【映画評】ターセム・シン『ザ・セル』 (2000) The Cell

この映画、もう18年も前の映画なんだけど、当時よく貸しビデオ屋で見たのを覚えている。なんかおもしろそうとは思ったけど、監督は聞いたこともないインド人だし、好きな役者が出てるわけでもないし、なんか見るからにB級っぽいので借りなかった。でもやっぱりサイコダイバーものが見たくて見てみた。
冒頭、白いドレスを着た女が黒馬に乗って赤い砂漠を疾走するシーンを見たときは、「おっ!」と思った。まあ、誰がどう撮ってもきれいに見えないわけがない取り合わせだけに、あまり独創性は感じないが、こういう心象風景みたいなの好きなんで。

オープニングシーン。すごくきれいだけど、ここって「CGみたいに見えるけど実在する風景」の例としてよくネットに上がってるあれですよね。

お話は患者の心の中に入って治療する技術が存在する世界が舞台のSF仕立てで、ジェニファー・ロペス演じる精神科医がサイコダイバー。冒頭のシーンは彼女が潜ったコーマ状態の少年の精神世界だった。
そこでジェニファーがヴィンセント・ドノフリオが演じる精神分裂病のシリアル・キラーの心に潜って、彼が誘拐した被害者の居所を探るというお話。ついでにヴィンス・ヴォーン演じる刑事とちょっといい仲になる。
ラストはもちろん被害者の女性は危機一髪で救出され、犯人は死んで、少年も救われてめでたしめでたし。

と、いかにもいい加減にまとめたのは、ストーリーは本当に月並みな話で、特に言うべきこともないから。あとはもうその心象風景がどうかという一点にかかってくる。

これも最初はすごいと思った。犯人は幼児期に父親の虐待で心に傷を負って‥‥という前提はこれも月並みすぎてつまらないが、彼のサディスティックな夢想を映像化したシーンはなかなか見応えがあった。下の写真の女たちは被害者の女性で、彼女らから人間性を奪い、生きた人形として展示してある。

左上:霊柩車のような黒い乳母車を引いて走る人間馬。
右上:耳目尾をもぎとられた動物たちに囲まれた、両手両足を縛られて石化した女。
左下:リアル二次元娘。アニメ目をした女子高生が標本のように枠に縛り付けられている。
右下:歯医者拷問。歯医者の椅子に医療器具で縛り付けられた、金属の入れ歯をした女性。

この造形は本当にすごいと思ったので大きめの写真で

ただ、そのあとはだんだん冷めた。というのも一目でネタがわかるようなのばかりだったから。輪切りにされた馬はダミアン・ハースト(英国の現代美術家)だし、

ダミアン・ハースト

クライマックスのジェニファーと犯人の対決する場面のすべて、縁飾りや色調やライティングはピエール・エ・ジル(フランスのゲイのフォトグラファー・コンビ)の写真そのままだ。

ピエール・エ・ジル

これ、本人がやってるんじゃなければ、ちゃんと版権使用料払ってるよね? というぐらい本当にそのものなんで、映画のオリジナリティはあまりない。(もちろんダミアン・ハーストの輪切り動物は生きて動いてたりはしないが)
他のシーンも私が知らないだけで、誰か有名作家のモダンアートそのままなんじゃないかと思う。
ジェニファーがテレビで見ていたのは『ファンタスティック・プラネット』(ルネ・ラルーのアニメ映画)だし、もともとそういうサブカル女だからこういう光景を見るのかな? おっと、ほとんどは犯人の心の中か。てことは、貧しい家庭で虐待されて育った犯人が現代美術に造詣が深いのか。う~ん‥‥

それ以外は石岡瑛子の衣装を見る映画。衣装はどれも石岡さんらしくエキゾチックで美しく、奇抜なテイストにあふれていて見応えがある。ただ、最近はオートクチュールのファッションショーのドレスもこれぐらい奇抜だし、なんかよく見る感じがするのも確か。

石岡瑛子の衣装。ちなみに後ろのカーテンみたいなのも衣装の一部です。ちなみに前景の筋肉男に見えるのは女です。

それ以外のシーンはホラーゲームから取ってきたみたいだが、これはゲームの方がパクってるのかもしれない。

天女のように舞い降りてきたジェニファーを迎える白犬。これはゲームの一場面みたい。

いちばん得をしたのはジェニファー・ロペスかも。なにしろシーンごとに違う奇抜な衣装に奇抜なメイキャップで登場して、普通の映画じゃ絶対着れないきれいな、あるいはセクシーなドレスがいっぱい着れて、コスプレみたいで楽しかったに違いない。実際、彼女はきれいだったのでファンも満足。学芸会とか馬子にも衣装‥‥とか言っちゃいけないんだろうだな。
それでもとにかく一風変わった映像美を持つ監督であることは確かで、これってインド人の血のせいなのかな? うんと好意的に見れば、アレハンドロ・ホドロフスキーっぽく見えないこともないが、ああいう土俗的な血が騒ぐみたいなこともなく、変におしゃれにすっきりまとまっていて、すべてどこかで見たことがあるような気がするのが、この監督の欠点かも。

この手の映画に私が厳しくなってしまうのはしょうがない。というのも、サイコダイバーでもなんでもいいがこの手の「心象風景」「夢の風景」というのは私が一生かけて追い求めているものであって、これについては夢日記の方に詳しく書いてあるし、「ドリームスケープ」というタグが付いた夢がそうだ。これらの夢の風景がしょぼいのは、夢を記憶することがむずかしいせいと、私の文才がないからしょうがない。
でも小説家や映画作家はプロの「夢の作り手」だ。だからこそファンタジーが好きと言ってもいい。要するに私は夢で見るような風景が現実にも見たくてしょうがないので、私の目に「夢みたいに」見えれば、それだけでも合格ということなのだが、私が心から夢っぽいと感じた映画はデヴィッド・クロネンバーグとデヴィッド・リンチと、あと単発の映画がいくつかあるだけだ。
この人選でわかるように、夢は美しければいいというものではない。残酷さとグロテスク(あとエロス)も私の夢には欠かせないものだから。そういえば、この映画は殺人鬼の心の中のせいか変にグロかった。でもクロネンバーグやリンチみたいに腰が入ってないから、やっぱり嘘くさく見えちゃうのがちょっと。

ちなみにこれが犯人(変態)と犠牲者(死体)

それでもなかなか珍しい(個性的は言わない)監督だと思ったので、他にどんな映画撮っているのか調べてみた。18年前はこのレベルでも今はもっと良くなってるかもしれないと思って。
そしたら2006年の『落下の王国』がおもしろそうで、いくつか賞も取っているな。でもその次が『インモータルズ 神々の戦い』って、あれかよ!(今回自分で読み返してみたら、なかなか笑える内容だったので、少し足して★をつけました)
詳しくはリンク先のリビューを読んでほしいが、やっぱり学芸会という私の第一印象は正しかったようだ。だまされた! もうちょっとまともな監督かと思った!
ところで『インモータルズ』の衣装も石岡瑛子だったんだね。うそー! だってあの映画の衣装ってこれだよ!

これこそ学芸会じゃない。よっぽど苦手なジャンルだったのかな。私が西洋歴史物に関しては目が肥えててうるさいというせいもあるが、これがギリシアの神々だって信じるのは無理!

というわけで、とんだなんちゃって映画だったが、それなりに楽しみはしたし、『落下の王国』は見てみるつもり。話はどうでもいいんだけど、絵だけは本当にきれいだったので、キャプチャ多めでお送りしました。

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