伝染るんです(4)【映画評】スティーヴン・ソダーバーグ『コンテイジョン』 (2011) Contagion

中国発のコロナ・ウイルスが話題となっているので、これまでに見たパンデミックものの映画を2本お蔵出し。ただ、この2本はお蔵になるぐらいだから、まあたいしておもしろい映画じゃないし、リビューもイマイチですみません。不謹慎なタイトルもすみませんが、これが元々のシリーズ名なので。


この監督は嫌いなんだけど、アウトブレイク(最近はパンデミックのほうが通りがいいか)ものだと聞いたので。私は『ホット・ゾーン』(この一連のブーム――って言っていいんだか悪いんだか――に最初に火を付けたエボラ出血熱のドキュメンタリー。映画『アウトブレイク』のネタ本でもある)を読んでから、ウイルスに取り憑かれていた時期があって、この手の本や映画をあさりまくっていたので。
ただ、残念ながら『ホット・ゾーン』は不謹慎だけどおもしろすぎて、素人目にもこれは実録というよりは小説だとわかったけどね。でも、あれより恐ろしいホラー小説は読んだことがない。というぐらい怖かった。

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だから、どうせ『アウトブレイク』の二番煎じだろうと思って見始めたんだが、ぜんぜん違った。いや、『アウトブレイク』はあれなりに大好きなんだが、こちらは原作がないにも関わらず、まるでドキュメンタリーみたいなまじめなパンデミックものだった。
なんでそう思うかというと、私は『ホット・ゾーン』だけじゃなく、エボラ出血熱やスペイン風邪やその他のレベル4の伝染病を扱ったドキュメンタリーをたくさん読んでいて、その中でこの映画に出てくるようなエピソードのほとんどすべてを見てるんで、どれも現実にありそうな話だということを知ってるから。ていうか、本当にそういう本のどれかを原作にしたんじゃないんですか?

というわけで、映画はインフルエンザに似た架空の伝染病MEV-1の発生から、それが全世界に蔓延して大きな被害を出し、やがてワクチンが見つかって収束するまでの、WHOやCDC(アメリカ疾病管理予防センター)の医療関係者の努力(中にはそのために発病して命を落とす人もいる)や、パニックやデマに振り回される一般人の姿や、その他もろもろを時間軸を追って見せる。

いやー、もうこの手の話の教科書みたいな模範的な内容で、私にはまったくなんの驚きも発見もないんだが、この手のものが大好きで大量に読んでるだけに、もちろんこの映画も大いに楽しんだ。
もちろん『アウトブレイク』みたいなとんでもない話も、『ホット・ゾーン』みたいなホラー仕立ても楽しいけど、こういうのもいいんだよね。

だから本当にていねいにまじめに作られてはいるんだが、その代わり犠牲にしたものは、ドラマチックな映画的盛り上がり。この手の話はいくらでもお涙頂戴にできるし(家族が死んだり離ればなれになったり、医師が殉死したりするところ)、手に汗握るパニック映画にもできるし、官僚機構と戦う社会派映画にもできるし、もちろんホラーにだってできるのに、それをしないでドキュメンタリー仕立てにしたために、淡々と終わってしまった感はある。
とにかく大勢の登場人物が出てきて、視点もあっちこっちに飛ぶので、もうちょっと登場人物を減らしてじっくり描いてもいいかなとは思った。
あとエボラとくらべると、病気自体も地味。ただ咳き込んで倒れてすぐ死んじゃうので。『ホット・ゾーン』のリビューに私が書いたエボラの描写、

発病した患者は「歩くウィルス爆弾」と化して、内臓がドロドロに溶け、最後には「炸裂」して「体中の穴という穴から血を吹き出して」死んでいくっていうのも、スプラッタ顔負けのものすごさ。まだ生きていても、内臓はほとんど壊死状態で、脳もほとんど溶けてるし、当然人格も崩壊してしまっている、っていうことは、ほとんど人間ではなくなっているのだが、にもかかわらず、歩けるし、しゃべれるし、最後まで意識もあるってのも想像を絶する。

というのとくらべるとそりゃ迫力も恐ろしさも違いすぎる。この引用部の描写はかなり作者の脚色が入ってるけどね。

お得意のオールスター映画で、大勢のスターが共演しているので、彼らの顔見せを見る楽しみもある。その顔ぶれも『オーシャンズ11』なんかよりずーっと好み。だって、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレット、マリオン・コティヤール、ローレンス・フィッシュバーンと言った私の好きな役者が出ているので。
いちおうファースト・クレジットはマリオンなんだが、なんでだ?と思うぐらい彼女の出番は少ない。というのも彼女はWHOの研究者なんだが、すぐにワクチンをほしがる香港マフィア(?)かなんかに誘拐されちゃって、最後まで解放されないから。
実質的な主役は民間人代表のマット・デイモンと妻子、医療関係者代表のローレンス・フィッシュバーンジェニファー・イーリー(Jennifer Ehle)。特にマリオン・コティヤールはすぐ誘拐されちゃうし、グウィネス・パルトローはすぐ死んじゃうので、ジェニファーが実質のヒロインで、彼女は地味だけどいい女優さんで、『バック・ビート』でデビューしたときから見ている英国女優なのでうれしかった。

あと役者で目立ったのはジュード・ロウで、彼は無責任なデマでパニックを引き起こし金を稼ぐ悪徳ブロガー役。これ、2011年の映画だからブロガーだけど、今なら間違いなくユーチューバーだよね(笑)。
もう若くないせいか落ち着いた役が増えてきたジュードだが、この人こそ私はデビュー作の『ショッピング』(1994)から見ていて(ていうか、昔は日本で封切られるイギリス映画はすべて見ていたので、英国人俳優は全員デビューから見ていることになる)、あの頃の悪ガキのイメージを思い出してなつかしかった。

あと、やっぱり気になったのは久しぶりに見るケイト・ウィンスレット。この人も英国女優としては完璧で大好き。しかもこのタイプは若い頃はかわいく、年取ったら今度は気品と貫禄で一粒で二度おいしい。彼女もいい感じに老けてきましたね。わりとあっさり死んじゃってかわいそうな役なんだけど、出てくるなり死ぬばかりかエグい開頭手術シーンまでやらされるグウィネス・パルトロー(マット・デイモンの妻の役)ほどじゃないね。
デビュー作から見ているという点では、ローレンス・フィッシュバーンも同じだ。あの時(地獄の黙示録)はこの軽いガキがこんな重みのある俳優になるとは思わなかった。

先に述べたように、この映画は日を追って進むのだが、なぜか最初のシーンはDay 2になっている。それでDay 1を最後に見せて病気の発生源を教えるという演出も憎いね。それによると、コウモリ(エボラを初め、多くの伝染病のキャリア)が落としたバナナを食べた豚(豚インフルを持っていたらしい)の中で新種のウイルスが生まれ、その豚をマカオのカジノで食べたグウィネス・パルトローがアメリカに持ち帰ったということらしい。

というわけで、派手さはまったくないけど手堅く作られた映画で、そのぶんとてもリアルでした。

P.S. これって原作はないのかなと思って調べていたら、医学サスペンスの人気作家ロビン・クックに同名の『コンテイジョン』という小説があったので、これかと思ったらぜんぜん違って、これは映画のオリジナル脚本でした。
しかしロビン・クックって『アウトブレイク』のところでもだまされたように、あそこでもまったく同名の小説を書いていて、これってほぼ詐欺じゃないの? と思ったが、発行年を見たら、どっちも映画よりずっと先でした。よくあることだが映画がタイトルをパクっただけだった。

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