【マンガ評】五十嵐大介『海獣の子供』 (2006-2011)

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五十嵐大介動物や自然をテーマにした幻想的な物語を描く人というので、前から気になっていたマンガ家。

お話は学校になじめない14歳の少女琉花(るか)が、ジュゴンに育てられた少年(うみ)に出会ったところから始まる。彼はもうひとりの少年(そら)といっしょにフィリピンの沖合で発見されたのだ。

2~3歳まで海中で暮らしていたので長時間水の外にいると体調が悪くなるとか、そもそも赤ん坊が海の中でどうやって生きてたんだよ!とか、海はフィリピンあたりの南方系、空は金髪の白人で、2人とも明らかに日本人じゃないし、彼らを拾った保護者も関係者も全員外国人なのに、なんで日本語の名前がついていて日本語をしゃべるのかとか、そういうところに突っ込むのは野暮なんだろうから、とりあえずやめておく。まあ、前者はファンタジーと思えばどうってことないが、後者はファンタジーでもあり得ないと思うが。

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琉花と海の出会いの場面

それで最初は孤独な少女の一夏の体験みたいな話なのかと思っていたら、実は宇宙的な壮大な神話の中に組み込まれていくというお話。

これから映画も公開されるようなので、あえてネタバレはやめておくが、読みながら思ったのは諸星大二郎に似てるなあということ。
特に海で生まれた人間によく似た生き物が人間に拾われて、地上であれこれして、また海に帰っていくというところなんか『深海人魚姫』(『私家版魚類図譜』収録)のパクリじゃないかと思った。
肌が弱くて陽に当たると火傷するとか、水族館の大水槽に入ってほっとするとかいう描写もそっくりだし、周囲の人物が水族館関係者や海洋学者ばかりというのも設定上当然だが同じだし。『深海人魚姫』が2004年、この連載開始が2006年だからありえないことではない。

もうひとつ、『沼の子供』(『ぼくとフリオと校庭で』収録)にもやけに似ている。あっちは海じゃなくて沼だったけど、沼に住む人間そっくりだが人間じゃなさそうな男女2人の不思議な赤ん坊がいて、彼らを発見者が人間社会に連れてくると‥‥という話。
クジラの背中に人間の女のような姿が浮かび出る場面も、『アダムの肋骨』に出てくる、腹に女の顔のような模様のある鳥を思い出させるし。
どれもよくあるパターンだからと言ってしまえばそれまでだけど、3つも重なるとさすがにね。

とりあえずパクリだと非難してるわけじゃなくて、諸星大二郎に似ているというだけでも、私としては最大級のほめ言葉なんだけど、こういう壮大な神話世界に共感できるか否かは、作者の持つビジョンを共有できるかどうかにかかってると思う。その点、諸星さんは私にはビンビンに来るのだが、こっちはどうにも乗り切れないままだった。深海の人魚姫は信じられるし共感したけど、このマンガの登場人物はひとり残らずうさん臭い感じで、まったく共感できないんだよね。

最大の理由は絵になじめないせいだろう。こういう震えたぐにゃぐにゃした線の絵が苦手だし、特に人物の顔がだめ。目がでかすぎて気持ち悪いしタラコ唇だし、いかにもさもしい感じの受け口だし。
ヒロインの琉花はそれでも日本人だからか淡白な方でかわいいから人気あるんだろうが、「美少年」揃いの少年たちは外国人ということを強調するためかめちゃくちゃ顔が大ざっぱで、しかもなぜかこの顔が大ゴマだと異常にデフォルメされて気持ち悪い

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これが空なんだが、うわわわ~!

