★★【映画評】トンデモ映画劇場 リチャード・ケリー『運命のボタン』 (2009) The Box

「どーでも映画」は私にとって本当にどうでもいい映画のことですが、「トンデモ映画」は一線を越えちゃってる、ある意味すごいかも知れない映画のことです。

♠ なんかまじめに考えるのもバカバカしくなってくるが、要するにスチュワードは金星人(だかなんだか)に操られてて、NASAもNSAもCIAも軍も巻き込まれているところを見ると、アメリカという国全体がスチュワードに操られてて、それで、それだけのすさまじいリソースと権力を行使して、やってることと言えば、一般家庭にボタンの付いた箱を届けて100万ドルあげますというテレビのクイズ番組みたいなことをやってるわけね。
♣ それでその一般人が失敗すると、地球人類が滅亡する(笑)。
♠ まあ、こうやって全貌が明らかになるとそれほど驚かないけどな。UFO信者とか、カルト信者とか、陰謀論者とかが信じてるシナリオって、だいたいそれと似たようなものだもん。

でもそれを劇場映画にした者は未だかつて(ハリウッドメジャーでは)いなかった! というわけで、ある意味、あまりにも勇者過ぎたリチャード・ケリーの問題作です。

♠ これは『ドニー・ダーコ』(2001)を撮ったリチャード・ケリーの作品。だけど私はこっちを先に見ちゃって、キツネにつままれたような気分になったという話はあそこに書いた通り。
♣ やっぱり先に『ドニー・ダーコ』を見たほうが良かったのかな?
♠ 少なくとも電波系が作った映画ということを知ってれば、あれほど混乱しなかった。
♣ でもあれは電波系なりにおもしろかったから、かえって期待しちゃってがっくりきたかもよ。
♠ 確かに『ドニー・ダーコ』があったから、こんなメジャーっぽい映画撮らせてもらえたんだろうけどな。
♣ メジャーっぽいのはキャメロン・ディアスが出てることぐらいじゃない?

♣ で、これは「いちおう」リチャード・マシスンのショート・ショート『運命のボタン』を原作にしているんだけど‥‥。
♠ 10ページかそこらしかない、本当に短い短編だから、当然映画はあれこれ盛り込んでふくらせませてくるとは思ったけど‥‥。
♣ こっち方面にふくらむとは想像もしませんでした。
♠ あっちゃこっちゃにふくらみ過ぎ! 私はいちおうSFファンだからマシスンの作品は全部読んでるし、当然この短編も知ってたから、見ながら口あんぐりだったよ。
♣ いちおう先に原作のあらすじも書いておこうか。

リチャード・マシスン『運命のボタン』(Button, Button)あらすじ

ニューヨークに住む夫婦が、ある日差出人不明のボタンの付いた箱を受け取る。その晩二人の元を訪れた謎の男は、「ボタンを押すと5万ドルがもらえるが、世界のどこかであなたたちの知らない誰かが死ぬ」と言う。
あまりにも怪しげな話に、夫婦は一度はその申し出を拒否するのだが、迷ったあげくに、とうとう妻がボタンを押してしまう。すると、直後に夫が事故死したという知らせが入る。夫にかかっていた保険金の受取金額がちょうど5万ドルだった。

♣ とまあ、原作は非常にシンプルでわかりやすいお話。
♠ この原作自体が、かなりいまいちな話なんだよね。「世界のどこかの知らない人」とまで言っておいて夫だったとか。
♣ 「あなたは本当にご主人のことを知っていたと言えますか?」ってオチなんですけどね。
♠ だから先にこの夫婦が仮面夫婦だとか、そういう示唆があれば納得するけどさ、なにしろ短すぎる短編だからそこまで描けてない。そのせいでどうしてもだまし討ちされた感じが否めない。
♣ まあ、だますのが悪魔の本性なんだけど。

♠ あと、この手の「悪魔との取引」という話自体が昔から使い古されたテーマなんだよな。だから取引に乗った時点で破滅なのは最初からわかってるし。
♣ 「チャイナマン」と名前の思考ゲームも聞いたことがある。つまりボタンを押すと中国人がひとり死ぬけど大金がもらえる。それでも押すか?という倫理観を問うゲーム。
♠ ひどい話だけど、西洋人にとって中国というのは人が掃いて捨てるほどうじゃうじゃいるという認識なんで。
♣ だから映画化の話を聞いたときは、「なんで今さらこんな古くさい話?」と思ったね。
♠ とりあえず、この混沌とした映画を予備知識なしで見た私の当惑を再現するために、今日はストーリーを追いながら見ていこう。
♣ 最初はタイトルカードで説明が流れますが、まずその説明からして電波入っている。

それはNSA(アメリカ国家安全保障局)副長官のマーティン・ティーグに宛てた機密文書の体裁で、アーリントン・スチュワートという男が復活して、秘密の場所に移送されたこと、彼が用途不明の装置を作って、一般家庭に届けたことが告げられる。さらに、それがNASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査計画に関係しているらしい。

♠ もういきなり最初から電波全開ですわ。
♣ 実を言うと、最初見たとき私はこのタイトルカードぜんぜん読んでなかったんだよね。(めんどくさいので、英語だろうが日本語だろうが字幕はほとんど読まない人) これを先に読んでれば、少しは心の準備ができたかもしれないのに。
♠ 普通NSAとか出てきたところで読むのをやめる。なんだ、陰謀論かって感じで。
♣ でも変じゃない? いきなり復活とか言われても、なんで死んだ人間が甦るのかとか。
♠ 日本語字幕だと「蘇生した」ってなってたから、日本人は普通に「意識のなかった人が息を吹き返した」の意味に取ったかも。本当はresurrectなのに。

