★【映画評】アンドルー・アダムソン『ナルニア国物語第1章 ライオンと魔女』 (2005) The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe

ひとりごと日記から転載に当たっての覚え書き

なんでここまでディズニーを嫌うかというと、詳しくは「ディズニー映画」タグのリビューを見てもらいたいが、簡単に言っちゃうと、とにかくダサい、うさん臭い、(原作ものは)改竄がひどい、つまんないからである。
それとは別に『ナルニア国物語』をディズニーが映画化することに関しては、絶対許せないものがある。というのも『指輪物語』がアメリカで出版されたとき、オリジナルの挿画を付けたいという話があったのだが、トールキンはディズニーだけは絶対にやめてくれと言ったんだそうだ。ルイスが生きていたらなんと思ったかはわからないが、やっぱり合わなすぎるから断ったと思う。
まさに水と油、天と地、神とウジ虫ぐらい違うのに、なんでこういうことに‥‥というのはまた繰り返しになるからやめておくけど。

文中、LOTRとナルニアを比較するような表現が多いが、実際問題として、こちらは子供向けの童話なので、あまり共通点はない。単に、原作者のトールキンとC・S・ルイスがオックスフォード大学の同僚で親友同士だったことと、ほぼ同時期に映画化されたというだけ。私にとって、どちらもかけがえのない大切な物語であること、私がここまで英国に入れ込む要因になったことなどは言うまでもない。

《 》で囲ってあるのは後から付け加えた文です。

前から書いているように、子供時代の私の最大の愛読書である(『ナルニア国物語』の映画化作品。もう1冊あげるなら『シートン動物記』。私の動物好きのルーツはこの辺にある)
だけど、あまりにも出来が良かったピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リングス』(以下、LOTRと省略)のあとだけに、おまけにこっちはディズニーだけに、不安は隠せない。これもDVDを買うつもりだったけど、やっぱりその前にと思って借りてきた。

で、見終わってふうっとため息をつきながら、例によって人様の感想を見る。IMDbは絶賛が多いが、All Cinema Onlineは、またも賛否がまっぷたつに分かれてるな。変だなあ、私は普通、日本人より外国人とのほうが意見が合うのだが。というのも、やっぱり文句を言うつもりだったから。
とりあえず、この映画化に関しては、不安と期待が半々だった。絶対失望すると思うと同時に、でもやっぱり期待してしまう。期待できそうな理由は、

  1.  LOTRに較べると、巻数は多いけど、子供向けなので話はずっと単純で短く、一話完結だしわかりやすい。そのぶん映画にするのも楽なはず。
  2.  監督のアンドルー・アダムソンは『シュレック』を撮った監督で、できる人なのはわかってる。彼はニュージーランド人で、ピーター・ジャクソンのおかげで、私的にはニュージーランドの評価がうなぎ登りに上がっている。
  3.  やはりニュージーランドつながりで、特殊効果はLOTRと同じWetaが担当しているから、少なくともCGやクリーチャーは見られるんじゃないか。そうじゃなくても、CGが発達した現在でないと撮れなかった映画という意味では、LOTR以上だし。

逆に不安理由はと言うと、

  1.  ディズニー

というのに尽きる(笑)。しかしACOで不評なのは解せないな。日本人はディズニー大好きだし、こういう泣かせて、心暖まる話は大好きなはずなのに。
そして見ての感想だが、手っ取り早く言っちゃうとやはり両方。これも良否を箇条書きにすると、

良かった点

1.とりあえず、あの『ナルニア国物語』が映像化されたということ。

IMDbの評者が好意的なのは、やはり原作に小さいころから親しんでいるファンが多いからだろう。それは私も同じ。ビジュアル的にはLOTRよりもずっと壮大で驚異に満ちた世界だけに、本で読んで想像していただけの世界が実際に見られるという感動は大きい。

