★★【マンガ評】近頃(と言ってもここ20年ぐらい)のマンガ寸評(2)

二度目の手術が11月初めに決まったので、またまた入院中のぶんの授業を撮りだめしなきゃならなくて、狂騒状態です。その反動か、最近またよくマンガを読んでいる。(その前は新しく買ったゲーミングPCに夢中でゲームばかりしていたが、もうそんな時間はないので)

それでぜひリビューを書きたいマンガや紹介したいマンガが山ほど貯まってるんだけど、書いてる時間がない!というわけで、以前の近頃(と言ってもここ20年ぐらい)のマンガ寸評みたいなショート・リビューを書いてみることにした。

通常のリビューと違って、最初の数巻だけとか、多作な漫画家でも1作だけ読んで書いてるものもあるので、誤解などがあったらごめんなさいです。これまでに何らかの形でこのブログで取り上げた作家や作品は除く。

しかし自分で書いてて思ったが、いくら偏食とはいえ、男向け(萌えマンガや少女が主人公のやつ)だめ、女向け(単に少女マンガだけでなく女性作者一般が)だめ、少年マンガもだめ、恋愛マンガだめ、学園マンガだめ、基本的に「現実」を感じさせるマンガがすべてだめで、SF・ホラー・ミステリ・ファンタジー以外受け付けないって、どんだけ許容範囲が狭いんだ!
それでも探せばこれだけすばらしい漫画家がいるというのも驚いた。ただ濃いです。めっちゃ濃いです。一般読者向けとは言いがたいマンガも多いので、その辺はご承知おきを。

気に入った作品(順不同)

藤田和日郎『双亡亭壊すべし』

もちろん『うしおととら』の藤田和日郎のことは昔から知っている。でもこの人はいかにも少年誌くさいところが苦手だった。
もちろん吾峠呼世晴と違って、こっちは普通におもしろいけどね。すごくプロ意識が高くて書ける人だと思うし。ただやっぱりこの少年誌っぽさ ―― 子供だましというのじゃなくて、子供相手なことを意識してヨシヨシするような優しさが苦手で、好きだと思ったことがない。『からくりサーカス』や『月光条例』も意欲作だしおもしろいことはおもしろかったんだけどね。やっぱりお子様向けだなーという感じで。
でも今連載している『双亡亭壊すべし』は初めて好きだと思った。最初は単なるお化け屋敷ものかと思ったら、実はSFだったし、「芸術とは何か?」というすごくハイブラウなテーマを(子供にもわかりやすいように)扱ってるところも好感度が高い。

田村由美『7 Seeds』

とまあ、少女マンガは無理とか女性漫画家は無理とか、とにかく女は絶対無理(これはマンガに限らずだいたいあらゆるジャンルでそう)とさんざん書いてきて、なんとこの年になって初めて、「この人、女なのにすごい!」とうならされた漫画家。詳しくはリビューで書くが、この人の書くダイナミックで情け容赦がなく骨太でハードコアなストーリーはもうマンガというジャンルを超えている。
しかもこのギンギンの少女マンガ絵で! 昔の人だから絵も強烈なんだよね。だから、普通なら絵だけで絶対手に取らないほどの少女マンガ嫌いの私を平伏させたというだけで、どれだけすごい人かわかるはず。

カネコアツシ『Soil』

あまり人には教えたくない私の秘蔵っ子。いや知ってる人は知ってるでしょうが、これも必ず書く。絵の感じは見るからにアート志向のサブカル系なので最初はバカにしていたが、『Soil』には完全にノックアウトされた。あと日本よりも海外で評判が高いあたり、やっぱりという気も。

ソウマトウ『黒』『シャドーハウス』

私がこの手の絵(どれも萌え絵っぽい幼女が主人公)のマンガをほめることはめったにないのだが、『黒』は無料のウェブマンガだったので最初からずっと読んでいた。(今回取り上げる作家はその手が多い)
ヨーロッパ調の町で黒猫と二人きりで暮らす幼い少女の話なのだが、「猫」は猫じゃなくてなんかの化け物だし、外にも得体の知れない怪物が闊歩している。「猫」はそれらの怪物から少女を守っているらしいが、少女は何も気付かない。
こういうかわいい絵が描ける人は絵だけで終わってるか、エロや日常系に走る場合が多いのだが、ソウマトウはまともなお話(ホラー寄りのファンタジー)が描ける人だ。
今連載している『シャドーハウス』も、一見ありがちなメイド萌えに見えて、実は綿密に構成されたディープでダークな独自の世界観がすばらしい。