アーサー(James Marsden)とノーマ(Cameron Diaz)のルイス夫妻はひとり息子のウォルター(Sam Oz Stone)と三人家族。ある朝、ルイス家の玄関前に箱が届けられる。中には上に赤いボタンの付いた木箱と、「ミスター・スチュワードが午後5時に伺います」と書いた紙が入っていた。

♠ このあたりは原作通り。

高校の教師をしているノーマが学校でサルトルの『出口なし』を教えている。「地獄とは他者のことだ」という有名なせりふを引用して、「なぜなら他者はその人間の真実の姿を見抜くからだ」と説明する。
ノーマは足が悪いようだが、授業の終わりにチャールズ(John Magaro)という学生が、「先生のその足、どうしたんですか?」とたずね、さらにぶしつけに足を見せてほしいと頼む。ノーマは黙ってブーツを脱いで足を見せる。その足には小指以外の指がなかった。

♣ このあたりの異様な雰囲気と、息が詰まるような緊迫感はマジですごいと思ったんだがなあ。
♠ うん。まず私と同じ教師だし、私も足悪いし、学生にこんなこと言われたらどうしよう?と思って。
♣ そのぐらい言いかねないやつたくさんいるし。
♠ でも私ならかえって興奮してどんどん見せちゃうかも。
♣ そういう特殊性癖の話はいいから!
♠ というのもあそこでチャールズを演じていたジョン・マガロがすばらしくいいんですわ。長髪のキモ男なんだけど、終始薄笑いを浮かべた表情が、ものすごく気持ち悪くて。
♣ ほめ言葉なんですね(笑)。ちょい役なのに、すごい存在感だったよね。だからかえって深読みしちゃった。でもってサルトルでしょ。なんかすごい深遠な話に見えるじゃない。
♠ だまされるよね、これは。
♣ まあ、いちおうスチュワードが他者なんだろうけどさ。しかし高校でこんなむずかしいの教えてるのか?
♠ よほどエリート校なんだろうな。アメリカの高校生って綴りも知らないような白痴ばかりだと思ってた(偏見)。

Vサイン(2?)を示すパーティー会場のチャールズ

ノーマの夫のアーサー・ルイスはNASAの職員で、NASAのラングレー・リサーチ・センター(ヴァージニア州に実在する)に勤めている。彼は宇宙飛行士になるのが長年の夢で、すでにテストで好成績をあげており、飛行士に選ばれるのは確実と思われている。ところが不合格の通知が届き、アーサーはひどく落胆する。
一方のノーマも、校長から来期から学費の教員割引を中止すると言われる。そう告げる校長の鼻からは鼻血が滴っている。

♣ アーサーの方はわかるんだけどさ、ノーマがなんであそこまで絶望するのかがわからない。あまりにも深刻な口調で切り出すから、てっきりクビにされるのかと思ったらそうじゃないし。
♠ 私はアメリカのことには疎いので間違いがあるかも知れないけど、これって日本の大学でもある、教職員の師弟は学費が半額になったりする優遇制度のことじゃない? つまり息子も同じ高校に行ってて。
♣ だからそんなわずかな出費増でなんであそこまで思い詰めるの?
♠ すごい学費の高い学校だとか。
♣ だってこの人たちそんな貧乏に見えないじゃない。家だって立派だし、高そうな車乗ってたし。
♠ 夫は公務員だから給料が低いと言ってたな。あと、「私たちはお金を使いすぎる」とも。
♣ 単なる浪費家夫婦じゃないさ!
♠ だからぜんぜん同情する気になれないんだよね。

不気味なスチュワード

その日の夕方、ノーマがひとりで家にいるとき、アーリントン・スチュワード(Frank Langella)が訪ねてくる。彼は顔の半分が大きくえぐれ、ひどい火傷あとがある。
スチュワードの説明によると、ボタンを押せば100万ドルを提供するが、代わりにどこかで彼らの知らない誰かが死ぬという。彼らは24時間以内に結論を出さなくてはならない。

♠ さすがに現代では物価上昇のせいか5万ドルが100万ドルに値上がりしてる。
♣ えー、これって1970年代の話じゃないの? だってヴァイキング計画(70年代のアメリカの火星探査計画)の時代だし。「アスタウンディング・ストーリーズ」(昔のSF雑誌)とか出てきたし。
♠ そういやそうだった。もちろん原作にはヴァイキング計画なんて出てこないが、原作も1970年の作品なのに、なんでこんなにインフレしたんだ?
♣ 単に語呂がいいからか、大金ということを強調するためでは?

