【映画評】ジョン・マクリーン『スロウ・ウェスト』 (2015) Slow West

♠ またマイケル・ファスベンダー主演の英国インディー映画だが、『センチュリオン』が思ったよりよくできていたので見てしまった。
♥ 今度はなんと西部劇ってところで、ちょっと眉にツバつけたけど、マイケルはウエスタンも似合いそうだったし、クリント・イーストウッドにちょっと似てるかななんて思って。
♠ いや、似てないけど。それに西部劇はそれこそクリントとかフランコ・ネロみたいな苦み走った渋い男が似合うんであって、マイケルは基本的に甘い顔だちだから似合わないと思うけど。
♥ いきなり全否定から入らないでよ。このレトロ風ポスターなんかすごいかっこいいじゃない。
♠ これはいいと思うけど、本当にできるのか?と半信半疑だった。マイケルのせいっていうより、イギリス映画ってところが。
♥ とりあえずストーリー!

『スロウ・ウェスト』あらすじ

お話は、開拓時代の西部を一人で旅する16歳の少年ジェイ(Jay コディ・スミット=マクフィー Kodi Smit-McPhee)が、賞金稼ぎのサイラス(Silas マイケル・ファスベンダー Michael Fassbender)と出会って、目的地に着くまで彼に用心棒になってもらうというもの。
実はジェイはアメリカに移住したスコットランド貴族の息子なのだが、小作人の娘ローズ(カレン・ピストリアス Caren Pistorius)に片思いをしていた。しかし二人の仲を裂こうと割って入ったジェイの叔父を、ローズの父ジョン(ロリー・マッキャン Rory McCann)が不慮の事故で殺してしまう。
そこでおたずね者として賞金首になったジョンとローズは西部へ逃れたのだが、責任を感じたジェイは彼らのあとを追っているところだった。
しかし同時にペイン(Payne ベン・メンデルソーン Ben Mendelsohn)を初めとする他の賞金稼ぎたちも二人のあとに迫っていた。とうとう二人はローズ父娘が住む家にたどり着いたが、同時に賞金稼ぎたちも‥‥。

♥ という設定はいかにも西部劇にありがちなプロットで無理がないでしょ。
♠ 確かに。サイラスが父娘を殺すにしろ、逃がすにしろ、あるいはジェイがサイラスを殺すにしろ、どっちみち悲劇になりそうでワクワクする。
♥ 弱肉強食の西部で、見るからにひ弱で世間知らずなお坊ちゃまのジェイと、強面の中年男のサイラスとの対比もいいわ
♠ それはいいんだが、西部劇としては致命的な欠陥があるんだよね。要するにまったく西部劇には見えないんですわ(笑)。

♥ だからいきなり全否定‥‥
♠ アメリカ人が演じるファンタジーや時代劇にいつも批判的なのと同じように、やっぱり西部劇はアメリカ人以外が作るのは無理っしょ? 日本人がやる西部劇(昔はいっぱいあった)ほどじゃないとはいえ、イギリス人の西部劇も同じぐらい違和感がある。
♥ それでもマイケル・ファスベンダーはいちおう格好だけはそれっぽいし、キャラもまさに定石通りのクールで寡黙な西部のヒーローだからいいんじゃない?
♠ だからこの人は顔が優しすぎて、西部男らしい険しさがないし、そうじゃなくてもやっぱりイギリス人には無理。
♥ イギリス人じゃないですってば。イギリスで主に活動しているだけで実際はアイルランド=ドイツ系。
♠ そこは劇中でもアイルランド人と言っていたし、実際、この頃アイルランド移民はたくさんいたので問題ないんだけど。
♥ じゃあ、マイケルは何も問題ないんじゃん。

♠ 明らかに問題ありなのはジェイのほうだね。
♥ それは私も思った。最初に出てきたとき、アメリカ人にも西部劇の登場人物にもまったく見えない、今どきのイギリスのモデルか何かやってそうな男の子(美少年という意味ではない。むしろ男のモデルって変な顔が多いし)だったので、違和感はんぱなかった。
♠ あとからスコットランド貴族のお坊ちゃんという設定を知って、なるほどとは思ったけど、それでも違和感ビンビン。
♥ いや、アメリカ西部に英国貴族がいるのは別におかしくないです。爵位は長子相続だから、食いっぱぐれた次男坊三男坊が、新天地を求めて新大陸やオーストラリアに渡ることはあったから。
♠ ただ、ぜったい西部劇の顔じゃないよなあ。

