★★【映画評】スクリーム(1996)Scream【ウェス・クレイヴン監督追悼】

scream5(ウェス・クレイヴン追悼のために書き始めたんだが、結果は死者に鞭打ってるだけという噂も。それでもあのシーンはホラー史上に残る名場面ですけどね。とりあえずリビュー自体はホラー論としてもおもしろいので★付き)

フレディーとかジェイソンとか、別に怖くもないこけおどしの殺人鬼はほんとどうでもいいんで、このキチガイ二人を生かしたままにして、シリーズ化したら、『スクリーム』シリーズはそれこそ『サイコ』にも匹敵する名シリーズになったかもしれないのに! とにかくこの二人はスクリーンに登場したサイコ野郎としても、アンソニー・パーキンズに匹敵する逸材。

CSの夏休みのホラー企画で、『スクリーム』全4作一挙放映というのを録画してあったんだが、なんか今さらという感じであまり見る気もせずに放っておいた。だが、8月30日にクレイヴンが亡くなったというのを聞いて、やっぱり見なきゃと4作を一気見して、いろいろと思うこともあったので書いておくことにする。
これまで私が見たのは1だけで、かなり気に入ってリビューを書いた記憶はあるのだが、今探してもどうしてもどこにも見つからない。これがあるからあっちこっちに書き散らしておくのはよくないんだ。早くぜんぶブログにまとめたいんだが‥‥
そんなわけで、最初は簡単な弔辞だけにしようと思ってたんだが、せめて1作目ぐらいはちゃんとしたリビューを書いてあげる気になった。しかし、あんなに長の年月愛し続けたクリストファー・リーが死んだというのに弔辞なんて書いてないのに、なんでクレイヴンなんか‥‥。
なんというか、すばらしい作品や人はすばらしいとしか言いようがなくて、あまりおもしろいものが書けないんだよね。どうせみんなほめるところはいっしょだし。その意味、こき下ろしリビューの方が書いてても読んでもおもしろいのは困ったもんだ。

というわけでまずは監督のウェス・クレイヴン(ウェ・クレイヴンだと思うがね。ウェズリーだから)について簡単に。
『13日の金曜日』のショーン・S・カニンガムに見いだされてこの道に入った人なので、ほぼ『13金』に同じB級監督
って、終わっちゃったよ(笑)。いくらなんでも簡単すぎる!

ウェス・クレイヴンフィルモグラフィー(監督作のみ Allcinemaより引用)

スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション (2011) 製作/監督
ウェス・クレイヴンズ ザ・リッパー (2010)<未> 監督/脚本/製作
パリ、ジュテーム (2006) 監督/出演/脚本
パニック・フライト (2005)<未> 監督
ウェス・クレイヴン’s カースド (2005) 監督
スクリーム3 (2000) 監督
ミュージック・オブ・ハート (1999) 監督
スクリーム2 (1997) 監督
スクリーム (1996) 監督
ヴァンパイア・イン・ブルックリン (1995) 監督
エルム街の悪夢/ザ・リアルナイトメア (1994)<未> 監督/出演/製作総指揮/脚本
壁の中に誰かがいる (1991) 製作総指揮/監督/脚本
キラー・ビジョン (1990)<TVM> 監督/脚本/製作総指揮
ショッカー (1989) 脚本/製作総指揮/監督
ゾンビ伝説 (1988) 監督
新トワイライト・ゾーン (1986)<TV> 監督
デッドリー・フレンド (1986) 監督
チルド/甦る冷凍人間 (1985)<TVM> 監督
サランドラ II (1984)<未> 監督/脚本
ジェシカ/超次元からの侵略 (1984)<未> 監督
エルム街の悪夢 (1984) 監督/脚本
怪人スワンプ・シング/影のヒーロー (1982)<未> 脚本/監督
インキュバス・死霊の祝福 (1981)<未> 脚本/監督
ウェス・クレーブンの 戦慄の夏 (1978)<TVM> 監督
サランドラ (1977) 監督/脚本
鮮血の美学 (1972) 脚本/監督