箱を前に悩む、(左から)ウォルター、アーサー、ノーマの一家

帰宅して話を聞いたアーサーは箱を分解するが中味は空っぽだった。二人はボタンを押すかどうかで思い悩む。

♠ 箱が空ならただのホラ話に決まってるからそこで悩むことないじゃん!
♣ なぜかあれを見ても、ボタンを押したら人が死ぬことだけは確信してるから変なんだよね。
♠ だから電波系。最初からその手の人々だったとしか思えない。
♣ アーサーは科学者なのに! 宇宙飛行士は迷信深い人が多いとは聞くけど。

画面は切り替わって、子供を誘拐されたらしいどこかの男が妻と電話で話している。
ノーマはとうとうボタンを押してしまう。
また画面が変わって、銃声がしたという通報で警察がある家に踏み込むと、女性が撃たれて倒れており、女の子が浴室に閉じ込められている。女性の夫は失踪していた。

ルイス家にはスチュワードが現れて金を置いていく。アーサーはその金をいらないと言って返そうとするが受け取ってもらえない。回収したボタンはどうするのかと聞かれて、スチュワードは彼らの知らない別の人のところへ持っていくという。

♣ ここでやっと、それまでの意味不明なシーンの意味がわかるんだよね。
♠ これだってかなり想像力を働かせないとわからないが。
♣ ノーマがボタンを押したことで知らない人が死んだ → 次は彼らが知らない人がボタンを押す → 今度死ぬのは彼らの番だ、ということで。
♠ つまり直接手は下さなかったけど、あの死んだ母親を殺したのはノーマだってことになるね。もちろんまだ本人は知らないけど。
♣ この辺もめっちゃうまいし、スリリングな展開だと思ったよ。すでに原作の面影はどこにもないが、原作よりずっといいと思って。
♠ ここで止めておけばね! 『ドニー・ダーコ』のときと同じだと思った。意味がわかったと思ったときはすごいおもしろいと思ったのに‥‥
♣ こうくれば、あとはスチュワードが次にボタンを持っていった夫婦に視点が移って、彼らがどう出るかのサスペンスになると思うじゃない。
♠ ところが実際は‥‥

ルイス夫婦はノーマの妹デボラ(Evelina Turen)の結婚リハーサル・パーティに行く。そこでプレゼントのくじ引きをすることになり、指名されたアーサーが迷っていると、ウェイターをやっていたチャールズが彼にVサインをする。
アーサーは何の飾りもない四角い箱を撰ぶが、中に入っていたのは傷を負う前のスチュワードの写真である。

♣ あー、もうわけわかんない! 結婚リハーサル・パーティって何? 披露宴のリハーサルってこと?
♠ ただの親族の食事会みたいだよね。
♣ プレゼントのくじ引きって何?
♠ 私はてっきり結婚プレゼントが積んであるんだと思ったから、それを人にあげちゃうの?とあせったよ。そうじゃなくてクリスマスなんだった。
♣ アメリカの習慣って知らないせいで、なんか意味わからなくてすべてが不気味に見えちゃう。
♠ というか、すでに作品の異常な雰囲気に呑まれてるから、なんてことのない場面でも緊張して異様に見えてしまうんだよ。
♣ 確かにじっとこっちをにらんでるだけの老婆とか不気味だった。別になんでもなかったから、単にそういう顔の人だったんだろうけど(笑)。
♠ こういうところ、すごいデヴィッド・リンチっぽくて好きなんだけどなあ。

♣ でもなんてったって不気味なのはチャールズだよね。いつもにたーと人をバカにしたような薄笑いを浮かべていて。
♣ そもそもあんなところにいることに驚いたよ。高校生のアルバイトなんだね。それとあれってVサインだったの? 私は2番を撰べと言ってるのかと思ったよ。プレゼントに番号付いてたし。
♠ でも取ったのは2番じゃなくなかった?
♣ 私はあの無地の箱がボタンの入ってた箱に似てたから取ったんだと思った。

パーティーでアーサーが警察に勤めるノーマの父ディック(Holmes Osborne)に相談をしていると、スチュワードからノーマに電話がかかってくる。スチュワードは自分には多くのemployeeがいるので、余計なことをするなとノーマに警告し、「じゃあ私たちはどうすればいいの?」というノーマの質問に「良心に従え」と言う。

♣ employeeは従業員の意味だけど、明らかになにやらよからぬ雰囲気で使っているのがわかるのと、ちょっと皮肉な感じなのをうまく訳せなかったのでそのままで。
♠ もちろんチャールズもそのemployeeのひとりで、プレゼントにあんなものをまぎれ込ませたのはチャールズか他のemployeeだろうけどね。
♣ ウェイターを雇ったのはノーマの妹か父親だと思うけど、少なくとも妹はあの事件を知っているんだよね。自分の姉が学校でいやな思いさせられたの知ってて、犯人を雇って家に入れるってどういう神経なの?
♣ 他のウェイターも鼻血を出していたので、どうやら鼻血を出しているのがスチュワードの手先の印だってことがわかってくる。
♠ でもボタンの選択はもう終わってて人も死んでるのに「良心に従え」と言う意味がわからないよ。
♣ このたぐいの助言はいろんな人が言ってくるんだけど、ぜんぜん意味がないと思っていい。

ノーマの妹から学校で起きたことを知ったアーサーは、チャールズに腹を立て、彼とつかみ合いのケンカになる。アーサーがノーマを連れて帰ろうとすると、車の窓にNo Exitの落書きが。

♣ もちろんサルトルの『出口なし』のことです。
♠ 二人が『出口なし』の芝居を見に行く場面もあったね。三度も出てくるんだから、大きな意味を持たせてるんだろうと思うが‥‥。
♣ だからスチュワードはノーマの「他者」だってことでしょ?
♠ その他者が見せてくれたノーマの「本当の姿」は、単なる金の亡者じゃない!
♣ そんなのここまでしなくても誰にでもわかるよね。
♠ 哲学関係ねーよ!