♠ 絵に描いたようなイギリス人顔だったので誤解したが、コディはオーストラリア人
♥ そう言われてもにわかには信じられないね。だって、オーストラリア男って、ポール・ホーガン(クロコダイル・ダンディー)とか、メル・ギブソン(マッドマックス)とか、ヒューゴ・ウィーヴィング(マトリックス)とか、素手でワニと戦って食い殺すようなのばっかりなんだと思ってたから。
♠ 少なくとも映画のイメージじゃそうだよね。
♥ それに引き替えこの子は、大きすぎる目、大きすぎる鼻、大きすぎる口、白すぎる肌、痩せすぎ、のっぽすぎるヒョロヒョロの体型と、絵に描いたようなイギリス人、それもイギリスの上流階級っぽいルックスなので、確かに役柄には合ってるが、西部劇とは水と油。
♠ 見ていてすごく若そうだと思ったが、実際まだ子供同然で、子役でけっこう売れた人らしい。『ザ・ロード』ではヴィゴ・モーテンセンの息子役、『モールス』の少年役もやってたんだな。
♥ それ、どっちも見なきゃいけない映画なんだけど、まだ縁がなくて見てない。で、普通は英国人(風)少年というだけで狂喜するんだが、いまいちなのはこの子、でかすぎる目玉が小さすぎる顔についているので目と目が離れたお魚顔になってしまうんだよね。
♠ これはこれで最近のモデルとかにはよくいる「個性的」容貌だが、どうも気持ち悪いのと、女性的すぎてオカマにしか見えないのが‥‥。
♥ 子供の頃はかわいかったのかもしれないけどねえ。子供でもないし大人でもない、微妙な年頃で、しかもすごく女っぽいのでときどきサイラスがホモに見えてしまうのがちょっと‥‥。

やっぱりアメリカ西部には見えない背景

♠ さらに私が違和感を覚えたのが背景。確かに西部劇にありそうな風景の所でロケしているが、ここがアメリカじゃない(どころかアメリカ大陸じゃない)のは一目瞭然。空気が違うんだよ!
♥ あの赤土じゃないし、アメリカだとカラッカラに乾いている空気が妙にウェットだよね。でもイギリスにこんな景色の所ないし、オーストラリアかな? でもオーストラリアなら赤いはずと思っていたら、ニュージーランド・ロケでした。
♠ 確かにそう言われてみるとこれはニュージーランドだ。でもニュージーランドをヨーロッパに見せるのは簡単でも、これをアメリカだとか日本『ラスト・サムライ』だと言い張るのは無理があるんだよね。
♥ というわけで、脚本や演技はせっかくちゃんとしてるのに、どう見てもそれらしくない背景をバックに、それらしく見えない人たちがお芝居をするので、コスプレとか学芸会という印象になってしまうのが致命的かも。

♠ もったいないねえ。エピソードは本当にいいのに。あのドイツ人夫婦のやつとか。
♥ トレーディング・ポスト(交易所、と言ってもオヤジひとりでやってる何でも屋)に、見るからにオドオドした気の弱そうな夫婦が入ってくるんだけど、どうやら強盗だったらしく撃ち合いになって店主を射殺するんだよね。
♠ それを見ていたサイラスは夫婦を射殺。しかしサイラスとジェイが外へ出てみると、そこには手をつないで立ちすくむドイツ人夫婦の幼い子供たちが‥‥っていうのは、生きるか死ぬかの西部の過酷さを表すいいエピソードだったのに。
♥ それを見た繊細なジェイが人間不信になって、サイラスと別れてひとりで西部を目指すんだけど、たちまち詐欺師に引っかかって身ぐるみ剥がれて放り出されるあたりもおもしろかった。

