タグ別アーカイブ: 根岸明美

★【映画評】赤ひげ(1965)黒澤明監督特集13

kurosawa-red-beard1♠ 私が最後までちゃんと見られなかった黒澤映画第二弾の登場です。
♦ でも『赤ひげ』と言えば、黒澤映画の中では大ヒット作じゃないの。2年の歳月をかけた超大作でもあるし。
♠ いや、実を言うとね、ここで偉そうなこと言ってるけど、黒澤映画を見たのはどれも大昔のことなんで、実は内容なんてろくに覚えてなかったの。ただ覚えてたのは中期の作品はおもしろい、後期のはつまらないというだけで。
♦ まあ、それは合ってるでしょ。
♠ 『七人の侍』ですら、おもしろかったのは覚えてたけど、前回のリビュー書いた時に見直して、あらためてこんな良かったのか!と感動したぐらいで。それで今回、全作品(じゃないけど)を順に見ていって、やっぱり黒澤ってすごいなと思ったから、昔は嫌いだったやつも良さが見えてくるんじゃないかと思ったのよ。
♦ それはあるかもね。なにしろ私が日本映画なんて見てたの、うんと若い頃だけだし、今じゃ私も年取ったし、それなりに経験も積んで目も肥えてきたし。
♠ それでこの映画なんかも、つまんないという印象しかなかったけど、今見ればきっと評価変わるだろうと思って。
♦ ていうか、これって見たことある? 最初の方は確かに見覚えあるんだけど、どうしても見たような気がしない。
♠ たぶん前に見た時も途中で挫折したんだと思う。
♦ それでか!

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★★★【映画評】どん底(1957)黒澤明監督特集8

kurosawa-donzoko01ただでさえ陰気くさいロシア小説が原作、それも最底辺に生きる貧乏人の日常を描いた映画に、ここまで心動かされるとは思わなかった。黒澤映画でも三本指に入るぐらい好きな作品。ついでに左卜全にここまで魅せられるとも思わなかった(笑)。

「幸福な家庭はすべてよく似たものであるが、不幸な家庭は皆それぞれに不幸である」と書いたのはトルストイだが、金持ちというのは誰もが見るだけでむかつくが(笑)、貧乏人はそれぞれに不幸なので見ていて興味深い。


これ以上不幸にはなりようがないぐらいの状況で、映画の始まりよりはみんな確実に不幸になっただけで、誰ひとり幸せにはなっていないのに、なぜか吹っ切れたこの明るさはなんだろう?


どん底とは最底辺である。これ以上落ちようがないから、あとは死ぬか這い上がるだけだ。最初に述べたように、この長屋は明らかに定住の地ではない。彼らは皆、偶然ここに吹き寄せられて吹き溜まっているだけの風来坊なのだ。ここではないどこかを永遠に探し続け、木の葉のように漂う漂泊者、それが彼らだ。

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