帰宅したアーサーはベビーシッターのデイナ(Gillian Jacobs)を車で家まで送っていく。デイナが住んでいるのはモーテルだと聞いてアーサーは不審に思う。車の中でもデイナの態度はおかしく、「誰かがあなたのボタンを押したの?」とか、「光を見つめるのよ。じきに光に包まれるわ」などと言ったかと思うと、鼻血を出して気絶する。
アーサーが彼女の運転免許証を見ると、名前も住所も嘘だったことがわかる。

♠ 脚本は明らかにおかしいけど、それより高校生にベビーシッター?という関係ないところに反応してしまう。
♣ ほら、アメリカの学校は中高一貫じゃない。チャールズは16、7だけど、息子のウォルターは14歳ぐらいだと思うよ。
♠ それでも中学生だろ? ベビーシッターがいる年か? 親がパーティーに行ってる間ぐらいひとりで留守番もできないのか?
♣ アメリカってそうなのかな。治安が悪いから?
♠ あんな娘っ子よりは、中学生でもまだ男の方が、いざというときは頼りがいがあるように思う。
♣ ノーマはかなり過保護な母親だってことが示唆されてたからじゃないの?

モーテルに着くとデイナは意識を取り戻し、「ここにいると危険よ」「鏡を見るのよ、答はそこにある」「あなたが信頼できるのはひとりだけ」などと謎めいたことを口走ったかと思うと、モーテルに駆け込む。
彼女が廊下を歩いて行くと、モーテルの住人が全員廊下に出てきて無表情に彼女を見送る。
デイナが自室に入ると、部屋の壁には大きな地図が貼ってあり、ルイス一家の盗撮写真でいっぱいである。
モーテルのプールの前には、住人たちが全員整列している。

♠ だいたいこの辺から話が暴走を始めて止まらなくなる
♣ デイナが言ってることはいかにも何かの伏線みたいに聞こえるんだけど‥‥
♠ 後の話とはまったく何の関係もない電波系のたわごとなんだよね。
♣ 意味がわからないよ! 都合良く失神したり、またいきなり目覚めたりするのもおかしいし。
♠ 単なる中二病じゃないの? 最初は監督が本当に頭おかしいのかと思ってたけど、なんか中学生が考えそうなセリフだし筋書きだし。

図書館のアーサーと「ゾンビ」たち

♣ でもデイナのことなんかどうでもよくなっちゃう。あの異様なゾンビ軍団を見ると。
♠ ゾンビというのは無表情で自分の意思がないみたいなところがゴーレムっぽいからで、別に腐ってたり崩れてたりはしません。
♣ 崩れてるのはスチュワードのほうで。このゾンビたちは浮浪者ふうではあるけどね。あれも全部employeeなのかな。
♠ でもデイナやチャールズはちゃんと表情もあるし、普通にしゃべれるよね。どう違うんだ?
♣ 鼻血出すところはいっしょだから、同じようなもののはずなんだけどね。
♠ 鼻血映画だな。前にも別の映画で同じこと書いたなと思ったんだけど‥‥
♣ リンチの『ロスト・ハイウェイ』。
♠ やっぱりちょっと似てるかも。
♣ ていうか単なるパクリじゃない? 露骨にリンチ風不条理映画を撮ろうとして滑ってる感がある。

スチュワードの写真はどこかで見覚えがあると感じたアーサーは、自宅の仕事部屋に行く。その部屋の壁に貼ったNASA職員の集合写真の中に、彼はスチュワードがいるのを発見する。
ちなみにこの部屋の壁には、「高度に発達した科学は魔術と見分けが付かない」というA・C・クラークの言葉を書いたポスターが貼ってある。

♠ SFでこの言葉が出てくると、説明が付かなくなったので逃げに入ったなと思うんだけど(笑)。
♣ リチャード・ケリーは違う気がする。彼の頭の中ではちゃんと説明が付いているような。

朝、再びスチュワードから電話がある。ノーマが「どこにいるの?」と訊ねると、庭であなたを見ているという。そこにはスチュワードのemployeeのひとりがいる。

♣ もう終わって金も払ったのに、まだストーカーしてるのはなんでなのか?と思うよね。
♠ てっきりノーマに気があるのかと思ったぞ。

NSAの副長官マーティン・ティーグ(Mark Cartier)がラングレーの責任者たちと話し合っている。実験施設が借りたいらしい。
殺された女の夫ジェフリー・カーンズ(Ryan Woodle)はラングレーの広報官だったことがわかる。彼の妻の死亡時刻はノーマがボタンを押した時刻だった。

ノーマはスーパーで見知らぬ女に話しかけられる。女は「あの男は子供がひとりいる幸せな夫婦を狙って試している」、「誰も、夫さえも信用するな」などと早口に口走り、「図書館でこれを」と紙切れを渡すと鼻血を流して気絶する。

♣ ボタンを押すと鼻血人間にストーカーされる呪い(笑)。
♠ なんでこの人たち、ルイス夫妻に助言しようとするの? スチュワードの手先なんでしょ?
♣ うーん、様子からして必死になって洗脳から逃れてアドバイスしにきた感じ?
♠ デイナもすぐ失神するし、自分の意思で話そうとすると気絶するのか?
♣ この「夫を信じるな」というのもなんかの伏線だと思ってずっと気にしながら見ていたんだけど、結局なんの関係もなかった。
♠ だから思いつきで適当なセリフ書くのやめろ!