松永豊和『パペラキュウ』

プロの人気作家だった人だが、いろいろ訳ありでこれは彼の個人サイトで無料で公開された漫画。大長編だが最近完結した。なぜこれが商業ベースに乗らないのか(乗せないのか)わからないが、文句なしのA級作品で、独自の世界と言ったら本当に見たこともない独特な作風で、でもストーリーはきっちり謎や伏線が張り巡らされて、めちゃくちゃすぎてギャグに見えるんだけど実は親子三代に渡る感動の大河ドラマになっているところがすごい。

岡田索雲『鬼死ね』

昔だったらガロ系と言われたであろうタイプのマンガ。Kindle Unlimitedでほとんど無料だったので読んだ。超能力を持つ少女暗殺者が主人公の『メイコの遊び場』はまあまあかなという感じだったが、人間の中で暮らす鬼の兄弟を描いた『鬼死ね』はなんか異常なリアリティーがあった。これだけ有料だったので買おうと思ったら、なんと打ち切りで途中までしかないと知って買う気はなくなったけど、ほんと読者や編集者は見る目がないね。

宮尾行巳『五佰年BOX』

これはすごい好きだったマンガ。短いし(いちおう)完結してるんでそのうちちゃんと書く。箱の中が江戸時代につながっている『フェッセンデンの宇宙』もの。

若杉公徳『明日のエサ キミだから』

『デトロイト・メタル・シティ』の人。だからギャグ漫画家かと思っていた。『デトロイト』もまあ笑ったけど、それほど好きって感じでもない。でも『明日のエサ キミだから』はなんとモンスター&サバイバルもので、いきなりの過酷なシリアス展開にびっくり。それで私はそういうのがすごい好きなんだ。それでもなんとなくほんわかしてるんだけどね。

松本次郎『フリージア』

すごい! すごすぎる! こんな漫画家がいるのを今まで知らなかったなんて! と私を驚愕させた、絶対に万人向けではない特殊漫画家だが、才能はすごい人。これは近いうち書く。

森恒二『創世のタイガ』

『自殺島』はありがちな話だと思ったが、今連載している『創世のタイガ』は私の好きなサバイバルSFなので。

石黒正数『天国大魔境』

昔から熱心な固定ファンの付いている作家だが、代表作の『それでも町は廻っている』はちょこっと読んだだけだが、ただのほのぼの日常ものと何が違うのかよくわからなくてまったく好きになれなかった。
しかしこれも今連載中の『天国大魔境』はまさに私好みの文明崩壊後のサバイバルSFで、しかもすごくおもしろいので夢中。

藤本タツキ『ファイアパンチ』

『チェンソーマン』が少年ジャンプで大当たりした藤本タツキの前作。なんかタイトルだけ並べると、いかにも頭の悪そうなガキ向けの格闘マンガにしか見えないな(笑)。

まあ私もそういう先入観を持っていたが、『少年ジャンプ+』で連載していた『ファイアパンチ』は、なんと文明崩壊後の地球を舞台にしたハードコアなダーク・ファンタジーだった。(なんかこればっかりだな。すみませんがそういうの好きなんで。その代わりこのジャンルの大半は本当に箸にも棒にもかからないクズなんで珠がひときわ光って見える)

上に引用したページ(死ねないために生きながら永遠の火に焼かれる宿命を背負った主人公)なんかタニス・リーの『闇の公子』シリーズを思い出したし、特に最後の方の宗教っぽい展開は私はジーン・ウルフの『拷問者』シリーズを思い出したと言ったらほめすぎか。(この2つのシリーズは私にとってファンタジーの金字塔なので。おっと、『指輪物語』は「文学」であってただのファンタジーじゃないので別)

『チェンソーマン』は明らかな少年マンガで今いちなんだが、まだちゃんと読んだことはないのでわからない。

乃木坂太郎『幽麗塔』

男性だが大正ロマン耽美系の絵柄でとてもきれいな絵を描く作家。昔好きだった山田章博とかの系統。でも山田章博との違いは、ストーリーテラーとしての素質。
絵だけなら特にすごいとは思わなかったんだが、この作品はミステリとしても一級品で、しかも実はさりげなくゲイマンガにもなっているところに感心した。
私は足の病気のせいでやめちゃったけど、日芸の卒業生だったんだね。

