★【映画評】ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』 (2018) Wes Anderson “Isle of Dogs”

これはいい映画だから書かなきゃと思ったのだが、そんなに好きなわけでもないのと、大学が始まって忙しくなったので、あんまりちゃんとした文章にする時間がなくて、箇条書きみたいになってます。

『犬ヶ島』英語版トレイラー

先に断っておくと私は猫派だが、もちろん犬も大好き。犬がどれだけ人間に愛情を抱いていて献身的かはよく知ってるし(犬のそこがいまいちなんだけど)、特に人間と犬の友情物語を見ると、たとえそれが『Hachi』でもオイオイ泣いてしまう人間。でもこれは、そうだな、ポロッと一粒泣いたぐらい。というところで、だいたいの私の評価がわかると思う。

日本を舞台にしたアメリカン・アニメって、ディズニーの『ベイマックス』(Big Hero 6)がひどかったので、普通だとそれだけで避けるところ。いや、『ベイマックス』はひどいっていうより、本当にどうでもいい話すぎて何も言うことがなかったというのは『君の名は。』のリビューに書いた通り。

ただ、ウェス・アンダーソンという監督は私はどれも見たことがないんだが(『グランド・ブダペスト・ホテル』だけは見ようと思って録画してあるが、まだ見てない)、かなりの固定ファンが付いているカルト監督みたいで、「あのウェス・アンダーソンの新作!!!!!」みたいな感じで盛り上がっているのを見て、気になったのでタイトルを覚えていた。

ただ、予告編を見た感じでは、犬も子供もかわいくないし、なんか違うって感じであまりそそられなかった。そこでなんの期待もなく、最初の5分見てつまらなかったらやめようと思って見始めたら、つい夢中になって最後まで見てしまったので、今日はそのリビュー。

監督のウェス・アンダーソンとパペットたち。まだ若いのね。

とりあえず、私は大失敗をやらかしてしまった。というのは、この映画、人間は全員日本語をしゃべり、犬は英語でしゃべるのだが、どこの国の版でも日本語には字幕がなくて(ニュースなどは「同時通訳」が付く)、何を言ってるのかはわからない。つまり観客は人間が何を言っているのかわからない犬視点で見るべき映画だったのに、私はテレビだから、うっかり吹き替え版で見てしまったのだ!
ん? 字幕版でも日本語はわかっちゃうから同じか。というわけで、日本が舞台なのに、世界で唯一この作品を本来の形で見れないのは日本人だったのだ。
さらに、その不公平を補うためか、この吹き替え(日本人の方のセリフ)が死ぬほど聞き取りづらい。無理な早口だったり、訛ってたり、音がかすれていたりして。だから見ているときはそのことにプンプン怒りながら、「これだから日本の声優は!」と思っていたが、あとで調べたらどうやら意図的なものらしい。
なるほど、そうやって日本人にも他国人の気持ちをわからせるつもり? でもぜんぜんわからない外国語と、半端にわかる母国語とじゃずいぶん違って、イライラさせられただけだった。

もうひとつ吹き替えで見て後悔したのは、声優陣がめちゃくちゃ豪華なこと(向こうのアニメじゃよくあることだが)。エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、F・マーリー・エイブラハム、ティルダ・スウィントンなどの豪華な顔ぶれ。これはちゃんと英語で見たかった!(ほとんど『グランド・ブダペスト・ホテル』に出てた役者だね)

【追記】 英語版もちょっと見てみたが、思いのほか良くなかった。ジェフ・ゴールドブラムやビル・マーレイの声でしゃべる犬ってキモすぎる。なまじ有名俳優を使うと、俳優の顔が浮かんじゃうのが、こういうアニメではマイナス点かも。

でも声優でいちばんびっくりしたのは女性研究員を演じた小野洋子! まだ生きてたんかい! 私はてっきりもう亡くなったか、生きていても100歳ぐらいだと思ってた。(本当はまだ86歳)
だって、私が少女だった頃にすでにおばあちゃんで、その私がもうおばあちゃんなんだから! ビートルズのメンバーだってみんなヨボヨボの爺さんで、ヨーコはそれより年上だったから。でもジョンと結婚したとき33ぐらいだったんですね。私は55ぐらいかと思ってた(笑)。すいません。若い頃から老け顔だったし、自分が若いと年上の人の年齢ってぜんぜんわかんないもので。

ここで唐突にあらすじ

ストーリーは、近未来の日本の㍋崎市(環境依存文字だが読めるかな? 本当にこういう感じの変なフォント)、この地では大昔から犬派と猫派が争ってきたらしいのだが、猫派の小林市長が政権を取り、伝染病スナウト(犬の鼻面のこと)熱のため、犬をすべて町から追い出し、ゴミの島(犬ヶ島)に捨ててしまう。
ガードドッグのスポットを捨てられた市長の養子の12歳の少年アタリは、スポットを助けるためにひとり飛行機で島に飛ぶが、飛行機は墜落してしまい、アタリは5頭のアルファ・ドッグ(ボス犬)レックス、キング、デューク、ボス、チーフに助けられる。(5頭の名前はすべてボスを意味する) 市長はアタリを連れ戻しに特殊部隊を送るが、アタリは犬たちに助けられて逃げる。