アーサーはノーマの父から、スチュワードの乗っていた車はNSAのものだと知らされる。アーサーはノーマの父に頼んでカーンズの家へ行かせてもらい、そこでスチュワードの写真を発見する。写真の下には図書館の本の番号らしい番号がある。また、Human Resource Exploitation Manualなる文書の写真も見つける。
アーサーは図書館で写真の番号の本を探し、「稲妻の本」というタイトルの本を見つける。中にはNASA職員スチュワードが稲妻に打たれたという新聞の切り抜きがはさまっていた。

♠ この辺のご都合主義もなんだが、それより異常なのは図書館にいる人々で、全員がゾンビのように二人の後をついてくる
♣ それも整然と並んだまま(笑)。なんだろうね、この気持ちの悪さは? モーテルのゾンビも怖かったんだけど、こっちのほうがもっとゾワゾワ来る。
♠ 図書館自体が一種の異空間なのに、そこにいる人間、全員がそうってところかな。
♣ 本当にこれ、こういう映画だったら、すごい怖くておもしろい映画になったのにね。ホラー映画として。
♠ ほんとそう思う。満員の閲覧室の人々がいっせいに立ち上がってついてくるなんて怖すぎるし、絵としてもすごいシュールでよかった。

アーサーが広い閲覧室に行くと、初老の女(Deborah Rush)が出てきて、「この図書館はemployee専用です」と言う。アーサーは女がスチュワードの妻であることに気付く。
女に案内された部屋には3つのポータルがある。それは水でできた角柱のように見える。容器はないのに水はこぼれない。そこでアーサーはひとつを撰ぶように言われる。正しいものはひとつだけで、それを撰べば救済への道は開けるが、あと2つは永遠の破滅に通じる。

♣ ゾンビの群だけでもおなかいっぱいだったのに、突然現れる奇妙な世界。
♠ 人を殺して金をもらうかという倫理実験の話だと思っていたのに、いきなり救済とか破滅とか言われても‥‥。
♣ 意味不明過ぎて、ここからあとはもう「ぽかーん‥‥」だった。

図書館の「ポータル」が出てくるところ

ノーマもまた謎の女の書き付けに従って図書館に行く。彼女が見つけたのはスチュワードの映っているNASAの記録テープだ。
図書館でノーマはスチュワードと会って話をする。スチュワードは自分が稲妻に打たれた話をし、今は稲妻を支配する者とコミュニケートしていると言う。

♣ 出たー! 「稲妻を支配する者」って誰? ゼウス?
♠ 宇宙人と交信するとかあの世と交信すると言ってるほうがまだまともに見えてくる電波の世界。

さらにスチュワードはノーマに自分を最初に見たとき何を感じたかと訊ねる。恐怖か哀れみか? それに対してノーマは「愛」と答える。なぜなら彼女自身が障害を持つ身だから。彼の苦しみが想像できて、あふれるような愛を感じたと言う。スチュワードが手をさしのべ、ノーマは気絶する。

♠ これってスチュワードにとっては「正しい答」だったみたいだけど、私にはものすごい偽善者に見えるんですけど。
♣ ノーマの説明によると、これまでは自分の障害について自分を哀れんでいたけど、彼の顔を見て自分を哀れむのはやめようと思ったと言うんだけど‥‥
♠ それって世の中にはもっと不幸な人がいると考えて自分を慰めるのと同じじゃん! 人を見下してるのと同じじゃん! だいたい顔の傷より足の傷の方がましと思うのも、顔の醜い人は自分よりかわいそうと決めつけるのも、勝手な思い上がりだよね。
♣ かわいそうじゃなくて愛してるっていうんだよ。
♠ もっと変だ! 醜形フェチ欠損フェチとかそういうのですか?
♣ ここでノーマの傷の理由も明かされるんだけど、幼いころ兄が彼女の足の上にバーベルを落としちゃって、それだけならただの骨折で済んだんだけど、医療ミスでX線を大量放射されて足指が壊死してしまったという。
♠ だからなんなの?って感じ。すごく意味ありげに言ってるけど、ストーリーと何も関係ないし。

アーサーは真ん中の柱を選ぶ。水に手を触れると光の中に引きずり込まれ、気が付くと水の柱の中に閉じ込められたまま、ベッドで眠るノーマの真上に水平に浮いているのだが、すぐに水といっしょにベッドに落下する。
突然水浸しになった家の掃除をしながら、ウォルターは何があったのか訊ねるが、両親は何も言わない。息子の話ではノーマはゾンビのように無言で帰宅して、まっすぐベッドに向かったと言う。
ポータルの中で何を見たのかとノーマに聞かれたアーサーは、そこは見たこともないような場所で、平和で快い感じがしたと答える。

♣ なんで水に入るとあそこから自宅にテレポートするのかなんて疑問はもうどうでもよくなりますね。
♠ どうやらアーサーが見たのは天国(?)らしくて、彼は正しい選択をしたらしいんだけど、正しく選べば救済が待ってるんじゃなかったのかよ? 結局ノーマは死に、アーサーは破滅したじゃないか。無関係でまったく罪のないウォルターまでひどい目に遭ったし。
♣ この映画の登場人物の言うことはすべて嘘っていうか、キチガイのたわごとだと思ったほうがいいですよ。あと通常の論理や倫理の通用しない世界ですから。
♠ だったら言うなよ!
♣ この流れではどうでもいいことだけど、二人ともあれだけの超常体験をしたあとで、水浸しになった家の拭き掃除という、あまりにも世俗的な仕事に追われているのが見ていて笑えた。息子は「親のくせに何やってんだ」という感じであきれてるし(笑)。普通あれだけの体験したら掃除どころじゃないと思うが。