菅原そうた『みんなのトニオちゃん』

彼はマンガ専業ではなく「マルチクリエイター」だそうで、作品数も少ないが、週刊誌『SPA!』で連載していた『みんなのトニオちゃん』はこれだけのために『SPA!』を買うほど好きで好きで、まさに私好みのマンガだった。
これはオールCGのギャグマンガなんだが、CGも初めて触ったような人で、絵は下手だし、キャラはドラえもんの丸パクリだし、マンガはほとんど素人みたいなものだが、発想とアイディアが完全にSFなので、私のジャンルだっただけ。
これは哲学的・科学的な思考実験のマンガで、「もし~だったら?」という世界をギャグマンガにして見せる。(すべて一話読み切り) こういうの死ぬほど好き!

ネットじゃなぜかたまたまその中の一話「五億年ボタン」だけが有名になったが、それ以外も同じぐらい強烈なインパクトのある話。(そんなタイトルじゃなかったが、五億年ボタンでググると違法アップロードだけど読めます)
ただ、YouTubeの動画とか、「実写版」とか見てもぜんぜん感動しない。マンガは下手と書いたが、やっぱり菅原そうたって天才かも。

なのにあれ以外のマンガの話をする人も、菅原そうたについて語る人もいないのは、掲載も漫画誌じゃないし、単行本は電子化もされていない大型本だし、そもそも読んだ人が少ないからだろう。
ちなみに私はもちろん2冊ともピカピカの美本で持っているが、今Amazonで見たら、古本が1万円以上していた。これは大事にしよう。

なのにさっきたまたまマンガをブラウズしていて見つけた『ニューノーマル』というマンガ、マスクをしているのが当たり前になり、そのため鼻と口を見せることがタブーとなったために、逆にエロいと感じられるようになった世界を舞台にしているのだが、これって『トニオちゃん』にそのまんまのエピソードがあったんだよね。(ただし『トニオちゃん』は鼻口以外はすべて丸出し)
『ニューノーマル』はただのラブコメみたいだから興味ないが、そんなマンガが11巻まで出ていて、かなりの人気があるらしいので、かえってショックを受けた。菅原そうたのすごさはもっと宣伝されていい。

エム。『エムさん。』

ここで取り上げる初のエロ漫画?(笑) いや、駕籠真太郎がいたか。これは真性M男性の目を通じて描くSM風俗関係のギャグマンガ。普通に笑えるし、女の子かわいいし、いろいろ勉強になった。

松本ゆうす『星デミタス』

4コマギャグ漫画。4コマでおもしろいのって最近本当にないんだが、これはわりと好き。下ネタが多いんだが、半数以上がホモネタ。作者はゲイ?と思ったらやっぱりそうだった。でもそれだけを売りにしないあたりが好き。(ゲイやトランスジェンダーの4コマは意外と多いし、けっこうレベルも高いんだが、「人とは違う自分」を誇らしげにひけらかす感じが嫌い)
ただこの人の描くキャラクターは全員瞳孔が有蹄類みたいに横に裂けているのはこわい。

荒川弘『百姓貴族』

これも4コマ。作者(男性名だが女性である)は農業高校を出た北海道の酪農家の娘で、その体験をおもしろおかしくマンガにしている。やっぱり馬をやっていると酪農家と似たような体験をするので、私には実感があって楽しめる。馬牧場ならもっと良かったんだけどね。

峰なゆか『アラサーちゃん』

こちらは週刊『SPA!』連載の4コマ。元AV女優の作者がセックスや男女関係について赤裸々な女の本音を言うのが売り。
男からするとグサッとくるようなことばかり描いてるから男受けは極端に悪いし(でも女のバカさも同じように描いてるんでフェミニストとかそういうのではない)、逆に女からは「こんなヤリマンが女代表みたいな顔するな。一般女性もこうだと思われたら困る」とか言う悪評も多いようだが、私はこの人の描くこと(セックス関係のみ。女の見栄とかはぜんぜんピンとこない)にいちいち「そうだ!そうだ!」と思ってしまうんだが、私もヤリマンなんだろうか?(笑)
前の菅原そうたとか、『SPA!』はたまーにものすごく攻めたマンガ(よってマンガ専門誌には載らない)を載せるのだが、これもそうだと思った。女性の心理を知りたい男性はとても参考になると思います。