2.役者

国際色豊かだったLOTRに対して、こちらは全員イギリス人キャストで揃えたが、役者はみな適役。
いちばん心配だった4人の子供たちだが、確かにあまりかわいくはない。でも「個性も何もない」というのは、勘違いの言いがかりだ。ペベンシー家の子供たちは、原作を読んでもごく普通の、(読者に共感させるためだと思うが)どこにでもいそうな平凡な子供たちで、おまけに戦時中の話だよ。(つまり、子供はあくまで子供らしかった時代ということ)
アメリカ映画でありがちなように、彼らが強烈な個性を発揮したり、妙に芸達者だったり、美少年美少女ばかりだったら、かえっておかしい。

ペベンシーの四兄弟、左からピーター、エドマンド、スーザン、ルーシー

確かに、幼いだけに地でやれるルーシー(Georgie Henley ジョージー・ヘンリー)はともかく、アメリカ映画の憎たらしいほどうまい子役にくらべて、いかにも素人っぽくて下手だけど。
ピーター(William Moseley ウィリアム・モーズリー)は体は大きいがいかにも気の弱そうな顔つきの子なので、もうちょっとお兄ちゃんらしくりりしくてもよかったかなとは思うけど、雰囲気的にはそっくり。
それを言うなら、美人と呼ばれるスーザン(アナ・ポップルウェル Anna Popplewell)ももうちょっとアレでもいいかなとは思うが、優しくしとやかなお姉さんらしさは出ていた。
エドマンド(スカンダー・キーンズまたはケインズ Skandar Keynes)は、髪の色(原作では金髪)を除けばBBC版よりこっちのほうが原作の挿絵に近くていいかも。テレビ版のリビューで文句を言ってたのは、テレビ版の方が美少年だと思ったからだが、こういうこまっしゃくれた子はそれなりにかわいい。おしゃまなルーシーはこれも正解。
カーク教授(Jim Broadbent ジム・ブロードベント)もイメージ通り優しそうで親しみが持てる。でも彼は重要なキャラクターなのに、顔見せだけだな。いや、これは原作もそうだったか。ちらっと見せておいて、でも「この人は何か知ってる」と思わせるだけのほうがいいか。
タムナスさん(James McAvoy ジェイムズ・マカヴォイ)も、見るからに人が良さそうで気弱そうなところがぴったり。《彼はここで初めて見たのだが、出世したねえ》
それで「白い魔女」はもうティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)しかいないでしょう。あの冷たさと、気品があって女王然としたところ。しかし、ティルダとショーン・ビーンは、私はデレク・ジャーマンで知ったので、彼らがこういう映画に出ているのを見るのは奇妙な感じがする。結局、イギリス人役者って、映画ではファンタジーか時代劇しか出番がないのかなー。《彼女はその後、特異な容貌――中性的でこの世のものではない――を活かしてハリウッドで活躍。どんなアホな役でもやるようになりました。でも救いはどれも楽しそうに演じてること。見かけによらず気さくな人みたい》

3.クリーチャー

これは挿絵のまんまのタムナスさんとルーシー

これも予想通り。なんつったって、着ぐるみを着た人が演じるのにくらべれば、天と地の違いだよ! 私はCG動物が嫌いだが、「ものいうけもの」ばかりは本物の動物を使ったのではかえって嘘くさくなってしまうのでこれが正解だ。(動物の口だけ書き換えてパクパク動かすとかね) できればもっとたくさんの動物を出してほしかったんだけどなあ。
タムナスさんは足だけCGで、ちゃんと山羊足になっているのにも感激。
どうでもいいことだけど、ピーターはユニコーンに乗っていて、こんなの原作になかったと思うんだけど、とりあえず童貞だろうからいいことにしよう(笑)。(ユニコーンに乗れるのはヴァージンだけ) それで、そのユニコーンが裸馬で、私は「なるほどユニコーンに鞍や手綱を付けるのはおかしいな」と納得していたんだけど、実はデジタル処理でそれを消してあったことを知ってだまされたような気分になった。ガンダルフは(というか、イアン・マッケランのスタント・ダブルは)ちゃんと裸馬に乗ってたぞ! (実は裸馬に乗るのはすごくこわくてむずかしいのだ)《あとから確認したところ、頭勒と手綱は白い細い紐を使って、見えにくくしてあった》