しかし今フィルモグラフィーを見てたんだが、『サランドラ』、『エルム街の悪夢』、『スクリーム』と3本も大ヒット作を撮ったんだから、B級ホラー監督としてはA級と認めてあげるべきなんだろうね。(『サランドラ』は大というほどでもないか)

『エルム街の悪夢』は公開当時に書いたリビューが見つかったが、やっぱり『13金』やなんかを引き合いに出してクソミソにけなしてる。絵的にはけっこうおもしろかったので、そんな鬼のようにけなすほどでもないと思うけどね。いちおうここでもそれはほめてるけど。

しかし、まるで救いがないかというと、ヒロインが底なしの浴槽に引きずり込まれたり、受話器がベローンと舌出してなめたり、死んだ少女の口からムカデがズリズリ出てきたり、悪夢にうなされた少女が部屋中(天井まで。わりと使い古されたトリックだが、いつ見てもおもしろい)這いずりまわって血びたしになるシー ンなんかは、定石ながらそれなりに好きなので、どうせなら現実のクサい芝居はなしにして、グログロ映画にしてしまえば良かった。(『エルム街の悪夢』公開 当時の日記から)

何がいやって、やっぱりフレディーとかジェイソンみたいな陳腐で下品で低俗な殺人鬼が嫌いだったんだな。その気持ちはわかるけど。

クレイヴンの映画で私がわりと気に入ってるのは、まったくヒットもしなかったし無名作品だが、『壁の中に誰かがいる』(1991) (The People Under the Stairs)という映画。なぜかというと、当時狂っていた『ツイン・ピークス』のハーリー夫妻、エヴェレット・マッギルとウェンディ・ロビーがここでも キチガイ夫婦に扮して(『ツイン・ピークス』では夫の方はまともだったんだが、ここではウェンディとタメを張るキチガイ)、サイコ演技を堪能させてくれたから、という個人的理由なんだが(笑)。
あと、主人公も、いつものようなおつむの軽い金持ちの白人のティーネイジャーじゃなくて、貧しい黒人の子供なのもけなげでかわいくて良かった。ロメロは別として、意外とないよね、黒人が主演のホラーって。

ここから『スクリーム』のリビュー

Director:

Wes Craven

公開時に見て気に入ったのは、この映画がメタ・ホラーになってると思ったこと。つまり映画おたくのキャラクターが出てきて、ホラー映画の定石やなんかについてペラペラしゃべるんだよね。セックスすると殺されるとか、童貞は生き残るとか、“I’ll be right back.”(すぐ戻る)と言って出て行ったキャラは必ず殺されるとか。
あと殺人鬼自体も「おまえの好きなホラームービーは?」とか言わせたがったり、ヒロインも有名ホラー映画の題名を矢継ぎ早に口走ったり(ちゃんと自作にも言及させる)、なんかそういう自己言及というか、メタ映画っぽさがおもしろいと思った。
ただ、当時はそういうのが初めてだったせいか新鮮だったけど、いま見るとあくまで「言わせてみた」だけだなあ。ホラー映画の知識を活かして逃げのびるわけでもないし、そういう定石を逆手に取ったどんでん返しがあるわけでもない。あくまでもすべてが定石の範囲内におさまってる。まあそこまでやったらクレイヴンじゃないけどね(笑)。
ていうか、ヘボ・ホラーの定石を熱心に勉強して、そのヘボさを凝縮した感じ。私はデ・パルマなんかにもそれを感じていたんだが、デ・パルマなんかとくらべたら罰が当たるっていうか、こういうの見ちゃうとデ・パルマってホラー監督としても超A級だったなーと思わせるぐらい。

キャラクターの話

とりあえず、いつも通りの頭と尻の軽いアメリカの金持ちのガキがバッサバッサと殺される映画なんだが、通常、こういうのはまるで感情移入ができなくて、見ていてハラハラどころか、「どうでもいいから早く死んでくれないかな」としか思わない私としては、退屈はしてもそれほど死んでほしいとは思わなかったというだけでも特筆に値するだろう。キャラが立ってるというか、少なくともキャラの見分けが付くだけでも立派。とりあえず、これが主人公の仲良し5人組。