一方、町では科学者の渡辺がスナウト熱の特効薬を開発に成功していた。しかし彼は小林によって毒殺される。実はこの病気そのものが犬を駆逐するために小林がばらまいた病原菌によって引き起こされたものだったのだ。
メガ崎の犬好きの子供たちはアメリカ人留学生のトレーシーをリーダーに小林に対する反対運動を繰り広げる。

アタリは冒険の末、スポットと再会する。彼はこの島の研究所で生体実験に使われていた犬たちのリーダーになっていた。また、5頭の中で1頭だけ人間を認めなかった野良犬のチーフは、実はスポットの兄弟だったことがわかる。
小林市長の就任セレモニーの式場に、トレーシーらが抗議行動に訪れる。そこにアタリと犬たちが現れ、小林の企みを暴く。小林とその一党は投獄され、アタリが市長の座に着き、すべての犬は治療を受けて飼い主の元に戻る。

見ての通り、あらすじはいかにも子供向けの動物アニメという感じでたわいもないもの。この映画の神髄はむしろ美術にある

主人公のアタリとボス犬五人衆

まず死ぬほど手間のかかるストップモーション・アニメを使っていること。(アンダーソンは『ファンタスティック Mr.FOX』というストップモーション・アニメも撮っている)
個人的にはストップモーション・アニメは、好きでもないし嫌いでもない。いちおうデザイン次第だが、デザインの好みが合わないのが多いので(当然ながら『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』は大好き)、手間のわりには割に合わないって気がしている。(参考 『コララインとボタンの魔女』

しかしデザインを言うなら、これも見事にかわいくない、と最初は思っていた。でも見たらかわいくないのも当然。犬たちは全員伝染病にかかってやせ衰えて、ろくに食べるものもなく、ゴミを漁る生活だし、汚れ放題なばかりか、あっちこっち毛皮も禿げている。しかも餌を取り合ってか目がつぶれていたり、耳が千切れていたりの満身創痍。
一方のアタリはなにしろ飛行機事故から生還したので、傷だらけだし、頭には飛行機の部品が刺さったままという恐ろしい姿。これでかわいかったらどうかしている

おまけにこれが実験動物だった犬たちになると、悪夢のような地獄絵図。これはむしろ愛犬家には見るに堪えないんじゃないかな。それに話は子供向けだが、これを子供に見せるのはちょっとはばかられる。私も痛々しすぎてけっこうつらかったぐらいだもん。
とにかく子供向けアニメの主人公の子供が最初から最後まで傷だらけ(回復するのはエンディング間近)というアニメは初めて見たので、どんなハードボイルド・アニメかと思っていたら、ストーリー自体は無難な子供向けの展開だったので、逆に拍子抜けした。

私がおもしろいと思ったのは、「日本」の表現。もちろんこの映画のスタッフには日本人も多く加わっているし、この勘違い日本は明らかに意図したものなのでそこは突っ込まない。
私は下のサッポロビールの海外向けCMがすごい好きなのだが、この世界観ってこの映画に通じるものがあると思う。まあ、和太鼓とか歌舞伎とか相撲とかよくあるモチーフではあるけれど、ラストシーンの地下へカメラが降りていくところなんて似てなかった?

なんかこういう外国人のイメージする変な日本がすごい好きで、この映画の雰囲気もこれにそっくり。意外なところがちゃんとしてて、変なところが狂ってるのがおもしろい。

あと全編にわたって出てくる変なフォントの日本語字幕は、うるさいけどいい味出してる。あ、しかし字幕版ではこれにさらに日本語字幕がかぶるのか。それはひどい。やっぱり吹き替えの方がましだったかも。

基本はストップモーション・アニメだが、テレビの中の画面は普通のセル・アニメというのも不思議でおもしろかった。そうやって見くらべると、カクカクした動きなのに人形の方が生きているように見えてくるから不思議。
過去の話をすべて浮世絵風や狩野派風の絵で説明するのもおもしろい。この絵がすごい好き。

歴史部分はこういう浮世絵みたいな絵で表現される。

英国おたくとしては「Isle of Dogsがあるのは日本じゃなくてイギリスだろう」(イースト・ロンドンのテムズ川に囲まれた三角州の名前。犬はいない)という突っ込みが真っ先に思いつくのだが、この作品が撮影されたのはロンドンと聞いて、ええー! ついでにIsle of Dogsのすぐそばのスタジオと聞いて、ええ-! まさかそこから名前を取ったんじゃないだろうな?
昔からそうだが、やっぱり細かい手作業や職人芸の必要な特撮って、いまだにイギリスで撮ってるんだね。