NSAのマーティン・ティーグ(Mark Cartier)がNASAの首脳陣に説明をしている。ヴァイキング1号が火星から最初の通信を送ってきたとき、スチュワードが雷に打たれた。彼は死んで冷凍されたが、死から甦り、それ以来異常な能力を身に付けたという。
なぜ箱なのかというと、家は箱、車は箱、テレビも箱、死に至る肉体という箱に閉じ込められて、最後は棺という箱の中で腐敗していくのが人間だから。
ボタンを押さない者がいればテストは終わる。テストに合格しなければ人類は滅亡する。

♠ なんかまじめに考えるのもバカバカしくなってくるが、要するにスチュワードは金星人(だかなんだか)に操られてて、NASAもNSAもCIAも軍も巻き込まれているところを見ると、アメリカという国全体がスチュワードに操られてて、それで、それだけのすさまじいリソースと権力を行使して、やってることと言えば、一般家庭にボタンの付いた箱を届けて100万ドルあげますというテレビのクイズ番組かどっきりカメラみたいなことをやってるわけね。
♣ それでその一般人が失敗すると、地球人類が滅亡する(笑)。
♠ まあ、こうやって全貌が明らかになるとそれほど驚かないけどな。UFO信者とか、カルト信者とか、陰謀論者とかが信じてるシナリオって、だいたいこれと似たようなものだもん。
♣ 映画監督にもひとりぐらいいたって驚くほどのことじゃない、ってことか。
♠ こういう映画作る前に誰も止めなかったのか?というのは驚きだけどね。

アーサーとノーマはノーマの妹の結婚パーティーに行く。
パーティー会場の外で、アーサーはジェフリー・カーンズに銃を突き付けられ、「私は手遅れだがきみはまだ助かる」と言われて車に乗せられる。息子のウォルターとノーマもアーサーを追って出てくるが、ノーマの目の前でウォルターは誘拐される。
車の中でアーサーはCIAの機密文書Human Resource Exploitation Manualを見せられる。この書類には水のポータルも載っている。スチュワードは人間の前頭葉に何かをしてゾンビにしているらしい。しかし脳に侵入する方法に欠陥があり、そのため鼻血が出るのだと言う。
カーンズはアーサーに息子が誘拐されたことを教え、モーテルのプールがポータルになっていることを教える。彼の娘も誘拐され、どちらかを選べと言われて、娘を救うためには妻を射殺するほかなかった。

♣ マジで聞いただけで前頭葉破壊されそうな脚本‥‥。
♠ あれはゾンビじゃなくてロボトミー患者のつもりだったのか!
♣ 『盗まれた町』みたいな、宇宙人だか寄生体に乗っ取られたようにも見える。
♠ Human Resource Exploitation Manualっていうのもすごいね。これ確か字幕だと「人的資源開発マニュアル」ってなってたけど、このヒューマン・リソースって文字通り資源としての人間だから、「人間資源利用マニュアル」だからね。
♣ あのボタンの話からすると、金星人って地球人の倫理観をテストしてるみたいだから、高度に倫理的な存在なのかと思ったら、自分らは平気で人殺したり、子供誘拐したり、ロボトミーで奴隷化したりするのな。そこがよくある宇宙人カルトとの違いかな。
♠ SF読んでると当然のような気もするが。宇宙人がいい人のわけないじゃん!
♣ でも人類滅ぼすと脅されて、唯々諾々と従ってるアメリカって情けない。普通、戦うとかするじゃん!
♠ 首脳部全員、ロボトミー手術されてるんじゃないのか? トランプも含めて。
♣ 逆にここまで大風呂敷広げちゃって、どうやって回収するんだろう?と心配になってきたのですが‥‥。

突然、二人が乗った車は変なサンタに停車させられ、そこにトラックが突っ込んでくる。カーンズの死体は発見されたが、事故車からアーサーの姿は消えている。
場面は変わって、ラングレーの巨大な格納庫の前に集結する銃を構えた軍隊。扉が開いて中から出てきたのはフラフラのアーサーである。NASAの上司ノーム・ケイヒル(James Rebhorn )が彼に「これからは君の理解を超えたことが起きる」と警告する。

♠ 出たー! トラック!
♣ もうトラックが唐突に突っ込んでくるのはB級映画の定石だね。しかしそのあとがすごすぎて、観客の理解も超えてます。とっくに。
♠ もうこれ以上、突拍子もないことは起こらないだろう、まさかもうこれ以上‥‥と思っていると、次々その予想を覆してくるあたり、なんかだんだん楽しくなってきたぞ。
♣ 彼も死んでなきゃおかしいのに、事故車からどうやってテレポートしたのかは置いといて、なんであそこにテレポートしたのか、あの軍隊はあそこで何を待っていたのかとか、もう疑問でいっぱい!
♠ それで必然性はゼロだけど、絵的なインパクトはありすぎるぐらいあるんだよね。真っ暗な夜の中にそびえる常識外れに巨大な建物、銃で狙われながら扉がしずしずと開くとまばゆい光があふれ、その光の中を歩み出てくるちっちゃな人影。その人影ががっくりと膝をつくとアーサーだとわかるあたり。無意味に荘厳すぎる!