左からビリー、シドニー、スチュアート、テイタム、ランディー

左からビリー、シドニー、スチュアート、テイタム、ランディー

シドニーネーヴ・キャンベル) は典型的なホラーヒロインで、清く正しくしっかりもので、美しいってほどでもないが、好感の持てる感じのブルネットの高校生。そういや、「ブロンドは殺される」っていうのを定石に加えておいてもいい。こういうヒロインって必ずブルネットだよね。おとなしそうなんだけど、芯は強くて頑張り屋さんってところ も。
ただ、彼女は1年前に母親がレイプされて殺されたことにトラウマを持っていて、まだその痛手から回復していない。

こういうヒロインの恋人は、定石だとクォーターバック・タイプの図体のでかい体育系ボンクラになるのが普通なんだが、シドニーの恋人のビリースキート・ウールリッチ)はそうじゃなかったので、「あれ?」と思ったらあれだったというのは後述。(2ではちゃんとそういうタイプのボーイフレンドを見つけるが、ボンクラなのであえなく殺される)
とりあえず、不良っぽいけど繊細なハートの持ち主って感じのヒーローで、ホラーでなくて青春映画ならよくあるタイプ。

シドニーの友達のテイタムローズ・マッゴーワン)は典型的な殺され役タイプのブロンド美人。その恋人のスチュアートマシュー・リラード)は遊び人風の、ちょっと軽いひょうきん者。
ひとりだけ相手のいないランディージェイミー・ケネディ)は映画おたく(英語で言うとgeek)で、これもステレオタイプの卑屈でもてない童貞男。

さらにこの高校生たちにからむ大人が、テイタムの兄の保安官デューイデヴィッド・アークエット)。警官にしてはちょっと気弱で頼りない代わりに優しくていい人。
TVレポーターのゲイル・ウェザーズコートニー・コックス)は、向こうのレポーターってみんなこうなのかと思わせるぐらいステレオタイプの、美人だが冷血で出世と野心のためならなんでもやる典型的ビッチ、と思わせて実はいい人、ってほどでもないが、それなりに普通の人。

とまあ、全員が(ちょっと毛色が違うビリーを除いて)いかにもこの手のキャラのステレオタイプなんだが、(ホラーってものすごい保守的ってのも付け加えておく)、それにしても、それぞれの役者が見事に役にハマっていることにけっこう感動した。
『スクリーム3』ではこの事件を元にした映画を撮ってるスタジオが惨劇の現場になるんだが、元の役者のそっくりさんが俳優役で出てくるものの、なんかみんな「これじゃない」感があって、あらためて1のキャスティングは完璧だったと思った。ちょい役だが、シドニーのお父さんとか、高校の校長先生とかも、品格と味があってすごく良かった。

スキート・ウールリッチの魅力について

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スキート・ウールリッチの奇跡の一枚

でもって、こんなの長々引っ張っても意味ないから単刀直入に言っちゃうと、これはスキート・ウールリッチのための映画である

ドイツ系なのか、ウルリッヒ(貴族とか金持ちの意味)というせっかくかっこいい姓が英語読みだとなんか間抜け。血統を調べたら、ドイツとイングランドがメインで、それにスコットランドとアイルランドがちょっと入って、フランス人の血が32分の1だって(笑)。ちょうどいい感じの配合だな。好きな顔のはずだ。
しかしスキートってどういう名前なんだろう?  響きはかっこいいが、絶対モスキート(蚊)ってあだ名付けられるだろうなと思ったら、本当にそう呼ばれていて笑った。

これまた単刀直入にネタバレしてしまうと、犯人はビリーとスチュアートの二人組なのだが、友達や恋人を平気で殺してまわる彼らの動機はと言うと、単におもしろそうだからという動機なき殺人というあたりが、アメリカの高校でしょっちゅう起きるマス・マーダー(や最近日本でも立て続けにあった未成年の動機なき殺人)を思わせてリアルだ。ただ、意外な犯人と思わせたかったんだろうが、この二人は最初から思い切り挙動不審でイカレてるので、あんまり驚きはない。