さすがにBBC版とは違うビーバーさん夫妻

悪かった点

1.ディズニー

というのに尽きる(笑)。こうなるとは思ってたんだけどね。それでももう少しなんとかなるかと思ってたのに。
詳しく書こう。LOTRがなぜ成功したかというと、技術やお金や才能の問題じゃなく、作り手みんなに原作に対する愛があったからだと思うんだよね。彼らにとってミドルアースは実在の世界だった。少なくとも書かれなかった歴史のどこかに存在していた国だった。

ファンタジーの要は矛盾するようだがリアリティである。

というのは前にも書いた。ほんとらしく見えなかったら、夢や幻想はいともかんたんに瓦解してしまうから。作り手が嘘だと思っているのでは、ファンタジーは本物にはなりえない。だから、LOTRの製作者たちは、それを「本物」にすることに心血を注いだが、この映画の作り手にとっては、ナルニアは ‘just another childrens’ movie’ (ただのよくあるガキ向け映画)だということがありありとわかってしまうのだ。

映画が始まってすぐに、私はひどい違和感に悩まされていた。もちろん話は(ほぼ)原作通りだし、原作の挿絵のイメージ通りでもあるんだが、なんか違う。ここがナルニアだと言われても、どうしてもそう思えないのだ。LOTRこそ、映画化なんて不可能だと思っていて、でも幕を開けてみたら、本当にミドルアースが目の前に広がっていたので、心底驚いたのに。
それで細かいことが気になりだした。カーク教授の家も、ケア・パラベルの城も、外見はいちおうそれふうなのだが(ケア・パラベルはマット絵だが)、中へ入ってみるとなんとも安っぽくて本物とは思えない。教授の家なんて、立派なカントリーハウスでしょうが。だけど、内装はいかにもチープで、ただの田舎家にしか見えない。壁なんてペラペラで、いかにもセットという感じ。(カントリーハウスは日本人の感覚ではほぼお城)
それを言ったら、雪の森も見るからにセット。これまたLOTRがセット作りにどれだけ手間暇をかけたかを知っている私としては、露骨な手抜きにしか見えない。あれだけお金のかかってないBBC版だって、クリーチャー以外はいかにも本物らしかったし(いつもながら、セットと衣装はすばらしい。というかイギリスだとお城はほぼ本物を使えるから本物らしくてあたりまえ)、少なくともナルニアじゃないとは思わなかったのに。

結局、ほどほどの予算で、ほどほど見られる作品に仕上げました、というだけ。商業的にはこれで正しいんだろうが、ファンには許せない。絶対に許さない。

かんじんのドラマもちっとも盛り上がらない。いちおう筋をなぞっただけ。エドマンドの裏切りも、最大の山場であるアスランの処刑も、さらっと描かれるだけで、これじゃ原作ファンのみならず、原作を知らない人もなんてつまらない話だろうと思うだろう。そのくせ、原作では軽く扱われている合戦シーンをクライマックスに持ってきて、エンターテインメントしたつもりだろうが、これもさっぱり盛り上がらないまま。

そんなだから、LOTRとくらべて、「スケールが違いすぎる」とか、子供っぽいとか、薄っぺらいとかそういう感想が出てくるんだろうな。《日本のリビューが不評だったのはこのせいだろう。少なくとも原作を読んでいる西洋人は、あれが映画化されたというだけで舞い上がって、多少の粗には目をつぶってしまうから》

断っておくけど、ナルニアはスケールが小さいなんてことはないよ。LOTRは長い歴史の中の「指輪戦争」という一コマだけを描いているけど、こっちはひとつの世界の創造から終末まで描いているんだから。