格納庫から出てきたアーサー

ルイス夫妻が家に帰るとキッチンにスチュワードが座っている。ここでスチュワードは二人にまた選択を迫る。
1.夫妻は先の100万ドルをもらって幸せに暮らすことができるが、息子のウォルターは目も見えず耳も聞こえなくなる。
2.銃を取ってアーサーがノーマを殺せば、ウォルターの目と耳は治り、100万ドルは銀行に預金されウォルターが18歳になったら受け取れる。

♠ だからさあ、なんでそうやって何度も後出しでいろんな条件出してくるの?
♣ ボタン押せば100万ドルくれるって言ったのに、嘘つき! 息子が不具になるなんて聞いてない!
♠ 悪魔との取引だって、落とし穴には違いないけど、とりあえず「だから言っただろ」というオチがある。なのに、勝手に新しいルールを作るのはないわー。
♣ 金星人は悪魔以下ですね
♠ 罪もない子供を巻き込むのもひどいしさ。
♣ なんだか『SAW』の“Do you want to play a game?”を思い出すね。

アーサーはスチュワードを銃で殺そうとするができない。スチュワードは家を去り、二人は浴室に閉じ込められているウォルターを発見する。彼は目が見えず、耳も聞こえなくなって助けを求めている。ノーマは息子のために自分を殺してくれと夫に嘆願する。
どこか別の家庭で、妻がボタンを押し、アーサーはノーマを射殺する。警察が来てアーサーが連れ出されるとき、ケイヒルが彼と息子の面倒はみると約束する。アーサーは黒塗りの車に乗せられて走り去る。

♠ ノーマ殺害よりもむかつくのはさ、ここまで3軒の家族が連鎖しているけど、ボタンを押したのは全部妻なんだよね。これって何? 女は誘惑に弱いってこと? 聖書のイブのつもり? 別にボタンを押すのは夫でも子供でもいいよね。
♣ 意図的なのかなあ? 単に最初の事例を機械的に繰り返してるだけのような気がする。しかしこんな単純な強欲の罪で、家族全員(と無関係な他人)が手痛い罰を受けるのは後味悪いなあ。
♠ それどころか人類滅亡するんだよ。

♣ そうだった(笑)。もしどこかの家族がボタンを押さなかったらどうなるんだろう?
♠ これはテストだそうだから、そこでテスト終了なんじゃない? それで地球は放っておいてもらえるのかどうかは、なにしろ電波宇宙人の考えることだからわからんけど。
♣ でもこんな見え透いた詐欺に引っかかる人はむしろ少ないと思うし、いつか誰かは拒否するよね。
♠ 期限があるんじゃなかったっけ?
♣ しかし自由自在に人を盲目にしたり治したりできるのって、もはや神ですね
♠ もちろん神だよ。さっきも言ったようにこういうのってカルトの考え方だから。口ではもっともらしいことを言いながら、実際やってることはひどいってのも宗教そのものだし。

♠ ひどい話のくせに、なんかいい話みたいに締めるのも胸くそ悪かったな。
♣ うん。殺してくれと言うノーマが、天国のことをほのめかすじゃない。アーサーはポータルに入って天国(のようなもの)を見るけど、いいところだったんでしょ?みたいに。
♠ そういえばそういうシーンあったな。アーサーはあれでノーマを殺す決心をしたみたいに見えた。
♣ なんであの人死ねば天国行けると思ってるの? それで最後は親子3人天国で暮らせる気なんだよ。実質人殺しのくせに!
♠ というか、金星人の言うことなんか信じる方がどうかしている

♣ それと気になったのは、アーサーはどうなったの? 当然殺人犯として投獄されるのかと思ったら、ケイヒルは「悪いようにはしないから」みたいなこと言うじゃない。実際、家から出てくるときは手錠をかけられてたのに、外へ出たら手錠を外されて、乗り込んだのもパトカーや護送車じゃなくて黒塗りの車だし。あれってNSAの車だよね。
♠ 何も説明されてないからわからないけど、アーサーはどこか国の施設に送られて軟禁されるんじゃないかな。国の秘密を知りすぎてるし。それが刑務所よりましとは思えないけどね。

♣ もうこういう突っ込みを続けていても不毛すぎるから、映画としての『The Box』をまとめましょう。
♠ この手の「ゲーム」ものはルールがかんじん。勝手にルールをねじ曲げて、どんどん新しいルールを作っていくのは禁じ手だし、絶対やってはいけないこと。
♣ というか、これって不条理映画になるんじゃない? わけがわからないという点では、それこそリンチとかクロネンバーグとかに匹敵するし。
♠ こんなクソ映画に彼らの名前を出すだけでも罰が当たるわ!
♣ だからこういうめちゃくちゃを、リンチやクロちゃんみたいな芸術にまで昇華するのって、何が違うんだろうなとずっと思いながら見てたの。
♠ 何もかも違うわ。だから単なるキチガイと、天才をいっしょにするなって。
♣ まあでも天才とキチガイは紙一重だってのはよくわかりましたね。

♣ 役者の話もしよう。
♠ キャメロン・ディアスは意外と良かった。あのルックスで平凡な主婦はどうかなと思ったけど、けっこう熱演で。
♣ しかしあの服なんとかならなかったの? あのダサい白ブラウスにダサい黒チョッキ、ダサいペイズリー・スカーフにダサいチェックのスカートにおまけに茶色いタイツ!(下の写真のキャメロンの服装がそれです)
♠ 典型的女教師ルックじゃん(笑)。
♣ ファッション・ポリスといたしましては、これだけでも死罪に値するわ。
♠ 相手役のジェームズ・マースデンもなかなか良かったでしょ。
♣ 70年代という時代のせいか、もみあげが気持ち悪かったけど。ほんと70年代ファッションって嫌い。