さらにもうちょっと深読みしてあげると、動機はないわけでもなくて、マザコン気味のビリーは父親がシドニーの母親と浮気したのが原因で母親が出て行ったので、シドニー父娘を恨んでおり、その恨みをこじらせた結果らしい。
一方のスチュアートだが、見かけはいきがっているが、実はビリーに引きずられて狂気にはまっただけの、いわゆるFolie à deuxの犠牲者と思える。(フォリアドゥ=二人狂い=感応精神病。詳しくはWikipediaでも見てください)

というような理屈はどうあれ、この二人の役者の見事な狂いっぷり、特に正体を明かしてからの渾身のキチガイ演技は、ホラー史に残ると言っても過言ではない。私がホラー名場面集を選ぶとしたら、スキートが壮絶な笑みを浮かべて、自分の血まみれの指をねっとりとしゃぶるシーンや、血まみれナイフをぺろりとなめるシーンはベスト5に入れたいぐらいだ。これこれ、上のこれよ! ちょっとこれだけ美しい(と同時に薄気味悪くてキモい)殺人鬼『サイコ』のアンソニー・パーキンズ以来かも!(どっちもマザコンか)

という口調でおわかりの通り、好きっ! 無条件に好き。最初出てきたときからけっこういい男じゃないと思ってたが、彼が殺人鬼と知ってからはもう止まらない。おかげで「続編見たいからどうぞ死なないで」と祈ってたぐらい。あっさり死んじゃいますけどね。こういう保守的なホラーでは、悪い奴は絶対死なないとだめだから。
好きすぎるのでこの場面のビデオクリップも貼っておこう。(怖い場面や人が死ぬ場面は出ませんからご安心を。シドニーをネチネチといたぶる男二人の顔が怖いだけで)

キチガイという点ではマシュー・リラードも負けてはいない。こっちは目と目が離れたお魚顔で、ただでさえ気持ち悪い顔なのに、それ以上気持ち悪くなれるなんてすごいと思える変顔演技。って、けなしてるわけじゃなくてすごいと言ってるの。狂ってるという点ではスキート以上だもんね。この人にそっくりなイギリス人の俳優がいたはずなんだが、思い出せない。

この二人が(偽装工作のためになんだが)、痛い痛いとわめきあい、泣き笑いしながら、お互い同士グサグサ刺し合いを始めた時には、ヒロインは絶体絶命という場面なのに、もうどうでもよくなって忘れ去られてましたからね。(おかげで逃げられた) なんかもう前半のマスクの殺しはいらないから、二人で狂ってるところをずっと見てたかった。
フレディーとかジェイソンとか、別に怖くもないこけおどしの殺人鬼はほんとどうでもいいんで、このキチガイ二人を生かしたままにして、シリーズ化したら、『スクリーム』シリーズはそれこそ『サイコ』にも匹敵する名シリーズになったかもしれないのに! とにかくこの二人はスクリーンに登場したサイコ野郎としても、アンソニー・パーキンズに匹敵する逸材。

だから、その後どんな映画に出てるんだろうと検索したら、なんかあまりぱっとしないっていうか、そもそも主演作も少ない。そんなところだろうとは思ってましたけどね。でもスキートなんてあれだけハンサムなのに! 年取ってもますますハンサムになってるし! マシュー・リラードだって、ああいう性格俳優は貴重なのに!

しかし、スキートの写真をあさっていて気付いたが、この人わりとジョニー・デップに似ているというか、もしかしてそっくりかも。ジョニー・デップを上品にしてハンサムにしたみたい。(ジョニー・デップも若くてイカレてた頃はそれなりに好きでした)
そこで思い出すのは、『エルム街の悪夢』はジョニー・デップのデビュー作だったってこと。ははあ、監督の好みか? それにしてもジョニー・デップが単なる殺され役からあそこまで出世したのに、それよりハンサムで演技力だってぜんぜんひけをとらないスキートがお茶引いてるのは許せないわ!