横顔なのに巨大な目だけ正面向きなのも気持ち悪い。絵が下手な人がそういう絵を描くが、この人はちゃんとした横顔も描けるので、なんでそうなるのかわからない。おかげでエジプトの壁画を見てるみたいだ。でもこの人、絵がうまいって言われるんだよね。私にはなんでかわからんけど。

ただ、この気持ち悪さはもしかしてねらったものかもとは思う。

というのも、彼の他の作品『ディザインズ』は半人半獣のキメラの話なんだが、(大猫と女の合体した生物は出てくるものの)半人半獣と聞いて思い浮かべるようなかわいらしい猫耳少女とは対極の、ものすごーく気味の悪い悪夢のような生物がゾロゾロ出てくるのだ。(そういうのはけっこう好き。やっぱり怖いけど)
そりゃ、本気で人間と獣を合成したら、おぞましい妖怪にしかならないよね。(でも『BEASTERS』ならこっちのほうがずっと好きだ)
このシリーズでも、人間がマッコウクジラに変身する場面があるのだが、その途中の顔(人間とクジラのモルフ)がまた夢に見そうなぐらい怖い。本気で気持ち悪くて見るとうなされるから画像は貼らないけど。巨大なエイの腹に巨大な人間の目が浮かび上がるところも怖い。

あとはうーん‥‥やっぱりクジラを神格化したり、海は宇宙につながってるみたいなニューエイジっぽさがだめだな。私も海が大好きだし、すごいロマンと神秘を感じるけど、こういうんじゃないっていうか。いわゆる意識高い系? そういう人たちが好きそうなマンガという感じ。
そもそも名前からして、「海獣のこどもの海と空」なんて「おおかみこどもの雨と雪」とどこが違うんだ!という感じで、いかにも私の嫌いなタイプだし(笑)。

それでも乗れるかどうかは別として、この壮大すぎる物語を、ごちゃごちゃいじくりまわさずに5巻できちっとまとめたのはえらいと思う。前日談と後日談もいい感じだし、最初と最後におばあちゃんになった琉花が出てきて、孫に語る形の額縁形式もありがちだが決まっている。

そして随所に挿入される、海にまつわる民話がすごくいい。

本編よりいいし、もうこれだけ読むために買ってもいいぐらい。おそらくこれらは実在の民話で、こういうものの現代版が描きたかったんだろうなとは思う。
こういう民話や神話って、いかにも素朴だし荒削りだけど、ものすごいパワーや神秘性や壮大さが感じられるからいいんだが、諸星大二郎のマンガが私にはまさにそういう感じ
なんかさっきから諸星上げ五十嵐下げばかりになっちゃってるけど、比較すればどうしてもそうなるのはしょうがない。最初にも言ったけど、諸星大二郎と比べられるだけでもすごい漫画家だと思って下さい。

そこでいちばんかんじんな動物の絵だが、舞台は海なのでもちろん魚と海棲哺乳類しか出てこない。これは確かにうまいと言っていいんだろう。ただ、人間の絵はめちゃくちゃデフォルメされているのに、動物の絵はすごいリアルで本物そっくりなので、かえって資料見て描いたんだろうなという気がしてしまう。クジラなんて元があんなふざけた格好なんだから、いくらデフォルメしてもいいのに。

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女(女神?)の絵姿を付けたクジラ

それでも海中シーンは好きだ。自分の行けない場所を見るのは好きだし。見開きでクジラが泳いでいるだけのコマが何ページも続いたりするんだが、ぜんぜん飽きない。ただ、夜光虫の海でクジラがジャンプするシーン(下の予告編にもあるね)なんかは、つい『ライフ・オブ・パイ』のパクリ?と言いたくなるけど。

結論。嫌いかというとどっちかというと好きな話だけど、やっぱり作画は嫌いかな。あとキャラクターも嫌い。

ところで、資料を探してググっていたところ、このマンガの劇場版アニメが今年6月に封切られると言うことを知った。おおー! これは期待できるかも。
というのも、これっていっそ幻想的なイメージビデオにしてしまえば、すごいきれいな映画になると思うので。顔が個性的すぎて抵抗があったけど、アニメなら無難な感じになるはずだし、海や海獣を描くならモノクロの絵よりはカラーの動画のほうが美しいに決まってるから。
ストーリーもテーマも原作とは別物だが、映画化することで美しいファンタジーに生まれ変わったライフ・オブ・パイ』という前例があるし、けっこう期待している。

と言ってる間に早くもトレーラーが公開された。うーん、あ~、感想はちゃんと見てからにしておこう。

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