子供だましでも絶対ない。アスランの殉死なんて壮絶そのものじゃない。まず、子供向けの作品で主役が殺されるなんてありえないし、それもただ殺すんじゃない。子供向けだからたてがみを切る程度になっているけど、これって要するに敵をただ殺すだけじゃなく、拷問したり、死体に陵辱を加えて愚弄する中世の習慣をそのままなぞっている。(『氷と炎の歌』にそういうのがいっぱい出てくるので、つい連想してしまう)
でもこの映画じゃその悲愴感がぜんぜんないのだ! よって泣けない。

白い魔女とエドマンド

そうそう、「ものいうけもの」はいいんだけど、悪役のほうのクリーチャーは迫力不足。中にはよくできたのもいるんだけど、ちらっと映るだけだし、「狼」は犬がワンワン言って走り回るし。
動物がしゃべるというのも、いかにも子供っぽく思えるかもしれない。でもナルニアは「ものいうけもの」の国なのに! (なぜか王様だけは人間だが)

ただ、アスランだけは原作を読んだときも軽い違和感があった。というのも、猫科の動物の中じゃ、私はライオンがいちばんかっこわるいと思っているので(笑)。
でもアスランはライオンのように見えるだけで、本当のライオンじゃないことは明らかなので、どうせCGで作るなら、いくらでも威厳を持たせることはできただろうに、まんまなんだよね。これじゃ、アスランがどれだけ偉くて、強くて、恐ろしくて、なおかつ神聖な存在か、ぜんぜん伝わらんだろうな。
ついでに言うと、リアム・ニーソンにアスランの声をやらせたのも失敗。どうせ声だけなら、どうしてもっと威厳のある声の俳優にやらせない? リアム・ニーソンなんて鼻にかかった変な声だし、じじくさいし。だいたい彼は最近出過ぎなので、声だけ聞いてもあの顔が想像できてしまい、イメージぶちこわしだ。

とにかく、こんなだから、『ハリー・ポッター』なんかと比較してけなされちゃうんだ。これは私にとっては屈辱的な侮辱! 『ハリー・ポッター』なんてファンタジーとしては下の下の子供だましだし、原作は『ハリー・ポッター』なんか足下にも及ばない傑作なのに!
あー、これがあと6作続くのか。それでも見ないわけにはいかないだろうけど。カスピアン王子役に決まっているベン・バーンズはなかなかの王子様顔なのでいいけど、せっかく役者が良くても、このヘボい演出と編集と美術じゃねえ。

それでもこの『ライオンと魔女』は、(あまりにお説教臭が強すぎるので)どっちかというとシリーズでいちばんつまらない巻なので、少しは良くなることに期待したい。
でもこんなのろのろしたペースで大丈夫なのか? というのも、この子たち、最終巻でもまた出てくるのに。子供はあっという間に大きくなってしまうので、最後は代役たてるとか、むさ苦しいティーンエイジャーになって出てきたりしたらがっくりだ。

それで思い出したが、彼らがナルニアで王・女王として大人になる部分ね。あれは原作読んでけっこうショックだった。なにしろ子供の私は自分が大人になることなんて想像できなかったし、すっかり登場人物に感情移入していたので、その彼らがいきなり大人になって出てきて、変な文語調でしゃべるんだもの(笑)。世界中の王子たちに求婚されたって、ちっともいいとは思わなかった。(今はいいと思います)
でも映画でそれを演じた4人はみんななかなかステキで、子供たちともけっこう似ていたので、もうちょっとよく見たかった。とにかく役者はいいんだよな、役者だけは

あー、これも7作一気撮りでピーター・ジャクソンに撮らせるわけにはいかなかったの? そんなことしたら死んじゃうだろうが、これだけ撮って死んでもいいよ。なんて、無理なことを言ってもしょうがないか。
他にも言いたいことはたくさんあるが、こんな映画にこれ以上時間を割くのはつまらないのでやめます。原作についてなら、いくらでも語れるので、また機会があったら。

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