やっぱりジョニー・デップに似ている

やっぱりジョニー・デップに似ている。若い頃だけで、それもジョニー・デップがいちばんよく撮れたときにだけど。

とりあえず、『タッチ』(1996)という映画は見なくちゃ。ヒゲを生やしてオールバックにするとますますジョニー・デップに似てていやなんだけど、監督がポール・シュレイダーだし、相手役がブリジット・フォンダとクリストファー・ウォーケンだし。(ブリジットはかつての私のレズ恋人のひとり。とにかくかわいいので大好きだった)
あと、これはテレビドラマだけど『ジェリコ~閉ざされた街~』(2006-2008)というドラマで主演しているスキートが死ぬほど渋くてかっこいいんだが、不人気で打ち切りになったというから、ドラマ自体はつまらないんだろうな。クソッ。

『ジェリコ』の大人になったスキート。何これ? かっこいいじゃない! 私の好みのタイプだから、わりと変な顔になるかと思ったらハンサムなんでびっくり。

『ジェリコ』の大人になったスキート。何これ?! かっこいいじゃない! 私の好みのタイプだから、わりと変な顔になるかと思ったらハンサムなんでびっくり。

キャストの話

スキートには惚れたが、前述のように役者はみんないい。女性陣は、冒頭に意味もなく出てきて殺される(しかしネームバリューか、完全に一人芝居の出演時間はかなり長い)ドリュー・バリモアを初めとしてみんな美人だし、いいおばさんのゲイルも含めてめちゃくちゃスタイル良くて目の保養になるし、デヴィッド・アークエットは目と目がくっつきすぎのミサワ顔だが、個人的にアークエット・ファミリーが好きなので彼も愛しちゃう。
ところで、1ではツンデレのゲイルに振り回されていたデューイは、回を重ねるごとに彼女との仲を深め、最後は結婚する。この手のホラーで脇役が4作目まで生き残るのはめずらしいし(特にゲイルの役は普通なら嫌われ者だし)、おまけに殺伐とした話の中でなぜかほのぼのホームドラマやってるのが不思議な感じがしていたが、この二人、実生活でも結婚してたのね。うっそー! いや、ほんとに何もかも不釣り合いなカップルなんで。でもなんか微笑ましい。

勝手にホームドラマをやっているデューイとゲイル

勝手にホームドラマをやっているデューイとゲイル

続編について

というわけで、初代『スクリーム』はまあそれなりに見られる映画である。それでも私の厳しい基準(特にホラーとSF映画に対しては容赦ない)に照らすとダメダメだけどね。
しかし1はまだいい。2以降は私は初めて見たのだが、ほんとに開いた口がふさがらないような、箸にも棒にもかからない駄作揃い。だいたいホラーの続編なんて駄作に決まってるが、普通は2以降は安い予算で無名監督使ってコケるパターンが多いのに、この4作は全部クレイヴン自身が監督してるのにこれかよ? これはちょっと言い訳できませんね。
いい続編はオリジナルを踏襲するものだが、オリジナルの悪いところだけ踏襲してどうする!

殺人鬼がせこい

まずどの映画も殺人鬼が弱っちすぎる。1はただの高校生だからしょうがないけど、続編の殺人鬼たちも同様。やっぱりホラーの主役は殺人鬼なんだから、めちゃくちゃ怖いとか、めちゃくちゃ強いとか、めちゃくちゃ醜いとか、めちゃくちゃ狂ってるとかでなくちゃ! その意味、この人たちってただの一般人だから、殺しに関してはただの素人なんだよね。だから高校生の女の子と(犯人はナイフで、女の子は素手で)格闘しても負かされて逃げられる始末。本気で戦えばシドニーのほうが強いんじゃ?という場面が何度もあった。

