あるし、はまり役でいい味出してる。
♣ キャサリンにどんなに足蹴にされても、まだ愛してるみたいで、ちょっと甘い声出されるとすぐにだまされちゃう。
♦ その一方でジョシーにほのかな恋心を抱いてたりしてね。
♣ 釣りとチェスが好きな好好爺で、世が世ならのんびり平和に暮らせたものを‥‥
♠ 女房が悪すぎた!
♥ いや、あの周囲はみんなひどい。その中でひとりだけ善人ってところがいい。

♦ ジョシー(Joan Chen)は?
♥ 嫌い! 最初、薄幸の美女然として出てきたときも嫌いだったけど、馬脚を現わすにつれてますます嫌いになった。
♠ 悪女は好きなくせに。
♥ あの手はもう生理的にだめなの。ブスなのは目をつぶるとしても、一言でいって陰険! 性悪のスベタのくせして被害者面して、男の前ではナヨナヨメソメソして見せて、媚びを売る女って、がまんならないの。
♦ クソミソだな。でもトルーマン保安官のことは本気で愛してたんでしょ?
♠ でも現実には彼を裏切ったんだしね。
♦ でも、最後にボスであり、愛人であるトマス・エッカードを殺したんだから。
♥ 彼が邪魔になったからでしょ。ああいう女は目先の利益しか考えないんだ。

と、ここまでで元の原稿は終わってます。この後は時間ができ次第続けるつもり。これじゃ町の人々に劣らず狂っている警察・FBI関係者の面々も、丸太おばさんみたいな重要な脇役の話もすんでないし。もちろんストーリーの謎にも踏み込む形で。

 

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