♠ 『X-Men』とかに出てる人だな。アメコミは必死に避けてたんだけど、『X-Men』は見ないわけにはいかなくなっちゃったんだよ。イアン・マッケランの若い頃の役でマイケル・ファスベンダーが出てるから。
♣ 私は話がぜんぜんわからないからつまんなそう。
♠ だってアメコミだぜ。話なんか犬でもわかるよ。

フランク・ランジェラとキャメロン・ディアス

♠ この映画に話を戻すと、やっぱりMVPはフランク・ランジェラしかいない。
♣ うん。不気味さとセクシーさが微妙に混じり合っててすてきだった。
♠ 私はいろんな映画で見てるけど、これまではドラキュラ役者のイメージが強すぎた。でも今後はもうスチュワードの印象しか残らない。それぐらい印象的な演技(とメイク)だった。
♣ あのメイクも良かったね。不気味だけどグロじゃないギリギリのところで。障害のある人に対する見ちゃいけないけど気になる感じがよく出てたし。
♠ その次に忘れられないのはチャールズを演じたジョン・マガロで、この人は完全に無名俳優だし、セリフもほとんどない端役だったけど、あのにやけ面の気持ち悪さは忘れられない。

♣ 結局脚本以外はそれほど悪いところはないんだよね。美術やセットも美しかったし。
♠ でも監督はダメだ。これは絞首刑ものだ。
♣ 実際この後はまったく仕事まわってこない。
♠ 当然でしょう。
♣ 『ドニー・ダーコ』を見ても、映画作家としては才能がないわけじゃないんだけど、単に頭が変だってのが致命的だったね。
♠ むしろ映画監督としては非常に才能あるでしょう。大学の映画学科出身なんだけど、学校出たての若造がいきなり撮ったにしちゃ『ドニー・ダーコ』はできすぎだよ。この映画も演出もうまいし、どのシーンを取ってもサスペンス満点だし見応えがある。話がでたらめな以外は。
♣ 確かに私も最初見たときは「なんだ、これ!」とバカにしてまじめに見てなかったけど、今回これを書くために(というか、なんとかわかるあらすじ書くために)見直したら、けっこうおもしろかったんで驚いた。
♠ こういう人はインディーで細々とひとりよがりな映画撮ってれば、それこそカルト監督になれたかもしれないのに、『ドニー・ダーコ』でいきなりスポットライトが当たってしまったのが不幸だったかも。

(たぶん)次の犠牲者を求めて移動するEmployeeの群

♠ というわけで監督のリチャード・ケリーのことがどうしても気になったので、今IMDbでバイオを読んだら、彼、ヴァージニア州の出身で、お父さんはヴァイキング計画に関わったNASA職員なんだって! 当然働いてたところはラングレーだろうし、火星探査機のカメラの設計をしてたってところまで、映画のアーサーと同じ!
♣ 自伝かよ! じゃなかったお父さんが主人公なのか?
♠ つまりこれってリチャード・マシスンとお父さんの伝記を合成したものだったのね。
♣ それで金星から電波を受信したのはいつ?
♠ これ以上のことは書いてねーよ!
♣ まあ、そこまで個人的な映画だとは思わなかった。お父さんってどこかにひどい傷を負ってたりしないの?
♠ なんだよ、それ?
♣ だって、ノーマもスチュワードも傷ありだし、『ドニー・ダーコ』のフランクも片目がつぶれてたし。
♠ そういえばやたらすさまじい傷が出てくるな。もちろんお父さんがどうだったかなんてわからないけど。ただそう言われると、ノーマの医療事故の話なんていかにも唐突なのに変にリアルで、もしかして身近な人に起こったことなのかもと思っちゃう。

♣ これがお父さんの話だとすると、やっぱりドニー・ダーコは監督本人だねえ。
♠ そうかな?
♣ まだ若かったんだし、あそこに出てくる等身大の高校生の悩み(私が「いじましい高校生の悩みの話しか出てこない」って書いたやつ)も本人が体験したり見聞きしたものだと思うのが普通じゃない。
♠ それもそうだ。なんか私小説的な映画作る人なのね。
♣ そうなると、この映画にかける本人の思い入れも半端なかったと思うんだけど、それが全否定されちゃったのって、ちょっとかわいそう。
♠ 全否定されたの?
♣ だってもう仕事がこないってことはそういうことでしょ。

♠ こういうことやっちゃいけないって大学で習わなかったのかしら?
♣ 今思い起こすと、やっぱりいろいろ『ドニー・ダーコ』と似てるよ。周囲の人たちはみんな「The Manipulated」で、金星人ならぬ未来人に操られていたなんて妄想、そっくりじゃない。
♠ 確かに。あそこでも「中二病全開の設定」と書いてたけど、電波系でなければ中学生しか思いつかないよね。
♣ でも電波もまんざらありえなくもない、と思うのは、ドニーは精神病んでいて、精神科医にかかってたじゃない。あれ、本人がそうだったんじゃないの?
♠ アメリカ人は本当になんでもないことでも分析医にかかるから、なんとも言えないな。でも本当に電波を受信していた可能性も出てきたな。
♣ そうでないとしたら、もしかして単に70年代のアホSFが好きな子だったんじゃないの? それでこういうのが本当にいい話だと思ってるんじゃないの?
♠ どっちにしろ世間では受け入れられないという点では同じでしょ。『ドニー・ダーコ』はうまくそのことを隠して、ネットに怪文書(笑)アップするだけで我慢してたのに、この映画ではそれを全部映像にして見せちゃったからなあ。
♣ というわけで、才能ない人じゃなかったのに、あまりにアレな作風のために若くして埋められちゃった気の毒な監督の話でした。

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