次 に殺しが単調でつまらん。毎回、毎回、普通のナイフでグサグサ刺すだけですからね。被害者は拳銃持ってることが多いのに、どう考えても犯人の方が弱い。まあ、そこは都合良く、防弾チョッキを着てたり、安全装置がかかったままだったりするんですけどね。私は基本的に銃よりナイフのほうが好きなのに、ナイフの美学を何もわ かってないなと思った。
最近のスプラッタを見慣れてしまった目には、刺すのも見るからにお芝居で、本当に刺さってる感じがぜんぜんしないし、血がドバドバ出るわけでもなく、刺されても服に血がしみて、口からたらーりと血が流れる程度でビジュアルもつまらん。それこそ高校の映研レベル。さすがに4になると内臓もちらっと見せたけどね。べつに見えたからうれしいようなもんでもないし。

そもそもこの手のホラーは殺人鬼の造形がすべてと言ってもいい。その意味ではフレ ディーだって個性的ではあった。なのにこの人って、どこでも買える(という設定の)安っぽいハロウィンマスクかぶってるだけ。まあ、それを言えばジェイソンだってホッケーマスクかぶってるだけだし、そんなところまで師匠に倣わなくても。(デザインの元はムンクの『叫び』。Screamという題もここから来ている)
だいたいこの人の名前、なんていうか知ってる? ジェイソンやフレディーなら知らない人はいないのに。それだけでも影が薄いのがわかると思う。(もちろんビリーとスチュアートは1で死ぬので、中身は変わるのだが)
答:Ghostface。知らねーよ! 作中ではシドニーの住んでいた町の名を取ってWoodsboro Killerとも呼ばれていた。それじゃフレディーはElm Killerだな。なんかぜんぜんこわくない(笑)。

こうやって見るとネーヴ・キャンベルもかわいいんだが

こうやって見るとネーヴ・キャンベルもかわいいんだが

シリアル・キラーならぬシリアル・ヴィクティム

この手のホラー・シリーズというのは、『サイコ』、『エクソシスト』、『13金』、『エルム街』、『ハロウィン』、『SAW』、(めんどくさいので以下略) どれをとっても共通した主人公は犯人のほうであり(中身が変わることはよくある)、被害者は毎回変わるのが普通。ところが『スクリーム』は共通した主人公は被害者のシドニーで、犯人が毎回変わるという、きわめて異例と言ってもいい構成になっている。
被害者が主人公になれない理由はいろいろ考えられる。早い話がホラーファンは人が殺されるのを見たいので、どうしても犯人のほうに重点が置かれ、被害者は十把一絡げの肉に過ぎないとか。

だいたい殺人犯はキチガイだからしつこく人を殺し続けるのはわかるが、複数の殺人犯にしつこく狙われ続ける被害者というのはあまり想像できない。常識的に考えて、シリアルキラーはいてもシリアル被害者はいないよね、普通。
おまけに(犯人の顔を見てしまったとかいうのでないかぎり)同じ女の子が毎回別の犯人に命を狙われるという状況は、シナリオ考える人も苦労するだろう。

だからこれはホラー・シリーズとしてはきわめて異例の画期的設定なんだけど、だからおもしろいかと言われればちょっと‥‥
そもそもヒロインなんていい子に決まっててキャラクターもおもしろくないし、誰だって個性的な殺人犯のほうが見たいよね。

殺人鬼がせこければ、ヒロインもしょぼい

そんなわけで『スクリーム』を4本も立て続けに見て思ったのは、これだけどこへ行っても執拗に命を狙われ続けても、4作目まで生き延びるぐらいなら、どう見てもか弱いはずの被害者のほうが犯人よりたくましい(笑)ことになってしまって、ちっともホラーにならないという理由をあげたいね。
これでパロディーが書けそうだ。『スクリーム17』とかタイトルが出て、いつものように女の子が夜ひとりでいるところを襲われるんだけど、一瞬で退治されちゃって、何も知らないシドニーと仲間たちは最後まで平和に青春映画してるというやつ。