二宮正明『ガンニバル』

まだ最初のほうしか読んでいないのだが、人肉食をテーマにした「田舎ホラー」。閉鎖的な秘密だらけの田舎に移り住んだ都会人が恐怖を味わうというあれ。あまりにもよくあるパターンの話で、あまりにもゴミだらけのジャンルだけに、こういうしっかりした話はかえって目立って、これは絶対おもしろくなると思う。同じ作者の『鳥葬のバベル』もけっこうおもしろかったような記憶がある。

阿部共実『空が灰色だから』

思春期の女の子のヒリヒリするような内面と「心がザワザワする」エピソードを並べた短編集。私にはすごいわかるのもあれば、良さがぜんぜんわからないのもあるって感じ。ただここに入れたのは、単行本には収録されてなかったが「大好きが虫はタダシくんの」の衝撃があったから。
高校に入ってから何かの病気を発症したらしい主人公が、町で中学時代の親友とばったり出会うのだが、トンチンカンな返答しかできずに怒らせてしまい、別れた後でひとり涙ぐむというだけの話だが、本当にかわいそうなので。
自閉症なんだろうか、反響言語(エコラリア)がひどいのと、なんらかの言語障害があるみたいだけど、なんの病気なんだろうな。こういう目に見えない、口で伝えられない障害は本当にかわいそう。

山口譲司『江戸川乱歩異人館』『村祀り』

『村祀り』はよくある「田舎伝奇ホラー」で、それを異端の学者が解明するというどこかで聞いたような設定。安っぽいエロ劇画タッチの表紙といい、どうせただのエログロだろうとまったく期待しないでタダだったから読み始めたんだが、意外とちゃんとした話でおもしろかったので驚いた。
同じ作者の『江戸川乱歩異人館』もその名の通り江戸川乱歩の漫画化なのだが、乱歩の雰囲気はよく出ていた。まあ丸尾末広が同じように乱歩を描いてるし、絵はあっちのほうが圧倒的にうまいけれども、こちらは表紙もすべてだまし絵になっているなど凝っている。

内海八重『骨が腐るまで』

小学生のとき人を殺してしまった5人の男女が、毎年死体を掘り起こして確認していたんだが、ある年いきなり死体が消え、正体不明の脅迫者に脅迫されるようになるという話。これもつまんなそうと思ったのだが、意外とおもしろかった、という以外何も覚えてないんだが。

木々津克久『フランケン・ふらん』

人造人間の天才外科医ふらんがさまざまな患者や事件に対処する話。腕は天才なんだけども、何しろ人間じゃないから倫理観とか人道的配慮とかは持ち合わせていない。ふらんの仲間も化け物同然の合成人間ばかり。だからまずハッピーエンドにはならないのだが、そこはふらんなりの筋は通している。
グロいけど、ドライでクールな作風のせいでそんなにいやな感じにはならないし、手塚治虫のブラックジャックのヒューマニズムの皮肉な裏返しみたいな感じが好き。

佐々大河(ささ たいが)『ふしぎの国のバード』

明治初期に横浜から北海道まで旅したイギリス人女性冒険家イザベラ・バードの著書『日本奥地紀行』が原作。原作のことはもちろん知っているが読んだことはない。ていうか、19世紀末だと、日本旅行だけでも大変な「冒険」だったんだなあと感慨。
それはいいんだけど、やっぱり自分のひい爺さんひい婆さんが未開な部族として描かれていたら屈辱だし、逆に変な「日本ヨイショ」ものだったら(なんか日本でやけに人気があるところを見ると、その恐れもあった)それはそれでいやだし、そもそも日本にぜんぜん興味がないので食指をそそられなかった。

ところが1巻をお試しで読んで驚いた。どっちでもないわ。もちろん当時の日本はすごく未開な面もあるし、実際に困難な冒険だったみたいだけど、舞台が日本ということを差し引いても単純に紀行文としておもしろい。
主人公のイザベラも女だてらに冒険家という印象じゃなく、ごく普通の知的な女性だし(それでも当時としてはすごい勇気と行動力が必要だったと思う)、お供(通訳)の伊藤鶴吉という謎めいた青年は、フィクションじゃないかと思うほど興味深い。(もちろんノンフィクションなので実在の人物)
こういうのはもちろん本で読んでもいいのだが、当時の日本の様子とか、自分が知らない想像で補えないものを絵で見られるマンガはお得。(逆に中世ヨーロッパとかは、私は逆にマンガの嘘が見えちゃうので逆効果) これは誰にでもお勧めできる良書である。