♠ だから、話は楽しめるかなと思ったが、かんじんのラストがものすごく納得いかないというか肩すかしな感じ。これもなんかすごくイギリス映画っぽいけど。
♥ 最後は家に立てこもったローズとインディアンの男、対、賞金稼ぎの群の銃撃戦になるんだけど、ここでかっこよく活躍するはずのサイラスは早々に肩を撃たれて家の影でうずくまってるだけ
♠ そのサイラスに(危険なのでついて来ないように)木に縛り付けられていたジェイは縄をほどいて駆けつけるんだけど、一歩入ったとたんにローズに撃たれてしまう。(ローズはジェイだと気付いていない) そればかりか、瀕死のジェイは目の前でローズとインディアンのラブシーンを見せつけられて死ぬという悲劇。泣きっ面に蜂とはこのことだ。

♥ そういや、ローズのほうはあくまで姉弟みたいな感覚で、そもそもジェイの片思いだったんだよね。
♠ どこまで情けない甘ちゃんなんだよ。それで絶望するジェイの胸(を撃ち抜かれた)に上から塩の壺が落ちてきて塩をすり込む‥‥って、ただでさえ情けないキャラが踏んだり蹴ったりというのが、かわいそうというよりギャグにしか見えなくなってきて。
♥ マジであれでジェイが死ぬとは思わなかったよ。てっきり、最後の最後でサイラスが助けに来るものとばかり。
♠ それで、ここまで来ちゃったらもう玉砕するしかないから、当然サイラスもローズかインディアンに殺されるんだろうと思ったら、なぜか初対面なのにローズは彼が味方だということを疑いもせずに受け入れる。(インディアンも賞金稼ぎとの銃撃戦で死ぬ) それで最後はかわいい二人の子供に囲まれ幸せそうなローズのところにサイラスが入ってきてハッピーエンド! って、人の恋人寝取ったのかい! こんなヒーローってあり?
♥ いや、ない! 西部劇でこんなのない!
♠ 私が予想していたラストは、ローズだけが生き残って、女ひとりでたくましく生きていく、あるいは、ローズとサイラスが生き残るところまではいっしょだが、サイラスはシェーンみたいにかっこよく夕日の中に去って行く
♥ 確かに西部劇ならそれ以外はないでしょう! やっぱりこんなの西部劇じゃねー!

♥ うーん、途中まではまともだったのにな。
♠ 他に、『センチュリオン』でも指摘した、英国映画特有の淡々とした感じやゆるさも、ハリウッド映画しか見てない人には「なんだ、こりゃ?」という感じだろうし、残念ながら外れだったかな。
♥ 男二人は魅力的なので、そのファンだけが見ればいい映画。あと、ジェイが異常に女っぽいというかホモっぽいせいで、BL風に見えるところも多いので、そういうののファンは喜ぶかも。
♠ あんたは違うの?
♥ さすがにコディ・スミット=マクフィーは私にはキツいっす。私は美少年専科なので。

♠ ローズ役のカレン・ピストリアスは南アフリカ出身の女優さんで、きりっとした美人だが、やっぱり地味だし。
♥ 私は彼女は良かったと思うよ。こういう飾り気のない、素朴で、でも芯が強そうな女性ってのは開拓地にぴったりだし、ハリウッドには絶対いないタイプだから新鮮だった。
♠ ピストリアス(Pistorius)ってオスカー・ピストリウスの親戚かな? それとも南アにはよくある名字なんだろうか。

♥ 監督・脚本のジョン・マクリーンはスコットランド人で、マイケル・ファスベンダーを使ったショート・フィルムで、Bafta(British Academy of Film and Television Arts 俗に言う英国アカデミー賞)の最優秀短編映画賞を撮った人だそうです。監督歴は後にも先にもこれだけ。
♠ マイケルがプロデューサーとして出資もしているのはその縁か。
♥ 恩人ってことかしらね。義理堅いわ。
♠ でももう仕事来ないだろうな。
♥ うう‥‥。
♠ とりあえず途中まではおもしろかったし、マイケルのガンマン姿がかっこよかったのと、ニュージーランドの美しい風景が見られただけでよしとする。
♥ あとやっぱりコディは気になる。役柄さえ合えば、特異な容貌だし使えるかもしれない。

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