とりあえずヒロインが固定されている、でもあらゆる殺人鬼が彼女を標的に襲ってくるとなれば、そのヒロインはどんなにか特別な女性かと思われるはず。ところが実際は上に書いたような、好感は持てるが、どこにでもいそうなgirl next doorなんだよね。
つまり、キャラクター的にも弱いし、キャスト的にも魅力に欠ける。1作だけなら十分なヒロインだったけど、シリーズ化されると中身のなさがバレちゃう。

まあ、いちおう2以降は、シドニーが変に有名になってしまったので、有名税として変な奴につきまとわれるとか、嫉妬に駆られた親戚に狙われるとか、理屈はつけているけど、なんか苦しい。
ていうか、この被害者を固定して殺人鬼を毎回殺すっていう設定自体が間違いなんだよ! ビリーとスチュアートを生かしておいて、最後までこの二人があっちこっちで人殺す話にすれば最高だったのに!

ならば犯人捜しの推理劇になるかというと

こういう顔の見えない殺人鬼は、犯人捜しのミステリタッチになりそうなものだが、制作者がアホすぎて何も考えてないので、推理する余地もないまま終わる。その犯人も、1こそ役者の良さで納得させたものの、後の方はもう苦しまぎれに考えた感が丸見えのおざなりな犯人像に。

血も凍るほど寒いメタ・ホラー

メタ・ホラーの部分はこの作品の売りというのがわかってるらしく、どの続編でも入ってるのだが、いきがったおたくが知識を披露したがるという元の寒さが増幅されて酷寒の世界に。4では作中人物に映画そのもの(『スクリーム』の劇中劇である『スタブ』をだが)をけなさせるという思い切った手段に出た、つもりだが、すべりまくってた。なんか持ちネタがこれしかないお笑い芸人が、バカにされながらもやらないわけにはいかないって感じ。

持ちネタと言えば、クレイヴンがホラーの動かせない定石だと思っているらしいのが、「ラスト、死んだはずの犯人がいきなり起き上がってヒロインに襲いかかる」というやつ。
それが効くのは最初の1本だけだって! それもラストに1回やれば十分。なのにこのシリーズでは、犯人ばかりか死んだはずの被害者もみんな何度も起き上がって襲いかかってくるので、ゾンビ映画かと思えてくる。首でもちょん切らないかぎり安心できないね。
しかし、ヒロインのシドニーはもうさんざんそれを見てきているはずなのに、ちっとも学習しないのはやっぱり頭が悪いのか。犯人が気を失って倒れているという場面は何度もあったのだが、とどめをさそうとするどころか、その場でおろおろしている始末。だからー、そういうチャンスにしっかりとどめをささないから甘く見られていつまでも狙われるんだよ。

ハラハラもしない

音で脅かすといった稚拙な手段も含めて、心理的なサスペンスやスリラー要素が皆無。こういう映画はいつ殺されるか、犯人がどこに潜んでいるかと、ドキドキハラハラさせるものなのに、被害者も犯人もギャーギャー言ってドタバタ走り回って、いろんなもの壊してまわるばかりで、そういうスリルはゼロ。

ああ、追悼のつもりだったのに、なんか死者に鞭打つようなリビューになってしもた(笑)。いくらなんでもかわいそうだから、この辺でやめておこう。

まあ、こういう映画にはちゃんと需要があるのもわかるし、クレイヴンはその需要に応えただけで何も悪くないけどね。
怖い映画は見たいけど、ほんとに怖いのやグロいのはいや。ただみんなでキャーキャー言いながら受けたいだけという人たち。つまり、この映画で殺されるティーンエイジャーたちみたいな人たちこそが、こういう映画のターゲットなんだろうな。自分たちと同じようなキャラクターが出てるから感情移入もしやすいし。
それに対して現実世界のビリーやスチュアートみたいなのは『SAW』とか『モーテル』みたいなのが好き。でなきゃ自分で本当に殺人事件を起こす。
それで私みたいな本物のホラーおたくはロメロが好きと。(ランディーなんておたくとは認めねーよ)

とりあえず、『エルム街の悪夢』と『スクリーム』(どっちも1のみ)を作ったというだけでも、ホラー史に1ページを刻んだ監督でした。R.I.P.