佐野菜見『ミギとダリ』

ミギとダリというのは金髪美少年の一卵性双生児の名前。孤児の二人は双生児であることを隠して一人の少年としてある夫婦の養子になる。しかし彼らの真の目的はこの町で変死した母親(彼らは殺されたと信じている)の死の真相を探ることだった。
というとサスペンス風だがノリはギャグ。まず二人で一人のふりをすること自体がドタバタギャグだし、この世界自体がなんかすごい変でおかしい。場所は神戸なんだが、なんで金髪なのか、なんでみんな白人風の容貌でアメリカ人みたいなしゃべり方やジェスチャーやライフスタイルなのかもわからない、この世のどこにも存在しない世界。
まだ連載中だし、私も途中までしか読んでないが、どうなるのか興味津々のマンガ。

灰原薬(はいばら やく)『応天の門』

平安京を舞台に平安朝日本のシャーロック・ホームズとワトソン、在原業平と菅原道真がいろいろな事件の謎に挑む。
実はこれ、私が夢枕獏原作、岡野玲子漫画の『陰陽師』に期待したものなんだよね。『陰陽師』も最初のほうはそういう感じだったし、夢枕獏の原作もそうだったのに、漫画家の趣味なのか、途中から宗教がかった精神世界ものになってしまってがっかりだった。
その点、こちらはまっとうな推理および宮廷の権謀術数もので、業平と道真も『陰陽師』の安倍晴明と源博雅より人間らしくてかっこいい。また『陰陽師』はあくまで妖怪変化ありきの世界だったが、こちらはそういうのはすべて人間の仕業だったという落ちが付く。
こちらも女性漫画家なんだが、ここまで違うというのがおもしろいが、マンガとしてはこっちのほうが圧倒的におもしろい。

筒井哲也『予告犯』ほか

反社系とでも言ったらいいのか、『闇金ウシジマくん』みたいな社会の底辺やアンダーグラウンドで生きる人たちを描かせると本当にうまい漫画家。ただし彼の主人公たちは犯罪者だけど確信犯で大義がある。世のため人のためにやむなく犯罪に手を染めているところが違う。かといって、これもよくある復讐屋とかじゃなく、頭脳犯というあたりもかっこいい。
だからこの手のマンガとしてはスカッとするし後味もいい。どうしたってハッピーエンドにはならないけどね。

櫻井稔文『絶望の犯島』『バスタブに乗った兄弟~地球水没記』

これも実は秘蔵のマンガで、本当はこんなところで名前を出したくなかったんだけど、うっかり忘れないために。
この作者がどういう人か知らないが、どこからどう見てもドカタ向けエロ漫画誌の絵。上の絵を見ただけで雰囲気はわかると思う。
おまけに設定も『絶望の犯島』なんか、社長の妻と娘の両方と関係しちゃったスケコマシのボディガードが、罰として性転換させられてエロい美女に変身させられ、パンツ一丁のセックスに飢えたケダモノのような性犯罪者100人を集めた孤島に送り込まれるという、いかにもゲスなエロ漫画としか思えない発端から、なんと驚いたことに涙、涙の感動の結末に‥‥
『バスタブに乗った兄弟』も主人公のキモデブ引きこもりニートの気持ち悪さにさえ耐えられれば、終末SFとしてはすばらしい。
とりあえずどっちも必ずリビュー書くので、あとはまたのお楽しみ。

気に入らなかった作品

以下は読んでみたけど気に入らなかったマンガです。こっちのほうが長いのは、どうせ二度と書くつもりがないから。
もちろん本当は気に入らない方がはるかに多くて山ほどあるんだけど、そういうのはお試しで最初の1話だけ読んでやめるので、批評を書くまで至らないし記憶にも残らない。つまりここに書いたのはそれでもまだいくらか見所があったというか、いちおう読んでみようと思ったということです。