最初は日本ということもあってかなり辛辣な目で見ていた(日本人だからいろいろ突っ込みたくなる & もともと日本のものが嫌いなので)のだが、犬たちの登場シーンで突然『七人の侍』の音楽(アレンジしたとかでなくそのもの)が流れたとき、すべて許す気になってしまった(笑)。
Toho Mountainという名前の山が出てくるのも、ずっと東宝で映画を撮っていた黒澤へのオマージュだろう。あとトレーシーが住んでいる寮の名前が(『七人の侍』の)菊千代レジデンス。
あとカメラワークなんかは小津の影響も強いらしい。私は小津はまったく知らないのでわからないが。でもカメラを真正面に据えてロングで撮るところなんかは黒澤だよね。
というか、もうちゃんとこの映画における黒澤の影響と称する動画(ほんの一部だし、こじつけもあるので貼らない)がYouTubeに上がってたわ。

カメラワークに特色があり、登場人物がすべて正面をまっすぐ向いていたり、左右対称の画面だったりするのは、このアニメに限ったものなのか、それともこの監督の特徴なのかはわからないが、ユニークだしおもしろかった。

小林の執事の名前がMajor-Domoで、執事なのになんで少佐?と悩んでいたのだが、これは執事を意味するイタリア語(Mayordomo)とスペイン語(Maggiordomo)のもじりだそうだ。
言葉遊びと言えば、”Isle of Dogs”は”I love dogs.” と音的には完全に同一。ロンドンの地名がなんでIsle of Dogsなのかは諸説あるが、私はこれが元なんじゃないかと思う。

これは自分の家に帰った犬の暮らしの様子だが、このなんとも言えない「日本」がこの映画の特徴。大正時代みたいな風物とSF調のメカが融合したレトロ・フューチャーな感じも好き。しかし壁にずらっと並んだドッグフードはなんのため?

ただ、日本人としては気になる部分も。変な勘違い日本はべつにいいんだけども、なんかいやな感じになる場面も何度かあった。

たとえば、犬ヶ島はゴミの島と呼ばれてたから夢の島みたいなものかと思っていたんだが、それよりずっと広くて、採石場とか精錬所とかの廃墟もある。この辺、いかにもディストピアものっぽくていいんだが、なんとなく地震後の福島第一を連想させるんだよね。
さらに、ここで大爆発が起きて、キノコ雲が広がるのもモロに原爆を思わせる。メガ崎という地名も長崎を連想させるし。
まあ、原爆があって、福一があって、日本と言えば放射能のイメージになっちゃうのはしょうがないんだけど、特に記憶に新しい東日本大震災を思い出させるようなものは気分が良くない。

さらに研究所の実験動物としての犬が出てきたとき、これってウサギ島(広島県の大久野島)をモデルにしてるんじゃないかと思った。っていうか、ほぼ確実でしょ。これもべつに悪意のあるものじゃないけど、なんとなくいい気分じゃない。
実際、大久野島に毒ガスの研究施設があったのも事実だし、ウサギを実験に使っていたのも事実だが、今いるウサギはペットのウサギが逃げ出して繁殖したものらしいのに。

結論としては一度は見る価値があるし、まして日本人や犬好きは絶対見るべきアニメ。ただ、上記のように、子供と犬がかなり痛々しいのでそれに耐えられる人限定
あと、猫が(猫自体は何も悪くないんだが)悪のシンボルとして使われているので、猫好きは頭にくるかも

個人的には絵とかアート作品としてはかなり楽しめる

ただ、少年と犬ものなら、SFファンとしては真っ先にハーラン・エリスンの”A Boy and His Dog”(『少年と犬』)をすぐに連想してしまうし、実際、ちょっとこれと雰囲気が似てる(改造された犬と少年の友情もの、ディストピア的世界観、ハードボイルドなところ)だけに、これはちょっとウェス・アンダーソンが不利かも。さすがにエリスンと比較すると、いかにもお子様向けだしねえ。
どういう話かというと、全面核戦争後の荒廃した地上(安全な地下には特権階級だけが住む)で、少年と、ちょうどこのアニメのスポットみたいに改造された人間並みの知能を持つ犬ブラッドがサバイバルする物語。ラストは少年が命がけで助け出した彼女と飢え死にしかけたブラッドのどちらを取るかという究極の選択に直面して、彼女を殺して犬に食べさせる話です(笑)。
A Boy and His Dogは1975年に映画にもなってるが私は見てない。コメディって書いてあるから、原作のイメージとはだいぶ違いそう。

そうそう、言い忘れたが、日本の話なのに日本犬が1頭も出てこない。なんで思い出したかというと、エリスンのブラッドは軍用犬だかなんだかなので、すごいかっこいい強そうな犬を想像していたのに、映画じゃ白くて小さいテリアだったのでがっかりしたのを思い出したからだ。
なぜかこの映画の犬もほとんどがテリアの系統のムク犬なんだよね。今じゃ柴や秋田などの日本犬は海外での人気も高くて、当然そういう犬の飼い主は日本が舞台と聞けば自分の犬が出ることを期待しただろうに、これはないんじゃない?

でもやっぱり犬たちは見ているうちにみんなかわいく見えてきた。アタリはやっぱりちょっと気持ち悪いけど。ところでアタリの吹き替えをやった日系カナダ人の男の子は美少年でした。この子をモデルにしてくれればよかったのに。

結論としては最後まで楽しく見られたけど、なんか私のテイストと違うって感じの映画だった。

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