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』

はい、毎度おなじみ世間が熱中するものを嫌うアマノジャクだと思われそうだが、私はこれでも他ジャンルと違ってマンガに関してはかなり許容範囲が広い(要求が低いとも言える)のに、これはマジでつまんなくて読んでる途中で挫折したので。
なんかもうどこかで百万べんぐらい見た感じのストーリーだし、キャラクターにはまったく感情移入できなくて好きなキャラがいないし、何よりこの少年誌臭さが無理。前にも今の少年マンガは昔の幼年マンガだと書いたが、さすがに子供っぽすぎる
藤田和日郎も少年マンガっぽさが苦手と書いたが、あちらは作者が大人すぎる(登場人物が素直で純朴な理想的大人と子供ばかり)のが苦手だったが、こっちはすべてが子供っぽい。

どこかでこの作品のファン層は普通ならマンガの主たる購買層である中高生が少なくて、小学生とおばさんに人気と読んだが、妙に納得できる。子供なら喜ぶが、ある程度マンガを読んだ人なら退屈だよね。
あと、これもあとから作者が女性だと知ってやっぱり!と思った。どうしても絵柄が好きになれないと思っていたが、そのせいだったか。あと、シリアスな話の中にコミカルなキャラを出したり、ギャグをはさんだりするのも女性作者に多い手段だが私は大嫌い。

京極夏彦(原作)志水アキ(画)の一連の作品

京極夏彦ってホラー作家としてよく名前を聞くし、前々から興味はあったんだけど、やたら分厚いしもう日本の小説が読めなくなってしまったので、マンガならいいかと思って何冊か読んだ。
ただ感想としてはホラーとしてもミステリとしても何の新鮮味もなくて、やっぱり原作買わないでよかったと思った。
少女マンガ風の絵のせいか、キャラクターにまったく魅力を覚えなかったのも痛い。天才気取りの主人公の語る蘊蓄もいかにも付け焼き刃で浅いし、そもそもどのキャラもけっこう痛くて、もともとマンガとしか。やっぱりジャパニーズ・ホラーってすべてダメだわ、私

Gino0808『雪女と蟹を食う』

このヘンテコなタイトルと、自殺を思い立った男がカニを食ってから死のうと思うのだが、その金がないので金持ちそうな人妻を襲ったら、彼女も自殺志願者でなぜかいっしょに北海道までカニを食いに行くことになる、という突拍子もない出だしに釣られて、うっかり一気読みしてしまった。
途中はつまらなくても最後になんかどんでん返しがあるものと思っていたが、あったけど私の思ってたのと違った。これはあれだ、いかにも日本らしい私小説風メロドラマ、たぶん作者は太宰かなんかのつもり。要するに私のいちばん嫌いなやつだった!

当然二人は途中でいい感じになるのだが、女は最後まで心を許さず本心を明かさない。それで最後にわかるのは、彼女が死のうと思ったのは夫に捨てられたからではなく、売れない小説家の夫に作家として大成してほしいから(だと思ったが消してしまったので詳細は忘れた)。つまり夫に対する愛ゆえ。
一方夫が彼女から離れて浮気しているのは、自分のためなら死も辞さない妻が怖くなったから。そういうディープな腐れ縁夫婦の間に割り込んだ男はとんだ道化だと思うのだが、なぜかそれでも彼は彼女と心中を図る。
それで彼女だけが死んだと見せかけて、最後はやっぱり生きてました、夫のことはあきらめ、生まれ変わって彼と幸せになりますという、ずっこけそうな腰砕けの結末。

私小説的で青臭くてたまらないというほかにも、この女が徹頭徹尾男にとって都合のいい女だってところもたまらない。私が男だったらこんなキモいメンヘラ女につきまとわれたらゾッとするんだが、こういう誰にでもしなだれかかって股開くタイプの女好きなのかね、男って
元は教師だった夫のところへの教え子の押しかけ婚だというのも気持ち悪い(と、教師嫌いの私は思う)。教え子と結婚する教師なんてロリコンしかいないんだから浮気するに決まってるじゃん。妻は年を取るけど、相手は永遠に10代なんだし。
そういえば私が大嫌いな女性キャラの代表、『めぞん一刻』のヒロインも教師と結婚したんだった。なんか共通点あるよね。それで男はこういう女が大好きらしい。おえっ!
絵もグニャグニャしてとろけそうで気持ちが悪い。こういうのを色っぽいと思う男って‥‥(以下、えんえんと続くのでカット)